溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~

弓はあと

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浮気防止の記念日花瓶

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 今日リストが用意してくれたデザートは、果物と野菜をたっぷり使ったスムージー。
 いつも通り空のお弁当箱を返しに来たリストが、「キッチン借りるぞ」と言って作ってくれた。

 どうして野菜や果物に加えて、調理用魔道具まで持ってきたのかなぁと思ったら、今日は市販のおみやげじゃなくてリストが作るという事だったのね。

 もしかして昨日私が「最近太っちゃったから私の分は甘いデザート買ってこなくて大丈夫よ」と言ったから、色々と考えて用意してきてくれたのかしら。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、体に良さそうじゃのぅ」

 リストのひいお爺様が目を細めて笑い、スムージーを飲んだ。
 いま第二工房にいるのは、リストのひいお爺様とリストと私の三人。
 リストのお爺様は人と会う約束があるみたいで、今日はもういない。

 私もリストが作ってくれたスムージーを、ゴクリ、と一口飲む。

 ん、美味しい♪
 って、いけないいけない。
 今日はリストに、お祝いを伝えないと。

「リスト、叙爵の件聞いたわ。おめでとう!」
「あー、ありがとう。じいちゃんかじいじいちゃんから聞いたのか? 正装して城に行かなきゃいけないのはめんどくさいけど、男爵位をくれるって言うから貰っておこうと思って」

 リストは自分が開発した魔道具がきっかけで、爵位を与えられることになったらしい。
 爵位を賜るためには、それに相応しい功績が認められる必要がある。
 叙爵なんて滅多にある事じゃない。
 学園を卒業してからまだ一年弱という若さでの叙爵だなんて、異例中の異例ではないかしら。

「この花瓶と同じ物を王太子殿下が使っているのよね」

 作業台の上に置いてある花瓶を指差した。
 ワンツスリ子爵家の運営する第一工房では、王室御用達の品も作っている。

「そう、花瓶で使っている魔法石に工夫したのが良かったみたいだ」
「触れずに感情を感知できるなんてすごいわ」

 魔法石と髪の毛を一緒に溶かし、さらにそこへ細かく切った髪を混ぜてから固めると、少し離れた所からでも魔法石が髪の毛の持ち主の感情に反応する事をリストが発見した。

「この花瓶の花、今はすべて蕾だけど記念日になると花がたくさん咲くから」
「ふふ、記念日を嬉しく思う心に反応するなんて素敵ね」
「元々はこれ王太子殿下から、妻の妃殿下に浮気されないためにはどうしたらいいかって相談を受けて作ったものなんだ。実際に浮気されたわけじゃないのに、殿下は心配みたいで」
「ぇ、そうなの?」

 なんだかそれって、第二工房の仕事にも近いわね。

「ああ、だから妃殿下が楽しみにしている記念日を王太子殿下が忘れずにお祝いできるようにしようと思って作った。記念日を祝って一緒に過ごせばきっと、妃殿下を大切に思う気持ちが伝わるだろう?」
「なるほどね……」

 今まで私、浮気をさせないために恋人と浮気相手との性行為を未遂で防ぐっていう観点からしか考えていなかったけど。

 浮気をされないように、恋人に何をしてあげたら喜ぶかって考えてみるのもいいかもしれない。

「ぁ、そうだじいじいちゃん、明日は一日センティアと出かけるよ」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、リスト坊が前々から言っておったからな。仕事は休んでかまわんぞ」
「ぇ、明日って何か約束してたっけ……?」
「約束はしてないけど前にセンティアに聞いたら、特に予定は入ってないって言ってたから……俺と出かけよう」

 明日は私の誕生日。
 お母様が生きていた頃は毎年家でホームパーティーをしていた。
 でも今年は特にお父様から何も連絡が来てないし。
 仕事をして、普段と変わらない一日になるんだと思っていたのに。

 リストが私の誕生日だと気づいてくれているのかは分からないけれど。
 いつもと違う一日になるのは……嬉しい。



 翌朝、お弁当を受け取りに来る時刻にリストがやって来た。
 でも今日の私は、お弁当を用意していない。
 ランチはリストが予約したって言っていたから。

「師匠、行ってきます」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、せっかくの休日だからのぅ、楽しんでくるとええ」

 リストのひいお爺様が、真っ白い髭を揺らしながら嬉しそうに笑っている。

「ありがとうございます」
 
 作業台の上に置いてある花瓶の花が、プレゼントされたばかりの花束のように鮮やかに咲いていた。





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