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62.みんなそれぞれの気持ち

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 いつもよりちょっと早い夕食を食べた僕達。僕達も今日は早く寝ておかないとって事で、最後にもう1度だけ、自分達の荷物を確認して寝ることに。
 もちろん僕は、さっきお母さんに渡された、ノート2冊とテディーの薬を、しっかりと確認。

 セレン達は自分の大切な物と、いつも素材採取で使っている、大切な道具を確認して。大切な物とは、みんなが色々な場所で見つけたおもちゃのことだ。みんなにとっては大切な物だからね。ちゃんと持っていかないとって、最初に入れていた。

 そしてアンセルのカバンには、必要になりそうな薬を入れてもらった。僕達のカバンにも入っているけれど、それで足りなくなるといけないから。後はご飯が入っている事を確認して。

 全部がしっかりと準備してあったから、さぁ寝ようって、僕達の部屋に行こうとしたところに。カロリーナがやって来た。

「カロリーナ、話しは?」

「うん、聞いた。お父さん達は前線だって」

「じゃあ、うちと同じだね」

「私も前線で、前線の後ろの方」

「え? カロリーナが? だって僕達はまだ学生なんだよ。しかもこの前上に進級したばっかりなのに!?」

 まさかの事に大きな声を出してしまって、僕は口を塞いだ。お父さん達が寝ているんだから静かにしなくちゃ。

「うん、でも私は前線。広範囲の火魔法を使えるから。私の火魔法は、中級の冒険者の誰よりも広いからだって」

「カロリーナ、そこまで魔法が使えるようになっていたの?」

「うん、この前できるようになった。それで森を焼きすぎそうになって怒られた」

 なんでこんな時に。もう少し後だったら、今回は前線に出なくても良かったかもしれないのに。いくら学生でも、実力が中級冒険者並みかその上をいくと、前線の立たされる事があるんだよ。なんでカロリーナ、こんな時にそんな強い魔法が使えるように……。

 俺は思わず下を向いてしまった。よく分かっていないセレン達が僕の様子を心配して、顔を覗き込んでくる。

『アーベル、どうしたの?』

『カロリーナ、どうかしたのか?』

『アーベル苦しい?』

『どうしたの?』

 その後流れる沈黙。でもすぐにそれは終わって、カロリーナが話してきた。

「みんなのために戦える。私の憧れの人に、少し近づけた」

 ハッ!! として、顔を上げた僕。カロリーナを見ると、カロリーナは小さい時から変わらない、かわいい笑顔で僕の事を見ていた。

「私の夢、まだまだぜんぜん足りないけど、でも少しだけ近づけた。私はみんなを守。アーベルとアーベルの家族を守る。そのために勉強も訓練も頑張った」

 そうだ、カロリーナの夢は、自分と同じ火魔法を使い。カロリーナの前で上級の火魔法を使い、みんなを助けた上級冒険者だったっけ。
 その上級冒険者には、まだまだ追いつけていないけど、それでもここまでその上級冒険者を目指して、頑張ってきたんだよな。

「私、頑張る。だからアーベルに、行ってらっしゃいって言ってもらいたい。私もアーベルに行ってらっしゃいする」

 俺は小さく深呼吸をした。カロリーナは覚悟を決めている。みんなを、僕達を守ってくれるって。それなのに僕は、なんでこんな時に魔法が使えるように、なんて思ったんだろう。しっかりと行ってらっしゃいをしなくちゃ。

「うん、そうだね。カロリーナは今まで頑張ってきたんだから、その魔法で魔獣を薙ぎ払っちゃえ!」

「うん!!」

「僕もみんなが怪我した時は、しっかりと回復魔法をかけて、みんなを元気にするよ!」

「うん!!」

「カロリーナ、行ってらっしゃい!!」

「行ってきます!! アーベルも行ってらっしゃい!!」

 お互いに行ってらっしゃいをした後、僕とカロリーナはハイタッチをした。それから順番にセレン達ともハイタッチをして。

 カロリーナに訓練してもらっているのに、頭を撫でられるのは、小さい時から断固拒否のセレン。そんなセレンもハイタッチをして。今日は特別だから、余計なことはしないかなと思ったら。ハイタッチの後に、いつもの威嚇の『チッ!!』をしていたよ。

 それを見てニコニコするカロリーナ。まぁ、これが本当の2人の挨拶みたいなものだから、まぁ、良いか。

「それじゃあ!」

「全部終わったら、またみんなでご飯」

「そうだね! またみんなでご飯を食べよう!!」

 手を振って自分の家の向かうカロリーナ。そんなカロリーナの姿が見えなくなるまで僕は手を振り続けた後、家に入った。

 その後すぐに眠りについた僕。どれくらいの眠っただろう、誰かが僕の事を起こしたと思ったら、お母さんだった。そろそろ行くらしい。もちろんみんなで見送りだ。

「それじゃあ、アーベル、みんなも気をつけるのよ」

「何かがあった時は、自分達の安全を優先するんだぞ」

「もしもこの街を離れる事になったら、分かってるわね」

「みんなのなるべく、バラバラにならずに行動するんだぞ」

「お父さん、お母さん、僕もみんなも大丈夫だよ。お父さん達に言われた事、しっかりと守るから」

 そう僕が言うと、お母さんとお父さんが、僕の事を抱きしめてきた。

「アーベル、愛しているわ。必ずここへ帰ってきましょう」

「ああ、必ずみんなで」

 大丈夫、家族みんながいれば、どんな困難だって乗り越えられるんだから。みんなでまたこの街で、楽しく暮らすんだ。

「うん、お父さん、お母さん、気をつけて」

 お父さん達が僕から離れると、お母さんはちょっと涙目だった。お母さん、僕は大丈夫だから。

 その後お母さん達は、みんなを抱きしめて、まずは街の中心に向かって行った。さっきのカロリーナみたいに、お母さんとお父さんが見えなくなるまで手を振っていたよ。

「……」

『『『……』』』

「さぁ、僕達はもう少し寝ようか。朝日が昇ってきたら起きて、ご飯をしっかり食べて、街の中心へ行こう。みんな、僕達も頑張ろうね!!」

『うん、頑張る!!』

『誰にも負けないぞ!!』

『ハピちゃん、いっぱい頑張る!!』

『ぼくも!!』

『お前達、色々と面倒は起こすなよ』

『そうよ、頑張るのは良いけど、やり過ぎはいけませんよ』

『お前達はすぐに調子に乗るからな』

 セレンの両親は、いつもはお母さんとお父さんと一緒に行動しているけれど、今回は僕達と行動する事に。

 みんなが大丈夫と言いながら、攻撃をする真似をしながら家に入っていく。うん、僕達なら大丈夫!!
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