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水族館のデート

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 創一郎さんと相談しながら、水着を選ぶ。
 ふたりが気に入ったのは、白と水色と紺色のチェックのタンキニ。色の感じがすごくキレイ。

 ビキニの上に着られる同じ柄のタンクトップとベージュのショートパンツがセットになっていて、全部着ると海辺のリゾートならそのまま街を歩けるくらい水着っぽくない。
 タンクトップの肩のところがリボンになっていて、可愛い。

 「タンクトップとショートパンツを着たまま水に入っても大丈夫ですよ」と、ショップの店員さん。
 娘の肌の露出が気になるお父さんとか、着たまま海に入れって言いそう。

「花、これいいね。海に行ってもこのまま入れるし。やっぱり外でお腹は出さない方がいいから」

 あ、心配性のお父さんが、ここにいた。
 
 思わずクスクス笑ってしまう。創一郎さんは不思議そうな顔をしている。
 試着室で着替えたりしている間に、いつの間にか会計が済んでいた。しまった、今度お給料が入ったら、何かお礼をしよう。

 今日の目的は、これで達成。

「夕飯の買い物でもして、帰りますか?」
「花、せっかくの休みだし、このままデートしよう。映画でも観る?」

 デート、なんてサラッと言ってしまうんだから、創一郎さんは。
 きっと慣れているんだろうなぁ、今みたいなセリフ。

 映画、か……。
 何を見ればいいんだろう? 映画館にはほとんど行ったことがない。
 デートだと恋愛映画? でも恋愛映画って、そもそも男性は興味あるのだろうか? サスペンスやホラーは、怖すぎたらと思うと遠慮したい。
 アクション系は今何を上映しているのかな? 大人向けのをやっていればアニメ、とかでも創一郎さん大丈夫?

 どうしようかと考えながら歩いていると、ふと、少し先にあるエレベーターの横に展示されているパネルが目に入った。
 ペンギンが、空を泳いでいる写真。

 足を止めた私の視線をたどって、創一郎さんもパネルに気付く。
 
「最上階に水族館があるみたい、行く?」

 パネルを指差しながら、私を甘やかすような笑顔で聞いてくれた。
 嬉しくて、でも心を読まれたことが少し照れくさくて、顔が熱くなる。
 コクンと頷くと、創一郎さんは私の手をとってエレベーターの方へ歩き出した。

 わわっ、手、繋いでるっ。

 なんだか本当のデートみたい。

 水族館の入り口に着くと、入る前にお手洗い行っておいで、と創一郎さんはいつもの通り私を子ども扱い。
 お手洗いから戻ってきたら、彼の手には入場券が握られている。あぁ、しまった、また先に支払いをさせてしまった。

 再び手を握られて、中へ入る。

 フヨフヨと光りながら泳ぐクラゲ、色とりどりの熱帯魚、穴からにょきにょきと出てくるチンアナゴ、ユニークな顔のウーパールーパーなどを見ながら、創一郎さんとお喋りして、笑って、驚いて、また笑って一緒の時間を過ごした。

 奥に進むと、ペンギンが空を飛んでいた。
 正確には、泳いでいた、だけど。頭上に水槽が設置されており、屋上だから水槽の向こうに青い空が見える。水槽を見上げると、ペンギンが泳ぐ様子を下から見ることができて、本当に空を飛んでいるみたい。

「花、向こうで何かやってるよ」

 創一郎さんが示す方向に、小さな人だかり。行ってみるとペンギンのミニミニショーをやっていた。
 一匹ずつペンギンの特徴を飼育員さんが紹介し、名前を呼ばれたペンギンが水の中を飼育員さんのところまで泳いでいって餌をもらっている。

「お父さん、肩車して」

 少し離れたところに、4人家族なのかな、人だかりの最後列に移動したお父さん、お母さん、お母さんに抱っこされている赤ちゃんと、お父さんに肩車してもらった小学校低学年くらいの男の子。
 男の子はペンギンが見えるようになって嬉しそう。

「幸せそうなご家族でいいですね、私あまり家族で出かけた記憶がないから、羨ましい」

 父は仕事が忙しかったし、継母は義妹を連れて出かける時には私に留守番をさせることが多かった。

「俺も、家族でっていうの憧れるな。うちは母親がいないから」

 ……創一郎さんにお母様がいないの、知らなかった。「俺が生まれた時に、出血が多くてね。亡くなったんだ」と呟く。

 ずっと繋がれていた手に、ぎゅっと力を込められた気がした。

「花、将来子どもを連れて……一緒に来られるといいな」

 ドキッとした。
 本当に創一郎さんは、誤解しそうな事をサラリと言うから困る。
 お互いに子どもを連れて、家族ぐるみの付き合いができるといいなって事ですよね。

「そうですね、創一郎さんのお子さん、創一郎さんに似たら黒髪のサラサラヘアで可愛いだろうな。私の子どもは赤毛のくせっ毛が遺伝しないか心配です。結婚相手も赤毛だったらどうしよう」

 繋いだ創一郎さんの手がピクッと震えたかと思ったら、そっと離れて、その手は私の頭を優しくポンポンとした。

「花の子どもなら絶対に可愛い。俺が肩車してあげるよ」

 創一郎さんは笑ってそう言ったけれど、目が寂しそうな、泣いているような、そんな違和感を感じるのはどうしてだろう。
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