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ざまぁ回①です(アムエッタ視点) ※次回はセンティア視点に戻ります

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 まぁだトイレから出てこないのかしら。

 ずいぶん長い間お父様がトイレを占領している。
 そろそろ空いたかと思って何回もトイレの前まで様子を見にきてるけど、まだ空いてない。

 フォーファイ伯爵邸には他にもトイレがある、でも他のトイレは使用人も使う事ができる。
 家族専用のトイレはここだけ。

 フォーファイ伯爵家に勤める侍女たちの中には子爵家や男爵家の令嬢だっているけど平民もいる。
 
 ここ以外のトイレは空いているけれど……
 私はもう平民じゃない、伯爵令嬢だもの。
 貴族の私が平民も使うトイレに入るなんて絶対に嫌!

 お父様いいかげん出てきてくれないかしら……と思っていたらお母様がやって来た。
 なんだか頭からツノが見えそうなくらい怖い顔をしている。

「あなた! やっぱり浮気していたのね!!」

 お母様がトイレのドアに向かって怒鳴りだした。

「ジェロシーを私付きから夫婦付きの侍女にするって言いだした時から怪しいと思っていたのよ」
『ち、違う! 誤解だ! ぁ、お腹が……』

 トイレからお父様の呻き声と下痢っぽい音が聞こえてくる。
 ジェロシーって、従姉のジェロシーの事かしら。
 お母様がお父様と結婚する時、侍女とするために一緒にフォーファイ伯爵家へやってきた母の兄の娘。
 伯爵家の侍女になれば箔が付いて後々良家との縁談が望めると、伯父様は目論んでいたみたいなのよね。

「あなたが今お腹をくだしているのが証拠よ! ジェロシーがあなたに持っていったブランデーのグラスはねぇ、エロい事を考えながら持っていると強力な下剤が滲み出てくるようになっているの!」

 お父様ったら、こんな昼間からお酒を飲んで、しかも浮気までしようとしていたのね……。
 
「慰謝料ふんだくって離婚してやる! 早く出てこい!!」
『ま、待ってくれ、まだお腹が……』
 
 ドンドンドンドンッ、とお母様がトイレのドアを激しく叩いている。
 凄い音だわ、ドアが壊れてしまったらどうしよう。
 家族専用のトイレはここだけなのに。

 お腹をおさえながらよろよろとトイレから出てきたお父様。
 引きずられるようにしてお母様に連れて行かれてしまった。

「アムエッタ様……」

 嵐のようなお母様の怒りの声が離れていったと思ったら、執事長のブロムスから声をかけられた。
 お金にうるさかったお姉様がいなくなり、今は彼がこの家の財産を管理している。

「なあに、ブロムス?」
「ご希望の品が届きました」
「ぁぁ、アレね。部屋に置いておいてちょうだい」

 お姉様の代わりにシクスセブ侯爵家のジラーニと結婚した私。
 次男とはいえ侯爵家出身だからジラーニはお金を持っていると思ったのに。
 蓋を開けたら貧乏貴族でびっくりしたわ。

 もっと条件のいい男が現れた時のために、いつでも離婚できるようにしておかなくちゃ。

 そう考えて、とある品物を手に入れようと考えたけど方法が分からなくてそれとなくブロムスに相談した。

 ブロムスに聞いて正解だったわ。
 ツテがあるって言ってくれた。

 ブロムスが友人に頼んで、友人の友人の知り合いのお爺様の友人の知り合いの知り合いの知り合いから手に入れてくれた品。

 具体的な値段は知らないけれど、かなり高価な物らしいので支払いもブロムスにお願いした。
 ブロムスなら私のために喜んでお金を融通してくれるから。

 まぁ、そのぶんお金とは違う方法でちゃんと支払っている。

「承知いたしました。ではアムエッタ様、代金をいただきたいのでそのまま部屋でお待ちしております」
「わかったわ」
「では失礼いたします」

 頼んだ品物の入った小さな箱を持ち、ブロムスが去っていく。
 依頼したのは、特殊な機能のついた懐中時計。

 誰もいなくなり、ようやく静かになった。
 やっとトイレに入れるわ。

 貴族しか使えない、貴族のためのトイレへ。
 ガチャ、とドアを開けて中に入る。



「くっさ!」

 お父様の残り香は強烈だった。





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