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第二工房

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 工房で働くようになって2か月。

 やったぁ、とうとう……。

「師匠、できました!」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、嬢ちゃんは飲み込みが早いのぅ」

 真っ白い髭を揺らしながら嬉しそうに笑うのはリストのひいお爺様。

 何回か訪れたことのある第一工房は、たくさんの職人さんをかかえていたけれど。
 第二工房で働いているのは、なんと私を入れてたったの四人。

 私とリストと。
 リストのお爺様と、リストのひいお爺様だけ。

 しかもリストのお爺様は事務仕事をしているので、工房の職人としてはリストと私と、リストのひいお爺様の三人しかいない。
 おまけにリストは、こちらだけでなくワンツスリ子爵家の仕事や第一工房の仕事もしているからいない時の方が多いし、リストのひいお爺様はもうすぐ引退する。

 その関係でリストはあの日、第二工房で働ける新しい職人を探していたみたい。
 ちなみに第二工房の存在は世間に知られていないので、表向きリストは第一工房だけで働いていることになっているらしい。

「私が作ったこの魔道具、実際にちゃんと動きますかね……」

 ここで働くようになった私は、リストのひいお爺様から仕事に必要な技術を学んだ。

 学園の授業で簡単な魔道具は作った事があるけれど、本格的な魔道具を作ったのは今回が初めて。
 しかも、ひいお爺様に助言をいただいたとはいえ、ほぼひとりで完成させた。
 だから心配でたまらない。

 この第二工房で作っているのはオーダーメイドの浮気防止用魔道具。

 品物が品物だけに依頼主とのやり取りは、とある筋を通じて秘密裏に行われているらしくて。
 事務担当のリストのお爺様だけがその窓口となっているため、職人として魔道具を作る私たち三人が依頼主の個人情報を知ることは無い。

 依頼主が欲しいと思っている品物のイメージなど、魔道具の作製に必要な情報だけが私には伝えられている。
 
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、心配ならリスト坊で実験してみたらどうじゃ」
「リストで、ですか……?」

 今回私が作製した魔道具がどんなものか、まだリストは知らない。
 だから正常に動くかどうか、リストで試してみる事は可能だと思う。

 学園を卒業して働き始めたリストに今、恋人がいるのかは知らないけれど。
 浮気心に反応する魔道具。
 リストで実証実験してみてもいいものか。
 なんだか良心が咎める。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、リスト坊で試してみたらええ」

 うーん……、ひいお爺様に勧められたから、いいの、かな……?





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