悪役令嬢は婚約破棄されて破滅フラグを回収したい～『お嬢様……そうはさせません』イケメンツンデレ執事はバッドエンドを許さない～

6 弟シャルマンのひとりごと

　正直言って、僕は姉様のことが好きだ。血のつながっている姉弟だということを恨んでしまうくらいに。

　姉弟間の結婚を認めてくれる国があればいいのに、と本気で思う。

　僕が小さい頃、お母様は病で亡くなってしまった。僕にはお母様の記憶が無い。

　その代わりに、姉様がお母様の分まで愛情を注いでくれた。叱られる時もあるけれど、基本、姉様は甘々だ。


　「どうして姉様はそんなに僕に優しいの？」と聞いたことがある。

　「シャルマンのことが大好きだからよ。それにあなたを苛めたりしたら、攻略対象のあなたをヒロインが慰めてシャルマンルートに突入してしまうわ」


　『攻略対象』？　『ルート』？　時々真面目に不思議なことをおっしゃる姉様、そんなところもすごく可愛い。
　姉様も僕を可愛いと言ってくれる。まあ姉様の弟だもの、美人な姉様に似て見た目がいいのは僕も自覚してる。


「ゲームの中では、私がシャルマンを苛めるの。そのせいであなたは性格が歪んで引きこもってしまうわ。可愛い弟にそんな風になってほしくないもの」


　苛める？　姉様が僕を？　夢の中で姉様から淫らに虐められることはあるけれど。
　それは姉様にはナイショの話。僕、思春期だから、仕方ないよね。





　今日は少し早退された姉様。僕が家へ帰ると目の前でクリフの首根っこを捕まえてズルズルと引きずるように連れて行った。

　
　あぁ、僕も引きずられたい。今度ぜひ引きずって、姉様。
　姉様が苛めなくても僕の性格は歪んでいるような気がするのは、気のせいかな。


　どうしたの、と尋ねたら、クリフが熱を出すから看病するの、だって。
　熱を出すって、予定？　熱を出した、じゃなくて？　まぁ、どちらにしても、クリフが羨ましい。


　クリフは優秀で、まだ学園に在籍する身だというのに、もうお父様の右腕として働いてもいる。

　しかもお父様、姉様はもちろん、屋敷内で働く者たちからの信頼も厚い。

　姉様と仲が良くて、嫉妬してしまう気持ちもある。

　嫌う事ができたら楽かもしれないけれど、僕もクリフのことを気に入っているからそうもいかない。

　ま、クリフに嫉妬なんてしても仕方ないか。姉様は所詮、王太子殿下の婚約者。クリフには、もちろん僕にもだけど手の届かない人。



　クリフの部屋から出てきた姉様、今度は厨房で何やら作り始めた。
　遠くから見て察するに、たぶん僕が具合悪くなった時にも作ってくれたお粥を作っているのかな。


　アレ入れるのかな、アレ。

　名前忘れちゃった。思わず口をゔぅ～、と窄めてしまう魔法の赤い実。


　姉様の作ったお粥僕も食べたいな～と思いながら、ワゴンを転がしクリフの部屋へと向かう姉様を遠くから見守る。



　………………
　………………
　………………
　姉様が、クリフの部屋から出てこない！？
　もう、だいぶ時間たったよ。