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しおりを挟むランス叔父様のところから戻ったあと、何もできないまま数日が過ぎてしまったわ。
どうしたらクリフに会えるのかしらと考えながら、生徒会室のドアを開ける。
会議用の大きなテーブルに並んで座って、サブルスとシャルマンが真剣な表情で書類を読んでいた。
「あら、サブルスとシャルマンのふたりだけ? 珍しいわね」
ひとつ下の学年は校外学習からまだ戻ってないと聞いているので、いないのは分かるけれど。
サブルスが顔を上げて、私の方をチラリと見てから隣に座るシャルマンへ話しかけた。
「確か、モフィラクト殿下はクンベル殿下と一緒に公務だって言ってたよな」
「公務のはずだよ。アカリ嬢は補習だって」
そういえば、今朝そんな事をおっしゃっていた気がする。
ダメね、最近クリフの事ばかり考えてしまって、他の事に対してあまり関心が持てていない。
スッとシャルマンが立ち上がり自分が座っていた隣の椅子を引いてくれたので、ありがとう、とお礼を言って腰かける。
シャルマンを挟み三人並んで座ったところで目線を横へ移すと、ふたりが同じ書類を手にしている事に気がついた。
「その印……隣国メルヴェイユ王国の王室が使うもの……よね?」
「ああ……武術大会への招待状。今年は俺とシャルマンが行ってこいってさ」
メルヴェイユ王国……クリフがいる国……。
「それって、去年と一昨年はモフィラクト殿下とクンベル殿下が出席なさっていたわよね。今年は別の公務が重なったのかしら?」
「んー、表向きは、その理由だな。本来なら今年も王太子と第二王子が参加するべき外交行事だ。でも今のメルヴェイユ王国は情勢が不安定だから、王家も王太子と第二王子を出席させるのは不安なんだろ」
「そんな国、僕だって行きたくないよ。面倒くさいしさぁ。かといって外交を考えると誰かが行かないとだしねぇ」
招待状の紙をつまんでヒラヒラ揺らしながら、シャルマンがため息をついた。
以前、第二王子のクンベルルート回避のためクリフと一緒にクンベル殿下の勉強をみていた時に、殿下が言っていた事を思い出す。
隣国メルヴェイユ王国で行われる武術大会は、出店もたくさんあって一見すると陽気なお祭りみたいな雰囲気。
けれど本来の目的は、来賓として訪れた他国の代表者の剣術がどの程度のレベルかを知るために開いているようなものだと。
そうと分かっていても、外交上それなりの身分のある者が出席しなければならないのがつらい所。
そして舐められるわけにもいかないので、剣術についてもそれなりに腕の立つ者でなければならない。
他国から来た代表者はトーナメントには参加しないけれど、ひとり若しくは同じ国の者同士でペアになり剣技を披露する。
我が国ではここ数年、モフィラクト王太子殿下と第二王子のクンベル殿下が出席され二人で真剣を用いた実戦さながらの剣の舞を披露していた。
今年は公爵令息のシャルマンと、騎士団長の息子であるサブルスに白羽の矢が立ったわけね。
「それならその武術大会、シャルマンの代わりに私が参加するわ」
「「は?」」
サブルスとシャルマンの視線が、同時に私の方へ向けられる。
「何言ってんだ。そんな危ない事させられるわけがないだろ。真剣を使うんだぞ」
サブルスが眉根を寄せた。
「私にも剣術の心得はあるもの。小さな頃はサブルスやクリフよりも私の方が強かったの憶えているでしょう? 私に行かせて」
自分の顔とシャルマンの顔を交互に指差す。
「シャルマンと私は見た目もよく似ているし」
私とシャルマンは、顔が似ているし身長もそんなに変わらない。
するとシャルマンが目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。
「いくら姉様と僕が似ているからといって、その長い髪の毛はどうなさるおつもりですか? とても隠せませんよ」
ハハハそれもそうだな、とサブルスが笑うと、二人は何事もなかったかのように再び書類へ目を向けている。
「大丈夫よ。髪の毛くらい、どうとでもなるわ」
そう言いながら、私は席を立った。
生徒会室用の文具が入った引き出しの方へ歩いていき、大きめのハサミを取り出す。
そしてハサミを持つ方と反対の手で、自分の髪を一束にして掴んだ。
「え、姉様!?」
顔を上げたシャルマンが大きく目を見開いている。
「おいッ、ヴェレッド嬢!?」
ガタッと音を立ててサブルスが席を立ったのと同時に、ジャキンッと掴んでいた髪にハサミをいれた。
そのままザクッザクッと、肩より上の所で髪を切っていく。
「ね、ぇ……さま……」
ゆるくカールしたピンクゴールドの長い髪の束を手に握ったまま、ふたりに向かって微笑む。
「これなら、シャルマンの代わりができるでしょう?」
はぁっ、と諦めたようにサブルスがため息をついた。
「……わかったよ。俺が守るから。一緒に行こう、ヴェレッド嬢」
「ええっ!? 本気で? 僕の代わりに参加させるの!?」
「ありがとう、サブルス! 私がんばるわ!」
よかった、これでクリフがいるメルヴェイユ王国へ行ける!
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