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公爵令嬢リーベの想い⑤
しおりを挟むほんの少しだけアフェクト様よりも低いストルグ様の声。
おふたりの声は、似ているようで全く違う。
どうして皆はよく聞き間違えるのか、いつも不思議でならなかった。
耳元で聞くと、その違いがよりはっきりとわかる。
まさかストルグ様が、私の耳に愛を囁くなんて……。
ふと、前に一度だけストルグ様に耳元で囁かれた事があるのを思い出した。
その時は、起きてください、と淡々とした言葉だったけれど。
初めてストルグ様の温室に入ったあの日。
ストルグ様の匂いが染みついたハンカチを口に当てていたら、いつの間にか寝てしまっていて。
こんな姿を見せてしまい、ストルグ様はさぞ呆れたことだろうと思ったのに。
別れ際「帰りの時間が一緒になることがあったら、俺が育てた花をまた見てほしい」と言われた。
それ以来、ストルグ様の訓練終了と私の王太子妃教育の終わる時間が重なる時は、温室へと足を運ぶ。
ストルグ様にハンカチを貸し、陽の光を思わせるようなストルグ様の匂いを感じながら温室で横になった。
寝過ごすことがないように気を張っている。実際に初日以外、寝過ごしたことはない。
気を張っているから疲れが取れることはないはずだけど。
ほんの少しの時間ハンカチを口に当て目を瞑っているだけで心が落ち着いて、温室を出る時には不思議と身体が軽くなっていた。
終了時間が合わず王太子妃教育への行き帰りで訓練場の脇を通る時に、訓練中のストルグ様の姿を見かけることもある。
訓練で汗を流しているストルグ様の姿を見ると、私もがんばろうと思えて王太子妃教育にも前向きに取り組むことができた。
ストルグ様に会えるのを心待ちにしている自分がいて。
それがなぜなのか分からなかったけれど、ストルグ様から愛の言葉を囁かれてようやく分かった。
――ストルグ様を、愛している。
ストルグ様は、閨事における男性側のマナーとして義務的に愛を囁いているに違いないけれど。
それが分かっていても、悦びで心が震えてしまう。
俺のリーベ、と言われ思わずストルグ様の背中に爪を立ててしまった。
ストルグ様の独占欲を感じてしまい、嬉しさのあまり気持ちが昂って。
たとえそれが、偽りの言葉だったとしても。
ストルグ様に愛の言葉を囁かれて幸せだった……のに。
爪を立てた途端に、ストルグ様が黙り込んでしまった。
怒って、いるのかもしれない……。
背中に爪を立てたりなんてしたから。
そう心配していたけれど、ストルグ様にふわりと抱きしめられた。
それだけで心が温かくなる。
それなのに、ストルグ様の身体はすぐに私から離れていこうとして。
――離れてほしくない。
気づいたら舌を伸ばしていた。
ストルグ様の鎖骨を舐める。
はしたない振る舞いだと頭では分かっていても。
引き留めたくてもう一度、ちろりと舐めてしまった。
ストルグ様に精を注がれ、悦びで涙が溢れてくる。
このまま子を孕むことができたらどんなにいいか。
ストルグ様は今回の行為を、一度だけだから我慢して受け入れてくれとおっしゃっていた。
もう二度と私の事は、抱いてくださらないのだろう。
この国では基本的に側室を置くことができないけれど、結婚してから1年しても子どもができなければ、跡継ぎを残すために必要な側室を置くことができる。
ストルグ様は私と結婚して子を宿すような行為はせずに、後に側室を娶るつもりなのかもしれない。
それならお飾りの妻でもいい、この先もどうかあなたのそばにいさせてください。
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