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しおりを挟む好きな人の少し掠れた感じの声にドキドキしながら、ベッドの中央に座ったまま声のした方に目線を下げる。
ベッドの側面に寄りかかるように座り、目を擦りながら片腕を上げてグーッと伸びをする成瀬君がいた。
もしかしたら成瀬君は、床に座った状態で寝ていたのかもしれない。
「成瀬君……」
私の呼びかけに反応した成瀬君が、床に座ったまま顔をこちらに向けて私を見上げた。
「あ……一緒の部屋にいてごめんな。桜井が起きたらすぐに事情を説明したくて」
じ、事情を説明? 何の!?
下着もつけずにいるこの状況のこと?
いったい私、何をやらかしちゃったの??
「桜井……」
ギシッと僅かにベッドが軋んだと思ったら、いつの間にかベッドに腰をかけた成瀬君の手がこちらに伸びてきた。
Tシャツにハーフパンツ姿という今まで見たことのないラフな格好をした成瀬君。
乾かしただけの髪はいつもよりも幼く感じられて、なんだか可愛い。
近づいてくる成瀬君の指に心臓が破裂しそうなくらいバクバクして、思わずギュッと目を閉じてしまう。
「風呂で寝るとか、疲れすぎだろ。今週は特に頑張りすぎだ」
コツン、と軽く頭を叩かれた。
目を開けると、まるで何かを慈しむような眼差しの成瀬君と目が合う。
「なかなか出てこないと思って様子を見に行ったら湯船でぐったりしてて、心臓が止まるかと思った」
「……ごめん」
ぅわぁ、ジャグジーがあまりにも気持ち良かったとはいえ、成瀬君の家のお風呂で寝てしまうなんてっっ
「成瀬君が、寝室まで運んでくれたの?」
「ああ」
「ごめんね、重かったでしょ」
たくさん迷惑かけて、ホントごめん。
「あ、いや……」
顔を隠すように自分の口へ手の甲をあてた成瀬君は、私から視線を逸らすと言葉を詰まらせた。
「俺も、ごめん……誓って変なことはしてないけど、桜井の裸を全く見てないと言えば、嘘になる」
裸…………?
…………!!
ぅわぁあぁあ、成瀬君、みっともない身体を見せてごめんっっ
羞恥心よりも、申し訳ない気持ちの方が込み上げてくる。
まあまあ胸があるのはいいけれど、その分お腹にもまあまあ肉がついている私の身体。
ボンキュッボンッとはほど遠い。
中肉中背だけど、どちらかと言ったらボンボンボンッな身体。
「できるだけ見ないようにしたつもりだけど」
私の方を見ることなく、まるで床に向かって話しているような成瀬君。
「ごめんな、嫌な思いさせて」
「ううん、そもそも人の家のお風呂で寝ちゃう私が悪いし。成瀬君は悪くないから気にしないで。私も全然気にしてないから」
本当に、気にしないでほしいしむしろ忘れてほしい。
できることなら、私のみっともない身体の画像を成瀬君の脳内から消去してしまいたい。
「気にしろよ……」
ポソッと成瀬君が何か呟いた。
「え、何か言った?」
「いや……今から着替えて会社行くのも面倒だから、俺もこのまま寝よ」
はぁ、と成瀬君が小さくため息をついた。
「リビングにいるから、何かあったら声かけて」
え、リビングにいるって、もしかして成瀬君ソファで寝るつもり?
「成瀬君っ」
腰の浮きかけた成瀬君のTシャツの裾をギュッと掴む。
「ん? 何?」
「私がリビングに行くから、成瀬君がベッド使って」
一瞬目線を上に向けた成瀬君は、悪戯っぽい表情をして私の顔を覗き込んできた。
お風呂一緒に入るか、と聞いてきた時みたいに。
「じゃ、このまま一緒に寝るか、桜井?」
また火が点いたみたいに顔が熱くなってしまった。
でも……
そもそも成瀬君は、私を揶揄っているだけ。
成瀬君がこんな事を言うのは、私がリビングで寝るのを諦めさせるため。
別に本気で女性を口説くつもりで言っているわけじゃない。
考えてみれば成瀬君は私と次元の違う別世界の人だもの。
成瀬君に対して、一緒に寝るのが恥ずかしいとか意識すること自体おこがましいのかもしれない。
………………
………………
コクリ、と頷いた。
「いいよ、成瀬君となら」
すでに会社でもお風呂でも、成瀬君には寝姿を見られてる。
いまさら恥ずかしがっても、取り繕うことはできない。
「嘘だろ……?」
ん?
眉を寄せ口元を押さえて俯いた成瀬君の手が、ほんの少しだけ震えている。
ぼんやりとした明るさの部屋でも分かるくらい、俯く顔についてるふたつの耳が、真っ赤。
どうしたの、成瀬君?
笑いを堪えてる、とか?
私、何か変だった??
「本当にいいのか、桜井?」
「うん」
隣で寝るくらい、別に大丈夫だよ。
ちょっと緊張はするけど。
私が掛けている薄手のブランケットの端を持ち上げて、成瀬君が隣に入ってきた。
そのまま、ギシ……とベッドの上を移動して私の方へ近づいてくる。
成瀬君? なんだか近いよ??
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