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心配かけちゃダメだ
しおりを挟む僕は今、ふたつの理由で緊張している。
ひとつは、怜とそっくりな宰相のナチュール侯爵と室内にふたりきりだということ。
もうひとつは、服が擦れるだけで悲鳴を上げてしまいそうなくらい身体が痛いけど、服で隠れた肌に痣があるのを絶対にバレてはいけないということ。
今日の面談は前回と違って、宰相は向かい側ではなく僕の隣に座っていた。
ソファで並んで座っているから距離が近い。
香水なのか宰相からはふわッと甘いいい匂いがしてくるし、サラリと長い銀髪や瞳の色は違うけど顔は前世の恋人の怜そのものでドキドキしてしまう。
「デュオン、気になっていると思うから先に伝えておくよ。八雲怜は私の前世でもあるし、騎士団長レインの前世でもある。私とレインは双子で、ふたりとも同じ前世の記憶を持っているんだ」
「双子で、ふたりとも同じ前世の記憶を……?」
「そう、理由は分からないけれど、八雲怜というひとりの人間がふたりに分かれて生まれ変わったと考えるのが自然だろうね。そしてデュオン、君は優陽の記憶があるんだろう?」
僕がコクリと頷くと、宰相は言葉を続けた。
「前世や今までの話もしたいけど、それはまた改めて時間を作ろうか。今日は時間が短いからまず今の話をしないとね。デュオン、王宮での暮らしが始まって、慣れない事も多いだろう? 困っている事は無いかな」
困っている事……あります、フォッグ様です!
……なんて言えない。
「ありません」
そう答えた直後、バタンと大きな音がして部屋の扉が開いた。
「……レイン、きみは騎士団の訓練中だろう? どうしてここにいるのかな?」
「副団長に任せて少しだけ抜けてきた。クラウドだけデュオと会うなんてズルいだろ?」
つかつかと部屋へ入ってきたレイン様は、並んでソファに座る僕とクラウド様のすぐそばまでやって来た。
「これは面談で私の仕事だからね。デュオンと会いたいというレインのわがままで邪魔されるのは困るな。面談時間は短いのだから」
「別に面談の邪魔をするつもりは無い。少しだけデュオを抱きしめたらすぐに戻るさ」
レイン様はヒョイと僕を抱き上げソファに座ると、最初の面談の時のように僕をうしろからギュッと抱きしめた。
「ッ……」
声は咄嗟に堪えたけれど。
痛みで小さく息を飲む。
「デュオ?」
「す、すみません。いきなり抱きしめられたので、少し驚いてしまっ、てッ」
僕が話している途中で、スーッとレイン様が僕のお腹を撫でた。
表面を優しく触られただけなのに、身体が痛みでビクッと揺れてしまう。
「デュオ、シャツ捲るぞ」
「ぇ、まっ、ダメ……っ」
止める間もなくレイン様が僕のシャツを捲る。
自分で見てもびっくりするくらいの赤や青、紫のまだら模様が身体にできていた。
「デュオン、これはどうしたのかな、教えて?」
怒りを抑えたように抑揚のないクラウド様の声。
正直に言った方がいいのかな、でも……。
もしクラウド様が前世の怜と同じ性格なら、僕のために何かしら行動を起こそうとするはず。
だけどフォッグ様は、筆頭公爵家だって言ってた。
それだと侯爵のクラウド様よりも身分が高い。
クラウド様がフォッグ様に何か言ったりしたら、立場が危うくなってしまうのでは。
……クラウド様に、心配かけちゃダメだ。
「実は、階段から落ちたんです。こんな粗相をしたと知られたらお世話係をクビになってしまうのではないかと思って言えませんでした。ごめんなさい」
「……そうか、今度からは気をつけて。あとで打ち身に効く薬を用意しておくよ」
とても悲しそうな目をして、クラウド様が微笑んだ。
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