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12(太陽視点回想・琴莉高校一年生、太陽高校三年生→現在へ)
しおりを挟む「お兄ちゃーん、待って!」
振り返ると信号のない交差点を挟んで20mほど離れた所から、セーラー服姿の琴莉がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
ぷにぷにとした可愛らしい手には、なぜかトーストを持っている。
ぁ……走りながらパン食べた。
琴莉は内部進学で俺と同じ高等部へ。
中等部のブレザーからセーラー服へと変わったばかり。
その可愛らしい制服姿で走ってくるのをずっと見ていたかった……が。
俺はすぐに琴莉を目指して走りだした。
琴莉の方からは、建物の死角になっていて気付いていないようだけど。
俺の方は視界を遮るものが無くて見えたから。
琴莉と俺の間にある道から交差点に向かって、走ってくる男子高生の姿が。
このままだと、ふたりがぶつかってしまう。
慌てて横断歩道を渡り、男子高生より先に琴莉の身体を抱きしめて受けとめた。
ぁぁ、柔らかい。
ずっと抱きしめていたい衝動をぐッと堪えて、琴莉の両肩に手を置き身体を少し離す。
「琴莉、そんなに急いでどうしたんだ?」
「一緒に行こうと思って。ほら、お兄ちゃん何日か前にハンカチの落とし物拾って渡したらその人から告白されたでしょう? 先週は散歩中にリードが外れちゃった犬に懐かれて飼い主さんに渡す時デートに誘われてたし」
そういえば、そんな事もあったっけ。
「お兄ちゃんは小さい頃からベタな恋愛フラグを無自覚に立てまくるから妹としては心配でたまらないの、悪い女にひっかかりそうで。今日お兄ちゃんが早く行く日だって知らなかったから、慌てて家を出てきちゃった」
恋愛フラグ……か。
琴莉の好きなゲームや漫画のおかげで、なんとなくだけど意味は知っている。
ただそれは、恋愛に発展する相手との話だろう?
琴莉以外と何かあっても、意味が無い。
「そんな心配しなくても、大丈夫だよ」
「もうッ! お兄ちゃんッ、隙だらけで危ないよ! お兄ちゃんは自分がハイスぺ男子だという自覚が無さすぎ! 無駄な恋愛フラグは、私がすべてへし折ってみせるから」
ぃゃぃゃいや、琴莉さん?
それは俺のセリフだから。
さっき危なかったからね?
パンかじりながら登校して曲がり角で男とぶつかるって、どれだけベタな恋愛フラグだよ。
本人は気付いていないみたいだけど、琴莉に好意を寄せる男は多い。
琴莉は人見知りで仲が良い人以外とはあまり話さない、恥ずかしがり屋で。
でも正義感は強くて人のためなら勇気を出せる、そんなギャップに惹かれる男が多いのだろう。
ふくよかで柔和なところも、男を甘えさせてくれそうな雰囲気を感じさせるし。
中等部と高等部で別の校舎だった時は琴莉の友人の深川さんに協力してもらって男よけをした。
教科書を忘れたらしく机を寄せ琴莉のを見せてあげた隣の席の男子や、急な雨で琴莉の傘を貸してあげた男子などから琴莉がデートに誘われそうになった時は、先に俺との予定を入れたり深川さんや翼とグループで出かけてもらったり。
同じ高等部になった今は一緒にいられる時間が増えて直接守る事ができるけど、それでも心配でたまらない。
「琴莉の方こそ気をつけて。パン食べながら走ったりしたら人とぶつかるかもしれないから。それにほら、バターが口についてるよ」
琴莉の唇についたバターを親指でそっと拭う。
頭の片隅で、琴莉にキスしてバターをペロリと舌で舐めてしまいたい、と思いながら。
「ん、ありがと。ところでお兄ちゃん、今日はどうして朝早かったの?」
パンを食べ終えた琴莉と並んで歩く。
「礼拝堂の大規模改修の件で、先生と打ち合わせがあってね」
「そっか、生徒会の方でステンドグラスのデザイン案を作成するって言ってたね、どんな風になるのか楽しみ」
「うん、いいのが出来あがるようにがんばるよ。ところで琴莉は、こんなに早くて大丈夫なのか? 教室でひとりだと危ないぞ」
もし教室で男とふたりきりになってしまったらと思うと心配だ。
先生との打ち合わせを別日にしてもらうかそれとも琴莉を一緒に職員室へ連れて行くか……。
「少ししたら部活の朝練が始まるから、弓道場に行く」
「そうか、ならいいけど……弓道といえば、高松さんに今度挨拶に行かないとな。琴莉が高校生になってからは俺、会ってないから」
高松さんは、琴莉が中学の時から通っている区内の弓道の会、弓友会の会長。
俺は弓道をやっていないけれど、何かとお世話になっている。
「それじゃぁ週末一緒に行こっか。高松さんお兄ちゃんと話するの好きだから喜ぶよ」
「ああ、週末一緒に行こう」
「うん、約束ね」
なんかデートの約束みたいだな、と思った。
琴莉には、そんな自覚ないだろうけど。
自覚が無いのは、日頃からよくしてくれる肩揉みに関してもそうだ。
琴莉は俺の事を兄としか思っていなくて。
だから俺の身体をマッサージしたりとか、平気でできるんだろう。
俺の気も知らないで。
琴莉に肩を揉んでもらった後は、お礼に俺が琴莉の身体をほぐす。
やましい気持ちを必死に抑えつけながら。
琴莉は緊張しやすいせいか、マッサージ開始時はいつも身体がかなり強張っている。
でも俺の手でツボを揉みほぐしていくと、身体から力が抜けていって。
蕩けたような表情を見せてくれるのが、たまらなく嬉しかった。
――それは、今夜も同じ。
マッサージしていたら琴莉の身体から力が抜けて。
しかも気持ちよさそうに寝てしまった。
無防備な寝顔、でも起きた時には慌てた様子で、そんな姿が本当に可愛い……。
くちゅ、と琴莉と舌を絡ませる。
高校生の時にはできなかったキス。
ん……?
琴莉、なんかモゾモゾしてないか?
両膝を擦り合わせようとしている……?
もしかして……
琴莉のお臍の下へ手を滑らせて、パジャマのズボンに手を入れた。
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