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41 女王陛下の処断
しおりを挟む「ほ、ほらね!」
ロゼルトたちが出ていくと、すっかり忘れられていたカーラが再び勢いづいた。
「暗いところで二人きりになろうとするなんて、やっぱりいかがわしい関係――」
「もうおやめなさい、カーラ・スィ・フィチーレ」
冷静な女王の声が遮る。
「あの子たちは、こんなにたくさんの人たちの目の届く場所にいるのよ?」
庭園側に設けられたいくつもの大きな窓のほうに顔を向ければ、星灯りと篝火に照らされながら噴水のあたりで立ち止まっているふたりの姿を、誰でも遠巻きに眺めることができた。
悔しそうに唇を噛んだカーラに、フォルタは粛々と告げる。
「それよりも、あなたが大勢の前でいろいろな人を侮辱したことは看過できません」
「で、でもっ……」
「じょ、女王陛下っ」
うろたえながらバレンテ伯爵が愛娘の前に歩み出た。
「成人したばかりの不出来な娘がしでかしたこと。徹底的に再教育を施しますので、なにとぞ寛大なお計らいを……!」
「お父さまぁ!? いつもわたくしのことを『どこに出しても恥ずかしくない娘』だって」
「お、お前は黙っていなさい」
「あれは嘘だったの?」
「い、いいから口を閉じなさいっ」
「どうしてよ!?」
言い争う父娘を呆れ顔で見ながら、女王は再び口を開いた。
「バレンテ伯爵、本当は明日にでもあなたを呼び出して話をしようと思っていたのだけど……」
訝しそうに顔を上げた伯爵に、フォルタは静かに訊ねる。
「あなたは今、二つの領地を持っているわね?」
「は、はい。先祖が住んでいた小さな片田舎のイコローと、亡父が手柄を立てて前の女王陛下から伯爵位と共に賜った広大な豊穣の地ランデでございます」
「その豊穣の地ランデに、領主であるあなたは何年訪れていないのかしら」
「えっ」
「飢饉が続いて水害もあったのに、年々税が重くなって領民が苦しんでいるという報告を受けたわ」
バレンテ伯爵は顔色を変えた。
「そ、それは……」
「いい加減な代理人に任せきって十年以上も顔を見せることすらなく、税ばかり上げるように指示していたとのこと。何も手を打たない領主のせいで、豊穣の地はすっかり枯れ果てた荒れ地になっているそうね」
「わわ……私の不徳の致すところで」
「ランデは召し上げて、ひとまず王室直轄領とします」
「そ、そんな……!」
納得がいかない様子で揃って声を上げた父娘に、フォルタは厳しい視線を向ける。
「バレンテ伯爵、あなたには小さなイコローすら手に余るかも知れないけど、爵位まで剥奪されたくないのなら、心を入れ替えてあの地に住んで、領民に尽くしながら次女の再教育に励むことね」
「イヤァッ」
「ご無体な! あの辺鄙な村には、私たちが暮らせるような立派な家屋敷などないのですよ!?」
女王の目つきは更に険しくなった。
「今日も隣国まで宝飾品の買い物に出かけている夫人をはじめ三人の浪費で借金がかさみ、王都の邸は抵当に入っているらしいわね。売り払って返済すれば、田舎なら差額で小さな一軒家くらいは持てるんじゃないかしら」
酌量の余地がないことを悟った伯爵はがっくりと肩を落としたが、事の深刻さを理解できていないカーラは諦めずに猛然と抗議する。
「どういうことですのっ!? 都会派のわたくしにド田舎に住めと!?」
「カ、カーラ、おとなしくしなさい」
「嫌よおっ! こんな屈辱はないわ!」
「カーラ・スィ・フィチーレ、頭を冷やしなさい」
わめき続けるカーラは衛士たちに腕を掴まれて会場からひきずり出され、バレンテ伯爵も半ば呆然としながらその後ろを追いかけていった。
「――さて」
すっきりしたように女王は言う。
「あの子たちはどうなったかしら?」
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