溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~

弓はあと

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浮気防止パンツ②

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 思わず呟いてしまった。

「カボチャ型のパンツなのね……」
「どうかな、まずは色合いとか見た感じで」

 パンツはピンク色に薄い紫が入ったマーブル模様。
 ウエストと裾のところにゴムが入って、たぽっ、としたデザイン。
 小さな子が着たら、きっと可愛い。
 でも、大人の女性が穿いたら……?

「んー、どうかしら。実際に穿いているところを見ないと、まだ何とも言えないわ」

 ハァ……、とリストのため息が聞こえる。
 何かを諦めたようなため息。

「やっぱりいいよセンティア、明日じいじいちゃんに言う。これはボツにするって」
「ぇ、まだ効果があるかどうか試してもいないのに?」
「誰かに穿いてくれって頼んで、試してもらう事もできないから」

 それって……。
 リストには、浮気防止パンツを穿かせる相手がいないって事……よね?

 なんでだろ、私ちょっと喜んでる。
 でも、せっかくリストが考えた試作品が何もしないでボツになるのは避けたい。

「それなら私が穿いて試してみようか?」
「センティアがこれを? それはダメ」
「ダメって即答? そりゃぁね、下着を見せる相手がいるわけじゃないから、二階にある姿見で自分が穿いている姿を見るだけしかできないけど」
「穿くのはいい……けどダメだ」

 何がダメなのかしら?

「リストに見せるわけじゃないわよ?」
「そ、んなの当たり前だろっ」

 あら、珍しくリストが動揺している。
 顔を赤らめて、もしかして、照れてる??
 ちょっと、可愛いかも。

 そんな可愛い幼馴染のために、やっぱりここは一肌脱いで協力してあげたい。
 まぁ実際には脱ぐんじゃなくて、パンツを穿くんだけど。

「それじゃ、穿いてくるからちょっとここで待っててね」
「ちょっ、待っ、センティア、穿かなくていいって!」
「いいからいいから!」

 作業台の上に置いてあるパンツを手に、二階へと階段をのぼっていく。
 第二工房の二階は生活できるようになっており、リストの言葉に甘えさせてもらって私がひとりで住んでいる。

 スルリと下着を穿き替え、姿見の方を向く。
 ふわりとしたスカートの裾を自分で腰の所まで捲った。
 ちょっとマヌケだけど鏡の中の自分に向かって、パンツを見せている状態。

 うん、やっぱり大人の女性が穿くにはかなり子どもっぽい。

 ひとりで納得して、とりあえず感想を早く伝えようとそのまま階段をおりてリストの所へ戻る。

 作業部屋のドアを開けると、少し眉をひそめて心配しているような、もしくは困惑しているような、普段見た事の無い表情のリストと目が合った。

「……センティア、本当に穿いたのか?」
「穿いたわ。この下着なら、浮気防止になると思う」
「ぇ、もう脱ごうとした?」
「? 脱ごうとはしてないけど、見た目で」
「見た目?」
「そう、このデザインなら、男性は浮気しようと思わないはず。やっぱり子どもっぽいもの」
「デザイン? 子どもっぽい??」

 リストが不思議そうな表情をしている。

「今回は魔道具じゃなくて、子どもっぽい下着で浮気を防ぐ作戦でしょう?」
「……ごめん、センティア」
「なんで謝るの?」
「なんとしてでも止めるべきだった」

 私から視線を逸らし、リストは俯いてしまった。
 
「どうしたの、リスト?」
「センティアがいま穿いているそれ、魔道具だから」
「ぇ、このパンツが!?」
「えーと、穿いたそれ着替えてきて。その方が話が早いから」

 リストの言葉に従い、再びひとりで二階へ戻る。
 自分の下着に着替えるためカボチャのパンツを脱ごうとして、異変に気付いた。

 ……脱げない。
 ぇ、どうして?
 固まってしまったかのように、パンツがまったく動かない。

 慌てて階段を下り、リストにパンツが脱げなくなった旨を訴える。

「鍵がかかってるから」
「ぇ、パンツに鍵が? その鍵ってどこにあるの、早く教えて?」
「鍵は、俺の感情」
「リストの?」
「その魔道具、俺の髪と一緒に魔法石を溶かしたもので色をつけてある。人が穿くと固まって、そうなると生地に溶けた魔法石が反応して再び柔らかくなるのは、生地に溶け込んだ髪の毛の人物が脱がす時だけ」

 それって……。
 リストしか脱がすことができないってこと!?

「それ以外の方法は?」
「無い。ごめんな、脱がすぞ……極力見ない、目を瞑って心の目でしか見ないようにするから、許してくれ」

 跪いたリストが、私のスカートの中に手を入れた。

「ぜ、絶対に目を開けないでよねっ」
「……わかった」
「ひぁ、腿くすぐったぃ、リスト、もっと上。腰のゴムの所を掴まないと」
「ごめん……ここ?」
「ん、リスト、お願い、恥ずかしいから早く脱がせて」
「センティアの声の方が、目を閉じて聞いてるとくすぐったい」

 恥ずかしいよぅ……。
 ぅぅ……、涙目になっているのが自分でも分かるくらい視界が滲む。

 パンツが脱げた時、リストの顔は真っ赤だった。
 たぶん私も同じくらい赤かったと思う。

「リスト、また明日ね」
「うん、また明日」

 かなり気まずい雰囲気のまま、その後すぐに解散した。





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