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3巻

3-2

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 ◇ ◇ ◇


『明日だね』
『楽しみなの!』
『でも少しの間遊べないね』
『それはさびしいなの!』
『帰ってきたらいっぱい遊ぼ!』

 ベルンドアに行くぞって決まってから二日経って、僕達の準備は完璧です。まぁ、おもちゃ以外はフィオーナさんとメイドのアンジェさんが準備してくれたけど。
 それと準備の時、スノーラとローレンスさん、お兄ちゃん達が大変なことになっていました。
 みんな、フィオーナさんとアンジェさんのお洋服攻撃にあったんだよ。
 まずはスノーラ。いつも変身した時に着ている洋服だけじゃダメだって、スノーラ用の洋服をいっぱい用意してもらってました。その中からどれを持って行くか決めるだけで、前の僕の時みたいに、何回も着せられていたよ。
 持って行く洋服が決まった時、スノーラは僕が今までに見た中で、一番ぐったりしていました。
 それから、「レンがとっても嫌がっていた理由がよく分かった……」ってぽつりと言ってました。
 ね、とっても疲れるし、お洋服が嫌いになりそうでしょう? 
 僕は洋服を何回も着ることはなかったけど、持って行く洋服を入れたカバンが二つになりました。しかもとっても大きいカバンなんだ。
 ローレンスさんも「今回は遊びに行くんじゃなくて調べに行くのに、こんなに必要ないだろう」って言っていました。フィオーナさん達に聞こえないようにボソッとね。
 次はお兄ちゃん達。
 いつもは毎朝、フィオーナさんとアンジェさんが着る洋服をチェックして、その日に着る洋服が決まるそうです。でも今回フィオーナさん達はお屋敷に残るから、お兄ちゃん達自身でもちゃんと覚えておくようにって。他のメイドさんも付いてくるけど、一応ね。
 この洋服はいつ着て、こっちの洋服はいつ着てって、全部の洋服について話していました。

「母さん、別にいつ何を着ても変わらないよ」
「そうだぜ。今回は色々と限られてるんだからさ」

 二人がそう言ったら、フィオーナさん達が余計に止まらなくなっちゃいました。

「何を言っているの。いつ、どの家の方にお会いするか分からないのよ!」
「そうですとも。洋服選びはとても大切なことです。エイデン様方がきちんとした洋服を着ていないと、レン様の評価まで下がるかもしれないのですよ!」
「これからあなた達に教えることはまだあるのよ! まったく、いくら調べに行くと言っても、最低限の……」

 お兄ちゃん達はすぐに黙っちゃったんだけど、その時たまたま一緒にいたローレンスさんは知らないふり。僕のことを抱っこして窓から庭を見て、「ほら、ウインドホースが走っているぞ」って僕に話してきます。
 でも……

「それからあなた!!」

 フィオーナさんに呼ばれて、ローレンスさんがビクッとして。

「あなたもそんな所で外を見ていないで、しっかり聞いて! まったく、どうしてあなた達は服に無頓着むとんちゃくなのかしら。もう少しその辺をしっかりしてもらわないと」
「その通りです、奥様」

 僕はローレンスさんから逃げてスノーラの所に。
 それから、いつもみんなでまったりするお部屋にそっと移動して、フィオーナさん達の洋服の準備が終わるのを待ちました。
 時々セバスチャンさんがお茶を持ってきてくれたから、その度に終わった? って聞いたけど、セバスチャンさんは笑うだけでそのまま出て行っちゃってました。
 結局、ローレンスさんとお兄ちゃん達がまったりする部屋に来たのは、お昼ご飯のちょっと前でした。
 みんなとってもげっそりしてたから、僕のあめを一つずつあげたんだ。
 そしたらローレンスさん達、泣きそうな顔して僕にありがとうって言ってくれました。
 そんなわけで、フィオーナさん達の洋服の準備で、午前中は終わっちゃったけど、午後はブラックホードさんが魔獣さん達を連れて、一日早いけどお見送りに来てくれました。明日は朝早く出発するし、バタバタするだろうからって。
 当分遊べない僕達は、そのまま遊ぶことにします。
 その隣で、スノーラ達は明日からのことを話していました。

「何か手がかりが見つかるといいが」
「まぁ、向こうの状況次第だろう。ベルンドアでも何か問題が起きているようなら、やはり同じ原因かもしれないぞ」
「こちらよりも状況が悪ければ、向こうの魔獣が騒いでいるはずだが……そういった話も聞かないからな。全く異変がないか、それともこちらと同じくらいの微妙びみょうな変化で、あちらも困っている頃か」
「とりあえず、全ては向こうへ行ってからだな」

 そんな大人達の話をよそに、夕方までいっぱい遊んだ僕達。
 ブラックホードさん達みんなに、行ってきますのバイバイをしました。
 それからいつもよりも少しだけ早いご飯を食べて、早く寝ることに。

「あちた、たのちみ!」
『うん! 早く明日にならないかな』
『初めて遠くに行くなの!』
「ほらお前達、早く寝ろ。明日起きられなくても知らないぞ」

 騒いでドキドキの僕達は、なんとか寝ることはできたんだけど。
 ――でもね、僕達の楽しみは、真夜中の突然の出来事によって、なくなっちゃったんだ。


 ◇ ◇ ◇


 俺、ジャガルガは皆に声をかける。

「おい、そろそろ行くぞ。きっと奴らも来るはずだ。チャンスは今しかないからな」

 集まった全員が武器を持ち立ち上がった。

「いいか、俺達を馬鹿にしたことを後悔させてやるぞ。あの子供を手に入れれば当分の間、俺達は遊んで暮らせるんだ。しっかり気合を入れていけ!!」
「もちろん!」
「やってやりますよ!」
「ふっ! 行くぞ、野郎共!!」

 絶対に手に入れてやる、あれは俺が先に目をつけたんだ。


 ◇ ◇ ◇


「ラジミール、準備は?」
「…………」
「ラジミール!!」
「はっ!? 準備は整っております」
「しっかりしろ。まだ半分、お前の意識は残っているのだからな」

 意識がハッキリしたラジミールが、私、コレイションに頭を下げる。

「遠い昔、わずか少しの間とはいえ、あの方が作り上げたあの世界に、わたしはあこがれておりました。そしてできることならば、その世界をまた現実のものにしたいと……ですがその方法が分からず困っていました。そんな私に声をかけてくださり、ありがとうございました。コレイション様」
「目的が同じだっただけだ……ではこの後も、最後までお前の仕事をまっとうしろ。いいな。よし、行くぞ」
「はっ!」



 第二章 スノーラ、ルリ、大好きだよ


 今、部屋の中では、もの凄い風が吹き荒れています。
 そして僕、レンとアイスの足元には、ドロドロした真っ黒の沼みたいなものと、周りには黒いきりの壁みたいなものがありました。

「りゅり!! きちゃめ!!」
『来ちゃダメなの!!』
『レン!! アイス!!』
『ルリ、今はダメだよ!! お父さんまだ!?』

 ルリが必死にこっちへ飛んでこようとするけど、それをドラちゃんが止めてくれていました。

「あいしゅ、だいじょぶ! ぼく、しょばいりゅ! はにゃれにゃい!!」
『うん! ボク、レンと一緒、だから怖くないなの!!』

 今、何が起きているのか。
 ――それは僕達が寝てだいぶ経ってから、真夜中のことでした。


 久しぶりに夜中に目が覚めた僕は、スノーラがいないことに気がつきました。
 そうしたら一緒に寝ていたはずのドラちゃんが起き上がって、スノーラとドラゴンお父さんは今、森に変化が起きたから、ちょっと見に行っているって教えてくれました。
 その変な感覚はドラちゃんも感じて、スノーラ達が起きた時に一緒に起きたそうです。
 その後はなんか眠れなくなっちゃったから、そのままベッドでゴロゴロしていたみたい。そうしたら僕が起きたの。
 その変な感覚っていうのがどんな感じか聞いたら、ドロドロしているような、体にまとわりついてくるような、そんな感じだって教えてくれました。
 スノーラ達は他にも感じたみたいだけど、でも詳しく聞く前に、森へ確認に行っちゃったそうです。
 そうか、スノーラ達、今、いないんだね。
 ベルンドアに行く前日なのに、ゆっくり寝られないなんて。どうして今日に限って、いつもと違う変化が起こるのさ。
 そう思いながら、僕はトイレに行くことにしました。
 ドラちゃんが人に変身してドアを開けてくれて、そうしたらその向こうにはセバスチャンさんがいました。相変わらずまだお仕事中だったみたい。
 それでトイレに連れて行ってもらって、今日はホットミルクなしで部屋に戻りました。
 部屋に戻った僕達は自分の寝る場所へ。僕はルリとアイスの間に、ドラちゃんはルリの隣に。
 それで僕が先に、セバスチャンさんにベッドへ乗せてもらったんだけど、ベッドに入ろうとしたドラちゃんが、急にピタッと止まったと思ったら、それから部屋の中を見渡しました。

「どりゃちゃ、どちたの?」
「いかがなさいましたか?」

 そう聞いたら『しっ』て、静かにしてのジェスチャーをしてきたドラちゃん。
 その様子を見たセバスチャンさんが、ポケットからあの連絡用の石――対になっている物と連絡できるっていう魔道具を出します。
 その瞬間しゅんかん――

「大変、何か来る!! ここから離れないと。レン! ベッドから離れて! このベッドに向かってくる!!」

 急なドラちゃんの言葉に、反応できない僕。
 そんな僕をセバスチャンさんが抱き上げて、ルリとアイスもヒョヒョイと持ち上げると、僕の胸のところに置いてきました。
 それからピョンって、一回でドアの方まで飛んだんだ。セバスチャンさんがそんな動きするのを初めて見ました。
 セバスチャンさんが飛んだのとほぼ一緒に、ドラちゃんもベッドから一回飛んだだけで、僕達のいる場所まで来たよ。
 でも次の瞬間、ベッドが爆発。
 バリバリッ! ガシャーンッ!! って凄い音をさせながら、バラバラになっちゃいました。
 その音で、寝ていたルリ達も流石さすがに起きて、何々って僕の胸であたふた。
 僕は二匹が落ちないようにしっかり抱き寄せて、何かがおそってきたってことだけささっと伝えました。
 その間にも、ベッドを攻撃した何かが、こちらを襲ってきます。
 それは黒い影みたいなもので、くいみたいな形になって襲ってきたり、たくさんのトゲみたいになって攻撃してきたり、色々と形を変えながら迫ってきました。
 それのせいで部屋の中はすぐにボロボロになっちゃいました。

「レン!! どうしたの!?」
「何の音だ!?」

 その時、廊下ろうかからお兄ちゃん達の声が聞こえてきました。
 他にも声が聞こえて、みんな騒ぎに気付いて来てくれたみたいです。

「エイデン様、レオナルド様!! 何者かによる襲撃しゅうげきです!! 入ってきてはなりません!! 私共も今から部屋から出ますので、離れていてください!」

 セバスチャンさんがシュッと攻撃をけながら、遠くなっちゃったドアの方へまた進み始めます。
 ドラちゃんも攻撃をかわしながら、同じようにドアの方へ。
 先にドアの前に着いたドラちゃんが外へ出たら、お兄ちゃん達が部屋をのぞいていました。

「レン! セバス!!」
「今そちらへ参ります! お二人は旦那だんな様にお知らせを!」
「大丈夫、もう知らせに行ってる! もう来るはずだ! 石で連絡したんだろう!? それにこの騒ぎだからね、流石に気付いてると――」
「セバス! 上だ!!」

 エイデンお兄ちゃんの言葉を遮って、レオナルドお兄ちゃんが叫びます。
 僕は思わず上を見たんだけど、でも上だけじゃなくて、下からも黒いものが飛び出してきました。
 セバスチャンさんは避けたんだけど、足にそれが当たって、ドアの少し前で倒れちゃったの。
 僕達も一緒に倒れちゃったんだけど、お兄ちゃん達が助けに来てくれました。
 それでレオナルドお兄ちゃんが剣で黒いものを弾きながら、なんとか部屋から出ます。
 それとは逆に、沢山の騎士きしさん達が部屋へ入って行って、僕達の周りを、盾を持った騎士さん達が囲んでくれました。

「セバス、大丈夫か?」
「何のこれしき」

 そう言って、足の傷の部分にさっと布を巻いたセバスチャンさん。
 僕達を守ってくれてありがとうって、みんなでありがとうをします。
 セバスチャンさんがニコッと笑ってくれました。

「どうしたんだ!!」

 ちょうどその時、ローレンスさんがけつけてきて、部屋の中を見て険しい顔になります。

「セバス、説明を。それからエイデン、レオナルドはレン達を連れて避難ひなん部屋へ。話を聞き次第、すぐにケビンを向かわせる」
「分かった! さぁ、レン、みんな、行こう」
「俺が守ってやるからな」

 騎士さん達とお兄ちゃん達に守られながら、エイデンお兄ちゃんに抱っこしてもらって部屋から離れる僕達。

「あんなどこから襲ってくるか分からない攻撃、避難部屋で大丈夫なのか?」
「あの部屋の近くにいるよりはいいでしょう? ほら、しゃべってないでまずは移動だよ、しっかり守ってね、レオナルド」
「分かってるよ。それより兄さんは、それ何を持ってきたんだよ」
「いや、何が起きてるか分からなかったから、使えそうなものをカバンに詰め込んできたんだ」

 レオナルドお兄ちゃんとエイデンお兄ちゃんがそんな話をしながら、僕達を守ってくれている騎士さん達と一緒に、どんどん廊下を進んでいきます。
 ドラちゃんは後ろを何回も振り返って、何か難しい顔をしていました。
 大丈夫だよ、ドラちゃん。ローレンスさん達は人にしてはかなり? おかしい? くらい強いってスノーラ言っていたし。それにきっと、スノーラ達もすぐに帰ってきてくれるから。
 そのまま一階に移動した僕達は、僕達がまだ入ったことのない、少し広い部屋へ入りました。
 そしてドアと窓の前に三人ずつ騎士さんが立って、部屋の外には残りの騎士さん達が立ちます。
 お兄ちゃん達は僕達をソファーに座らせて、部屋のチェックをしていました。
 僕はソファーに座って深呼吸をしてから、部屋の中をしっかり見てみたんだけど、ちょっと不思議でした。
 飾りとかは全くなくて、あるのは小さなソファーが六個、テーブルもとっても小さくて、その上には飴の入っている入れ物があるだけで、あとは何もっていません。それから、クローゼットが端に一個。
 部屋にあるのはそれだけで、本当に余計な物を置いていません、って感じの部屋だったよ。
 あと、窓には鉄格子てつごうしみたいなものが付いていて、窓も他の部屋と比べると、とっても小さいです。

『何にもない』
『うん、何にもないなの』

 ルリとアイスは僕からあんまり離れない距離で、くるくる飛んで周りを見たり、ちょろちょろ歩いてみたり。
 僕が隣のソファーに座っているドラちゃんを見たら、まだ難しい顔をしていました。

「どりゃちゃん、だいじょぶ、しゅのーも、おとうしゃんも、しゅぐかえっちぇくりゅ」
「うん、そうだね」
「むじゅかちいかお、どちたの?」
「あの襲ってきた奴、移動できるよ。今はレン達の部屋にいるけど、きっとまた移動して僕達の所に来るんじゃないかな」
「ドラ、どういうことか話してくれる? あ、レオナルドはあのドアをチェックしておいて」
「分かった」

 部屋をチェックしていたエイデンお兄ちゃんが、僕達の話を聞いてこっちに来ました。


 レオナルドお兄ちゃんは向こうの壁の方へ行って、壁をパンパン軽くたたき始めます。
 お兄ちゃん、何をしているんだろう? エイデンお兄ちゃんには、ドアをチェックしてって言われていたよね? それ、壁だよ?
 僕達の部屋から離れたから、そこまで大きな音は聞こえないけど、でもそれでも音は続いていて、そんな中、お兄ちゃんがドラちゃんに話を聞きます。
 ドラちゃんがあの攻撃が来るのが分かったのは、力のかたまりみたいなものが、地面の中を動いているのを感じたからでした。
 最初はお屋敷の外門の辺りで、その力が急に現れたみたい。本当に突然だったって。
 それで初めのうちは、壁の周りをぐるぐる回っていたその力は、何かを探しているみたいに、止まって進んでを繰り返していました。
 それで少しして、その力が裏の壁まで来た時、そこでピタッと止まって、それから一気にお屋敷の方に向かってきたんだって。
 お屋敷の方に進んできた力は、その後も最初と同じように、お屋敷の建っている下の地中をふらふらして、また何かを探す様子を見せました。
 でもまたピタッと動きを止めたそうです……そう、僕達の真下でね。
 そして一気にその力が僕達に向かって攻撃してきたんだ。

「それは絶対? たまたまレン達を攻撃してきたんじゃなくて?」
「うん、たまたまじゃないよ。だって一直線だったもん」

 一直線って、なんで僕達の所に来たんだろうね?
 お兄ちゃんは話を聞いた後、とっても難しい顔になって、何かを考え始めます。
 その時ルリがあわてて僕達を呼びました。

『わわ!? レン! アイス! 壁が動いたよ!』

 急いでルリが見ている方を見る僕。アイスも僕の足元からルリの方を見ています。
 ルリが見ていたのは、レオナルドお兄ちゃんの方。
 今レオナルドお兄ちゃんは、壁を押していて……押して?
 よく見たら、ルリが言った通り、壁が動いていました。
 壁の向こうには通路みたいなものが見えたけど……そういえばこの部屋は、お屋敷の一番端の部屋だったけど、なんであんな所に通路が? 
 うわぁ、うわぁ、あれは一体何? 
 壁に気がなった僕は、ドラちゃんとエイデンお兄ちゃんが、また話を始めたことに気付いていませんでした。

「あのね、エイデンお兄ちゃん」
「ん、何だい? 他にも何か気付いたことがある?」
「あの……多分だけど。たまたまかもしれないし」
「大丈夫だよ。気付いたことがあるなら、なんでも話してね」
「うん……あの変な力、レンをねらってるみたい」
「レンを? ルリやアイス、ドラ、セバスでもなく、レン?」
「うん、僕達じゃなくてレン。最初はベッド全体を攻撃してくるって思ったの。でも直前でレンの方に力が集中して……ベッドは結局攻撃でバラバラになっちゃったけど」
「そっか。でもそれだけなら勘違いって可能性も」
「ううん。それにね、その後の攻撃も。僕、最初はレン達と一緒にいたから、その時は分からなかったんだけど。攻撃を受けてバラバラの方向に逃げたら、僕の方にはあんまり来なくなったんだ」
「あんまり?」
「二回だけ攻撃されたけど、他は全然。ずっとレン達の方を狙ってた。でもやっぱりルリ達もレンと一緒だったし、もしかしたらそっちを狙ってたのかも。ごめんなさい、ちゃんと分からなくて」
「そんな、謝らなくていいんだよ。ドラのおかげでみんな無事だったんだ。それにそういう細かい所に気付いてくれて、本当にありがとう」
「……うん!」

 そうこうしているうちに、壁が完璧に開ききっていました。

「おにいちゃ! かべひらいちゃ!」

 僕は思わず、エイデンお兄ちゃんを呼びます。

「おにいちゃ!」
「はいはい。あっ、これを父さんに届けて」

 エイデンお兄ちゃんが軽く僕に返事をしながら、紙にスラスラ何かを書いて、ドアの前にいた騎士さんにそれを渡します。

「しっかり届けてね」
「はっ!」

 騎士さんが外へ出ると、エイデンお兄ちゃんは「ちゃんと開いたみたいだね。あ、レン達はもう少しソファーに座ってて」って言って、そのままレオナルドお兄ちゃんの方に行っちゃいました。
 その間に、僕の頭の上に戻ってきたルリと、僕の足の上に乗ってきたアイス。
 ドラちゃんが『どうしたの?』って聞いてきたから、壁の方を指差したら、『あれ? いつの間にか壁が動いてる』って、目を丸くしてました。
 そう、壁が動いたんだよ。僕は最初からは見ていなかったから、最初から全部見ていたルリが色々教えてくれたよ。
 パンパン壁を叩いていたレオナルドお兄ちゃん。
 僕もここまでは知っているけど、その後今度は、地面もパンパン叩き始めたみたいです。
 それが終わったら、何かをブツブツ言いながら四箇所かしょ、手でそっと壁を触ったって。その触った範囲の壁が動いたみたい。
 その後は、壁を横に押し始めたお兄ちゃん。
 ルリは変なのって思っていたらしいけど、少ししてチリチリって少しだけ粉が降ったそうです。
 多分、壁が動いた時に、ほこりか何かが降ったんじゃないかな。
 そうしたらガコンッて、いきなり壁が横にずれて隙間すきまができました。
 レオナルドお兄ちゃんはちょっと顔を赤くしながら、壁をそのまま押していって……ハッ!! と我に返ったルリが急いで僕達を呼びました。
 そこからは、僕が見た通りです。
 それにしても、壁に秘密の扉? 全然分かんなかったよ。普通の壁に見えたし、地面に壁が動くような隙間だってなかったよね?
 う~ん、向こうはどうなっているのかな? ここからじゃよく見えない。

「うん、綺麗だね。この前点検で開けたのは一ヶ月前だったからね。埃もほとんどない」
「兄さん、俺は少し先を見てくる。途中の灯りも今のうちにつけてくるよ」
「その方がいいね。ねぇ、そこの!」

 エイデンお兄ちゃんがドアの所にいる騎士さんを呼ぶと、その騎士さんはお兄ちゃん達の所へやってきます。

「レオナルドに付いていって」
「はっ!!」

 レオナルドお兄ちゃんと騎士さんは、壁の向こうへと進みます。どうも向こう側は、すぐ階段になっていたみたいで、二人の頭の位置はどんどん下がっていきます。
 それからエイデンお兄ちゃんが僕達の所に戻ってきて、僕達にテーブルの飴をくれながら、あの壁の話をしてくれました。
 ここは避難部屋って言ってたけど、何かあった時に備えて作られた部屋みたいです。
 この世界には、いい魔獣さんばっかりじゃなくて、人に危害を加える魔獣さんもいるでしょう。時々そういう魔獣さんが、大群で街を襲ってくることがあるみたい。
 そして襲ってくるのは、何も魔獣さんだけじゃありません。人も襲ってくることもあります。
 そういう非常事態の時に、この部屋に避難をするんだって。
 もちろん、そういう時にはローレンスさん達は街の人達のために動かないといけないから、ここにこもったりするわけじゃありません。それでも、例えば非常事態への対応を決めたり、話し合ったりする時とかにここを使います。
 それで、玄関以外にも避難経路を作ってあって、それがあの秘密の扉。
 地下に続いていて、一階から二階分くらい降った後は、ひたすら進むそうです。途中に何本も道があるんだけど、ちゃんと出口につながっている道は二本しかないんだって。
 もし敵がここまで入ってきちゃっても、逃げた人達が捕まらないようにするため、わざと何本も道が作られているんだよ。
 それと、あの壁は向こう側からも閉められて、そしたら綺麗に元通りの壁になるから、普通の人じゃなかなか見つけられないって。
 あと、開けるのには呪文じゅもんも必要で、限られた人しか知りません。無理やり開けるにはかなり大変で、これも時間稼ぎになります。


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