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しおりを挟む『今日の占い第1位は、やぎ座のあなた!』
自分の星座を言われて、思わずテレビに目を向ける。
『人生をハッピーに変える出来事が!
チャンスを見逃さないで!』
そういえば占いって、朝のテレビでやってたっけ。
テレビは毎朝ついていたけれど、お父さんが亡くなってからのこの一週間は、何を観たのか聞いたのか、全く覚えていない。
なんだか、久しぶりにテレビの音をちゃんと聞いた気がする。
こうやって少しずつ、日常の生活に気持ちが戻っていくのかな。
お父さんが亡くなったのは、私の大学の卒業式の翌日だった。
出張先で、突然倒れたと聞いている。
卒業式に来てくれたお父さんは、いつもと変わらぬ様子で元気だったのに。
続いて表示された第2位は、お兄ちゃんのおひつじ座だった。
そうだ、お店に頼んでおいたお兄ちゃんの誕生日プレゼントを受け取りに行かないと。
それに、入社式用に仕立ててもらっていたスーツも。
ガチャリ、とドアが開き、リビングへ入ってきたのはスーツ姿のお兄ちゃんだった。
「あ、琴莉、おはよう」
朝一からお兄ちゃんは完璧なくらいカッコイイ。
私はまだパジャマだというのに。
スラリと背が高いうえに、程よく鍛えられた身体で着こなす上質な濃いグレーのスーツ。
顔立ちもキリリと秀麗で、芸能人とかが持っていそうなオーラまで纏っている。
これからドラマの撮影に行ってくるって言われたら信じてしまいそう。
対して今パジャマ姿の私は、身長155センチ体重55キロのちょいぽちゃ体型。
ゴーゴーって感じで覚えやすいからこう言っているけれど、もしかしたら身長は155センチよりも小さいかもしれないし、体重は55キロよりも多いかもしれない。
そのあたりは、ちょっとうやむやにしておきたい。
顔もいたってフツー。どうして兄妹でこうも違うのだろう。
きっとうちの両親は、お兄ちゃんに優秀な遺伝子をすべて使い切ってしまったに違いない。
「食欲ある? フルーツヨーグルトとサラダが冷蔵庫に、スープはテーブルの上の保温鍋にあるから用意しようか? 食べられそうならパンも焼くけど、どうかな?」
ソファに座る私の横に腰をおろすと、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
うわ、綺麗な顔。
目が合って、思わずドキッとした。
「だ、大丈夫。自分でするから」
この一週間、何もやる気が起きなくなってしまった私のために、忙しいにもかかわらずお兄ちゃんは毎日食事を用意してくれた。
冷蔵庫を見なくてもわかる。食欲の無くなってしまった(でもなぜか痩せない)私でも栄養を取れるようにヨーグルトに入っているフルーツは5種類以上で食べやすい大きさにカットしてあって、バナナは変色防止のためにちゃんとレモン汁もかけてある。
そしてスープには、ポタージュ状にした野菜がたくさん。
本当にお兄ちゃんは、優しい。
って、いけないっ、今日は私が優しくしないと。
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
「憶えててくれたんだ、ありがとう、嬉しいよ」
ふわっと微笑むお兄ちゃんは、普段の凛々しい表情からは想像できないくらい可愛い。
「今日、ちょっと出かけてくるね」
私の言葉に一瞬目を見開いたお兄ちゃんだったけど、すぐにまた嬉しそうな笑顔になって私の頭をポンポンとした。
「よかった、父さんが亡くなってから琴莉の元気がなくて心配してたんだ。でもまだ無理しないように。なるべく早く帰っておいで」
「うん、3時くらいには帰ると思う。あれ? でもお兄ちゃん、今日土曜日なのに仕事行くの?」
「ああ、葬儀や相続の手続きで少し休んでいたからね。そうそう、午後は顧問弁護士の成瀬さんが家に来るんだけど」
チラリ、とお兄ちゃんが私の様子を窺うような視線を送る。
「琴莉が帰ったら、一緒に話を聞いてもらってもいいかな? それとも後日の方がいい?」
弁護士さん、ということは相続の話かな。
突然のお父さんの死がショックで抜け殻状態だった私は相続関係を全部お兄ちゃんに任せてしまっていた。
亡くなったお父さんは日本有数の企業である佐藤グループの社長だったから、相続の手続きもきっと大変だったと思う。
どのくらい凄い企業かと言うと、日本人なら誰でも知っている某有名テーマパークのすぐそばには、世界中どこでも佐藤グループの所有するホテルがあるとか、ラスベガスにあるカジノとショーで有名なホテルを経営しているとか、新婚旅行で大人気の水上コテージのあるリゾートをモルディブに所有している、みたいな感じ。
他にも様々な事業を展開しているみたいだけど、難しい事は私にはわからない。
お兄ちゃんも弁護士さんも忙しいだろうし、日を改めるなんて申し訳ない。午後3時に私も同席して話を聞くことにした。
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