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婚約破棄②

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「イーバル家は事業が成功してここ数年で力をつけてきている。陛下も余程のことが無い限り、イーバル公爵の娘を押し退けてまでリーベを君の婚約者にしようとはなさらないだろう」

 アフェクトは顔を覆って俯くリーベに優しく声をかけた。

「リーベ、今回の婚約破棄について、明日の午後公爵家に書簡が届く手筈となっている。そうしたら君のお父上はカリタスと君を結婚させようと考えるだろうね」

 声は優しいのに、まるで穏やかに死刑執行を告げるようなアフェクトの口調。

「書簡が届いたらすぐにカリタスとエレンの婚約は解消されるはずだ。だから、例えば今日君が誰かのお手付きになったりしない限り、リーベ、君はカリタスとの婚約から逃れることはできない」

 顔を上げ、リーベは唖然とした表情をアフェクトに向ける。

「……おて、つき……?」
「な、なんて事を言うんだ、兄上!」

 アフェクトの口元が、美しく弧を描いた。
 この世の者とは思えないくらい、麗しい王太子の微笑み。

「本当のことだよ。この国は結婚相手に純潔を捧げることを重要視する国民性なのはふたりも知っているよね。だからリーベが純潔でなければ、カリタスにも婚約を断る口実ができる」

 出来の悪い子どもに根気強く勉強を教える教師のようにアフェクトは話し続ける。

「もっと言うなら、リーベに手を出す男は公爵以上の身分でなければならない。そうでなければラファルツ家が世間からいい笑い者になってしまうからね」

 アフェクト王太子の言う通りだ。王太子の婚約者だったリーベが、お手付きになった挙句公爵家よりも身分の低い家に嫁ぐことになったりしたら、リーベも、その家も、国中から好奇の目に晒される。 

「しかし、公爵以上の身分の……しかもリーベの婚約者となり得る男なんて、ほとんど……いない……」

「そう、リーベの婚約者となるのにふさわしい、独身で婚約者もいない身分が高い男は、……ストルグ、君しかいない」

「いや、俺だけでは、ない、が……」

「……ああ、身分しか取り柄がないような男の元に嫁ぐのはどうかと思って除外してしまったけれど、実際にはもう少しいたね。そちらにリーベの純潔を散らすよう打診してみた方がよいかな、ストルグ?」

 酷い状況を想像させるようなアフェクトの言葉に、ストルグが心配するような視線をリーベに向ける。
 ふわりとしたピンクゴールドの髪のかかる肩が、小さく震えていた。
 その姿を見て、剣先を突きつけられたようにストルグの胸が痛む。

「……俺、が……」

 気づいたらストルグは、喉から絞り出すような声を口にしていた。




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