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☆ショートストーリー☆

ダンステンは見た

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 エド、朝から帳簿と睨めっこか。

 ああ。昨夜遅くに帰ってきたんだ。
 想像以上にいいところだったぞ。おまえの奥方が言ってた通り、あれは〝買い〟だな。もう手付てつけは払ってきた。

 フィアーナの商才はさすがだよ。
 少し古びてた部分もあったが、何か所か修繕して庭にも手を入れたら、あの地域ではかなり人気の宿になるぞ。

 肝心の温泉施設か? 湯量や泉質も含めて文句なしだった。
 大浴場の大きさは周辺でも随一とのことで、古代の浴場を基にした意匠が実に見事だったし、一棟ごとに独立した客室にも、それぞれ専用の立派な風呂が付いてたよ。

 中でも、敷地の奥のほうにポツンと建つ客室と短い渡り廊下でつながった浴場は、ずいぶん大きくて……ああ、悪い悪い、つい思い出しちまってな。え? やらしい顔でニヤついてた?
 
 いや、違う、俺はもうそんなことはしてないぞ。未だにご婦人の方から言い寄られることはあるけど、全部きれいに断ってる。

 じゃあなぜニヤニヤしてたのかって? ……聞きたいか?

   ◇  ◇  ◇

 俺が本気で買い付けに来てるってのが判ったんだろうな。宿の主人はひと通り案内を終えると、「存分にご覧ください」と言い残して、俺に鍵束を預けて管理棟に戻っていったんだ。

 そこで、俺は裏方が作業するような倉庫や通路を念入りに見て回った。
 どこもかしこもきちんと整頓されていることに感心して、従業員もそのまま雇い受けようなんて考えながら、俺は例の奥まった客室専用の浴場のところに辿り着いたんだ。

 裏の扉を開けてみると、補充用の石鹸や身体を拭く布なんかが収められた棚があって、奥には小さな階段が見えた。

 上ってみるとそこは天井の低い部屋で、掃除道具がいくつか置かれてただけだったんだが、なんだか少し蒸しててな。
 向かい合った壁にそれぞれ小さな窓扉がついてたから、俺は両方とも開けて風を通そうとした。

 お、勘がいいな。はは、そうだよ。

 片方の小窓は外とつながってたんだが、もう片方を開くと浴場の中を見下ろすことができたってわけだ。それを期待して換気しようとしたんじゃないぞ?

 そこには、天窓から注ぐ光を浴びて……いや、そんなにたくさんいたわけじゃない。若い娘さんは一人だった。かなりの美人で、身体つきも素晴らしかったけどな。

 一緒に男もいた。若い男だ。ああ、恋人なのか夫婦なのか分からないが、若い男女が昼間っから仲良く風呂を使ってたんだ。

 まあ、後から考えたら延々と覗いて悪かったなとは思うけど、そのときは湖畔で二羽の美しい白鳥が睦み合っているところに遭遇して、はからずも釘付けになっちまったかのような……え、言い訳は要らない? そうだなあ、どう弁解してもニヤけながら眺めてたことには違いないからな。

 湯の中でイチャつかれててもよく見えなかっただろうって? ふっ、エドルド、君は甘いな。いきなり俺の目に飛び込んできたのは、かなり刺激的な光景だったんだからな。
 その美しい黒髪の娘さんは、膝を曲げた両脚を大きく開いて、浴槽の縁に座ってたんだ。

 全部丸見えだった――と言いたいところだけど、湯の中にいた男が娘さんの腿の間に顔を埋めてたから全部ってわけじゃなかった。けど、男が舌を使う淫らな水音はよく聴こえてきたよ。

 全身を薄桃色にしてつま先を震わせてる娘さんの喘ぎ声がまた艶っぽかったなあ。
 身体を反らし気味にして、きれいなおっぱいがふるふるしてて。乳首はすでにしつこく弄られた後らしく、赤く染まってぴんと勃ってた。

 娘さんは、切なそうに何度も男の名前を繰り返してた。「フィン」って。――あ、一気に興ざめした顔になったな。

 まあ、俺も一瞬しらけたけど、よくある名前だから仕方ない。娘さんが色っぽい声で呼んでると、全然気にならなかったぞ。
 その〝フィン〟くんは、あいつみたいなちびっこじゃなかったしな。でも、髪の色だけは同じだったっけ。――ああ、そうだな、男の方の細かい情報なんて要らないよな。

 それにしても、一組の客に貸し切るには贅沢なほど広い風呂場だったよ。
 大浴場を模した古代風の装飾が施してあって、床から掘り下げた四角い浴槽も、大人が余裕で十人は浸かれそうな大きさだった。

 娘さんがつま先をきゅっと丸めて白い太腿を震わせると、男は立ち上がって、潤みきったところにデカいのを埋めていった。
 膝裏を抱えられて揺さぶられてる娘さんに見とれてたら、男は突然、彼女を湯の中に引き込んだんだ。

 慌てて娘さんが首にしがみつくと、男はなんと、彼女の腰を抱いて内側の段差を上り、モノを突き刺したまま浴槽を出た。甘い悲鳴が浴場じゅうに響き渡ったよ。

 あの色男、わざと振動を与えるようにして悠々と歩いてたな。
 かなり鍛えてるのか引き締まったいい身体をしてて、娘さんの重みなんてほとんど気にならない様子で、隅に置かれてた休憩用の寝台までゆっくりと運んで行った。

 男は一旦ブツを引き抜いて娘さんを仰向けに寝かせると、紅く染まった彼女の目許にくちづけて、「リーネ、ったのか? 涙出てる」って言ったんだ。
 そう、娘さん――リーネちゃんは、イくと泣いちゃうんだろうな。可愛いよなあ。

 そして、男は張りつめたソレをリーネちゃんのにすりすりしながら、「さっきの脱衣所では余裕がなさすぎたから、今度はゆっくりしよう」って囁いて……。
 そうなんだよ、すでに一戦交えた後だったらしい。若いってすごいよなあ。二回目でそんな勢いあるのかってくらい元気だったぞ。

 幸いにというか何というか、その寝台は浴槽よりもさらに小窓からよく見える絶妙な位置にあった。

 すぐには挿れないで、男はしばらくリーネちゃんのいいところにこすりつけて刺激してた。そうしたら、だんだんリーネちゃんの腰がもどかしそうに動き出して……。
 男が「リーネ、どうして欲しい?」なんて訊ねると、はっきり言えないらしいリーネちゃんは真っ赤になって、「意地悪……」って睨んで可愛かったな。

 男は浅く挿れたり出したりを根気強く繰り返して、ついにリーネちゃんから「奥まで……」って言わせると、一気に深く突き挿れて、腰をぐるーっと回したんだ。
 大きな嬌声を上げたリーネちゃんの目尻を男が拭ってあげてたから、挿れただけでまたイッたんだろうな。

 男も我慢の限界だったのか、激しく腰を振り始めた。湿った音とリーネちゃんが喘ぐ声が交ざって……あのふたり、離れた場所にある部屋を取って正解だったな。

 ――これで終わりだと思うだろ?
 仲良く一緒にイッた後、男がぐったりしたリーネちゃんの乱れた髪を整えたり、果物を浮かべた水を飲ませたりしてあげてたから、俺だってそう思ったよ。

 ところが、ほどなく男はいやらしい手つきでリーネちゃんのおっぱいを触り出して。「待って……」なんて掠れた声で言ってたリーネちゃんも、丁寧に愛撫されてるうちにだんだん蕩けた感じになってきて……三回戦が始まったんだ。

 リーネちゃん、尻がまたいい形だったな。きゅっと上がってて、白くて丸くて。それを寝台の上で突き出させて今度は後ろから。あの男、幸せ者だよなあ。
 前髪が濡れて目許にかかってたせいで顔はしっかり見えなかったけど、男の方も結構かっこいい感じだったな。まあ、全盛期の俺ほどじゃないだろうけど。え? いちいち張り合うなって?

 愛する女性ひとにそんなあられもない体勢を取らせておきながら、男はまた焦らしにかかった。
 挿れずに押し付けたり離したりを繰り返すから、リーネちゃんは追いかけるように腰を揺らして、切なそうに「どうして……」って。

「おまえが欲しがってるのを見ると嬉しくなるから」なんて言い草にリーネちゃんが抗議しかけたところで、男は不意打ちするようにズンと腰を突き出した。
 満たされたってはっきり分かる色っぽい吐息を漏らしたのが恥ずかしかったのか、穿たれてる間、リーネちゃんは必死で声を押し殺そうとしてた。でも、やっぱりしまいには気持ち良さそうに啼いちゃってたな。

 ――さすがにそれで終了だろうって? はは、身体を流した後にまた男が仕掛けて、四回戦に入ったときには、俺もつい「すげえな……」って呟きそうになったよ。

 その前に、ちょっとした口論みたいなものがあってな。いや、回数が原因じゃない。
 リーネちゃんが、自分ばかりいろいろとしてもらうのは悪いって言い出したんだ。

 恥じらいながら「口でしたい」って申し出たリーネちゃんに、何の意地を張ってるんだか、男は「おまえはそんなことしなくていい」なんて言い張って。言葉とは裏腹に、リーネちゃんに主張されるたびに下半身はぐんぐん元気になってきてたけどな。

 それを指摘するような視線をリーネちゃんから送られた男は、ばつが悪そうに妥協案を出した。お互い同時にやり合うならいいって。

 頭の位置を互い違いにして上になったリーネちゃんは、顔を火照らせながら、舌でなぞったり口に入りきらないモノをけなげに咥えようとしてた。感じるたびに動作が止まっちまってたけどな。男の方もリーネちゃんのを広げて弄ったり舌先で舐めたりしながらも、時々イきそうになるのを堪えてる様子だった。

 ふたりとも負けず嫌いなのか、どこか勝負めいた雰囲気になってきたのが可笑しかったな。

 リーネちゃんが少し優勢になったかと思ったら、男は一気に攻勢に出た。ぐっと抱き込むように彼女の尻を引き寄せて、割れ目に沿ってねっちりと舐め続けたら、リーネちゃんはもう反撃できなくなった。

 最後は、男から求められてリーネちゃんが上に跨って挿れたんだ。
 動くように促されたリーネちゃんが、恥ずかしそうに好きなところに当てにいってる姿がまた艶っぽくて……。

 男の方も煽られたようで、下からぐいぐい突き上げ始めた。それに応えるように、リーネちゃんもどんどん大胆な腰づかいになっていって。
 すごかったぞ。男が切なそうに「持っていかれそうだ……」って言うくらいだったんだから。

 考えてみたら、リーネちゃんの方にも相当体力があったよなあ。

 名前を呼び合ってイッた後、リーネちゃんが前に倒れ込むと、男は長い黒髪ごと抱きしめて優しく口づけを繰り返してた。好きでたまんないっていうのがこっちにまで伝わってきたよ。頬をすり寄せるリーネちゃんからも愛しさが溢れてて、微笑ましかった。

 やっぱり、愛する者同士が抱き合う姿ってのは美しいよな。結局、終幕まで桟敷席で堪能しちまったよ。
 鍵を返しにいったとき、宿の主人から「ずいぶん丁寧に見て回られたようですね」なんて言われたときはドキッとしたけどな。

 あの栗色の髪の男、まずは女の子をいっぱい気持ち良くさせようとするところとか、素直に褒め言葉を口にするところなんかが、俺と同じ流派って感じだったな。

 え、知らないのか? 〝ダンステン流〟を。
 まあ、弟子は我らが末っ子ひとりだけどな。あいつが十五おとなになったときに丁寧に講義してやったけど、ちゃんと活かせてるのかねえ?

 それにしても若いっていいよなあ。こっちは二人目が生まれてから、めっきりご無沙汰だよ……。エドも羨ましいだろ? フィアーナはいま大事な時期だもんな。

 え、温泉街の娼館に? 寄るわけないだろ。さっきも言ったけど、俺は結婚してからはミリーひとすじなんだぞ。お前だってそうだろ?

   ◇  ◇  ◇

 突然、部屋の扉を叩く音がした。

「あなたー。ダンステンお義兄にい様ー」

 開いた出入り口から、お腹の大きな女性が姿を見せる。
「フィンちゃんたちが到着しましたよ」

 乳児を抱いた小柄な女性も、横から笑顔を覗かせた。
「お相手のかた、とっても素敵よ!」

 きりがついたら応接室に来るように言い残して妻たちが去ると、弟は兄が不思議そうな顔をしていることに気がついた。

「あれ? ダン兄さん、もしかして知らないの?」
「何をだ?」

「兄さんは出張が多いからなあ。儀典職の仕事で父上たちが忙しくて、新年にも集まれなかったし。去年の夏ごろにフィンが婚約したんだって。それで、姫の結婚式で王都に行った帰りに、お相手を連れて挨拶に寄ってくれるって知らせが来たんだ」

「フィンが……!?」
 兄は心底驚いたような声を上げる。
 
「バート兄さんによると、すぐにでも結婚したがってるらしい」
「ちょっと早くないか?」
「お相手が年上なんだよね。って言っても、二、三歳くらいだったと思うけど」
「いつの間にそんな……。あいつ、見合いとかしてたのか?」
「いや、元上官らしいよ」
「女騎士なのか!」

 目を丸くした兄に、弟は頷いた。

「恰好いい二つ名がついてるくらい、勇敢な騎士だそうだよ」
「へえ……」

 兄は少し考えを巡らせると、にやりと笑う。
「可愛い年下男好きの屈強な女丈夫に、がっちり捕まったってとこか」

 兄は立ち上がり、弟に向かって言った。

「まあ、お互いが幸せならめでたいことには違いない。新しい義妹いもうとに会いに行こうぜ」

   ◇  ◇  ◇

 そして――。
 商業都市ブロールにある『ダン・エド商会』の応接室で。

 モードラッド伯爵の次男ダンステン・マナカールと、兄の怪しすぎる挙動を目にしてピンときた三男エドルド・マナカール・オイアーは、しばらく会わない間に立派に成長していた栗色の髪の末弟と、彼から優しく「リーネ」と呼ばれる黒髪の美しい婚約者を前に、落ち着きのないふるまいばかりして家族から大いに不審がられたのだった。
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