4 / 12
第二工房
しおりを挟む工房で働くようになって2か月。
やったぁ、とうとう……。
「師匠、できました!」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、嬢ちゃんは飲み込みが早いのぅ」
真っ白い髭を揺らしながら嬉しそうに笑うのはリストのひいお爺様。
何回か訪れたことのある第一工房は、たくさんの職人さんをかかえていたけれど。
第二工房で働いているのは、なんと私を入れてたったの四人。
私とリストと。
リストのお爺様と、リストのひいお爺様だけ。
しかもリストのお爺様は事務仕事をしているので、工房の職人としてはリストと私と、リストのひいお爺様の三人しかいない。
おまけにリストは、こちらだけでなくワンツスリ子爵家の仕事や第一工房の仕事もしているからいない時の方が多いし、リストのひいお爺様はもうすぐ引退する。
その関係でリストはあの日、第二工房で働ける新しい職人を探していたみたい。
ちなみに第二工房の存在は世間に知られていないので、表向きリストは第一工房だけで働いていることになっているらしい。
「私が作ったこの魔道具、実際にちゃんと動きますかね……」
ここで働くようになった私は、リストのひいお爺様から仕事に必要な技術を学んだ。
学園の授業で簡単な魔道具は作った事があるけれど、本格的な魔道具を作ったのは今回が初めて。
しかも、ひいお爺様に助言をいただいたとはいえ、ほぼひとりで完成させた。
だから心配でたまらない。
この第二工房で作っているのはオーダーメイドの浮気防止用魔道具。
品物が品物だけに依頼主とのやり取りは、とある筋を通じて秘密裏に行われているらしくて。
事務担当のリストのお爺様だけがその窓口となっているため、職人として魔道具を作る私たち三人が依頼主の個人情報を知ることは無い。
依頼主が欲しいと思っている品物のイメージなど、魔道具の作製に必要な情報だけが私には伝えられている。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、心配ならリスト坊で実験してみたらどうじゃ」
「リストで、ですか……?」
今回私が作製した魔道具がどんなものか、まだリストは知らない。
だから正常に動くかどうか、リストで試してみる事は可能だと思う。
学園を卒業して働き始めたリストに今、恋人がいるのかは知らないけれど。
浮気心に反応する魔道具。
リストで実証実験してみてもいいものか。
なんだか良心が咎める。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、リスト坊で試してみたらええ」
うーん……、ひいお爺様に勧められたから、いいの、かな……?
32
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
【完結】旦那は私を愛しているらしいですが、使用人として雇った幼馴染を優先するのは何故ですか?
よどら文鳥
恋愛
「住込で使用人を雇いたいのだが」
旦那の言葉は私のことを思いやっての言葉だと思った。
家事も好きでやってきたことで使用人はいらないと思っていたのだが、受け入れることにした。
「ところで誰を雇いましょうか? 私の実家の使用人を抜粋しますか?」
「いや、実はもう決まっている」
すでに私に相談する前からこの話は決まっていたのだ。
旦那の幼馴染を使用人として雇うことになってしまった。
しかも、旦那の気遣いかと思ったのに、報酬の支払いは全て私。
さらに使用人は家事など全くできないので一から丁寧に教えなければならない。
とんでもない幼馴染が家に住込で働くことになってしまい私のストレスと身体はピンチを迎えていた。
たまらず私は実家に逃げることになったのだが、この行動が私の人生を大きく変えていくのだった。
【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜
よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」
いきなり婚約破棄を告げられました。
実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。
ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。
しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。
私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。
婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。
しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。
どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。
義妹に婚約者を寝取られた病弱令嬢、幼馴染の公爵様に溺愛される
つくも
恋愛
病弱な令嬢アリスは伯爵家の子息カルロスと婚約していた。
しかし、アリスが病弱な事を理由ににカルロスに婚約破棄され、義妹アリシアに寝取られてしまう。
途方に暮れていたアリスを救ったのは幼馴染である公爵様だった。二人は婚約する事に。
一方その頃、カルロスは義妹アリシアの我儘っぷりに辟易するようになっていた。
頭を抱えるカルロスはアリスの方がマシだったと嘆き、復縁を迫るが……。
これは病弱な令嬢アリスが幼馴染の公爵様と婚約し、幸せになるお話です。
【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる