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しおりを挟むバルコニーの端の方に、梯子がかけられていた。
頑丈で、かなりしっかりとした梯子。
避難用に予め準備されていた感じがする。
――クリフ……じゃないわね、クルーフォス殿下がバルコニーへ来ることは最初から計画されていた?
下におりてしまったら聞けないと思う。
だから今、聞いておかないと。
私を抱き上げるクルーフォス殿下の顔を見上げ声をかける。
「……この暴動自体、貴方が仕組んだものだったの?」
「俺が仕組んだ……というと少し違うかもしれませんね。もう皆が止められないところまできていた。なので城の内外にいる味方に協力してもらい本の内容を利用して民衆を動かすしかないと思ったんです。最低限の犠牲で終わらせるためにも」
本って……『虐げられた王』の事よね?
弟に幽閉されていた王が女神の祝福のキスで力を与えられ、悪政を行っていた王弟を滅ぼして荒廃していた国を救う話。
それと同じようにクルーフォス殿下は、弟のマッジョルド殿下を……?
手を伸ばしてそっとクルーフォス殿下の頬に触れる。
「つらかったでしょう、弟のマッジョルド殿下を手にかけるなんて。貴方は優しい人だもの」
私の方を見たクルーフォス殿下の瞳が、僅かに見開いた。
「絶対に非難されると思いました……」
「メルヴェイユ王国へ来る前に、少しくらい私にも話してくれればよかったのに」
そうすればきっと、一緒に悩む事くらいできたわ。
私じゃ何の役にも立てないけど、ひとりで悩むよりはずっといいと思う。
「俺が殺される可能性もあったので、ヴェレには後で結果だけをお伝えするつもりでした。危険のある国だからおとなしく待っていて欲しかった……でも……正直な所ヴェレが今そばにいてくれてよかったと思っている自分がいます」
クルーフォス殿下に身体を支えてもらいながら下へおりると、すぐに人が呼ばれ私の足の治療が始まった。
治癒魔法のおかげでみるみるうちに傷が治っていく。
「すごいわ……」
「傷も残らなそうですね、よかった……」
芝生の上に座る私に寄り添うようにして跪くクルーフォス殿下が、ホッとしたように大きく息を吐いた。
「ヴェレッドお姉様ぁぁああっ!」
私のそばで浮かぶ聖剣が見えたのね。
人混みの中、アカリ様の声が近付いてくる。
涙で顔を濡らしたアカリ様の姿が見えると、クルーフォス殿下が声をかけた。
「ヴェレッドはこちらですよ、アカリ様」
「ぁぁ、どこのどなたか存じ上げませんがありがとうございます……。あら、本屋の店主さん?」
アカリ様は、目の前にいるクルーフォス殿下がクリフだと気付かなかったらしい。
まぁ瓶の底みたいな眼鏡をかけていないし前髪も後ろに流しているから無理もないけど。
そして私の足に治癒法をかけてくれた方が、アカリ様がクリフを見かけた本屋の店主さんだったそう。
ふくよかで、なんだか頼りになるお母さんって雰囲気の女性。
アカリ様の言っていた店主が女性の方だとは思わなかったわ。
それに治癒魔法の腕前もかなりレベルが高くて意外。
「それじゃクルーフォス殿下、私はこれで。このあとは水の魔法でいいですね?」
「よろしく頼む」
クルーフォス殿下に声をかけたあと、スッと立ち上がり城へ向かって歩いていく。
ふたりが話している様子からしてこの女性……本屋の店主は仮の姿かしら。
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