8 / 21
第3章 幼女編
2
しおりを挟む
まず、ここはファンタジーものによくある魔界のような場所であること。城内の外には魑魅魍魎の類から小鬼ゴブリン、ドラゴンなどの大きな魔物も、うじゃじゃしているらしい。
自然界に普通に魔素が存在しており、魔法が当たり前のようにあること以外は、基本的な構造は地球と同じような感じらしい。理由をルイスに尋ねると元々この世界を真似て作ったのが地球だったため、とのことだった。
誰がと聞くとそれはそれは驚いた顔をされ、神様だよと聖書を渡された。皆が皆、信仰心が強い訳じゃないんだぞって言い返したくなったけどそこは口を噤んだ。
どうやらその聖書によると、創世記より前にこの世界は存在していたようで、文献に出てくる邪悪な蛇はここのものだったとちょっと誇らしげに言われた。だけどそもそも、あの蛇って諸悪の根源だったはず。
そうは思っても、ちゃんと空気を読んで言わなかった。リリアちゃんマジ良い子。
昔から地球に存在したシャーマンや巫女のような霊能力者が、こっちの世界の住人とやり取りが行えたようで地球の様々な設定は、この世界の基準からヒントを得ていたよう。だから日付や時間の概念も存在したということだ。
地球と同じく太陽や月も存在しているし、微生物たっぷりの土壌のおかげで、ジャガイモやニンジン、とうもろこしやトマトなどの野菜から、リンゴ、桃などの果物が普通に採れるようだった。
それだけではなく海もちゃんとあるようで、塩や魚などそれも市場で手に入るらしい。牛、豚、馬、鳥などの家畜も存在し、鳥や豚なんかはギルが時々帰り道で狩ってきてくれたりもする。
日中、勉強したあとは、夜は長時間のバスタイム。
私は赤ん坊の頃から、魔素入り風呂に3~4時間浸かるようにしている。濃度も徐々に引き上げて、激痛に耐えながら魔素をこの小さな体に蓄えていた。
外に出たいのにはもう一つ理由がある。
せっかく魔法が使えるのだから、でっかな魔法を使ってみたいのだ。転移魔法だけじゃなくて、広いところで自分の限界まで攻撃魔法をぶっ放してみたいのだ。
そのためには、こんな貧弱な幼女というイメージを崩さなくてはいけない。
夜遅くになって久しぶりに帰ってきたレイン様が嬉しくて、その長い足のお膝の上によじ登り抱っこしてもらった。本当はちゃんと話せるようになってきているのだが、レイン様の前ではまだちょっと舌っ足らず風に喋る。
「レインさま、みてください。たくさんのしゅるいのまほうをつかえるようになりました」
そう言って小さな両手の中から、火、水、土、風、4元素を次々と作り出して見せた。
「……っ」
それはそれは驚いた様子のレイン様。頭を撫でてヨシヨシ良い子してくれるかと思っていた私は得意げに見せたが、レイン様の反応は期待とは違ったものだった。
「リリア、やめなさい」
今までに聞いたことのない冷たい声で私の手を制して止めさせた。正確に言うと、レイン様に手を取られた瞬間、まるですーっと魔力を吸い取られていくように、強制的に止めさせられのだ。
「ど、どして……?」
レイン様と一緒に戦えるように赤ん坊の時から頑張ってきたのに。レイン様は私に魔法を使わせたくないらしい。
「ナンシー!ルイス!」
「は、はい、いかがさないましたか?」
レイン様の珍しく荒げた声に慌ててナンシーが駆け寄ってきた。その後に続いてルイスもやって来る。
「リリアが4元素の魔法を使ってみせたのだが、これは一体どういうことだ。5才の子どもがこうも容易くできることじゃないだろう」
「なんですってっ」
初めての魔法はレイン様に見せたかったから、二人は私が魔法を使えることも知らず心底驚いた様子。ナンシーは戸惑っていたが、ルイスは少し考えたあとにレイン様へ進言した。
「多少の魔法が扱えても良いはずです。お嬢様とはいえ、自衛しなければならない場面だってこの先あるでしょう」
「自衛する場面?そんなものあってたまるか。何にしてもリリアには俺の防御魔法があるのだから必要ない」
珍しく言い合いとなり険悪なムードが漂う中、ナンシーが消え入りそうな声で言いづらそうに話し始めた。
「すいません、実は赤ちゃんのときに余程、魔素入り風呂が気に入ったのか、未だに夜になると長時間入っているようなんです。黙っていてごめんなさい。濃度も以前より増して濃くなって、今では私でも触れない位のものに……」
そうやって私の習慣をばらすが、そんなにいけないことだったのだろうか。ナンシーの話に、レイン様は更に怒った。
「なんだと!」
そう言って頭を抱えると、深くため息をついた。
「あれは、あの一度限りで良かったものだ。少しでも魔法に耐性が付ければ良かったのだが」
しんと静まり返る広間に、レイン様のお顔を覗き込んで言う。
「ごめんなさい、ナンシーのことおこらないで」
「……怒ってない、びっくりしてるんだ」
そう言って、頭を撫でてくれる。
「ごめんなさい。リリアちゃんは、レイン様をとても恋しく思っておられたので……。魔素入り風呂に入ることで、強い魔力を持ったレイン様を身近に感じ、寂しさを紛らわせているのではないかと思ったのです」
ナイスフォロー!
なんて素敵な解釈!
その通りとも言わんばかりに、ウルウルの瞳を向けておこを通り越して呆れているレイン様を見つめる。
自然界に普通に魔素が存在しており、魔法が当たり前のようにあること以外は、基本的な構造は地球と同じような感じらしい。理由をルイスに尋ねると元々この世界を真似て作ったのが地球だったため、とのことだった。
誰がと聞くとそれはそれは驚いた顔をされ、神様だよと聖書を渡された。皆が皆、信仰心が強い訳じゃないんだぞって言い返したくなったけどそこは口を噤んだ。
どうやらその聖書によると、創世記より前にこの世界は存在していたようで、文献に出てくる邪悪な蛇はここのものだったとちょっと誇らしげに言われた。だけどそもそも、あの蛇って諸悪の根源だったはず。
そうは思っても、ちゃんと空気を読んで言わなかった。リリアちゃんマジ良い子。
昔から地球に存在したシャーマンや巫女のような霊能力者が、こっちの世界の住人とやり取りが行えたようで地球の様々な設定は、この世界の基準からヒントを得ていたよう。だから日付や時間の概念も存在したということだ。
地球と同じく太陽や月も存在しているし、微生物たっぷりの土壌のおかげで、ジャガイモやニンジン、とうもろこしやトマトなどの野菜から、リンゴ、桃などの果物が普通に採れるようだった。
それだけではなく海もちゃんとあるようで、塩や魚などそれも市場で手に入るらしい。牛、豚、馬、鳥などの家畜も存在し、鳥や豚なんかはギルが時々帰り道で狩ってきてくれたりもする。
日中、勉強したあとは、夜は長時間のバスタイム。
私は赤ん坊の頃から、魔素入り風呂に3~4時間浸かるようにしている。濃度も徐々に引き上げて、激痛に耐えながら魔素をこの小さな体に蓄えていた。
外に出たいのにはもう一つ理由がある。
せっかく魔法が使えるのだから、でっかな魔法を使ってみたいのだ。転移魔法だけじゃなくて、広いところで自分の限界まで攻撃魔法をぶっ放してみたいのだ。
そのためには、こんな貧弱な幼女というイメージを崩さなくてはいけない。
夜遅くになって久しぶりに帰ってきたレイン様が嬉しくて、その長い足のお膝の上によじ登り抱っこしてもらった。本当はちゃんと話せるようになってきているのだが、レイン様の前ではまだちょっと舌っ足らず風に喋る。
「レインさま、みてください。たくさんのしゅるいのまほうをつかえるようになりました」
そう言って小さな両手の中から、火、水、土、風、4元素を次々と作り出して見せた。
「……っ」
それはそれは驚いた様子のレイン様。頭を撫でてヨシヨシ良い子してくれるかと思っていた私は得意げに見せたが、レイン様の反応は期待とは違ったものだった。
「リリア、やめなさい」
今までに聞いたことのない冷たい声で私の手を制して止めさせた。正確に言うと、レイン様に手を取られた瞬間、まるですーっと魔力を吸い取られていくように、強制的に止めさせられのだ。
「ど、どして……?」
レイン様と一緒に戦えるように赤ん坊の時から頑張ってきたのに。レイン様は私に魔法を使わせたくないらしい。
「ナンシー!ルイス!」
「は、はい、いかがさないましたか?」
レイン様の珍しく荒げた声に慌ててナンシーが駆け寄ってきた。その後に続いてルイスもやって来る。
「リリアが4元素の魔法を使ってみせたのだが、これは一体どういうことだ。5才の子どもがこうも容易くできることじゃないだろう」
「なんですってっ」
初めての魔法はレイン様に見せたかったから、二人は私が魔法を使えることも知らず心底驚いた様子。ナンシーは戸惑っていたが、ルイスは少し考えたあとにレイン様へ進言した。
「多少の魔法が扱えても良いはずです。お嬢様とはいえ、自衛しなければならない場面だってこの先あるでしょう」
「自衛する場面?そんなものあってたまるか。何にしてもリリアには俺の防御魔法があるのだから必要ない」
珍しく言い合いとなり険悪なムードが漂う中、ナンシーが消え入りそうな声で言いづらそうに話し始めた。
「すいません、実は赤ちゃんのときに余程、魔素入り風呂が気に入ったのか、未だに夜になると長時間入っているようなんです。黙っていてごめんなさい。濃度も以前より増して濃くなって、今では私でも触れない位のものに……」
そうやって私の習慣をばらすが、そんなにいけないことだったのだろうか。ナンシーの話に、レイン様は更に怒った。
「なんだと!」
そう言って頭を抱えると、深くため息をついた。
「あれは、あの一度限りで良かったものだ。少しでも魔法に耐性が付ければ良かったのだが」
しんと静まり返る広間に、レイン様のお顔を覗き込んで言う。
「ごめんなさい、ナンシーのことおこらないで」
「……怒ってない、びっくりしてるんだ」
そう言って、頭を撫でてくれる。
「ごめんなさい。リリアちゃんは、レイン様をとても恋しく思っておられたので……。魔素入り風呂に入ることで、強い魔力を持ったレイン様を身近に感じ、寂しさを紛らわせているのではないかと思ったのです」
ナイスフォロー!
なんて素敵な解釈!
その通りとも言わんばかりに、ウルウルの瞳を向けておこを通り越して呆れているレイン様を見つめる。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる