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1.この世界の真理

運命

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 両手を腰にあてたソフィアに、横から小さな体がぶつかった。


「ティム!?」

暗いけどあのシルエットは見覚えがある、孤児院のティムだ。教会を抜けてきてしまったのか、でもどうしてこんなところに。


「本当かどうか、証拠もないのにそんなこと言うな!」

 イヴ達の一部始終を見ていたのか、ソフィアに対して怒鳴るティム。

「何この、ガキンチョ」

「分かる訳ないよな。お前一度も教会に来たことないもんな」

「は?」

「俺はお前が毎日のように奉仕活動に行ってることになってる教会に住んでるガキだよ。イヴ、なんでこんな奴のために働いてんだよ!」

「まさかお前がタレ込んだのか」

「は?知らねーよ」

ソフィアがティムの胸ぐらを掴んで、地面へ放り投げた。

「やめて!」

ティムはそれでも怯まず、イヴのために訴え続けた。

「イヴは卒業しても閉じ込められなんてしない!これからは教会で俺たちと暮らすんだから。俺が絶対守るんだから」

「そんなことできる訳ないでしょ。税金で生かされてるゴミがうるさいんだよ」


 ティムに対する暴言に、イヴの心がざわめきたつ。
 自分のことに関しては悲しい、ひどい、どうして、という感情だったのが、淡くだが攻撃的な感情が含まれるようになっていた。
 しかし、言葉に出して、ソフィアにくってかかっていくだけの度胸はイヴにはなく、祈るように心で強く念じた。
 

「ゴミはゴミらしく大人しくしてろよ」

 だめやめて、黙って。
 この子を傷つけることを、それ以上言わないで。

「生きてる価値もない」

 だめ、聞いちゃだめ、こんな汚い言葉聞いちゃだめ。

「なんでお前らみたいなのが生かされてるんだろうな」

 お願い、やめて、黙って、これ以上、この子を傷付けないで。黙って、黙って、

 ティムが小さな体でソフィアに立ち向かっていくが、ソフィアに返り討ちにあって地面に転がされた。

「ちょっと近づかないで、汚いな。きったない不幸な底辺で這いつくばってる蛆虫のくせに」

 ……っ、黙れっ!

 一瞬、風もないのに空気が揺れる。ティムはそのまま、そっと意識を閉ざすように眠りについた。

 そして、ソフィアはその場に両膝を地につけ、うずくまる。息を切らしたかのように、はっはっと、目を見開いて喉に両手を当てて、もがくように苦しんでいた。

しばらくして、また短く息を再開させる。目を見開かせたまま、こちらへ向かってくると。


「っ、お前、今私になんかしただろ!?」

「な、なに、も」

「あったまきた。あんたなんて本当に死んじゃえばいいのに!」 

 そう言って私の髪の毛を掴むと、工事中で立ち入り禁止になっている場所へ無理矢理引引きづるように連れて行かれた。危険とでかでかと大きな看板が立っている。

 今からソフィアがしでかそうとしている、とんでもないことを予感してイヴは軽くパニックになる。

「ソフィア、これはさすがにまずいって!」

 シェラルの慌てる声にも、冷静なソフィアは耳を貸さない。彼女は本気だ。

「大丈夫、誰も見てない」

 いや、いや、いやだ。

 立ち入り禁止のロープを取り去って、危険という看板を蹴り倒す。
 そして出てきたのは予感的中の、目下100m先の第三層が見える穴だ。

「ごくたまにあるじゃない、転落死」

 その穴の前で私の体は解放された。追い詰められたイヴは死を目前に、泣きわめきながら命乞いをした。

「や、やめ、やめて。ごめんなさい。二度と刃向かいませんからっ」

「ふふふ」

「ソフィア!それくらいにしときなよ!」

 目の前のイヴの悲痛過ぎる懇願も、仲間の最後の忠告も全く耳に入らない。

「誰も私に指図しないで。私くらいになると何をしても許される存在になるの。あなたと違って、私はメンフィルの正統な血統者、あなたいつ死んでも良い存在」

「や、やめて、お願い。死にたくない」

「ふふふ、きったない顔。テメェの運命呪うんだな。さようなら」

 
 差し迫る死を前に、ソフィアの怖い程、狂気的な表情が脳に焼きつく。

 ソフィアが私の胸ぐらを離した瞬間、深い底へ風を切るように体が落ちていく。底は遥か下だ。

 嫌だ、死にたくない。死にたくない、死にたくない。
 悲鳴もあげれず、心が張り裂けそう。
 
 壮絶な痛みへの恐怖、死への抵抗。
 生への悔やみと切望。

 感情が渋滞して、発狂しそうになる。

 
 最深部の泉へ落ちたイヴの体。
 そこでイヴの意識は途絶えた。


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