29 / 56
29 デイラの結婚相手は幸せになれない 後
しおりを挟むゲーニアは、甥の両親である兄夫婦に訊ねた。
「よっぽど魅力的な女性だったの? はっとするような美人で、驚異的に若々しくて、どんなことでも優しく受け止めてくれそうな人だったのかしら?」
夫婦はちらっと視線を交わすと、気まずそうに言葉を濁す。
「そ……そういう感じではなかったかな」
「え……ええ、そう……ですね……」
「――ここには身内しかいないんだから、はっきり言ってしまっていいんですよ」
エートラムが彼女を連れてきたときも男爵邸にいたというリミーナ大叔母は、その言葉通りにはっきりと言い放つ。
「地味で、頭が硬そうで、何なら実際の年齢よりもさらに老けて見えるような女性でしたよ。顔のつくりはともかく、表情に乏しく、愛嬌や愛想のかけらもなくてね」
「ええっ、なにそれ!」
伯母たちは眉根を寄せながらも、どこか愉快そうに声を弾ませる。
「人は自分にないものに惹かれるとは聞くけど、あまりに隔たりがありすぎるわ!」
「もし、あの陽気で人懐っこいエートと結婚してたら、不釣り合いな夫婦として社交界で笑い者になるところだったわね!」
男爵家の危機を回避できて良かったとはしゃいでいる伯母たちを横目で見ながら、リミーナ大叔母は棘のある口調で言った。
「この家には、女性側がかなり年上でうまくいかなかったという例は過去にもありましたしね」
「リミーナ」
たしなめるように男爵が名前を呼んだが、伯母たちはお構いなしに話に飛びつく。
「レイーサ叔母さまのことね!」
「人嫌いで森にこもりきりのあの叔母さまが、ずいぶん昔に年下の貴族の跡取りと恋に落ちたことがあったなんてねえ」
「その恋に破れたから人嫌いになったのかしら?」
リミーナ大叔母は首を軽く横に振った。
「レイーサはもともと変わり者でしたよ。社交には全く興味を示さず、薬学ばかりに没頭してね。さすがに恋人と別れた後はしばらくふさぎ込んでいたようだけど、まあ、あの愛想のなさでは伯爵夫人なんて務まらなかったでしょうね」
クゥイーナ伯母がしみじみと呟く。
「うちの娘たちにもつねづね言って聞かせてるんだけど、男性から長く愛されるためには愛想や愛嬌ってすごく大事よねえ」
ゲーニア伯母も「本当に!」と同調した。
「レイーサ叔母さまもエートラムのお相手も、もっと表情豊かで可愛げがあったら、男性の心を長くつなぎとめておけたかも知れないものね」
ふたりの意見に、リミーナ大叔母も深く頷く。
「無表情で無愛想な妻は、夫を幸せにすることなんてできませんよ。そんな女性と結婚した男性は、家庭生活でも社交の場でも不幸になるばかりです」
そこで何か思い当たったかのように、大叔母はデイラの父を見た。
「愛想といえば、グラース、あなたの娘の行く末も心配ですよ」
「は……」
「ああ、デイラね」
伯母たちは揃って苦笑いを浮かべる。
「顔立ちはきれいに整ってるのに、どうしてあんなに愛想がないのかしら」
「もったいないわよねえ」
扉の裏で、兄が面白そうに「言われてるぞ」とデイラに囁く。
「妻も私も、折に触れて『笑顔は大切だよ』と声を掛けてはいるんですが……」
面目なさそうに父が言っているのを聴きながら、デイラは悲しい気持ちになった。
いとこたちや兄のように感情の起伏は激しくないが、自分にもちゃんと喜怒哀楽はある。それを大げさに表現できないだけだ。
特にここにいる親戚たちと接するときは、どこか品定めでもされているような視線を感じ、よりいっそうぎこちなくなってしまう。
「姿かたちが美しいだけじゃ駄目よ。あのままじゃ縁談には苦労するわ」
「最初は関心を持たれたとしても、すぐに飽きられてしまうわよね」
「騎士になりたいなんて言ってるようだけど、とんでもないことですよ。ますます縁遠くなってしまうわ」
心の中できらきらと輝いている目標まできっぱりと否定され、デイラの胸はさらに痛んだ。
「社交の場で知り合った男性と徐々に愛を育んでいくのは難しいだろうから、男爵家と縁続きになれるならと割り切ってくれる身元のしっかりしたお相手と、早々に結婚させたほうがいいわよ」
「そうそう。すっかり 嫁き遅れてから年下の男性にうつつを抜かしたあげく、飽きて捨てられでもしたら目も当てられないですものね」
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
アラフォーだから君とはムリ
天野アンジェラ
恋愛
38歳、既に恋愛に対して冷静になってしまっている優子。
18の出会いから優子を諦めきれないままの26歳、亮弥。
熱量の差を埋められない二人がたどり着く結末とは…?
***
優子と亮弥の交互視点で話が進みます。視点の切り替わりは読めばわかるようになっています。
1~3巻を1本にまとめて掲載、全部で34万字くらいあります。
2018年の小説なので、序盤の「8年前」は2010年くらいの時代感でお読みいただければ幸いです。
3巻の表紙に変えました。
2月22日完結しました。最後までおつき合いありがとうございました。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる