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何も問題は無い

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 ゆっくりと首を横に振る。

「お二人とは一緒にいられません。僕の部屋は使用人として相応しい場所にしてください。僕がお二人のそばにいるなんて許されない事です」
「なぜだ、デュオ」

 ギュッとレイン様に抱きしめられた。
 正面に座るクラウド様は悲しそうに微笑んでいる。

「デュオンを愛する事を許してくれたのではなかったかな。一緒にいられないなんて、なぜそんな風に思ってしまったのか聞かせてくれる?」

 なぜって……?
 その理由は、たくさんあり過ぎる。

 前世で怜のお父さんに言われた言葉が頭に蘇った。

 ――優陽くんと怜は絶対に結婚できないし、子どもを持つこともできないだろう?

「一緒にいても、僕はお二人のどちらとも結婚する事ができません。男だから」

 この国では同性婚が認められていない。

「結婚する必要は無いよ。そのために王位継承権を放棄して臣籍降下したのだから。今の私たちに、結婚の義務は無い」

「デュオに俺かクラウドのどちらかを選ばせるわけにもいかないしな。俺たちは争う事なく、ふたりでデュオを愛したい」

「前世では結婚して会社を継ぐのが当然という周りの考えに対処できていなかったからね。その反省を踏まえて今世では早めに臣籍降下する事を決めたんだよ。デュオンと一緒にいるために、王位継承権は足枷にしかならないから」

 僕と一緒にいるために、王位継承権を放棄したの――?

「で、でも臣籍降下したといってもお二人は侯爵でしょう? 領地を継がせるために自分の子をどなたかに産んでもらう必要がありますよね」

 怜と一緒に転生するのなら、男性でも妊娠ができる世界がよかった。
 男の僕は前世と同じように今世でも、子を授かる事ができない。

「私とレインは領地を持ってないんだ。デュオンがそういった事を気にするかなと思って、一代限りの爵位としてもらったから」
「本当は爵位ももっと低くてもよかったんだけどな。爵位なんて高いほど煩わしい事が増えるだけだ。俺もクラウドも周囲に文句を言わせないくらいの実績は積んできたから、デュオが望むなら侯爵の身分を捨ててもいい」

 ふたりは僕のために、色々考えてくれているの……?
 だけど……

「陛下は僕の存在を許さないと思います。お二人が平民の、しかも男の僕と一緒の部屋で暮らすなんてこと」

 前世で怜のお父さんがそうだったように、親はきっと認めてくれないだろう。

「確かに俺たちが何の準備もしていなかったら、邪魔されただろうな」
「ぇ……」
「反対される可能性があったからね。少しずつ外堀を埋めていって陛下には実質隠居をしていただいている。私たちのする事に異を唱える事はできない」
「表向きの立場は陛下だが、ほぼ幽閉状態だな。俺たちの味方のシュトルムが今は国の権限を持っている。だからデュオ、何も問題は無いんだ。俺たちと一緒にいよう」

 何も問題は無い、なんて。
 僕のために二人は……

「いったい何時からそれだけの準備をしてきたのですか……」

 自身の臣籍降下を周囲に認めさせ、陛下の権限を弟のシュトルム殿下へ移すなどかなりの年数をかけなければ無理だ。
 いや、年数をかけてもできるとは限らない。

「双子で生まれた私たちは、まだ幼かった頃に共通した前世の記憶を持っている事に気づいたからね、それからずっとだよ」
「ああ、俺たちが生まれ変わったのだから優陽も生まれ変わる可能性があると信じて探し始め、迎えに行く日のために備える事にした。クラウドとふたりじゃないと無理だっただろうな。協力してお互いの得意分野を極める事で今の状況が叶ったんだ」

 ふたりじゃないと無理だった――
 だから怜は、双子に生まれ変わったのかな……。

「孤児院で優陽にそっくりなデュオンを見つけたのは、デュオンが9歳くらいの頃だったね。本当はすぐにでも声をかけたかった」
「あの時は珍しく俺がクラウドを止めたな。まだその時じゃないから我慢しろって」
「ふふ、そうだったね。その後のデュオンの事はウェザー院長から報告を受けるようにしたからずっと知っているよ。時々は遠くから姿を見たりもして、デュオンの事が好きになった」
「僕の事が……?」

 どういう意味だろう。

「最初は優陽の生まれ変わりだから好きだと思っていたんだ。でもね、周りの人への配慮とか孤児院で過ごすデュオンの様子を知れば知るほど、私もレインも前世と関係なくデュオンだから一緒にいたいと思うようになったんだよ」

 前世と関係なく、僕、だから――?

「デュオが好きだ。俺たちと一緒にいてくれ、頼む」

 逞しい体躯のレイン様から切なそうな声音で乞われ、僕は思わず頷いてしまった。





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