1 / 20
婚約破棄①
しおりを挟む「リーベ、単刀直入に言うよ。君との婚約を破棄させてもらう」
まさに『王子様』という肩書に相応しい金髪碧眼の美丈夫が、婚約者を前にしてサラリと口にした。
「……どういうことだ、兄上?」
王太子の執務室の温度を下げそうなくらい静かに低く響く、第二王子ストルグの怒気を含んだ声。
兄と同じ髪と瞳の色をしているけれど、王子様然とした容姿の王太子に比べ、ストルグは騎士のように精悍な風貌をしている。
ストルグの横に少し距離を置いて座っていた公爵令嬢のリーベは、何も言えずに王太子の言葉を受けとめていた。
王太子アフェクトから婚約破棄を告げられ、固まったように身体を強張らせている。
「よくある話さ。隣国の第一王女であるフィーネ王女の婚約者が先日亡くなられた。そこで国同士の結びつき強化を考えた陛下は、私にフィーネ王女と婚約をさせようとお考えになってね。その話にあちらの国も乗り気なようだ」
ストルグの怒りをあしらうように、アフェクトが軽く告げる。
執務室内の応接用ソファで、アフェクトとローテーブルを挟んで向かいに座るリーベの顔は、血の気が感じられないくらい青ざめていく。
大きめの三人掛けソファに、リーベと間を空けて座っていたストルグは、俯く彼女の様子を横目で見るとグッと膝の上で拳を握った。
「兄上は、それでいいのか?」
「いいも何も、王族にとってより大きな利益をもたらす婚姻関係が優先される。ただそれだけだよ」
「……リーベは、どうなる?」
「恐らく、いやほぼ確実に、カリタスの婚約者となるだろうね」
アフェクト王太子がそう告げた瞬間、リーベがバッと顔を上げると彼女のピンクゴールドの髪がふわりと揺れた。
「だ、だめ。カリタスにはエレンがいるもの」
ラファルツ家は一人娘のリーベが王太子の婚約者になることが決まると、リーベの二歳年下のカリタスを跡取りに育てるため親戚から養子に迎えた。
そのカリタスは、リーベの幼馴染であるエレンとの婚約が決まっている。
「実の娘のリーベと男爵令嬢のエレンなら、君のお父上であるラファルツ公爵はどちらとカリタスを結婚させるかな」
お金さえつめば、公爵家から男爵家へ婚約解消を言い渡すのは容易いことだ。
そしてカリタスも、養子の身で自分の婚姻について口を挟むことは難しい。
「嫌です。私のせいで二人の婚約が解消されるなんて、絶対に嫌」
リーベが手で顔を覆い声を震わせる。
幼い頃に王太子との婚約が決まっていたリーベは、小さな頃から王太子妃教育のため城に出入りをしていた。
話をする機会があったから、ストルグもカリタスとエレンのことはリーベから聞いて知っている。
お互いに愛情を育んできたカリタスとエレンが婚約することを、リーベは自分のことのように喜んでいた。
「……兄上、それなら俺が、リーベを婚約者にもらう。俺にはまだ婚約者がいないし、それで問題はないはずだ」
「ストルグ、君は自分が政略の駒だということを分かってないね。第二王子である君の婚約者の席はイーバル公爵が自分の娘にと狙っているよ。もうすぐ陛下にも打診があるはずだ」
え……、と目を見開くストルグをアフェクトが一瞥した。
27
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる