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2巻

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 プロローグ


 僕はジョーディ。元々、如月きさらぎ啓太けいたって名前で日本に住んでたんだけど、神様のせいで病気になって、小学三年生で死んじゃったの。そしたら別の女神のセレナ様に、異世界に転生させてもらえることになったんだ。
 家族みんなが仲良しなことと、僕の体が元気なこと。その二つを約束してもらって、マカリスター侯爵家に転生しました!
 新しいパパはラディス、ママはルリエット、お兄ちゃんはマイケル。そして忘れちゃいけないのが、ブラックパンサーのローリー。みんなとっても優しくて、大好きな家族です。


 そして僕はあっという間に一歳になりました。
 そんな僕の誕生日を祝うために、パパのお父さんとお母さん――じぃじとばぁばの家に遊びに行くことになったんだけど……旅行の途中で、魔獣の群れに襲われちゃいました! 僕も魔獣にさらわれちゃって、ちょっと怖い思いをしたんだ。
 でもローリーが助けてくれて、あと、魔獣のうち四匹と一緒に行動することに。ついて来たのはダークウルフの親子とホワイトキャットの親子。子供の二匹――僕はわんわんとにゃんにゃんって呼んでいます――が悪い病気になっちゃって、僕の家に来ると良くなるかもしれないんだって。
 そんなこんなで、僕達はわんわんやにゃんにゃんを連れて、じぃじの家に再出発!
 その後も、途中で合流したじぃじのお顔が怖くて泣いちゃったり、変な赤いかたまりを見ちゃってビックリしたり、怪しい男の人を捕まえたり……とにかく大変だったよ。
 じぃじの家に着いたら、ばぁばが迎えてくれて、僕達は楽しいパーティーをしました。こんな日が明日も明後日あさっても続くといいなぁ!




 1章 苦いジュースと甘いジュースと魔獣襲撃


「ひっく、うう、うえぇ」
「ダメね、止まらないわ。やっぱり薬を飲ませないと」
「まさかちょうど薬が切れてるとは」

 今は夜中。僕はもう三回も吐いてます。それに熱もあるの。
 あのね、じぃじの家に着いてから、とっても楽しくて興奮しちゃって、たくさんご飯を食べて動いて……そしたら、寝るちょっと前に熱が出ちゃいました。
 僕はパパがすぐに魔法で治してくれると思っていました。でもパパのヒールだとお熱は下げられないんだって。だからすぐにお薬を飲もうとしたら、お熱を下げるお薬がちょうど、じぃじの家になくて。仕方ないから、朝になったら急いでお薬を買いに行くって、パパが言いました。
 でもその後どんどんお熱が上がって、気持ち悪くなった僕は吐いちゃったの。パパ達はとっても慌てて、今ばぁばがお医者さんの所に、お薬を取りに行ってくれています。

「うえっ!」

 また吐いちゃった。気持ち悪いし、それにぼうっとする。

「ジョーディ? あなた、冷たい水に変えて」
「分かった」


 パパがお水の入った器を魔法で冷やします。ママが僕のおでこに、冷たいお水でらしたタオルを付けてくれました。

「ただの興奮による熱だと良いんだが」
「ぱ~ぱ、ヒック、ま~ま」
「大丈夫よ。ママもパパもここにいるでしょう? もうすぐ、ばぁばが薬を持って来てくれるからね」

 とっても楽しいご飯だったのに、吐きすぎて疲れちゃいました。

「ジョーディ? いやだわ、熱が上がっちゃったみたい⁉」
「ちょっと様子を見てくる」

 パパ何処行くの? 行かないで、行っちゃヤダ。

「ぱ~ぱ、うえぇ」
「あなた、ダメよ。今これ以上泣いたら、また熱が上がってしまうわ。きっともうすぐよ」

 泣いてるからよく見えないけど、一生懸命手を伸ばして、何とかパパの手を握ります。
 すると、バタンッ‼と何かの音が聞こえました。

「先生が来てくださったわ!」

 今のは、ばぁばのお声?

「先生! 熱が上がってしまって!」
「ジョーディ様を私に」

 誰かが僕のことを抱っこします。ママでもパパでもありません。僕、二人の抱っこを間違えないもん。誰? ママとパパの所に帰して!

「これは……良いですか、私がこれから言う物を用意してください!」

 僕の周りがバタバタとってもうるさくなりました。少しして、誰かが「先生、持って来ました」って。

「カバンの中から青色のびんを出して、その中に持って来た薬草をすりつぶして入れてください!」

 うう~、煩い。頭痛いし気持ち悪いし、誰か知らない人が僕のことを抱っこしてるし。パパ、ママ、何処? 何処にいるの?
 さっき誰かに抱っこされた時に離しちゃった手を少し動かして、パパ達を探します。ふと、誰かが僕の手を握ってくれました。これ、ママの手だ! 絶対そうだよ。そう思っていたら、反対の手も誰かが握ってくれて……こっちはパパだ! 

「大丈夫よ。ママもパパもジョーディの側にいるわ」
「先生、できました‼」
「私に! ジョーディ様、これで具合が良くなりますからね」

 いきなり口の中に何かが入って来ました。それがとっても苦くて、僕は吐き出しちゃいます。

「ジョーディ、飲んで」

 また口の中に苦い物が。うえ、今度は飲んじゃった。嫌がっても、苦い物がどんどんお口に入ってきます。その度に飲んだり吐き出したり……うええ、たくさん飲んじゃった。
 僕を抱っこしている誰かが、ほっとした声で言います。

「ふう、吐き出すのを考えて多めに作りましたからね、これで良いでしょう。即効薬ですから、すぐに熱が下がってくるはずです。それを確認したら次の治療に移ります」

 あれ? なんか体のポカポカがなくなってきた? 頭が痛いのと気持ち悪いのはそのままだけど。
 僕はそっと目を開けました。ぼやっとしていたけど、だんだんとはっきりしてきて、最初に見えたのはパパとママのお顔でした。僕が二人のことを呼んだら、二人共心配そうな顔をしながら、ニコッて笑います。

「ちゃんと薬が効いたみたいですね。では次にこの薬を。この薬は甘くて美味おいしいですから、ジョーディ様も喜んでくれるでしょう」

 誰かが僕にまた何かを飲ませようとしました。僕は口をぎゅって固く閉じます。だって、さっき、苦い変な物を飲んだもん。覚えてるよ、今もお口の中は苦いままだし。

「ジョーディ、甘いジュースよ。さぁ飲んで」

 本当かな? 僕はゆっくり鼻を近づけて、クンクン瓶の匂いをぎます。ちょっとハチミツの匂いがしました。匂いは大丈夫そうだけど……今度はぺろって、少しだけめてみます。
 やっぱりハチミツだ! ジュースじゃなくてハチミツだよ、これ! ねばねばしていない、サラサラのハチミツだ。
 瓶の中身が分かった僕は、安心してコクコク飲みました。飲み終わったら、お口に残っていた苦いのがさっぱり消えています。それに、全部じゃないけど、頭の痛いのも、気持ち悪いのも治った気がします。
 ん? あれ、そういえば?
 僕は頭を上げて周りをキョロキョロ。パパとママは僕の左に座っていて、それから……。僕は上を見ました。
 そこにはパパと同じ歳ぐらい?で、とってもカッコいい男の人がいて、僕を見て優しい顔で笑っていました。なんと、その人が僕のことを抱っこしています。

「ふえぇ⁉」
「おっと、ルリエット様、ジョーディ様をお返しします。今泣かれたら、せっかく落ち着いたのに、また元に戻ってしまいますから」

 ママが僕のことを、ぎゅっと抱っこしてくれます。それからベッドに行って寝かせてくれました。僕はママと離れないように、ママの手を握ったままです。

「先生、それでジョーディは?」
「かなり体がお疲れになっているようです。これほどの疲れ、ジョーディ様のような小さなお子様には、かなり危険なレベルのもの。そのままの状態だったら、命が危なかったかもしれません。一体何がこんなにジョーディ様を……」

 パパが男の人と話している間、僕はあっちを見たりこっちを見たり、男の人を観察したり。あの男の人、僕のことを治してくれたの? もしかしてお医者さん?
 パパがこれまでのことを簡単に説明すると、男の人が頷きました。

「そんなことが。元気に見えていても、かなりストレスと疲れが溜まっていたのでしょう」

 話を終えた男の人が僕に近づいて、おでこに手をくっ付けてきました。

「熱は完全に下がりましたね。症状も落ち着いているようです。ですが明日、明後日はこのまま安静に。このくらいの歳の子は、元気になるとすぐに動き始めますから。今落ち着いているだけで、無理をすればまた同じことの繰り返しになります」

 男の人が立ち上がって、ママがご挨拶あいさつした後、ドアの方に歩いて行きます。そして、パパと一緒に部屋から出て行きました。少ししたら、パパが戻って来たよ。
 ママとパパがニコニコ、僕の頭を撫で撫でしてくれます。パパ、ママ、僕もう平気だよ。とっても元気!


     *********


 医師のラオクは、次男のジョーディを診察した後、マカリスター家をあとにした。歩きながら、一つ気になっていることがあった。
 体の中心にあった、あの光は一体? あの光のおかげでジョーディ様は一命を取り留めた。あの光がなければ今頃……。
 明日も一応診察に行こう。そしてあの光をもう一度確認してみよう。
 彼はそう心に決め、家路いえじを急ぐのだった。


     *********


「ジョーディはどうした‼」

 私――ラディスがほっとしていると、父さんが姿を現した。

「父さん、今眠ったところだから静かに。ラオク先生のおかげで何とか落ち着いたよ」
「そうか。良かった良かった。知らせを聞いた時は肝を冷やしたぞい」

 父さんが声を落としジョーディに近づくと、小さな頭を撫でる。
 そこへ母さんが、ジョーディに洋服を掴まれて動けないルリエットに、お茶を持って来てくれた。母さん特製の、体が温まる薬草入りお茶だ。

「お義母かあ様、ありがとうございます」
「いいのよ。それで? あなたはどうしてここにいるのかしら?」

 母さんが尋ねると、父さんは鼻息を荒くする。

「孫の一大事じゃ。駆け付けるに決まっておるじゃろ。それにちょうど仕事は終わったところじゃ」
「なら私達は談話室だんわしつで一息つきましょう。あなたがいたら煩くて、せっかく寝たのに起きてしまうわ」

 母さんに言われてルリエットを残し、私と父さんは部屋を出て談話室に向かう。部屋に入ると、すぐに使用人のトレバーが飲み物を運んできた。そのお茶を飲み、一息つく。
 はぁ、それにしても慌てた。あんなに苦しむジョーディを見たのは初めてだったからな。いや、マイケルでも、あそこまでのことはなかったな。
 自分の子供があんなに苦しんでいるのに、親として何もできないとは……自分の不甲斐ふがいなさが頭にくる。ラオク先生のおかげで落ち着くことができて、本当に良かった。
 父さんに今回の病状の説明をすれば、明日の尋問では覚えていろと唸る。そう、明日から早速、あの事件を起こした冒険者達の尋問が、ギルドのろうで行われるのだ。
 ダークウルフとホワイトキャットの子供を誘拐ゆうかいしようとした、あの冒険者達。あいつらがあんな危険なことをしなければ、そもそもジョーディが怖い目に遭うこともなかった。
 父さんには夕食前に、この街の冒険者ギルドのマスター、カーストの所に行ってもらっていた。そして夕食を挟んだ後、先程まで明日の段取りを考えてくれていたのだ。
 今回取り調べたい連中は、既にギルドに放り込んでおいてある。魔獣を攫おうとした冒険者達、途中の街で、キラービーの襲撃を引き起こした冒険者達。そして、二つの事件を手引きしたと自供じきょうした男……今頃ギルドの地下は大騒ぎだろう。

「そういえば、カーストは今何を?」
「先に届けておいた報告書に書き切れんかったことを伝えたら、すぐに尋問を始めると、地下に下りて行きおった。凄い笑顔だったぞ」

 明日からの尋問は、父さんと私と、ダークウルフの父親――通称わんパパ達、それからアドニスがひきいる騎士団の者達で、交代しながら行うことになっている。
 そのため、父さんはお茶を飲み終えると、明日からの尋問に備え、もう寝ると部屋を出て行った。
 そんな父さんを見て、母さんが私にも早く寝ろとうながす。大人しく部屋に戻りジョーディの様子を窺うと、笑みを浮かべながら眠っていた。顔色ももういつも通りだ。
 ルリエットも安心したんだろう。ベッドに腰掛けたままの格好で、ジョーディの隣で眠っていた。
 本当に良かった。良かったが、一つ問題がある。ジョーディがこのまま二日間、大人しくしていられるだろうか?


     *********


「レイジン、どうだ様子は?」
「もう尋問が始まっています」
「全員か?」
「私が仕掛けた方の冒険者からです。明日にはサイラス・マカリスター達が自ら尋問を行うかと」

 私――レイジンとデイライトの前には今、ベルトベル様がいる。私達がいる場所は、表向きには武器屋だが、私達の密会のための家でもある。普段は別の街にある本部にいるベルトベル様だが、これからの計画のために、自らここへお越しになられた。

「あの剛腕ごうわんの騎士が自らか……。本当に厄介やっかいなことになった」
「いかがされますか。すぐにでも、奴ら冒険者達の元へ参りましょうか」
「向こうにはカーストがいる。奴がいると、あそこへ忍び込んだ途端に気付かれ、見張りを増やされてしまうだろう。が、サイラス達が尋問を始めれば、すぐに私達の情報が漏れてしまう可能性もある」

 奴ら冒険者は、私達に繋がる確実な証拠とまでは言えない。奴らに会っていた時は変装していたし、手紙などによる連絡もしていない。絶対に我々の情報が漏れないようにしていたが……。
 しかし、それでも何かの拍子ひょうしに、私達のことがバレてしまう可能性もないわけではない。しかも今回尋問するのは、そこら辺のギルド職員ではない。あのサイラス達なのだ。ちょっとの矛盾むじゅんを突いて、私達の存在に気付いたらと思うと、ベルトベル様の懸念けねんも理解できる。
 ベルトベル様は、少し考え込んだのちに口を開いた。

「とにかく、尋問を開始される前に動かなければなるまい。良いか、カーストは私が何とかギルドから引き離す。その間にお前達は……分かっているな」
「完璧に死体が残らないまでるか?」

 デイライトの目がするどく光った。

「ああ。だが無理ならば、殺すだけで早くそこから離れろ。この問題が片付いたら次の作戦に移るぞ。予定よりかなり遅れている。オルゾイド様がお待ちだ」
「分かった」

 そして話し合いの数時間後。

「ベルトベル様、準備が整いました」
「よし。少し遅れてしまったが、間に合うだろう。良いか。作戦を開始する。合図を送れ」
「はっ‼」
「奴らもこれは放っておけないだろう」

 ベルトベル様が部屋を出て、それぞれが自分の仕事に取りかかる。私とデイライト、そして仲間の何人かは、冒険者ギルドの近くで待機する。気配を探れば、かなりの人数で尋問をしていることが分かった。前回確認した時の倍ぐらいの人数が、ギルドの地下を行ったり来たりしている。
 私は仲間達に指示を飛ばす。

「良いかお前達、いつでも行けるようにしておけ」
「「「はっ‼」」」


     *********


 ガタガタ、ゴソゴソ。

「……で、……だから」

 う~ん、煩い。僕、寝てるんだから静かにして。
 目を擦りながら頭を上げて、周りをキョロキョロ見渡します。僕の隣でお兄ちゃんがすぅすぅと寝息を立てていて、それから別の部屋で寝ていたはずのわんわん達が、ボールで遊んでいます。
 部屋の真ん中辺りにいるのはローリーとわんパパ達でしょう。窓の方ではパパ達がお話ししていました。パパはお外に行く時のお洋服を着ています。

「ぱ~ぱ」
「ん? ジョーディ起きたのか、具合はどうだ?」
『ジョーディおはよう』
『もう大丈夫?』

 具合? 何のこと?
 わんわん達がボールで遊ぶのをやめて、僕の方に来て顔をすりすりしてきました。それからママも僕の方に歩いて来て、おでこに手をくっ付けました。それからニッコリ笑います。

「頭痛くない? 気持ち悪かったり、お腹痛かったりしない?」
「ちゃま、ちゃいちゃい、ぽんぽんちゃいちゃい?」
「そう、ちゃいちゃいよ。でもこの様子なら大丈夫そうね」

 僕、元気だよ。全然何処も悪くないよ。どうしてそんなこと聞くのかな? まっ、いっか。
 僕は今、パパの方が気になります。だってパパが今着てるのは、外に遊びに行く時の服なんだもん。あの服を着ていると、いつもママが、あんまりお酒飲まないで早く帰って来てって、パパに注意してるんだ。パパ、何処かに遊びに行くの?

「ぱ~ぱ、くのね~」
「ん?」
「あちょ! くのよ~」
『遊びに行くんでしょう』
『ジョーディも行くって』

 僕の言いたいことを、わんわんとにゃんにゃんが通訳してくれます。

「ジョーディ、パパはこれからお仕事なんだぞ。遊びに行くんじゃないんだ」

 え~、嘘だよ。遊びに行くお洋服だもん。パパだけじゃなくてじぃじも、同じような格好だし、二人で遊びに行くんでしょう? 僕も行きたい! 僕のお話をまたわんわん達が伝えてくれます。

「遊びに行く洋服?」
「あなた、いつも飲みに行く時の格好をしてるから、ジョーディは遊びに行くと思っているんじゃないかしら。あなたがそういう格好する時、いつもニコニコして出かけるもの」

 パパがよく見てるなって感心しました。
 だって、僕はあんまりお外に出られないでしょう。出るとしてもお庭だけだったし。
 それなのにお外に遊びに行く時のパパは、すっごくニコニコ。街ってどんなに楽しいんだろうって、パパを見ながらいつも考えてたんだ。

「子供は親の行動をよく見てるのよ。これからはこういう時のために、少しはひかえたら?」

 パパが僕のことを抱っこして、これから大事なお仕事だってお話ししてくれます。本当に本当?
 じゃあパパはいいや。ママ! ママはお仕事ないでしょう? 遊びに行こうよ! またわんわん達が伝えてくれます。
 そしたらニコニコだったママが、困り顔になって、遊びに行けないって言ったの。何で? 何でダメなの。僕はブーブー、手をバタバタしながら文句を言います。

「昨日お医者様に言われたのよ。明日までは安静にって。分かる? お家でゆっくりよ」

 昨日、お医者さん? そう言えばさっきのママ達、具合悪くない?って僕に聞いたよね。昨日はどうしたんだっけ。夜のご飯をわんわん達とわいわいしながら食べて、その後はゆっくりするお部屋に行って、みんなでゴロゴロして遊んで……。
 一生懸命考えていたら、だんだんと昨日のことを思い出してきました。そうだ! とっても体が熱くなって、それから気持ち悪くなって吐いちゃったんだ。その後は……。
 吐いちゃったところまでは思い出したけど、その後のことが分かりません。もしかして僕が覚えていないだけで、お医者さんに行ったのかな? それで、お医者さんが明日まで安静にしなさいって言った?
 僕は頭を触って、お腹を触って、それから胸をすりすり。それから足をバタバタ、腕をバタバタ。
 うん。いつも通り元気! 大丈夫だから遊びに行こうよ。

「ダメよ。お医者様の言うことはちゃんと聞かないと。また具合が悪くなるかもしれないでしょう?」

 僕はそれを聞いてまたブーブーです。ブーブー言ってたら、パパがお仕事に行く時間になったみたい。パパとじぃじがママに声をかけて、部屋から出て行っちゃいました。
 ママ、僕とのお話し合いの途中だよ! 僕がこんなにブーブー騒いで遊びに行く交渉こうしょうをしてるのに、お兄ちゃんはいつもみたいに全然起きないし。もう朝だよ! 起きてお話し合いに参加してよ。
 お話し合いをしていたら、ばぁばが部屋に入って来ました。その後ろからカッコいいおじさんも入って来ます。パパと同じくらいの歳の人です。ん? 僕、会ったことがあるような?

「おはようございます」
「ラオク先生、こんな朝早くからありがとうございます」

 ママが深くお辞儀じぎをします。
 カッコいいおじさんのお名前はラオク先生だって。先生って、何の先生?
 ラオク先生が僕の方を見て、あれ?ってお顔をします。

「もう起きていらっしゃったのですね」

 そう言ってこっちに歩いて来ました。僕とわんわん達は、急いで寝ているお兄ちゃんの後ろに隠れます。そしたらやっとお兄ちゃんが起きました。そんな僕をママが抱っこします。

「それでは先生よろしく……」

 ド~ンッ‼ バア~ンッ‼
 ママがお話ししようとした時でした。突然外で大きな音が。ママが僕とわんわん達を、それからお兄ちゃんのことをまとめて抱きしめます。
 僕は近くに置いてあったサウキーのぬいぐるみに手を伸ばします。うう、あとちょっとなのに届きません。そしたら急にサウキーが僕の所にやって来ました。僕がちょっとだけお顔を上げると、サウキーを渡してくれたのはラオク先生でした。

「可愛いぬいぐるみだね。そのまま動いちゃダメだよ」

 音が鳴るたびに、少しだけお家がガタガタと揺れます。音が止まったのは少し経ってからでした。音がやんですぐに、パパがお部屋に入って来ました。

「ルリエット、母さん! 街の壁の外で、何か所かから煙が上がってる。見張りからの信号によるとウォーキングウッドとベヒモスとワイルドボアの襲撃だ! かなりの数らしい!」
「時期的にはちょっと早いわね。それでも来てしまったのだから仕方がないわ」
「私と父さんが向かうから、母さんと君は子供達を」

 わんパパとローリーが目を合わせます。

『俺達も行こう』
ウッドはラディス達に任せる。オレ達はベヒモスとワイルドボアの方へ』
「助かる。先生もルリエット達と一緒に避難を」

 パパが僕とお兄ちゃん、ママをギュッて抱きしめた後、剣を持ってお部屋から出て行きます。聞いたことのない名前だけど、たぶん魔獣だよね。この前のキラービーみたいに、街に来ちゃったのかな? パパに続いて、ローリーとわんパパ達が、お部屋から出て行きました。
 ママが僕達にベッドから下りないように言って、カバンに色々入れ始めました。ばぁばがすぐに戻って来ると言って部屋から出て行くと、入れ替わりに使用人のレスターとベルが部屋に来て、ママと一緒に荷物の準備をします。
 僕がベルの名前を呼んだら、ニコッて笑って、おもちゃはちゃんと持ちましたからねって。あと、この前買ってもらったおもちゃとかぬいぐるみは、じぃじが特別な所にしまってくれたから大丈夫ですよって言いました。
 お兄ちゃんがママ達を見て、何かピンと来たようです。ベッドの横に置いてある台の引き出しから、みんなのシャボン液を入れるための瓶を出して、それぞれの首にかけてくれます。それからさっきまでわんわん達が遊んでたボールをベルに渡して、カバンにしまってもらいました。


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