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step4 おかえりなさいませ、ご主人様

鬼のぷりん先輩に仏のめろんちゃん

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◇ ◇ ◇


なんでっ、なんで、ここにいるのーっ!

入り口で彰人さんの姿を見た瞬間、お店の裏の方へすぐさま逃げ隠れた私。

え、待って待って。
彰人さんってこういう趣味があったの?

あんなに普段えらそぶってクールな彰人さんが。
実はメイドさんが好きなのっ?

頭の中はもうパニック状態。

しかしその前に、改めて自分の姿を見下ろして青ざめる。
ピンク色のメイド服に白いふりふりのエプロン。
白色のニーハイに、そしてメイド服と同じ色のリボンのカチューシャ。


あぁ、こんな格好絶対にバカにされる……っ!



「ちょっと、いちごちゃんどうしたの」

店の隅に隠れホールに出ようとしない私に気付いた、めろんちゃんが駆け寄ってくる。

「ごめん、なんだかお腹が痛くなっちゃって……」

いててて、とその場にしゃがみこみお腹を擦って痛がる素振りをする私。

「そうか仕方がないね、裏で休んでなよ」

あぁ、さすが優しいめろんちゃん。
いそいそと休憩室へ行こうとした矢先、ぐいっと腕を掴まれた。

そこには、腰に手を当てた呆れ顔のぷりん先輩がいた。
鬼のフロアリーダーだ。

「何仮病使ってんの、さっきまでカツカレーにチョココロネまで食ってたくせにっ」

あぁ、そうだぷりん先輩と休憩一緒だったんだ。

そこで私は確かにカツカレーにチョココロネまで食べていた。

しかし、なんと慈悲の欠片もない。
そのツインテールの片方思いっきり引っ張ってやろうか。

「ほら、忙しいんだからホール出た出たっ」

ぷりんって名前のくせに全然甘くない。
下唇を突き出し、下を向きながらホールへ出る。

あぁ、どうしようか。
なるべく彰人さんの死角になるようなところにいよう。

そうだ、変装しようっ。
そう思い立って、衣裳部屋で前にくすねたパーティー用の鼻付き丸眼鏡をかけてみる。

おぉ、これならバレないかも。
なんて調子に乗って浮かれていたら、そんな私の姿を見たぷりん先輩が静かに激昴し近寄ってきた。

「……何ふざけてんのよ」

「す、すいません」

小声でそう脅され、すぐさま眼鏡を外す。さっきまで、萌え萌えきゅんとぶりぶりしながら魔法をかけていたのに。まるで別人のような変わりよう。



でも、一体どうしてメイド喫茶なんか。
彰人さんの趣味ではないだろうし。

まさか、私がここで働いてることバレた!?もしかして金返せって言いに来たのかなっ。


「4番テーブルお願いしまーす」

そう言って厨房からジュースが出てきた。近くにいながらも素知らぬフリをしようとしたところ、さっきから激おこぷんぷん丸なぷりん先輩に睨まれた。

仕方なく運ぶことに。
両手でプレートを持ち、テーブルへ。

……ん?
待って、今何番テーブルって言った?

って、4番!?

だめ、だめ!
彰人さんのテーブルじゃない!

他の子に頼もうと振り返ると、やっぱりぷりん先輩が監視していた。
いつにもまして私の行動がおかしいからか、彼女の目が厳しい。

行くしかない、今戻ったら彼女の怒りはぷんぷん丸なんて可愛いもんじゃなくなる気がする。

なるべく顔を上げないように、テーブルへボソッと飲み物の名前を言って置いた。
魔法はなしだ、置いたらすぐトイレに駆け込んでぷんすか先輩には我慢できませんでしたと言い訳しよう。

そして振り返って逃げようとした時、運悪く呼び止められてしまった。


「あ、いちごちゃん!」

彰人さんと一緒に来た人が、まるで見つけたとでも言うように私のネームプレートを見て指差す。


「仁菜っ」

すると私の顔を確認して驚いたように名前を呼ぶ彰人さん。

……あぁ、とうとうバレてしまった。
昨日喧嘩した後ろめたさと、この格好を見られたという恥ずかしさで思わず口ごもる。

彰人さんの方もなんと切り出そうか悩んでいるのか、なかなか次の言葉が出てこない様子。

そんな私たちの気まずい空気の中、1人だけ私に熱い視線を送る空気が読めない人がいた。


「か、可愛い……っ!」

そう言って、私の手をひしっと両手で握るその人。

「え?」

「は?」

思わず聞き返してしまう私と彰人さん。


「君、ルリルリに似てるって言われないっ?」

……なんだろルリルリって。
アイドルか何かだろうか?


「とりあえずその手を離せ」

げんなりした彰人さんがその人から私の手を離させる。
しかし興奮冷めやらぬ様子で、キラキラした目で彰人さんに説明し始めた。

「ほら先輩、俺の机の上のフィギュアに似てるでしょ?」

「はぁ?知らねぇよ」

フィギュア?
なんだろうか、アニメかなんかのキャラクターだろうか。

「このショートボブとタレ目、ぷっくりした唇に、若干ぽっちゃり気味なちんちくりんな体!そしてちょっと恥じらうこの姿は、まさにルリルリちゃんだよーっ」

ぽっちゃり気味……?
ちんちくりん……?

なんだろ、今悪口混ざってなかった?
空耳だろうか。

そして、また手が私に伸びてきたところを彰人さんに振り払われるその人。

「ちょっと待て、とりあえずお前は黙ってろ」

 
……あぁ、こう改まるとちゃんと彰人さんの目を見れない。
まだ残念イケメンさんにぺらぺら喋ってもらっていた方が良かったかも。
 

「……昨日はどこに泊まったんだ?」

「えっと、あの、ま、漫画喫茶に……」

「今日はどこに泊まるつもりなんだ。あてはあるのか?」

「……」

答えられず黙ってしまった私に、すかさず横槍が入った。

「ないならうちにおいでよ。ちゃんとご飯も作ってあげるよ」

顔は良いのに色々と残念なその人が、ニコニコしながら言う。

悪い人じゃなさそうだけど……。


「いきなり何を言い出すんだ」

「大丈夫。先輩よりずっと優しいお兄さんだから安心して」

「あ、あの」

遠回しに断ろうした時、彰人さんがきっぱりと一蹴した。

「だめだ。あてがないならうちに帰って来い」

胸がとくんと高鳴る。
少しでも自分のことを大切に思ってくれているような気がして嬉しい。




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