悪役令嬢は婚約破棄されて破滅フラグを回収したい～『お嬢様……そうはさせません』イケメンツンデレ執事はバッドエンドを許さない～

63 弟シャルマンのひとりごと

　アカリ嬢が、モフィラクト王太子殿下の婚約者になってしまった。
　女神と共に隣国メルヴェイユ王国を救った聖剣の乙女だからだって。
　なんだその一発逆転みたいな理由は。

　アカリ嬢が、未来の国母！？

　そんな事になったら、宰相候補である僕は将来すっごく苦労するじゃないか。
　嫌だよ、そんなの。

　ああでも……出来損ないの王妃候補を厳しく育て上げていくのは、楽しいかもしれないなぁ。

　僕って見かけによらず、加虐嗜好があるのかもしれない。

　そんな事を考えていたら、生徒会室のドアが勢いよく開いた。

　こんな風に扉を開けるのはきっと……
　視線を向けると思った通り、アカリ嬢の姿がそこにあった。

「サブルス様ぁ、クンベル様ぁ、シャルマン様ぁ。クッキー焼いてみたんです、ヴェレッドお姉様直伝レシピで。モフィラクト王太子殿下に差し上げる前に味見してみてくださ～い」

　姉様直伝のクッキー……。
　もう作ってもらえない姉様のお菓子……、食べたい。

　そう思ったのはサブルス様とクンベルも同じようだ。
　クッキーが盛られた皿へ、三人同時に手を伸ばす。

　パクリッ！

「「「ブフォッ！？」」」

　これまた三人同時に、口へ入れたものを噴き出してしまった。

「これのどこがヴェレッド嬢直伝レシピだ！」
「兄上を暗殺する気かッ！！」
「お前ッ砂糖と塩間違えただろッ！！」

　――前言撤回、こんな奴、王妃に育て上げるなんて絶対に無理ッ！！！



　そう思っているのに、なぜかついつい世話を焼いてしまう。

　それはサブルス様とクンベルのふたりも同じらしい。

　ほぼ毎日のように、生徒会室ではアカリ嬢へ勉強やマナーその他を教える僕らの叱咤叱咤叱咤激励の声が響いている。