上 下
41 / 65

40

しおりを挟む


 ランス叔父様のところから戻ったあと、何もできないまま数日が過ぎてしまったわ。

 どうしたらクリフに会えるのかしらと考えながら、生徒会室のドアを開ける。
 会議用の大きなテーブルに並んで座って、サブルスとシャルマンが真剣な表情で書類を読んでいた。

「あら、サブルスとシャルマンのふたりだけ? 珍しいわね」

 ひとつ下の学年は校外学習からまだ戻ってないと聞いているので、いないのは分かるけれど。

 サブルスが顔を上げて、私の方をチラリと見てから隣に座るシャルマンへ話しかけた。

「確か、モフィラクト殿下はクンベル殿下と一緒に公務だって言ってたよな」
「公務のはずだよ。アカリ嬢は補習だって」

 そういえば、今朝そんな事をおっしゃっていた気がする。
 ダメね、最近クリフの事ばかり考えてしまって、他の事に対してあまり関心が持てていない。

 スッとシャルマンが立ち上がり自分が座っていた隣の椅子を引いてくれたので、ありがとう、とお礼を言って腰かける。
 シャルマンを挟み三人並んで座ったところで目線を横へ移すと、ふたりが同じ書類を手にしている事に気がついた。

「その印……隣国メルヴェイユ王国の王室が使うもの……よね?」
「ああ……武術大会への招待状。今年は俺とシャルマンが行ってこいってさ」

 メルヴェイユ王国……クリフがいる国……。

「それって、去年と一昨年はモフィラクト殿下とクンベル殿下が出席なさっていたわよね。今年は別の公務が重なったのかしら?」

「んー、表向きは、その理由だな。本来なら今年も王太子と第二王子が参加するべき外交行事だ。でも今のメルヴェイユ王国は情勢が不安定だから、王家も王太子と第二王子を出席させるのは不安なんだろ」

「そんな国、僕だって行きたくないよ。面倒くさいしさぁ。かといって外交を考えると誰かが行かないとだしねぇ」

 招待状の紙をつまんでヒラヒラ揺らしながら、シャルマンがため息をついた。

 以前、第二王子のクンベルルート回避のためクリフと一緒にクンベル殿下の勉強をみていた時に、殿下が言っていた事を思い出す。

 隣国メルヴェイユ王国で行われる武術大会は、出店もたくさんあって一見すると陽気なお祭りみたいな雰囲気。
 けれど本来の目的は、来賓として訪れた他国の代表者の剣術がどの程度のレベルかを知るために開いているようなものだと。

 そうと分かっていても、外交上それなりの身分のある者が出席しなければならないのがつらい所。
 そして舐められるわけにもいかないので、剣術についてもそれなりに腕の立つ者でなければならない。

 他国から来た代表者はトーナメントには参加しないけれど、ひとり若しくは同じ国の者同士でペアになり剣技を披露する。

 我が国ではここ数年、モフィラクト王太子殿下と第二王子のクンベル殿下が出席され二人で真剣を用いた実戦さながらの剣の舞を披露していた。
 今年は公爵令息のシャルマンと、騎士団長の息子であるサブルスに白羽の矢が立ったわけね。

「それならその武術大会、シャルマンの代わりに私が参加するわ」
「「は?」」

 サブルスとシャルマンの視線が、同時に私の方へ向けられる。

「何言ってんだ。そんな危ない事させられるわけがないだろ。真剣を使うんだぞ」

 サブルスが眉根を寄せた。

「私にも剣術の心得はあるもの。小さな頃はサブルスやクリフよりも私の方が強かったの憶えているでしょう? 私に行かせて」

 自分の顔とシャルマンの顔を交互に指差す。

「シャルマンと私は見た目もよく似ているし」

 私とシャルマンは、顔が似ているし身長もそんなに変わらない。

 するとシャルマンが目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。

「いくら姉様と僕が似ているからといって、その長い髪の毛はどうなさるおつもりですか? とても隠せませんよ」

 ハハハそれもそうだな、とサブルスが笑うと、二人は何事もなかったかのように再び書類へ目を向けている。

「大丈夫よ。髪の毛くらい、どうとでもなるわ」

 そう言いながら、私は席を立った。
 生徒会室用の文具が入った引き出しの方へ歩いていき、大きめのハサミを取り出す。
 そしてハサミを持つ方と反対の手で、自分の髪を一束にして掴んだ。

「え、姉様!?」

 顔を上げたシャルマンが大きく目を見開いている。

「おいッ、ヴェレッド嬢!?」

 ガタッと音を立ててサブルスが席を立ったのと同時に、ジャキンッと掴んでいた髪にハサミをいれた。
 そのままザクッザクッと、肩より上の所で髪を切っていく。

「ね、ぇ……さま……」

 ゆるくカールしたピンクゴールドの長い髪の束を手に握ったまま、ふたりに向かって微笑む。

「これなら、シャルマンの代わりができるでしょう?」

 はぁっ、と諦めたようにサブルスがため息をついた。

「……わかったよ。俺が守るから。一緒に行こう、ヴェレッド嬢」
「ええっ!? 本気で? 僕の代わりに参加させるの!?」
「ありがとう、サブルス! 私がんばるわ!」

 よかった、これでクリフがいるメルヴェイユ王国へ行ける!





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん
恋愛
ヒロインに婚約者の王太子の心を奪われて嫉妬のあまりにいじめという名の悪意を振り撒きまくった公爵令嬢は突然ここが乙女ゲー『どきエデ』の世界だと思い出す。既にヒロインは全攻略対象者を虜にした逆ハーレムルート突入中で大団円まであと少し。婚約破棄まで残り二十四時間、『どきエデ』だったらとっくに詰みの状態じゃないですかやだも~! だったら残り一日で全部の破滅フラグへし折って逃げ切ってやる! あわよくば脳内ピンク色のヒロインと王太子に最大級のざまぁを……! ※Season 1,2:書籍版のみ公開中、Interlude 1:完結済(Season 1読了が前提)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...