【R18】聖女召喚に巻き込まれた地味子で社畜な私に、イケメンエリート魔導師の溺愛が降ってきました

弓はあと

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裸にシャツ一枚の姿でベッドにいた

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「もし誰か来ても絶対にドアを開けてはいけませんよ。私の姿を小窓で確認してから開けるようにしてください」

 屋敷のドアを開けて建物の中へ入るとすぐに、まるで七匹の子ヤギのお母さんのように私へ言い聞かせ始めたベルダー様。

 私の事を心配して注意してくれてるのに髪の濡れたベルダー様を見ていたら、水も滴るいい男とは正にこのことだなぁ、と不謹慎にも考えてしまった。

「それではサクラ、家に警備魔法をかけますね。また明日の朝会いましょう」

「え? 濡れたまま行くのですか、ベルダー様? 風邪をひいてしまいますよ」

「このくらいなら大丈夫ですよ」

 優しく微笑むベルダー様。
 銀色の前髪からは、雨の雫がポタポタ落ちていた。
 私に背を向けて、ベルダー様がドアへ手を伸ばす。

「ダメです、行かないでください」

 咄嗟にベルダー様の手首を掴んで引き止めた。

 魔石解析が今日で一段落ついたため、明日はベルダー様も私も久しぶりの休み。

 なのに風邪なんてひいたら、せっかくのお休みが寝込んで終わりになってしまう。
 
 それにもしベルダー様の風邪が長引いてさらに休まないといけなくなったら、魔導具研究所にとってかなり大きな痛手だ。

 おまけに明後日は、次に開発する魔導具について陛下とベルダー様が直接会って話し合う大切な日。

 ベルダー様は努力する姿を人に見せないけれど、私はこの一年隣で魔導具開発のサポートをしてきたからベルダー様が陰でどれだけ頑張ってきたのか分かっている。

 魔導具に関する陛下との大事なお約束を、風邪でキャンセルさせるわけにはいかない。

 私の方を見たベルダー様が一瞬、目を見開いた。

「あ……」

 小さく呟き、バッと片手で自分の口元を押さえたベルダー様。
 その顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。

 こんな表情をするベルダー様、見た事ない。

 ベルダー様はすぐに、ブンッと音が聞こえそうな勢いで私から顔をそむけた。

「っ、とりあえず、サクラの着替えを用意してきます」

 いつも所作が美しいベルダー様が、珍しくバタバタと音を立てながら急いだ様子で廊下を走っていく。

 なぜ、とりあえず私の着替え??

 目線を下げて、先ほどベルダー様の視線が向けられた辺りを見た。
 今日の私は、シンプルな白い長袖シャツに長めの黒いAラインスカート。

 ひぁ、下着が透けてる!?

 雨に濡れた白いシャツがぺっとりと肌にくっついていた。
 そのせいでレース部分の柄がはっきりと分かるくらいビスチェが透けて見えている。

 大きなタオルを手にして戻ってきたベルダー様が、私の肩へふわりとそれをかけてくれた。
 ふかふかのタオルからは、なんだか石鹸のようないい匂いがしてくる。

「風呂へ入ってください。湯はいつでも温かいので、すぐに入っても大丈夫です」

「いつでも温かいお湯が!?」

「ええ、この地域は温泉が湧いていますから」

 すごい、温泉が湧いているなんて。

 私が今住んでいる家はお風呂さえないから、いつもお湯を自分で沸かして身体を拭いている。
 
 こちらの世界に来てからは、湯船に入った事なんてない。

「サクラ、これを着替えに使ってください」

 ベルダー様が普段家でくつろぐ時に着ている物だろうか。
 柔らかい素材の長袖シャツと、同じ素材で腰のところに紐が入っているズボンを私に渡してくれた。

 ベルダー様が渡してくれた着替えに、下着はもちろん無い。
 でもいま穿いている下着は、雨が滲みて濡れてしまっている。

 うーん……下着を何もつけずに着てしまってもいいのかな?
 濡れた下着をつけるわけにもいかないし……。

 申し訳ありませんベルダー様。
 洗濯してきれいにしてから返すので、直に穿かせていただきます。

「廊下のつきあたり、右側のドアが浴室になっています」

「あ、いえ、お風呂はベルダー様がお先にどうぞ」

「ダメですよ、サクラが先に入ってください。髪も濡れているし」

 ベルダー様が手を伸ばし、私の黒い髪を一房すくう。

 ボンッ、と自分に火が点いたかと思った。

 お風呂に入る前なのに身体が熱い。今にも湯気が出そう。

「いやいやいやいや、ベルダー様からどうぞ」

「それなら……」

 ベルダー様が悪戯っ子のような表情をして、私の顔を覗き込んだ。
 そんな表情でも麗しくて、私の心臓がバクバク破裂しそうなくらい音を立てはじめる。

「一緒に入りますか、サクラ?」

 ベルダー様の言葉に、これ以上開かないくらい目を見開いてしまった。
 まるで全身が沸騰したみたいに熱い。
 私の顔はおそらく今、完熟トマトのように真っ赤になっていると思う。

「ぁうぁう、ぁ……」

 人生で一番慌てているであろう私の顔を見たベルダー様が、ふ、と小さく笑った。

「冗談ですよ。でも先に入らずこれ以上ここにいたら本当に一緒に入りますからね、どうしますかサクラ?」

「さ、先にお風呂入らせていただきますぅ……っ」

 足がもつれて転びそうになりながら、急いでお風呂へと向かった。

 かわいいですね……、とベルダー様の小さな声が聞こえたような気がするけれど、きっと気のせいだろう。


「ふわぁぁ、きもちいい……」

 湯船に入るのなんてこちらの世界に来てから初めて。
 浴室は広いし綺麗だし、なんて優雅なバスタイム。
 ああ、気持ちいい。
 極楽だわ…………
 ………………
 …………
 ……


 ――あれ?


 気がついたら、裸にシャツ一枚の姿でベッドにいた。

 なぜか下着をつけていない。
 着ているのは明らかにサイズの大きなシャツだけ。

 視線を周囲へ向けてみる。
 明るさを落とした照明が点いていて、部屋の中はぼんやりと明るい。
 視力が悪い私でも室内の雰囲気は把握できた。
 自分の家とは明らかに違う。

 ひとまずメガネを探そう。
 愛用の銀縁メガネ。

 
 ――あ、あったあった。


 ベッドのサイドテーブルに置いてあった銀縁メガネを手にしてかける。


 ――あれ?


 見える感じが、いつもと違う。
 かけたメガネを外して、ジッとそれをみつめた。


 これ、私のメガネじゃない――?


「あ……起きましたか?」


 ベルダー様の少し掠れた声が、すぐそばで聞こえた……。





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