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公爵令嬢リーベの想い③
しおりを挟む花を少し見るだけなら、と思いストルグ様と温室へ向かう。
少し距離を空け、ストルグ様の背中を見ながら歩いた。
温室の入口に着くと、ストルグ様が私の方を振り返る。
「中は自由に歩いてもらってかまわない。今の時期は中央のベンチに座って眺める花が見頃だと思う。ただ植物は触らない方がいいかもしれないな。手がかぶれてしまう事もあるから」
ストルグ様が、温室の扉を開けてくれた。
「俺はここにいるから、何かあったら声をかけてくれ。戻る時間が遅い時は俺の方から声をかけるようにする。だから安心して、休んでいくといい」
思わず小さく笑ってしまった。ストルグ様は何としても私を疲れていることにしたいらしい。
温室内を一周したらすぐに帰ろうと思いながら、温室へ入るためストルグ様の前を通ろうとした時に気がついた。
ストルグ様の首を流れる汗に。
そういえば、ずっと訓練用の武具をつけたままだから熱かったにちがいない。
私の事なんて放っておいて、ご自分の武具の片付けを先にしたらよかったのに。
バッグからハンカチを取り出して、ストルグ様に差し出した。
「どうぞお使いになって。汗を拭かないと身体が冷えますから」
「いや、そんな事……。ハンカチを汚してしまうから」
「お使いにならないのなら、私も温室へは入らずに帰らせていただきます」
「参ったな……」
ストルグ様は苦笑しながら「ありがとう」と言ってハンカチを受け取り、首にあてる。
新しいハンカチで返すと言うストルグ様に、それなら温室には行きませんと答えて汗を拭いたハンカチを受け取った。
困ったように笑うストルグ様に見送られて、温室へ足を踏み入れる。
温室の中へ進んでいくと色鮮やかな花に囲まれて、まるでおとぎ話の世界に迷いこんだみたいで。
なんだか心が躍った。
椅子を見つけて、ストルグ様の言葉を思い出す。
温室に入る前はベンチに座らずすぐに帰るつもりだったけれど。
ストルグ様の言葉に従って、見頃だという花を座って眺めてみたくなった。
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