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ざまぁ回②です(アムエッタ視点) ※次回はセンティア視点に戻ります
しおりを挟むジリリリリリリリリ……
アラーム音が鳴り響いた。
執事長のブロムスが、バンッ、とジラーニの部屋の扉を乱暴に開ける。
ブロムスの後に続いて、優雅に部屋の中へ入っていく私。
「ジラーニ様、これはどういう事ですの?」
部屋の中で、ジラーニがメイドの女性をベッドに押し倒していた。
こんなに上手くいくとは。
メイドに金を握らせて、ハニートラップを仕掛けたかいがあったわ。
懐中時計をジラーニに渡してその日のうちに、決定的な現場をおさえられるなんて。
ぁら、でも。
ジラーニが押し倒しているの、私がお金を握らせたメイドじゃないわ。
ただの浮気現場ね、これ。
どういう仕組みになっているのか分からないけれど。
ジラーニの髪の毛と報酬を渡して作ってもらった懐中時計。
浮気心を持つと、アラーム音が鳴り響くようになっている。
「アムエッタ、ち、違う、誤解だ……ッ」
「ブロムスも見ているのよ、言い逃れはできないわ」
事前にブロムスが用意していた書類をジラーニへ渡してサインをさせる。
ジラーニが不貞をした際、その責任を取って私が望む時に離婚に応じる旨が記載された念書。
貧乏貴族なうえに浮気までするなんて、ほんと最低!
これがあれば今度いい男が現れた時にいつでも離婚できるわ。
サインしてもらった念書を受け取り部屋を出て、ブロムスと一緒に階段をおりていく。
「なんだかずいぶん賑やかね」
「お客様がいらしているようですので」
応接間の方から、なにやら大きな声が聞こえてくる。
お父様とお母様の声。
他の人の声は聞こえないけど、ブロムスの言葉から察するに客人も部屋の中にいるに違いない。
気になったので、ドアを薄く開けて中を覗いてみた。
「あなた、私と離婚してくださいな。私は真実の愛で結ばれた恋人と生きていきますから」
「恋人、だとぉ……ッ、お前、浮気していたのか!」
やだっ、お母様の隣に立っているの、舞台役者のアシュケイじゃない!
今人気急上昇中の、若手役者。
あんなに素敵な男性がお母様の恋人なの!?
羨ましい!
私なんて、ドレスとかアクセサリーとか最近では懐中時計を購入するためのお金を融通してもらうのに必要だから、ブロムスみたいなオッサンと寝てるのに。
「先に浮気したのはあなたでしょう? 慰謝料はきっちりと払っていただきますからね」
「お前なんぞに慰謝料を払ってたまるものか!!」
「ふん、お金を扱っているのはブロムスでしょう? 彼に頼むわ」
コンコン、とドアをノックして、ブロムスが室内へ入っていったので驚いた。
「奥様、申し訳ありませんが奥様にお渡しできるお金はございません」
突然のブロムスの登場が意外だったのか、部屋の中がシン、と静まり返った。
その沈黙を破ったのは、肩をすくめたアシュケイ。
「なぁんだ、お金無いの? それなら僕は失礼するよ」
お母様の目が大きく見開く。
「ぇ、どうしたっていうの、アシュケイ?」
「お金、無いんだろう? もうここに用は無いよ。また劇場で会おうね」
「ア、アシュケイどうしたの? あんなに愛してるって言ってくれたじゃない。待って……」
役者のアシュケイに縋りつくように歩きながら、お母様は部屋を出て行った。
入れ違いに侍女のジェロシーが、私のすぐ横を通り部屋の中へと入っていく。
「旦那様、私に慰謝料をくださいな。私を手籠めにした時の音声、ちゃんと魔道具に録音してありますからね」
ジェロシーの父親はお金にだらしがないうえに、あまり良くない連中とつながりがある人間。
私にとっては伯父だけど、正直あまり付き合いは持ちたくない。
良家との縁談が結ばれるのを期待して娘のジェロシーをフォーファイ伯爵家の侍女として送り込んだけど、お父様のお手付きにされて方針を変えたのだろう。
こうなったらフォーファイ伯爵家からお金を搾り取ろうと。
「ジェロシーか……。まぁいい、ブロムス、彼女にお金を渡してやってくれ」
室内に残っていたブロムスに向かって、お父様が命じる。
「大変恐縮ですが、それは致しかねます」
「俺に口答えするのか、お前は言われた事だけしていればいいんだ!」
「もう言われた事ができないのです。慰謝料を支払うお金がこのフォーファイ伯爵家には無いのですから」
「なん、だとっ!?」
ぇ、どういう事!?
お金が無いって言った!?
「では、失礼いたします」
お父様に向かって一礼したブロムスが部屋を出てきたので、咄嗟に彼の腕を掴んだ。
「どういう事よ、フォーファイ伯爵家にお金が無いって」
「そのままの意味ですよ。魔道具はモノによっては高価なんです。今までの贅沢に加えてオーダーメイドで特殊な魔道具を四つも買ったりしたらあっという間にお金が無くなりますよ」
何でもない事のようにあまり表情を変えず話すブロムス。
「そんな……、お金が無くて、どうすればいいのよ!」
「大丈夫ですよ、アムエッタ様」
ブロムスが私の手をとってギュッと握る。
好きでもない男に手を握られて、正直すぐにでも振り払いたい。
「アムエッタ様は私と一緒に暮らせばいいんです。今までの貯えがあるので、食べる分くらいは困りませんから」
「一緒に暮らすですって、誰があんたなんかと」
「ああ、そうそう、あなたがいま穿いている下着。実は特殊な仕掛けがあって、私にしか脱がすことができないんですよ」
なんですって……!?
私が穿いているのは、普通の下着のはず。
今流行りのデザインの、腰のところで紐を結ぶタイプのもの。
でも、そういえば……。
今日は暑くて汗をかき、さっと湯浴みをして着替えたわ。
着替えたあとは、まだ一度もトイレに行ってない。
脱げないって、まさか、嘘よね……?
「でも安心してください、下着はもう一枚ありますからね。汚物まみれになってもあなたが寝ている間に私が交換して洗っておきますよ」
呆然とする私の顔を覗き込むようにして、にぃ、とブロムスが気味悪く笑った。
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