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濡れ衣

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 財布が無くなるなんて大変な事だ。
 探すのを手伝った方がいいだろうか。

 フォッグ様には蹴られたり酷い事をされたけれど、それとこれとは別の話。
 財布が無くなったなんて、フォッグ様が気の毒だ。

 僕も財布の捜索に加わった、しばらくすると聞こえてきた「ありました!」という大きな声。

 よかった……。

 発見の知らせを受け、捜索に携わっていた人たちが王宮の建物の入り口付近へと集まっていく。

 どこにあったのかな……。

 気になったので、他の人の流れにのって僕も人が集まっている方へ歩いていった。

 捜索に携わっていたのは、手が空いていた王宮の使用人と近くにいた高位貴族らしき人であわせて十数名くらい。
 高位貴族とは言っても、筆頭公爵家のフォッグ様よりは身分が下だろうけれど。

 すると突然、叱責するようなフォッグ様の大きな声が聞こえた。

「無い、無いぞ中身が!」
「私じゃありません、バラ園に落ちていたのを拾った時からその状態でした……」

 ――バラ園?

「おい、平民!」

 フォッグ様が叫ぶ。

 王宮で働いている人は、使用人で一番身分が低い人でも男爵家の人達だ。
 僕以外、平民はひとりもいない。

 険しい目つきのフォッグ様と、視線が合った。

「お前、休憩時間にバラ園へ行っていたよな」
「は、はい……」

 それはフォッグ様に言われたから。

「その時に中身はどこかへ隠して、財布だけ捨てたんだろう」
「ぇ、そんな事していません。僕はバラ園で掃除をしていただけです」
「嘘をつくな!」

 ひどい、バラ園の掃除をしろと言ったのはフォッグ様なのに。

「ぁ、あの……」

 おずおずとした感じの声が聞こえてきたので、僕とフォッグ様に集中していた皆の視線がそちらへ向いた。
 視線の先には、作業服を身につけた大柄な体格の使用人の男性。

「バラ園の掃除は午前中に済ませています。その時にはそちらの財布はありませんでした。今ここにはいませんがテモワンという者とふたりで掃除は行っていますので、証人はいます。確認していただいても大丈夫です。なので掃除をしていただけという、彼の言い分は不自然かと……」

 やっぱり掃除は済んでいた。
 僕に掃除をさせたのは、フォッグ様の嫌がらせだったんだ――。

「嘘じゃありません、本当に掃除をしていました。ネージュ妃殿下から頼まれたから掃除をして来いって言ったのはフォッグ様、貴方ですよね?」

「チッ、そんなこと言うはずないだろ、お前が盗んだんだ。バラ園に行ったという自白はここにいる皆が聞いているから言い逃れはできないぞ。父にも報告するから、それ相応の罰が与えられると思っておけ」

「そんな……」

 レイン様がいる騎士団の訓練場はここから少し離れているし。
 クラウド様はシュトルム王太子殿下の公務に付き添っていて王宮とは別の場所にいる。

 いま僕のそばに、味方になってくれる人は誰もいない――。





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