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13 長くて明るい夜 中
しおりを挟む瞳を翳らせたフィンは、アイリーネの腕を寝台にぐっと押さえ込むと、胸の頂に唇を寄せた。
「な……っ」
薄く色づいている部分ごと口に含み、強く吸い上げる。
「何っ……や……っ、やめて……っ」
拒否の言葉は無視され、音を立てて舐められる。あまりの急展開に、アイリーネは起きていることが現実なのかどうか分からなくなってきた。
左右の先端を代わる代わる舌で転がされ、吸われ、唇で扱かれる。素手での接近戦の訓練も充分受けてきたはずなのに、混乱したアイリーネはまるで何の心得もない者のように、ただ身をよじることしかできないでいた。
「ん、ん……いや……」
湿らされ敏感になった部分にフィンの息が掛かる。
「染まって膨らんで、もっとして欲しそうだけどな」
アイリーネの頭に血が上る。いつの間にかフィンの手はアイリーネの腕から離れ、胸の膨らみをすくうように揉み始めていたが、アイリーネは両腕が自由になっていることにすらなかなか気づけないでいた。
「どこもかしこも柔らかい。こんな身体で戦えるのか?」
「たっ、戦え……っる」
落ちてしまった筋肉がまだ戻り切ってないだけだとアイリーネは口を極めて主張したかったが、言葉がうまく出てこない。
「こんなすべすべした肌に、これ以上傷痕を作るのは辛いだろ」
アイリーネは首をふるふると横に振った。扇情的に見えることも知らずに。
案の定、それに誘われたかのように首筋や胸に無数のくちづけが落とされる。
「――腰だって」
フィンは曲線に沿ってするりと撫で下ろした。
「んっ」
「重い剣を提げるには細すぎる」
「ぜ、全然平っ、気――ぁ……っ」
指先が骨盤のあたりを滑ったとき、微かに甘くアイリーネの息が上がったのをフィンは聴き逃さなかった。
「……ここが好きなのか?」
腰骨の片方の尖りに唇を這わされ、もう片方は手で撫でられると、アイリーネは身体を震わせた。
「ちがっ……あっ、や、いやっ……や、め……」
「違わないだろ。どうされたい? キールト・ケリブレはどうやっておまえを悦がらせた?」
「キー……ルト……?」
自らがその名前を出しておきながら、フィンは理不尽なことに「奴を呼ぶな」と不愉快そうな声で言うと、アイリーネの白い腹部や腰にくちづけを繰り返し、甘やかな反応を示す場所を次々に見つけていった。
「しないで、それ……っ、しないで」
アイリーネは両腕が自由になっていたことにようやく気づき、フィンの栗色の髪の毛を掴む。
「痛って……。おとなしく気持ちよくなってろ」
「き……気持ちよくなんか……ない……っ」
精一杯逆らうと、フィンは身体を起こして、アイリーネの両膝の裏を持ち上げ、強い力で左右に大きく割り開いた。
「いや……!」
白い両脚の付け根の中心に、慎ましやかな桃色の花弁が蜜をたたえて現れる。
「見ないで!」
フィンの喉が鳴る。暴れようとするアイリーネの脚をしっかりと掴んだまま、フィンはじっと眺めた。
「気持ちよくなくてもこんなに濡れるのか?」
アイリーネの全身が羞恥に染まる。フィンに身体中をくちづけられている間、そこに熱が集まってきていたのには気づいていた。
「滴ってる」
脚が閉じられないように身体を割り入れたフィンが裂け目をなぞると、はっきりと湿った音が立った。
「触らないで……!」
叫ぶような懇願は当然のように黙殺され、蜜をまとわせた指で探られる。
「ここが……張りつめて」
フィンの指が小さな花芽に触れると、嬌声と共にアイリーネの身体がびくんと跳ねた。
「――好いのか?」
「そんなわけな……っ、あっ、や……あ」
「どんどん溢れてくるのに?」
証明するように泉に浅く指が入り、水音を鳴らされる。
言葉を発しようとすると艶を含んだ声になってしまうことに気がついて、アイリーネは唇を引き結んだ。
「……んっ……っ……ん……」
声を抑えていても快感から逃れられるわけでもなく、アイリーネはフィンの指に翻弄され、何度も何度も内腿を震わせた。
「――とろとろだ」
掠れた呟きが聴こえたかと思うと、フィンの手がアイリーネの身体から離れた。
脚の間から聴こえた衣擦れの音に視線を向けたアイリーネが目にしたのは、前をくつろげた脚衣からフィンの猛りきったものが勢いよく飛び出した瞬間だった。
重たげに張りつめたそれが、引き締まった腹部に着きそうなほどそそり立っていることに、アイリーネは目を瞠る。
見られていることに気がつくと、フィンは耳たぶを薄赤くしてアイリーネを睨んだ。
「なんだよ……」
あからさまな欲望を目の当たりにして、アイリーネは動転していた。
「わ、私には絶対に欲情しないって言ってたのに……」
不機嫌そうな顔をしたまま、フィンはアイリーネに覆いかぶさった。
「しないわけ……ねえだろ……っ」
熱い塊の先端が、潤みきった部分にぐっと押しつけられる。
「っ!」
アイリーネのつま先が敷布をかく。
「……なっ、に……、逃げてんだ……よ」
フィンが息を荒らげながら腰を押し進めようとするたびに、アイリーネの身体は枕元の飾り板の方へとずれていく。
「……おい……っ」
フィンの手が、アイリーネの頭の上を保護するように伸びる。
「頭……、危な――」
不意にふわりと感じた温かさにアイリーネの力が一瞬抜けたとき、熱い肉剣が濡れそぼった鞘にずるんと深く収まった。
「うッ」
「……く……」
フィンは唸るように息を吐き、固くまぶたを閉じたままのアイリーネの顔を見た。
苦しそうな表情を浮かべたアイリーネが、騎士隊で習得する苦痛をやり過ごす呼吸法を懸命に試みているらしいことに気づいたフィンは、訝しげに眉根を寄せる。
「……リーネ?」
フィンがアイリーネの身体に視線を走らせると、つながった部分に赤いものが滲んでいるのが映った。
「おまえ……!?」
純潔が散らされた徴だと気づいたフィンは、思わず大きな声を出す。
「なんでだよっ……!?」
「ど……怒鳴らないで」
アイリーネは睫毛を震わせて目を開ける。
「振動が響いて、痛い……」
潤んだ煙水晶の瞳を見た途端、フィンの顔は真っ赤になった。
「んん……っ、大きく……しないで」
さらに圧迫感を増したようなフィンの昂ぶりに、アイリーネは眉を顰める。
「じゃあ、煽んな……」
フィンは敷布に肘をついて目をつぶり、さっきのアイリーネのように痛み逃がしに似た呼吸を始めた。アイリーネの上に汗が降ってくる。
「フィンも……痛いの……?」
気遣わしげに声を掛けたアイリーネに、まぶたを閉じたままフィンは短く答えた。
「違う」
そうは言っても何かを必死に耐えているようだと、アイリーネがフィンの長い睫毛を見つめていると、形のいい唇が開いた。
「――どうして初めてなんだ……」
隊務に明け暮れ、男性隊員のように娼館に通うわけでもない自分に、いつそんな機会があるというのかとアイリーネが困惑していると、にわかにフィンが目を開けた。
「リーネ、動きたい……」
熱っぽく漏らされた要求の意味をアイリーネが理解する前に、フィンは腰を引いて屹立を抜きかけ、またアイリーネの中に深く戻ってきた。
「んっ」
「――痛いか?」
皴が寄ったアイリーネの眉間に、ちゅ、と唇が落とされたかと思うと、額や頬にも繰り返し柔らかい口づけが降ってくる。
深く唇を重ねられ、舌先に促されるように口を小さく開くと、フィンの舌が入ってきた。
「ん……ふぅっ……。ん」
最初の強引なくちづけとは違い、優しく口内をなぞられ、舌を撫でるように絡められ、それに集中している間に、ゆっくりと抽送が始まった。
「……きつ……」
唇を離したフィンは切なげに呟くと、穿つ速度を少しずつ速めながらアイリーネの胸の色づいた先端を指で転がした。
「あ……っ」
快い部分に触れられながら揺さぶられているうちに、少しずつ痛みが薄らいでいく。
開かれたばかりの隘路の強張りは徐々にほどけていき、フィンが押せば擁くように迎え容れ、引けば名残惜しそうに絡みつくようになっていった。
「……は、おまえ……、なんで……こんなに」
「――あ、あっ、……っあ」
淫らな水音がひっきりなしに聴こえてくる。苦しいほど大きなものが行き来することが悦びを呼ぶなど、アイリーネは想像したこともなかった。
「……ん、あ、っあ、はぁ、あ」
「あ……んまり可愛い声で急きたてるな……っ。もう少し……居たい」
「こ、こ……え……勝手に出……はっ……あ」
フィンの指が花芽に伸ばされる。潤沢に溢れた蜜をまとわせてくりくりと撫でられると、新たな快感が生まれ、鼻にかかった声が止まらなくなった。
「やあぁっ……。あっ、あ、ああ、はっ、ん」
なまめかしい反応に応えるように抽送を繰り返すフィンの背中に、アイリーネの白い腕が回される。
「こ……、これ以上可愛いことしたら――」
「フィン……フィンッ……」
「…………」
「何か来る……。来る。怖い」
動きを速めながらフィンが答える。
「大丈夫だ……っ。怖くない」
「あっ、あっ、はっ、ああぁ」
愉悦が全身に行き渡り、アイリーネの腕に力がこもる。
「んっ、あああぁっ…………!」
フィンにしがみついたままアイリーネは背を反らし、がくがくと震えた。
「リーネ……」
力が抜けたアイリーネの両腕がフィンの背中からするりと離れていく。
フィンは素早く身体を起こし、ひくつく秘裂から熱塊を引き抜くと、アイリーネのなめらかな腹部に熱い白濁を打ちつけた。
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