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しおりを挟むどうしよう……
お父さんもお兄ちゃんも他人だったなんて。
家族じゃないなら、私はあの家に帰れない。
だってあの家は、お兄ちゃんの家だから。
誰かに相談したくて、真っ先に連絡しようと思ったのは中学からの付き合いの、かのこちゃんだった。
大学までエスカレーター式の学校に幼稚舎から通っていた私と違い、中学の時に外部受験で入学してきたかのこちゃん。
さっぱりした姉御肌の性格で、いつも頼りになる存在。おまけに美人。
一時期は、かのこちゃんがお兄ちゃんの彼女になってくれないかなぁ、なんて秘かに思っていた。
スマホを出してかのこちゃんの電話番号を表示する。
そこで、指が止まった。
……やっぱり、ダメ。
新婚さんだもん。
かのこちゃんと同じく中学から外部受験で同級生になった翼くんと、高校生になってから付き合い始めたふたり。
4月から中学校の先生になるかのこちゃんと小学校の先生になる翼くんは、社会人になってから結婚すると色々面倒だぞって言うお兄ちゃんの勧めもあって就職前に結婚することにして。
先月結婚式を挙げたばかり。
そんなふたりの邪魔しちゃ悪いよね。
次に頭に浮かんだのは、付き合って4か月になる彼氏の浩次さん。
私の人生で、初めてできた彼氏。
電話をかけてみたけど、繋がらなかった。
彼のマンションの鍵は持っている。付き合ってすぐにもらったから。
使った事はないけれど。
とりあえずスマホにメッセージを残して、2回だけ行ったことのある彼のマンションへと向かった。
もし出かけていたら、部屋の中で待たせてもらおうと思いながら。
結果的に、彼はマンションに、いた。
部屋にあがってもいいですか? と聞いたら慌てた様子で、いやちょっと待って、と遮られた。
「どうしたの、突然来て」
眉を寄せ、明らかに迷惑そうな顔。
ごめんなさい、突然来てしまって。
どうしても、話を聞いてほしくて。
大変だったね、って一言でいいから慰めてほしくて。
「実は、父の事で……」
「ああ、遺産のこと? どのくらい貰えた?」
遺産? 今、気にすることですか?
少し違和感を覚えながらも、父とは血のつながりが無かったこと、自分には家族と呼べる人がもう誰もいないこと、就職内定先が倒産したことを伝えた。
浩次さんの眉間の皺が深くなる。
どうして私は今、彼氏に冷たい視線を向けられているのだろう。
「ねえ、お腹空いたんだけどー」
奥の部屋のドアが開き、私と同い年くらいの女の人が現れた。
ふわりと巻かれたキャラメルブラウンの髪。
大きめのTシャツ一枚という無防備な格好にもかかわらず、しっかりと施された隙のないメイク。
私、この人のこと、知ってる。
浩次さんのスマホの待ち受け画面で笑ってた。
とてもきれいな人。
浩次さんのスマホの画面を自分から見たことはもちろんない。
恋愛において、彼氏の携帯を見てはいけないというルールくらい、みんなに比べて極端に恋愛経験が少ない私でも分かっている。
分かっていた……のに。
浩次さんはスマホの画面を隠そうともしないから、嫌でも画面が見えてしまうことがあって。
でも堂々としているから、何の疑いもなく妹さんだと思ってた。
妹さん……ですよね? ご兄妹の話は聞いたことないけれど。
「誰?」
「ああ、セールスみたい」
目の前で交わされたふたりの会話に出てきた、セールス、という言葉にうしろを振り返る。
私のうしろには、誰もいない。
「そういう事だから」
? どういう事だろう??
「俺には必要ないから。もう、帰って」
あ……
恋愛事に疎くてごめんなさい。
こんな感じの場面、漫画でよく見たことあったのに。
そういう事……ですね。
3月末、北側の玄関はとても冷えていた。
この3時間で、仕事と家族と彼氏を失うなんて。
『今日の占い第1位は、やぎ座のあなた!』
『人生をハッピーに変える出来事が!
チャンスを見逃さないで!』
朝、テレビから流れてきた占いの明るい声を、不意に思い出してしまった。
占いなんて、もう絶対に信じない――
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