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☆ショートストーリー☆
武術大会の夜 2
しおりを挟む「……な、なんで……っ」
膨らんだ上掛けから混乱したような声が漏らされると、フィンはおろおろと訪ねてきた理由を伝えた。
「え、宴会を欠席するなんて、よっぽど調子がよくねえのかと思って……」
アイリーネは何も応えず、しばらく沈黙が続いた。
「――リーネ」
フィンが寝台の方へと歩いてきているのを、アイリーネは察知した。
「あ……合わせる顔がないから……出てって」
頼みは聞き流され、フィンは寝台に浅く腰を下ろす。
「俺が――」
「約束したでしょ? お互いの宿舎の部屋には行かないって」
「さすがに体調が悪いときは別だろ?」
アイリーネはぼそっと呟いた。
「体調、悪くないし……」
フィンがほんの少しだけ上掛けをめくると、アイリーネはうつぶせになって顔を隠していたが、黒髪の隙間からのぞく耳は真っ赤に染まっていた。
「リーネ、扉を叩いて返事もないのに勝手に開けて、俺が悪かった」
枕に顔を埋めたまま、アイリーネは少し責めるような口調で言った。
「……きっかけは……フィンだから」
「……は?」
「剣術の部の決勝戦の審判、私がやったでしょ」
「あ、ああ……」
今日の武術大会で、アイリーネ、フィン、ヴリアンの三人の小隊長たちはそれぞれ異なる部門に出場して見事に優勝を収め、自分が出ていない部門では審判も務めた。
「公正を期して、試合中は見惚れないように気を張ってたんだけど、勝敗が決まって腕を持ち上げたときにフィンの匂いがして……」
「あ……汗臭かっただろ」
「うん……。でも、フィンの匂いだから、私……」
アイリーネは口ごもったが、それによって煽られたのだということはフィンにも伝わった。
「は、初めて自分で触ってみようとしたときに見られるなんて……最悪」
恥ずかしそうな呟きに、フィンの耳たぶも赤くなる。
「……なあ」
寝台がぎしっと大きな音を立てて軋む。
「やっぱり、駐屯地にいる間は全く何もしないってのは、無理があるんじゃねえか?」
「でも――」
フィンの方に少し首を回したアイリーネは唖然とする。
いつの間にかフィンは、添い寝でもするかのようにアイリーネの方を向いて寝台に横たわっていた。
「ちょ、ちょっと、どうして……」
「リーネ」
至近距離から水色の瞳に見つめられて、アイリーネの心臓が跳ねる。
部屋に入ってきたときからフィンは上着を羽織っておらず、どこも接触していないのに、生成りのシャツを通してほんのりとあたたかい体温が伝わってきた。
「エルトウィンに戻ってきてからおまえに触れたのは、今日の試合を除いたら、キールトさんを見送ったときくらいだぞ?」
それもほんの一瞬だったし、もう二月近くも前のことだ。
「俺は全然足んねーよ」
アイリーネは戸惑いながら視線を逸らす。
「で、でも、だめだよ……」
「『けじめがない』からか?」
「……うん」
「少し触れるくらいなら……」
「誰に見られてるか分かんないし」
「――見られてないなら?」
「えっ……」
「たとえば今なら、誰もいないよな?」
フィンの手が伸びてきて、アイリーネの頬に柔らかく触れる。
「だ、だめ……!」
アイリーネはぎゅっと目を閉じて拒絶した。
「なんで」
「もう宴会に戻って……」
「俺がいないのなんて、誰も気づいちゃいねえよ」
「お、お互いに自覚を持とうよ」
「なんの」
「責任ある立場にいることの……」
「責任は全うしてるぞ? 隊務は全力でやってるし、今日だって、おまえも俺もそれぞれの部門でしっかり優勝しただろ」
フィンの指先がアイリーネの顎をくすぐる。
「やめて……」
アイリーネは払うように首を振った。
「頑固」
フィンは苦笑いを浮かべ、アイリーネの顎から手を引いた。
「――それにしても、すっげえたどたどしかったな」
「え……」
「お前の指づかい。初めてって言うだけあるな。自分の身体なのに、どこをどうしたらいいのか知らないのか」
ますます赤くなったアイリーネは、うつぶせのまま片腕を伸ばしてフィンを強く押した。
「もう出てって……!」
「痛って」
フィンはアイリーネの手首を素早く掴むとぐいと引き上げて、上掛けの中でアイリーネの身体を自分の方に向かせた。
「――ここだろ?」
もう片方の手がするりとアイリーネの下腹部に伸び、薄い茂みをかき分ける。
「おまえが探してたの」
「やっ……!?」
「最初は、これくらいの力加減で」
アイリーネの腰がびくんと揺れる。
「だ、だめ……っ」
「ああ、ほとんど濡れてねえ」
していることとはそぐわないほど爽やかにフィンは笑った。
「上手くできないと、かえって不満が募るだろ」
アイリーネはフィンの腕を掴んで引きはがそうとする。
「や、やめてよっ……」
「どこがいいのか、憶えろよ」
「だめだって……」
「憶えて自分ですればいい。――さっきみたいに俺の名前を呼びながら」
聞かれていたのかと、アイリーネは全身を羞恥に染めた。
「ばか……っ」
巧みになぞられると、たちまち湿った音が立ち始める。
「や……あっ」
脚を閉じようとするとフィンの手を強く挟み込んでしまうし、開けばいいように弄られてしまう。うろたえて足掻くアイリーネにフィンは囁く。
「開いててくれた方がやりやすい」
「そ、そうじゃなくて……っあ、ん」
切なそうな声が漏れてしまい、アイリーネは急いで口に手をやった。
「宿舎には他に誰もいないから、声出しても平気だぞ」
「いっ、いなく……ても、こんな、ことしちゃ……」
「いいところを憶えるのを手伝ってるだけだから」
「そ……そんなのっ、だめ――」
「『だめ』ばっかだな」
ため息まじりにフィンは言うと、いきなり上掛けを勢いよくまくりあげ、さっと起き上がった。
部屋の灯りに白い裸身を晒したアイリーネを、フィンは手際よく仰向けにさせ、その脚の間に自分の身体を割り込ませる。
「――俺が触れるのがダメなら、見ててやるから自分で触ってみろよ」
アイリーネの両脚が左右にぐっと開かれる。
「っ……!?」
アイリーネが慌てて手で秘所を覆うと、両腕に押されて胸の膨らみが更に丸く盛り上がった。フィンの喉がこくりと鳴る。
「……その指を動かせばいい」
「で……できるわけ……ない……っ」
「――だったら、仕方ねーな」
その言葉を聞いて解放されるのかと少し力の緩んだアイリーネの手をフィンは軽く除けて、そこに顔を近づけた。
「やあっ……!?」
「指よりも好きだろ?」
蜜溜まりに舌先が触れ、ぴちゃ、と音が立つ。
「だッ、だめ、だめだって、フィ……」
頭を押しやろうとしたアイリーネの手に、フィンの栗色の髪の毛が触れる。その途端、アイリーネの背中は甘く痺れた。
ずっと触れたかった人が、こんなにもそばにいる。
「……ほ……ほんと、だめ、だから……あ……っ……やめ……」
姿をのぞかせた花芽をフィンは舐め上げながら、蜜をたっぷりとこぼす裂け目には指をしのばせた。
「あッ」
「歓迎してくれてるし」
フィンの長い指を、奥へ奥へと誘うようにアイリーネの隘路がうねる。
「しっ、してな……、やあっ、ゆび、曲げないで……っ」
最後に抱き合ってからずいぶん経っているが、フィンはアイリーネが悦ぶ場所を少しも忘れていなかった。
優しく押して揺らされると、淫らな水音がいっそう大きくなる。
「あ、んぁ、や、あっ」
「可愛い声、もっと聴かせてくれ」
ほとんど口を離さずにそう言い、フィンはまた舌をこすりつける。
「あッ、ん、ああ……っ」
アイリーネはもう「だめ」と言わなくなった。
「はっ、あっぁ、あ……んんっ、ん」
休みなく愉悦を与えられ、無意識のうちにアイリーネの腰はフィンの動きに合わせて動く。
またたく間に積み上がっていく快感を恐れを感じてアイリーネは身を捩ろうとしたが、フィンはそれを許さず、太腿をぐっと押さえてひくつく花弁を攻め立てた。
「ああ、や、やぁあっ……フィン……ッ」
頭の中で白が弾ける。アイリーネは打ち震えながら全身を突っ張らせた。
すとんと力が抜けたアイリーネの脚の間から身体を起こしたフィンは、はっとしたように目を見開く。
息を乱して胸を上下させているアイリーネの眦は、ぐっしょりと濡れていた。
フィンの心配そうな表情に気づいたアイリーネは、指先で涙を拭う。
「……違うの……これは、痛かったとかじゃなくて……。知ってるでしょ」
「あ……」
達したときにアイリーネが涙をこぼしてしまうことがあるというのは、二人だけが知る秘めごとだった。
「だ、だめなのに……」
葛藤するように、アイリーネは唇を噛む。
「私、フィンに触れられると、すぐ……」
次の瞬間、アイリーネはフィンに半身を起こされ、力強く抱きすくめられていた。
「フィ……」
アイリーネの素肌にフィンの熱がしみ込んでくる。胸の奥を甘くくすぐるあの匂いもする。
もう何も考えずにしがみついてしまいたいとアイリーネが強く願ったとき、フィンは思い切ったように身体を離した。
「――おまえだって耐えてるのに、悪かった」
うなだれたフィンの栗色の頭を、アイリーネは少し驚いたように見つめる。
「今日は祭りみたいなもんだし、最後までしなかったから許してくれ」
フィンはアイリーネの肩から落ちていた大きな布を再び着せ掛け、素早く寝台から降りた。
「……けど、駐屯地を出たら我慢しねーからな。来年、キールトさんたちの結婚式で王都に行くときは長旅になるけど、覚悟しとけよ」
アイリーネはふと何かを思い出したような顔になる。
「あ……でも、キールトは『式には隊長やヴリアンも招ぶつもりだ』って……」
フィンは「また二人きりじゃねえのかよ」と不満げに口を尖らせる。
「行きはあの人たちと一緒だとしても、帰りは何としても別行動してやる……!」
フィンはしばらく熱心に考え込むと、妙案が浮かんだのか「そうだ」と明るい声を出した。
「前におまえ、俺の兄弟に婚約の挨拶がしたいって言ってただろ? 王都から戻る前にブロールに行くことにしようぜ。途中で湯治宿にも泊まって」
フィンの二番目と三番目の兄が暮らしているという西南にある商業都市は、北端のエルトウィンから向かうとなるとかなりの日数がかかる。やや南寄りにある王都に行った機会に寄るというのは、確かに理に適っている。
「そうできればいいけど、二人一緒にそんなに長い休暇って取れるかな」
「そのころには新しい小隊長も加わってるだろうし、絶対に休暇申請を通してみせる!」
フィンがあまりにも力強く言うので、なんだか実現できるような気がしてきて、アイリーネはふふっと笑みをこぼした。
その笑顔をフィンは眩しそうに眺める。
「まあ、それまでにも何度かおまえと休みの日が合うといいんだけどな」
「そうだね。早く――」
頷きながら何気なく視線を落としたアイリーネは、ぎょっとしたように言葉を途切れさせた。
「あ……」
気まずそうに目を逸らしたアイリーネが何に驚いたのか、フィンもすぐに気がつく。
上着を羽織っていないせいで、フィンの脚衣の前立てのあたりが、今にもはち切れそうなほど隆起しているのがくっきりと見えてしまっていた。
「だっ、大丈夫だ」
フィンは慌てて身体の向きを変え、動揺したためか言わなくてもいいようなことを口走りながら、出入り口の方へとぎこちなく歩いていく。
「おまえと違って、俺は一人でするのには慣れてる」
扉の前まで行くと、フィンはアイリーネの方を振り返り、なぜかきっぱりと告げた。
「いつもは想ってるだけだけど、今夜は俺もおまえの名前を呼ぶぞ」
目をぱちくりさせたアイリーネに、耳を赤くしたフィンは「おやすみ」と言って部屋を出ていった。
アイリーネは、倒れ込むようにして寝台に横たわった。
夜風に乗って、遠いところから『風は冷たいけれど』の大合唱が響いてくる。
風は冷たいけれど
風は冷たいけれど
剣は熱く 心も熱い
この歌を聴くたびに今夜のことを思い出してしまいそうだと、アイリーネは上気した顔を両手で覆った。
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