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第3章 幼女編

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 盛大にぶーたれながらナンシーとお風呂に入り終えたあとは、レイン様のお風呂が終わるのを待って一緒にお部屋へ。

 西洋の遺産にあるような立派なお城は3階建てになっていて、特に1階は天井高く開けた構造になり螺旋階段で上の階と繋がっていた。。2階に私達の部屋があり、レイン様だけ3階の最上階に住んでいた。
 3階のフロアには固く立ち入り禁じられていたから、レイン様の部屋どころか正直3階に上がるのも初めてだった。

 レイン様の大きな手に引かれ、部屋へ向かう。螺旋階段を2階から3階へ上る間にもぐっと何かの圧を感じ、思わずレイン様の手をぎゅっと握りその場で立ち止まってしまう。


「……自分の部屋へるか?」

 そう言って気にかけてくれたが、私は何日も前から今日を楽しみにしていたのだ。そう簡単に引き下がる訳にはない。首を大きく横に振って、自ら歩き出す。

 いよいよ部屋へつき中へ入ると、大きなベッドが一つだけある殺風景な部屋だった。私の部屋との違いといったら部屋の大きさが二倍くらい広いのと、ベランダが付いていること位だろうか。

「悪いが、そんなに楽しいものはこの部屋にはないぞ」

 私は首をぶんぶん左右に振って否定する。良いのだ楽しくなくとも、ただ一緒に過ごせれば。暗い部屋の中、ただ月の青白い頼りない光だけが差す。ぐるりと見渡すと小さなテーブルの上に、鳥かごを見つけた。その中に何か蠢く影があった。おそるおそる目をこらすと、ギラっとその存在の目らしきものが光った。小さな小さな人に羽が生えた、妖精のような存在、思わず短い悲鳴を上げてレイン様の足に抱き着いた。


「怖がらなくて良い、この間森の中で拾った妖精だ。悪いことはしない」

「ようせいさん?」

「そうだ、触ってみるか?」

 その質問に少し考えたあと、恐れはあるものの好奇心には勝てず深くうんと頷いた。
鳥かごの中を開けるレイン様におそるおそる尋ねる。

「こうげきしてこない?」

「リリア、この間見せた魔法はどうやってやった?」

「火、でてーって、ねんじた」

「それと同じように、この子にお友達になろうってお願いしてごらん」

 レイン様の手のひらの上で、薄い羽を背中へ畳み、私の方を見据えて佇んでいる妖精。10cm位の小さな体に端正な顔。女の子のようで、逃げ出したりはしないが私に怯えているのは分かった。

 思い切って人差し指を指して、『仲良くしてね』と念じてみる。だけど、彼女から反応はない。

 妖精という存在を私は、ファンタジーものの物語でしか知らない。この子はどこから生まれてどこへ向かう予定だったんだろう。

『あなたが行きたいところへ連れて行ってあげる』と念じると、私の気持ちが伝わったのかゆっくり私の指に両手を乗せてきた。一本一本小さ過ぎる指に、こそばゆい感じがした。

 おぉっと、思わず感動する。何か訴えたいことがあるようだったが、今の私では分からない。だけど私の気持ちは分かってくれたのか、私の手のひらへ移ると、透けたピンク色のスカートを両手で広げながら深々と会釈する。

 その様子にレイン様も微笑みながらこう言ってくれた。

「お友達になれたみたいで良かったな」

「うんっ」

 その妖精さんは外へ出て、久しぶりの解放感に部屋を飛び回ったあと、私の肩の上にちょこんと座った。

「可愛い、名前はなんて言うの?」

「付けていいよって、言ってる」

「レイン様、このことはなせるの!?」

「あぁ、リリアだってすぐに話せるようになる」

「本当っ!?」

「今だってすぐに仲良くなれたじゃないか」

そう言ってこの小さな妖精さんを見ると、私の頬へ頬ずりして甘えてきた。

「どうしよう、なまえなにがいいかな?」

嬉しくて大事にしようと思った矢先、レイン様が突然真面目な顔をした。

「リリア、その子は、リリアのことを悪く思っている人には見えないからね。そうやってこれから、良い人、悪い人見分けるんだ。いいね?」

「はい……?」

「それからもう一つ、プレゼントがあるんだ」

「なぁに?」

声を弾ませながらそう言って、私の小さな掌よりちょっと大きめの黒い小箱を渡された。
開けてごらん、と促されるまま箱を開けると、そこには私の瞳と同じ色の宝石を使ったネックレスがあった。

「……きれい」

月の光に照らしてよく見ながら、しみじみそう言う。

「リリア、今つけている白いリボンをいずれ卒業する日が来る。そしたらこのネックレスを付けるんだ。いいね?」

「はい?でも、いまからでもつけたいです」

「まだリリアは子どもだろ、ネックレスはまだ早い」

 そう言いながら微笑むレイン様。

 その夜はレイン様の長い腕に抱かれて眠った。緊張で眠れないかと思ったけど、思いのほかすんなり寝ることができた。

 目を覚ますとレイン様はすでに部屋からいなくなっていた。もう仕事へ行ってしまったのかと、私も重い瞼を一所懸命開けてヨタヨタ1階の広間へ向かう。

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