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69.ついに鳴った避難開始の鐘

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『ゴーンゴーンッ!! カンカンカンカーンッ!!』

 みんなと軽食をとってから、どれくらい経ったのか。あいかわらず魔物達は襲ってきているけれど、お父さん達やみんなが戦い守ってくれて。そして崩れた壁も半分くらい直したって話しが回ってきて。
 
 そのおかげなのかは分からないけど。少しだけ怪我人が来るペースが落ちたんだ。だから今のうちにって、改めて薬を部屋から持ってきたり、地下から水を汲んできたりしていた僕達。でもついにこの時が来てしまった。
 
 さっきの壁が崩れた時よりも大きな爆発音と、揺れが襲ってきて。そしてその揺れが治ると、最初の一般市民への避難指示の鐘が鳴ってしまったんだ。急いで残りの患者の治療を皆でおこない、準備ができた人から避難することに。

 もちろん僕達も、最後の患者に薬を渡すと。メイナード先生に言われていた通り、すぐに避難する準備をした。みんなでまとめて置いたカバンが置いてある場所へ行き、それぞれがすぐにリュックを背負う。その間に僕はアンセルにお父さん達の事を聞いた。

「アンセル、お父さん達は?」

『両親もカロリーナ家族も大丈夫だ!』

「どれくらいの魔物が街の中に」

『やぶられたのは門の側で、そうだな、30は街に入ってしまったか。だが、今は半分まで倒した。今も皆が戦っている。一応今入ってきた物に関しては、どうにかできるかもしれん。が』

「が?」

『崩れた範囲が広すぎる。このままでは結界が間に合わず、強い魔物達もそのうち中へ入って来てしまうだろう』

「そうか、分かった、ありがとう」

 もしかしたら、2度とこの街へは戻ってくられないかもしれない。魔物達が行進している時に攻撃してくるのは、自分達の進む道に、障害物がある場合だ。今回はそれが僕達の街って事だけど。

 本当にまっすぐ、横にズレずに進んでくれれば。街を半分に割ってしまうけれど、左右の他の建物は残るわけで。そうすれば何とか街に復興はできるかもしれない。

 だけど今までの幅で行進をしないで、横広がりになってしまったら? きっと今頃、壁に集まりすぎて、少しずつ壁に沿って魔物達が広がっているだろう。
 もし他の壁も崩れてしまえば、広がったまま進まれて、復興ができないほどの被害を受けることに。

 他にもそのままの幅で進んだとしても、目の前の障害物を破壊するついでに、周りの物まで破壊されてしまったら? 
 少しの建物しか残らなかった場合、街は修復されることはないだろう。そして皆はバラバラに。

 僕が生まれた、そしてみんなと出会えた大切な場所がなくなってしまうのは、とてもとても悲しい。思い出がいっぱい詰まっている場所なのに。
 願わくば、魔物達が街を通り過ぎても、どうか復興ができるくらいの被害であって欲しい。そして大切な人達がみんな、無事に再会できるように。

『それにしても今指揮をとっている男。タナーと言ったか』

 避難する前の最終確認をしていると、アンセルがタナー様のことを話してきた。

「タナー様がどうかしたのか? もしかしてタナー様に何か!?」

『いや、奴はピンピンしている。今も大型魔獣を倒した所だ』

「何だ、脅かさないでくれよ」

『すまない。だが、面白いと思ってな』

「面白い?」

『お前や家族を馬鹿にしてくる奴らが居ただろう。家族で馬鹿にしてくる。俺達を自分達に寄越せと言って来た馬鹿達だ』

「ああ、バートンな」

『アドルフはタナーがいるから、奴らの好き勝手にはさせないと言っていたが。その通りだな。自分の近くに置き、さっきはおそらく踏み台にしたぞ』

「は? 踏み台?」

『まぁ、たまたまだろうがな』

 アンセルの話によると、バートン達は初めから、タナー様の側で働かされていたと。奥さんのリリアナと共に。ジークは別の場所の前線に立たされている。一応街を守る貴族だからな。まぁ、それもかなりの勢いで、監視されているみたいだけど。
 ジークの側にも、かなりの実力者ががついていて。ジークはどこかへ行こうとすると、いつも連れ戻されていたって。

 と、ジークのことはまぁ良いとして。バートンとリリアナも、シークと同じ状態だったらしく。どこかへ行こうとするとすぐに連れ戻されていたって。
 そして壁のギリギリに立たされて、他の人達と共に戦わされて。今までのバートン達にはなかったことだ。なんてな。

 そしてさっき、壁が崩された時。やっぱりバートンは逃げようとしたって。皆が戦っている気配がしているのに、バートンだけがあっちこっちにフラフラと、そして壁から降りようとしていて。
 
 その時だった。空を飛べる魔獣が、タナー様の前に現れ。そしてその魔獣はもちろんタナー様を狙って。互いに攻撃しあったタナー様と魔獣。戦いはもちろんタナー様優勢で進んだ。でも。

 最後の攻撃とばかりに、魔獣がかなり強い攻撃をして来たんだ。この攻撃はタナー様も受けることなく、避けたらしいんだけど。
 更に次の攻撃がタナー様を襲って。タナー様はその攻撃も上手く避け、空飛ぶ魔獣は排除することに成功したって。

「あ~、それで、フラフラしていたバートンと何の関係が?」
 
『あの時一瞬、タナーとバートンの気配が重なった。フラフラしていたバートンが、たまたまあの時、タナーの近くへ来ていたんだ。そして奴の気配はそのまま下へ。タナーの気配は上へ飛び魔獣を倒した』

「それで?」

『あの気配の動き。おそらくタナーが、バートンを踏み台にでもしたんだろう。攻撃は2人の間を抜け、どちらも無事だったし。踏み台を使ったことで、タナーは魔獣の上を取ることができ、魔獣を倒せた。そしてフラフラしていたバートンは、その場から動かなくなり、周りの動きが前よりも良くなった。おそらく気絶したんだろう。ふむ、一石二鳥だったな』

 ……タナー様、そんな動きをする方だったのか。ちなみにリリアナの気配は、かなり前から動いておらず、あっちもあっちで、気絶しているんだろうって。

 うん、まぁ、邪魔がいなくなって、みんなの動きが良くなったなら、良いんじゃないかな。その後の、もしかしたら避難しないといけなくなった時は、どうなるか分からないけど。うん。
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