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しおりを挟む――帰ろう、でも、どこへ?
浩次さんのマンションを出たけれど、どこに帰ればいいのか分からなくてトボトボと歩き続け目に入った公園に足を向けた。
でもしばらく歩いていたら、公園内は暗いしなんだか不気味に感じてしまい、とりあえず公園を出て明るい方へ向かって歩く。
――どうしよう? どこに行こう?
横断歩道を渡ろうと一歩踏み出したところで、信号が赤だったことに気づき慌てて二歩うしろへ下がる。
車が目の前を通りすぎていった。後続車も何台か続く。
もう二歩下がって立ち止まり一息ついたところで、バッグの中で何かが振動しているのに気がついた。
震えるスマホをバッグから取り出して画面を見る。
お兄ちゃんからの着信。
どうすることもできなくてしばらく画面を眺めていたら、スマホの振動が止まった。
着信履歴を見ると、もの凄い数の不在着信表示。
ほとんどがお兄ちゃんからだったけれど、何回かかのこちゃんからの着信もあった。
翼くんからも、二回。
スマホを眺めていたら再び振動が始まり、思わずビクッと肩が揺れる。
今度の表示は、かのこちゃん。
画面に触れて電話に出た途端聞こえてきたのは、スマホから飛び出してきそうなくらい慌てた様子の声だった。
『琴莉? 今どこにいるの!?』
どこ、だっけ、ここ?
頭がぼやッとして働かなくて、言葉に詰まってしまう。
『ごめん、答えたくなければ答えなくていい。とにかく無事で良かった……。琴莉、早く家に帰りな。太陽先輩、心配してたよ』
お兄ちゃんの名前を聞いて、今日一日の記憶が次々に蘇ってくる。
『あ、帰る前に一度連絡した方がいいかも。太陽先輩、すぐにでも捜索願いを出しそうな勢いだったから』
「ダメ……帰れないの。連絡も、できない」
私はお兄ちゃんの家族じゃないもの。
まったくの赤の他人。
でもお兄ちゃんのことだから、連絡したら責任感で私の事を守ろうとするはず。
『帰らないにしても連絡だけはしないと……。それなら、うちにいるから安心してって、私の方から太陽先輩に連絡しても大丈夫?』
「大丈夫。かのこちゃん、ありがとう……」
うう、もう社会人になるというのに迷惑ばかりかけてごめんなさい。
あ……違う、就職先の無くなった私は、社会人になれない。
『琴莉、いま外にいるんでしょ? 車の音が聞こえる。とりあえず、うちにおいで。というか、来なさい。暗いから翼と迎えに行く。琴莉、周り見て、座って待てそうなカフェとかファーストフードある?』
すぐそばにあったファーストフード店に入りコーヒーを飲んでいると、飲み終わる前にかのこちゃんと翼くんが来てくれた。
翼くんの運転する車で、ふたりの住むマンションに向かう。
かのこちゃんと翼くんの新居に行くのは、これで三度目だった。
玄関に飾られた、ふたりの結婚式の時の写真。
ふたりの幸せそうな笑顔を見たら、自然と顔が綻んだ。
すごいな、かのこちゃんは。
もうすぐ先生で、結婚もしてるし、私の事も助けてくれて。
それに比べて私は……と思ったところで、ぐぅぅぅ、とお腹が鳴ってしまった。
昼から何も食べてなかったとはいえ、こんな時になんて緊張感のないお腹だろう。
「そこ、座ってて」
リビングでソファに座ると、かのこちゃんが温かい麦茶をだしてくれてそのまま私の隣に座った。
「まだ9時だから普段なら心配しないけど、太陽先輩が琴莉の居場所を知らないなんて異常だからびっくりしたよ」
「え……、そうかな?」
かのこちゃんが大きく頷く。
「太陽先輩は昔から琴莉の事を何でも知ってたもの。……あ、でも」
少し落ち込んだように俯くかのこちゃん。
「海外出張の時は、そうもいかなかったっけ」
海外出張?
直近でお兄ちゃんが海外へ出張に行ったのは、確か4か月くらい前だったと思うけど……。
考えていたら、ふわぁん、と美味しそうな匂いがしてきた。
お盆にどんぶりをふたつ載せた翼くんが、リビングにやってくる。
「琴莉、夜食作り過ぎたから少し食べて」
「翼くん……」
翼くんが、私の目の前に温かいうどんを出してくれた。
そして翼くんは私たちとローテーブルを挟んで床にあぐらをかいて座り、うどんをすすり始める。
お言葉に甘えて、私もいただきますをした。
うどんは温かくて、泣きそうなくらい美味しい。
ふたりとも優しくて、本当に素敵な夫婦。
いいな、家族がいるって。
玄関のチャイムが鳴った。
ちょうどうどんを食べ終えた翼くんが、立ち上がってリビングを出て行く。
少しして戻ってきた翼くんに続いて部屋に入ってきたのは、お兄ちゃんだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【お詫びとお知らせ】
お気に入り登録のままお待ちくださった読者様、本当にありがとうございます。
この小説エタるんじゃないか、とご心配をおかけしていたら申し訳ありません。
しかもおそらく今後も亀更新です……。
にもかかわらず、短編をちょこちょこ書いています。亀なのにごめんなさい。
もしよかったら長編をお待ちの間に覗いてみてください。
最近投稿した短編のタイトルは
(エタニティ作品)
『【R18】イケメン御曹司の暗証番号は地味メガネな私の誕生日と一緒~こんな偶然ってあるんですね、と思っていたらなんだか溺愛されてるような?~』
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『【R18】王太子に婚約破棄された公爵令嬢は純潔を奪われる~何も知らない純真な乙女は元婚約者の前で淫らに啼かされた~』
になります。亀更新ですが、今後もお付き合いいただけると嬉しいです。
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