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5 くちづけを思い出に
しおりを挟む「ん……っ」
初めてのくちづけは、フルーラが思い描いていたものとは少し違っていた。
もっと深くて、ずっと熱くて、はるかに親密だった。
最初は甘く重ねられているだけだったリシャードの唇は、すぐにフルーラのそれを柔らかく食み始めた。
その動きに翻弄されるように少し開いたフルーラの唇の隙間から舌が入り込み、誘いかけるように優しく擽る。
「……っふ……っ」
驚きでこわばった身体の力をフルーラが緩め、恥ずかしそうに応えるようになるまで、リシャードは解放してくれなかった。
ようやく唇を離したリシャードは、フルーラの髪についた小さな花びらを摘まむと、感心したようにあたりを見回した。
「……すごいな」
いつの間にか二人が腰掛けている周りには、花籠を倒しでもしたかのように様々な色や形をした花が散らばっていた。
「ご、ごめんなさい」
「どうして?」
「私ばっかり、こんなにドキドキして……」
フルーラは滲んだ目許を指先で拭う。
胸の中では、喜びと哀しみが複雑に入り交じっていた。
リシャードのところにも、かなりの数の縁談が持ち込まれていることをフルーラは知っている。
おしゃべりな女官たちが『お父上の公爵様は慎重に構えていらっしゃるそうだけど、売り込んでくる側のご令嬢たちはそれはもう、どなたも物凄く前のめりなんですって!』などと噂しているのを聞いてしまった。
初めて剣の模擬試合に出場したころから現在に至るまで、武術にも学業にも優れ、端正な容姿を持つこの公爵令息は、同世代の女性たちから常に熱い眼差しを送られている。
その中の誰かと共にリシャードは未来を歩んでいくことになるのだろう。
今この時どれだけそばにいたとしても、自分はリシャードの人生の部外者で、幼なじみを笠に着た邪魔者なのだと、改めてフルーラは痛いほど感じた。
「――リシャード」
つとめて冷静な声を出す。顔を見たら泣き出してしまいそうだと、フルーラは床に落ちた花々の方に視線を下げた。
「こんなにたくさんの幸せなときめきをありがとう。私、わがままだったわね。あなたの気持ちを全く考えないで、一方的に自分の想いばかりを押し付けて……」
大好きな人と唇を重ねた記憶を宝物のように胸にしまい、できるだけ早くここを立ち去るべきなのだと、フルーラは自分に言い聞かせる。
「もう、これで十分――」
「ルラ」
リシャードは素早くフルーラの手を取ると、自分の胸に押し当てた。
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