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ゲッ!?(オジャッツ視点)

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 クソックソックソがっっ



 なぜアイラと婚約破棄をする羽目になってしまったんだ。

 本気で婚約を破棄するつもりなんてなかった。

 婚約破棄をちらつかせたのは、俺と別れるのは嫌だとアイラに縋らせようと。
 その後の結婚生活を有利に進めるためだったのに。

 午前中、アイラがこのジャーマ侯爵邸へやってきた。
 奴の予言した通り、俺からの婚約破棄を承諾するとほざきやがって。

 ジャーマ侯爵家とスタレー伯爵家だけの話なら、婚約破棄なんてしなくて済んだ。
 侯爵家の力があれば伯爵家を従わせることなんて、赤子の手を捻るようなものだから。

 だが俺はアイラに対して強く出る事ができなかった。
 スタレー伯爵家へ行き、伯爵にも婚約破棄の旨を伝える。
 
 俺が目の前にいるにもかかわらず、伯爵はアイラを怒鳴りつけた。
 そのまま怒りに任せ、伯爵家からアイラの籍を抜く書類を作成し提出してしまう。

 ああ、それこそ奴の思うつぼなのに。

 屋敷へ戻り、アイラと婚約破棄したことを告げたら、父親に散々怒られた。
 アイラはこのジャーマ侯爵家にとって、貴重な金蔓だったから。

 俺だって、アイラと婚約破棄なんてしたくなかったさ。

 婚約破棄は承知していない無効だ、と父が言ってももう遅い。
 アイラはすでに伯爵家を出て平民になってしまった。

 こんな事態になったのも、奴が昨日このジャーマ侯爵邸を訪れたせいだ。





 * * * * * * *





「は……? 今なんとおっしゃったのですか……?」
「明日アイラ様が、キミから申し出た婚約破棄について承諾する旨の返事をする、と言ったのさ」
「アイラが……?」

 俺はいったい何故、こんな話を聞かされているのか。
 目の前に座るのは学園で同じクラスだったとはいえ、今までほとんど話した事さえなかった格上の男。

「隣国の王子と結婚して知らない土地で苦労するよりも、生まれ育ってきた国で過ごした方が幸せだと思ってずっと諦めようとしていたんだよ、僕は」
「……?」
「でもさ、まさか浮気現場を見られた上に開き直るなんて、ねぇ……」

 ゲッ!?

「お、俺が浮気したと、アイラがカムラッド様に言ったのですか?」

 カムラッドは眉を寄せ、短く息を吐いた。

「違うよ、アイラ様はそんな事をしない。僕に言うチャンスも作ったけど、彼女は言わなかった」
「では、なぜ……」
「キミの浮気を知ったのは偶然。卒業パーティーの日、アイラ様が庭園の方へ行くから追いかけたんだよ。暗いから危ないと思って」

 アイラ以外にも、あの現場を見られていたのか……ッ

「あれはッ、つい出来心で……ッ。本当は婚約破棄なんて、したくないんだっ」
「……裏切り行為において、ゼロとイチの差は大きいよ。一歩踏み出したら、二歩三歩と進むのは抵抗が無くなるから。だから浮気は、一度でもしてはダメなんだ。キミの浮気、たった一度じゃ無いよね?」

 ゲッ!?

「この数日間で調査させてもらった。アカーサ男爵令嬢とハマヤッラ子爵令嬢、彼女たちと過去に無理やり関係を結んだ事があるのは分かっている」
「ち、違う。そんな事していないッ」

 否定しなければ。
 彼女たちは貴族令嬢だ、結婚前の情事が知られたら大変な事になるから公の場で証言したりはできないだろう。
 誤魔化してしまえばいい。

「なんなら裁判でもなんでもしてもらってかまわない。俺はあの時の一度しか浮気していない」
「一度でも浮気は浮気だけどね……それならラーリル娼館のレーロさん、この名前に覚えは無いかな?」

 ゲッ!? 何故その名前を!?

「この方は、こちらで身の安全を守る約束をしたところ、キミとの行いをいつでも証言すると言ってくれている」
「な、なぜ……? なぜレーロちゃんの名を……?」

 ラーリル娼館へは、名を伏せてこっそり行ったのに。

「キミ、レーロさんと会った時に学生証を娼館の部屋へ落としているよ。迂闊だね。この国の娼館で働く女性は、館から出られない。学生証を彼女が持っている経緯について、キミは説明できるかな? 学生が娼館へ行くのは、禁じられているけれど」

 ぁぁあああッ、なぜ学生証なんて持って、娼館へ行ってしまったんだろう。
 きっと財布から金を出してレーロちゃんへチップを渡した時に落としてしまったんだ。

「何度も浮気をしたキミにはアイラ様の婚約者でいる資格は無い。必ず婚約破棄すること」

 確かに浮気はした!
 だがなぜ部外者のコイツに、こんな事を命令されなければならないんだ!!

「アイラと婚約破棄なんて、するわけないだろッ!」
「いいのか、オジャッツ。僕にそんな口を利いて。卒業パーティーの日に庭園で、キミはアイラ様に『伯爵家の分際で、侯爵家の俺様にそんな口をきくなんて生意気だ』と言っていただろう?」
「ぇ……」
「侯爵家の分際で、イチーズ王国第二王子の僕にそんな口をきくなんて生意気じゃないかなぁ?」

 ぐっ……ッ
 王子という立場はただでさえ格上なのに、イチーズ王国は鉄道も発達しておりエマデマド王国より先を進む経済的にも優位な国。
 その国の王家に睨まれたら……生きていけない。
 クソッ、言いなりになるしかないじゃないか。

 俺の顔を見たカムラッドが、満足そうに微笑んだ。

「アイラ様と婚約破棄をして、まずはスタレー伯爵にその事を伝えてほしい。自分の親へ先に伝えてはダメだよ」
「な、なぜ……?」
「ジャーマ侯爵は婚約を継続させようと動くから。だからまずは、スタレー伯爵がアイラ様を家から追い出すように仕向けて欲しいのさ」

 カムラッドの言葉に従う道しか、俺に選ぶ事はできなかった。





 * * * * * * *





 アイラと婚約破棄をして、もう三週間。

「オジャッツ様、旦那様がお呼びです」

 けッ、どうせまたお小言だろッ!
 金蔓を自ら手放した俺に、父は激怒して。
 毎日のようにブツクサ文句を言っている。

「オジャッツ、でかした! スルーフィ第四十四王女がお前とぜひ結婚したいと言っている。婚約もせず、すぐにでも結婚したいそうだ」
「は? 第四王女、ですか?」
「違う、第四十四王女だ」

 すごい数だな。
 この国の王には側室がたくさんいるから子どもも多い。
 浮気し放題なんて、羨ましい話だ。

「確かひとつ下の学年に王女がいたと思いますが、話したことも無いですよ……?」
「ああ、なんでも学園時代からずっと片思いしていたそうだが、お前が卒業し寂しさを感じていたところに婚約破棄の話を聞いて居ても立っても居られなくなったらしい」

 スルーフィ王女は、俺の事が好き過ぎて自分が学園を卒業まで待てない、と言っているという。
 この国の女性は16歳から結婚が可能。
 学生で結婚する貴族もいないことはない。

 やはり、見ている人は見ているのだ。
 伯爵令嬢のアイラなんかと結婚しなくてよかった。

 王女だぞ、王女!
 玉の輿だ!!
 ヒャッホォォオオ~~!!!!





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