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【おまけの話(ルゼド・ベルダー視点)】聖女を召喚すれば平和が訪れる
しおりを挟む無事に結婚が認められてよかった。
陛下の承認が得られれば、自分の父親は反対する事ができない。
三男で末っ子の自分に両親は甘いから、陛下の承認が無くても説得する事はできたとは思う。
だが承認がなければ説得に時間がかかったはずだ。
少しでも早くサクラと一緒になりたかった。
まさか自分が、女性に対してこんな想いを抱くようになるなんて……。
聖女を召喚すれば平和が訪れるという神託があり、召喚の儀が行われたあの日。
異世界からやってきた女性は、ひとりではなく二人だった。
その場にいた自分以外の誰もが、華やかな見た目のヒメカ嬢を聖女だと崇めている。
自分は……正直、聖女に興味が無かった。
いや、聖女だけでなく、この世界そのものに、興味が無かった。
飛び抜けて勉強のできる長兄と、超越した剣の腕前を持つ次兄。
小さな頃からふたりの兄に鍛えられたから、それぞれの分野でそれなりの成果を出す事はできた。
けれどあと少しのところで勉強と剣術では兄を超えて一番になる事はできなくて。
負けず嫌いだった自分は、一番になるために魔導師の道を究めた。
魔導師として名を馳せた自分に対し、私利私欲のため自分の娘を差し出そうとしてくる多くの貴族たち。
特に必要がなかったから、いや、むしろ邪魔だったから女性と付き合った事はない。
どの娘たちも結婚して優雅な生活を手に入れる事を夢見ていた。
いったい自分は、何のために努力してきたのだろうか。
彼女たちと結婚するため?
私利私欲に走る貴族たちのため?
急に虚しくなってしまった。
誰にも心情を話したことは無かったが、当時は生きている意味が見いだせなくて自分が開発した魔導具で世界を滅亡させたいくらいヤんでいたと思う。
そんな気持ちを抱えて迎えた召喚の儀。
自分がサクラに仕事と住む場所を与えたのは、好意があったからではない。
見知らぬ世界に連れてこられたうえに放っておかれている彼女に対して、最初はただ単に同情しかなかった。
召喚された二人は、この世界で使用している文字は分からないが話し言葉は不思議と分かるらしい。
サクラと話しているうちに、召喚前にサクラが暮らしていたニホンという国で洗濯の時に使っていた道具の話題になった。
今までは魔導具を作ったらそれきりで、それをより良いものに改善しようなんて思わなかったけれど。
サクラの話を聞いて、ふと改良してみようと思い立つ。
改良するために必要な仕事をお願いするとサクラは、献身的に取り組んでくれた。
細かくて時間のかかる作業や、何度もやり直しが必要な根気のいる仕事をお願いしたり、時にはかなり無茶な要望もしてしまったと思う。
サクラは私の要望に応え、私が納得するまで魔石の解析をやり直して、その結果いつも私が想定していた以上の事をしてくれる。
そんな彼女のためにも、成果を残したいと思い前向きに魔導具開発に取り組むことができた。
無気力だった自分がそう変わったのは、サクラがいてくれたからだ。
そんな彼女にお礼がしたいと思った。
この世界で女性が望む事といったら結婚だ。
だけど彼女は結婚に興味が無さそうで、仕事をして生きていこうと決めているらしい。
サクラが望むなら、生活費くらい自分が出すのに。
そういえば、住む場所を決める時にお金の事は気にしなくていいと言った際も断られている。
サクラは決して、人に甘えようとしてこない。
そんな女性に出会ったのは初めてで、どんどん惹かれていってしまう。
まずは自分の事を知ってもらわなければ。
研究所以外で、ゆっくり話す機会を作るには、どうしたらいい……?
できれば将来は一緒に暮らして、甘えない彼女をたくさん甘やかしてあげたい、結婚もしたい。
そんな未来の事を考えるようになり、世界を滅ぼしてしまいたいと考える事は無くなっていた。
サクラは召喚に巻き込まれたのではない。
この世界へ平和をもたらすために召喚された聖女は、ひとりではなく二人だったのだ。
サクラが来ていなかったら、自分がこの世界を破滅させていたはずだから。
聖女の真相に気が付いているのは、おそらく自分だけだろうけれど。
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