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第3章 幼女編

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 レイン様がルイスを引き連れて仕事へ出た隙に、いよいよ念願の外界デビュー。

 広い庭を抜けギルと城門へ。いざ外へという時、城門の前でギルが足を止めた。

「リリア、ここから城の外になる」

 いつもとは違う真面目な声色に私も真剣に聞いた。

「うん?」

「ここまではレインの強固な結界が張ってあるが、外界は魔素が充満している。特にここは。なんの素養もなければ、一分もたたずに気を失ってしまうだろう」

「わ、わかった」

 少し怯んだ私に、ニカっと笑うギル。

「まぁ、赤ん坊の頃から魔素入り風呂に入ってるんだ。ちょっと気分悪くなる位だろ。いつでも帰って良いんだからな」

そう言うギルに、ぷくっと柔らかい頬を膨らませ眉間に皺を寄せた。

「だいじょうぶだもん」

「あはは、怖いだろうから手繋いでてやろうな」

 屈んで私の小さな手を握ると、せーのと一緒に門外へ出た。

 その瞬間、一瞬ピリリと皮膚の表面に痛みが走る。あの魔素入り風呂を何倍にも薄めたような新しい感覚。自然に漂う魔素にうっすら色と匂いを感じるような気もする。
 目をぱちくりさせるだけの私に、ギルが心配そうに声をかけた。

「だ、大丈夫か?」

 私がいつ卒倒しても良いように、大きなギルの手が背中に添えられている。目を大きく開けたまま、ギルを見る。

「なんだ、どうした?」

「……もちいい」

「え?」

「きもちいい!」

「は?」

 そう言い放ったあと、深呼吸する私。めいいっぱい、空気を吸い込むと気管と肺がピリピリした。その感覚さえ心地良く感じて、夢中になって繰り返し魔素を体内へ取り込んだ。

「分かった、分かったから興奮するな」

 動揺するギルに、目を輝かせる私。

「本当末恐ろしいな、お前本当はどこから来たんだ」

「ふふふ、はやくいこう!」

 嬉しくなって戸惑うギルの手を引っ張った。

「フィー!」

「フィーちゃんもきもちいって!」

「そっか良かったな」

 喜ぶ私の周りを水を得た魚のように元気に飛び回るフィーに、呆れたようなギル。

 ギルの訓練場とやらは、城からそう遠くない森の中の開けた場所にあった。

「少しでも体に傷つけようものなら、レインに殺されるから絶対無理するなよ」

 そう言って木の棒を渡される。

「わかってるってば。しゅんしゅんしゅんっ、こんなかんじ?」
 
 そう言って、効果音付きで下校中の小学生男児如く棒を振り回してみせた。

「やめろ、ムヤミに振り回すな!体に傷ついたらどうする!」

 慌てて止めに入られ、握り方からレクチャーが始まった。そして次は、構え。

「あはは、かわいいな」

「ぶー、おてほんみせてよ。ギルってほんとうはすごくつよいんでしょう?あのレイン様がおそばにおいておく位だし」

 そう言ってギルを煽てる。単純なギルは得意げになって木の棒を手に取った。

「しょうがないな、少しだけだぞ」

 その瞬間、いつもの腑抜けた顔が急に引き締まって、纏う空気まで変えて見せた構え。周りの魔素が一瞬にして色を失くす。思わず圧倒された私は、尻もちをついてしまった。

「も、もしかしてギルにはまほう効かないんじゃ」

「お、よく分かったな。俺は魔素を扱えない代わりに、魔法攻撃は効かないし防御も意味がない」

「ギル、ほんとうにすごい人なんだね」

 思わずあんぐり口を開けたまま、尻もちをついたままギルを見上げる。

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