上 下
14 / 21
第3章 幼女編

8

しおりを挟む

「ほら、もう手を洗ってうがいをして来なさい」

わざと、子ども扱いするように私の頭を撫でて言う。むっとしながらそれに従って二人の元を離れると、二人の深刻そうな会話が聞こえてしまってこっそり隠れながら二人の話に耳を傾けた。
 


「悪かった。どうしてもあの子には厳しくできなくて」

「いいえ、あの子の不振な行動に気付いていながら今日の今日まで許容してしまっていた。どこかで歯止めをかけないとと思っていましたから。あの子には幸せになって欲しい。それは皆の願いです。これから命の危険に脅かされるなんてことがないようにしないといけない」

更に声に力が入るルイス。

「そう遠くない未来、ここは戦禍の中心となる。いずれは彼女を保護してくれるところへ嫁に出さなきゃいけない、ここに置いておくにはいかない。ギルだってそれを分かっていて、剣術ごっこに付き合ってやるつもりだったんだろう?」

「あぁ、護身術位ならと思ってな」


 ……やっぱりずっとここにはいられないんだ。皆が言う通りに私はただ守られる存在のままでいるしかないの?

 ちょっと待ってよ、私ここに来てまだ5年しか経ってないの。戦況がまだよく分からないのよ。だけどこれだけははっきりしてる。私は絶対に遠くにお嫁に行くなんて嫌。

 皆と一緒に戦いたい。だから、戦える強い力が欲しい。

 敵が誰なのか、どうして戦争になっているのか。まだ詳しいことは分からない。

 けれど険しい表情の彼を、癒し、で救えるのか。きっと救えないだろう。

 自分が強くなれるのか分からない。だけど強くなれるかもしれないじゃないか。力を得てみないことには何も始まらない。

 最初は、このままこのスパダリ伯爵様の妻になってやると意気込んでいた。だけど本当にそれを望むのかと、最近思うのだ。


 前の人生で私の役割はなんだったんだろうって、何を残せたんだろうって、ふと思うのだ。
 何も残せず、何も果たせず、あの時代にあの場所に私が生まれた意味があったのかって。

 どうしてあの後輩の女の子にただ聞かれたら教えるだけで、やる気がない彼女を叱咤しなかったのだろう。
 おかげで彼女は私に聞くことを覚え、それを繰り返すだけになってしまった。彼女に怠惰を覚えさせ、彼女の成長の機会を逃したのは私のせいでもあるんじゃないのか。

 同期に対しても想い人としながら自分から何か彼に働きかけたり、自分の外見や性格を変えようなど努力したことはあったのだろうか。傷つく位ならこのままで良いと、現状に甘んじていたのではないのだろうか。 

 私は自分が善良であると思っていた。だけどそれは違った、善良なんてものではなかった。
 皆が嫌がる仕事を引き受ける私は、こんなに頑張っているのに誰も分かってくれない、と一人悲劇のヒロインになっていただけだったのだ。

 そのおかげで私はストレスを溜め挙句の果てには命を落とすハメになってしまった。
 私は弱かったのだ、人に意見を言えず、頼まれれば一手に引き受けてしまう。周りと円滑な人間関係を結ぶことも放棄し、ただ目の前の仕事をこなすだけになっていた。


 私はこの世界で何を望むんだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

処理中です...