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3巻
3-1
しおりを挟む1.クルクルのストライドへのお願い?
中学生の僕――望月奏は、子犬を助けようとして一緒に車に轢かれ命を落としました。でも、神様の力で異世界に生まれ変わることになります。その子犬――フィルと名付けました――はフェンリルに、僕は……なぜか二歳児になって新しい世界へ。挙句、神様は僕たちを間違えた場所に転移させてしまいました。どうすればいいのか分からなくて困ったけれど、寂しくはありません。なぜなら、僕とフィルは家族になったからです。
そんな僕たちの前に、ドラゴンの子供のアリスターが現れます。彼と友達になった僕たちは、彼の住むドラゴンの里でお世話になることになりました。
それから、僕が『神の愛し子』であることが判明したり、ホフティーバードのクルクルが僕とフィルの家族になったりと、楽しく毎日を過ごしています。
ただ、僕たちはこのままドラゴンの里にいるのか、それとも人間の街に行くのか決めなければいけません。
僕、フィル、クルクルで話し合いをしていたけれど、そろそろ結論を出すことになり――
人間のウィバリーさんたちが来てから数日、最初は魔法のことでドタバタしていたけど、それもなんとか落ち着きました。
いや、うん、僕とフィルを異様に持ち上げる、ワイルドウルフのイングラムたちも少し落ち着いてくれています。僕たちがどこかに出かけて帰ってくると、凄い勢いで駆け寄ってきて、しっぽをぶんぶんさせて、大きなワンコは変わっていないものの、それでもあのにへらぁって顔は、ちょっと減りました。
今までは、何もしなくても、ご飯を食べているだけで、廊下を歩いているだけで、その表情を見せていました。でもこの頃は、僕たちが魔法の練習をしているときや、何かをやって成功したときだけ、その表情になります。
ただ面倒が一つ増えました。昨日、フィルとクルクルのブラッシング用のブラシを買ってもらったので、早速夜ご飯の後、まったりしているときに、フィルにブラッシングしてあげました。
そうしたら、いつの間にかイングラムたち全員が、フィルの後ろに一列に並んでいて、ブラッシング待ちをしていたんです。今の小さい僕には、フィルをブラッシングしただけでも、かなり体力を使うのに、さらに大きな大きなイングラムたちを全員ブラッシングできるはずもなく……
昨日はイングラムだけやってあげました。体の半分だけですが……
半分だけブラッシングされたイングラムは、半分ふわふわ、半分ごわごわのままです。
よくテレビで見る、半分だけ試してみました、これがビフォーアフターです、みたいになっていました。
それでも嬉しかったのかな? あのだらしない、全身を使った伏せをし、ずっとにへらぁと笑ったままに。しかもその上、他のワイルドウルフたちに自慢したもんだから、次は誰がブラッシングしてもらうかで喧嘩しちゃって……最後にはアビアンナさんたちの雷が落ちました。
結局僕の体力を考えて、フィルをブラッシングした日は、誰か一匹の体半分だけ。残り半分は次の日に。フィルのブラッシングがないときは、一匹全部ブラッシングしてあげることに決まります。
イングラムたちに、もうすぐ森に帰るんじゃないの? 全員できないかもしれないって言ったら、やってもらったら帰るって。みんなが帰ってから、フィルとクルクルのブラッシングをしてあげればよかったよ……
今日はお昼ご飯を食べた後に、とても嬉しいことがありました。なんと、僕たちに執事のストライドがいいものを用意してくれたんです。そして、ストライドにそれをお願いしてくれたのは、クルクルでした。
『クルクル、アレが用意できたので、確認してくれ。その後、カナデ様とフィルに』
『わあ、もうできた。早いね。すぐ見に行く』
そんな会話をしたクルクルたち。どうしたのって聞いたら、待っててって言われて、クルクルはストライドと部屋から出ていっちゃいました。僕たちはそのままリラックスルームで待つことにします。
数十分後、クルクルたちは戻ってきました。ストライドは箱を抱えていて、それをテーブルの上に置きます。僕たちがすぐにテーブルの周りに集まると、クルクルが箱に乗って説明を始めました。
『あのね、この前、ストライドにお願いした』
「おにぇがい?」
『そう。僕、色々考えてた。それで、ちょうどいいって思ったの。だからストライドに聞いて、そうしたら大丈夫って言われたから、お願いして作ってもらった』
『つくる? なにつくるなの?』
『フィル違う。もう作り終わって、完成した。今確認してきた、いい感じ。あとはみんなにあえば完璧』
もっと詳しく聞こうとしたんだけど、まずは見てみてって。クルクルが箱から降りると、ストライドが箱を開けてくれます。そして、箱の中身を僕たちに配りはじめました。
僕は、僕の体半分くらいのカッコいい盾と、小さなカバーに入っているナイフ、それにおもちゃの剣でした。
フィルが貰ったのは、昔のヨーロッパで戦士が使っていたような兜で、一本のツノがついています。それから、輪っかにギザギザがついているものを五個。後は、僕と同じおもちゃの剣ね。
最後にクルクルは、クルクルの頭にピッタリサイズの、フィルと同じくギザギザがついている兜に、小さな小さな鋭い指サックみたいなもの。それから、甲冑みたいなものです。おもちゃの剣もあるよ。
『色々作ってもらった。まずカナデ。カナデはよく飛ばされる、フィルもクルクルも飛ばされるけど、カナデが一番危ない。だから、盾を作ってもらった。それからナイフは、こっちは一応、まだカナデ使えないけど、洞窟探索とか、他の場所とか、冒険に行ったときにいつか使う』
その後もクルクルの説明は続きます。
このナイフは冒険以外にも、自分を守るためにいつか使えるかもしれないから、持って歩けるようにカバンに入る大きさにしてくれたそうです。
おもちゃの剣は、魔法以外も練習できるように、だって。後は遊びでも使えるし。
続いてフィル。フィルは盾は持ちにくい、というか持てないし、咥えるのも大変そうということで、頭を守るために、ドラゴンの騎士さんたちがつけている兜を作ってもらいました。そこには、頭突きで攻撃できるようにツノがついています。
それからギザギザがついてる輪っかは、足や手、それからしっぽ、好きな場所にはめて、いつでも攻撃できるようにだとか。もちろんそれで洞窟なんかで壁を叩いて、素材を採るのに使ってもいいの。最後の剣は遊ぶ用ね。
そして、クルクルの兜はフィルと同じ、頭を守るためと攻撃用。それから小さな鋭い指サックみたいなものは、自分の足先に全てはめて、攻撃したり、素材を採ったりするんだって。
甲冑みたいなものは、しっかりとクルクルの胴体にフィットして、体を守るものでした。「重くないの?」って聞いたら、なんと紙一枚分の重さしかないんだとか。それなのにとっても丈夫らしいです。
そしておもちゃの剣は、もちろん遊び用。でもクルクルのは、攻撃もできるって言ってました。剣を掴んで、敵を突くって。
とりあえずの説明が終わると、クルクルはフンッと胸を張りました。これらを、クルクルがストライドにお願いして作ってもらったの? さらに詳しい話は、ゆっくりソファーに座って聞くことになりました。
クルクルが話したのは、とっても大切なことで、そしてとっても嬉しいことでした。
今僕たちは魔法の練習をしていますが、まだまだ始めたばかり。飛べる魔法と、ようやくこの前から、水ボールと土ボールの練習を開始したところです。
クルクルなんて、まだ魔力を溜める練習をしている最中。あと少ししたら、何か魔法の練習を始める予定だけど、どっちにしても僕たちは基本中の基本の、魔法の練習中です。
だから、何か自分たちを守れるものはないかって、クルクルは考えました。
最初に考えたのはウィバリーさんがここへ来たときだそうです。エセルバードさんと喧嘩して、僕たちは塔に避難しました。
避難してからも、今度はエセルバードさんたちを叱ったアビアンナさんたちの攻撃により発生した衝撃で、また僕たちは飛ばされそうになりました。
もちろんクラウドが僕たちを守ってくれたけど、もし何かあったときに、誰も守ってくれる人がいなかったら? そのときは、僕たちなんてすぐに飛ばされちゃいます。
それに、飛ばされなくても、何かが飛んできて怪我をしたら……
だからそのためにも、盾とか兜とかを扱う練習をした方がいいと思ったんだって。
また、守ること以外にも、クルクルは考えました。
洞窟探索に行って素材を採るとき、簡単に採れるものと、なかなか壁から剥がせなかったり、周りの部分を割ってから採らないといけなかったりと、素材によって採り方が全然違います。
そのとき僕たちは、クラウドやストライドに手伝ってもらって、ナイフやヘラ、トンカチなんかで採ってもらいます。
このときに、自分たちで使えて、怪我をしないような安全な道具があればなあって考えたそうです。
それから、もし道具が作れるなら、それを使って、攻撃もできれば面白い、とも。もし洞窟以外の探索や冒険に行くようになったら? ほら、僕たち最初にこの世界へ来たとき、思い切りイノシシ魔獣に襲われたでしょう? そういうときのために、探索、探検の道具にもなって、武器になるものはないかと考えたと言います。
そして、その材料として思いついたのが、この前の大きなサイのような魔獣ラナソーンでした。最初はトゲが危ない、キバ、ツノが危ないって見ていただけだったけど、ストライドが素材を剥ぎ取っている間に、ハッと思いつき、すぐに彼に話しました。
それがあの夕食のときの二人です。クルクルが何か話して、ストライドがメモを取って。それから素材を触って、クルクルが考えているものに合うか確かめて。
もちろんクルクルは、素材を少しもらってもいいか聞いています。ストライドは、クルクルが考えたものくらいだったら、そんなに素材を使わないからって許可してくれました。
そしてでき上がったものが、今僕たちが持って、身につけている防具と武器です。
僕はじっと防具と武器を見ます。フィルもアリスターも。
うん、この盾は、軽いから僕でも持てるよ。だから、サッとまではいかなくても、ササッと構えられます。
試しにアリスターが、僕に向かってボールを投げてくれました。僕は盾を構えます……うん、ちゃんと防ぐことができました。うん、初めての守る練習、これいいかも!!
次はフィル。地下にある体育館に移動して、使用人さんに魔獣のお肉と、岩を用意してもらいました。
岩は、僕よりちょっと大きかったけど、使用人さんは片手でひょいと持っています。というか、その岩はどこから持ってきたの?
フィルがお肉の塊に突撃すると、しっかり兜のツノが刺さりました。それから手足、しっぽにはめた、トゲ付き輪っかでも攻撃をします。こちらも引っ掻き傷がつきます。
次は岩で試してみます。洞窟探検で壁を砕くイメージです。フィルがしっぽのギザギザ輪っかで岩を攻撃したら、うまい具合に岩が割れました。力の入れ方次第では、もっと粉々にできるかもしれないって、ストライドさんが言います。
最後はクルクルです。クルクルもまず肉の塊に突撃します。ちゃんと兜のトゲは刺さったし、足にはめた鋭い指サックでの攻撃も、フィルよりしっかり肉の塊に傷がつきました。クルクルは、うんうん頷いています。
そして、鋭い指サックは引っ掻くだけが攻撃じゃありませんでした。ヒョイッと足から指サックを外して、クチバシにはめたクルクルは、お肉の塊を突いて穴を開けます。
それが終わったら、またヒョイッとクチバシから外して、足にはめ直しました。
その後は岩にも突撃です。ちゃんと岩もいい具合に砕くことができて、こっちも問題ありませんでした。フィルよりも細かく砕けるから、細かい作業にちょうどいいです。
確認が終わった僕とフィルは、クルクルを見ます。クルクルがこんなことを考えてくれていたなんて。しかも、それを実現させるなんて。
『カナデ、フィル、ボクの家族になってくれた。ずっと一緒って言ってくれた。それに、いつもボクを守ってくれる。ボクとっても嬉しかった。だからお礼したかった。いつもありがとうって。カナデ、フィル、いつもありがとう!!』
僕はクルクルを抱きしめます。フィルもすぐに駆け寄ってきて、僕たちに覆いかぶさります。
「ぼくも、ありがちょ!! かんがえちぇくりぇて、ありがちょ! かじょくありがちょ!!」
『いっぱいありがとうなの! みんなありがとなの! ぜんぶ、かっこいいなの!!』
クルクル、こんなにいっぱい僕たちのことを考えてくれて、本当にありがとう!!
その後も、いっぱいありがとうをした僕たち。その後は、作ってくれたストライドさんにも、いっぱいありがとうをしました。こんなに嬉しいありがとう、きっとなかなかないよね。
次の日から、魔法の練習と、クルクルが考えてくれた武器と防具の練習を、交互にすることにしました。だって、せっかくクルクルが考えてくれたんだよ、ちゃんと練習しなくちゃ。
今日は武器と防具の練習です。まずは僕から。フィルとクルクルが、ボールや木の実を投げてくれるので、それを盾で防ぎます。
これ、本当にいい練習かも。里にいるドラゴンはみんな気をつけてくれるものの、それでもすれちがうときに、しっぽがぶつかりそうになったことがありました。もちろんクラウドがひょいっとかわしてくれたけど、そういうときにも対応できるようになるかもしれません。
『カナデいくなの!』
『こっちも、それ!』
フィルたちは最初はゆっくり、ボールや木の実を投げてくれました。時々盾を構えるのが遅れて当たっちゃうけど、それでもほとんど防げています。右、左、右、左ってね。
この盾も、クルクルの甲冑と同じで、薄くて軽いのに、防御力がとっても強いんです。僕のレベルに合わせて、今はボールや木の実で練習しているけど、本当だったら、初めて会ったイノシシ魔獣くらいなら、攻撃を簡単に防げるんだって。
それからこの前の、アリスターのお母さんのアビアンナさんが、アリスターのお父さんで村の長のエセルバードさんを叱ったときに使った雷魔法も弾いちゃうんだとか。あの物凄い雷をだよ?
「え? そんなに凄い盾なの?」って聞いたら、単にラナソーンの素材を使うだけでなく、他にも特別なことをして作ってくれたみたい。武器、防具が強くなる魔法をかけたとか、くっつけたとかなんとか。
しかも僕が大きくなって、盾のサイズが合わなくなったら、別の素材を合わせて大きな盾に作り直すから、心配しないでくださいねって。
僕は、本当に凄い盾を作ってもらったみたいです。これは大切に使おうって思いました。
『次はこっちなの!!』
『たぁ!!』
「ふんっ!!」
あ~、ちょっと失敗。上手く守れなくて、頭に当たっちゃった。う~ん、横の動きからの上下の動きがちょっと苦手かも。
そうそう、他にも少し問題がありました。僕の体が小さいせいで……
今回作ってもらった盾は、盾を作る上で最小の大きさで、僕がすっぽり隠れて、少し余裕があるくらいです。
だから今のところ、左右に動かすだけ、上下に動かすだけで、僕は盾に隠れなくても、攻撃を防ぐことができます。
逆に言えば、盾が大きすぎて、僕自身は大きく動けません。これが一つ目の問題です。
もう一つ問題があって、そう、持って歩くのが大変なんです。
自分で運ぼうと思って、地下にある体育館まで、僕は一生懸命……引きずっていました。ズルズル、ズルズルと。
軽いから重さは気にならないんだけど、大きさには勝てません。背負って運ぼうとも考えましたが、今度はカメみたいになってしまいました。あっ、そのままカメの格好で進むことはできたよ。
『さすがに大きさはどうにもならないわね。でも子供はすぐに成長するから、きっとすぐに背負ったり、普通に持ったりして運べるようになるわよ。それに、同じ盾を使い続けることは、いいことなのよ』
「使い続ければ使い続けるほど、どんどん盾が自分に馴染んでくるのよ。使いやすくなって、素早い動きができるようになるの」
アビアンナさんと、ウィバリーさんの奥さんのローズマリーさんが言いました。
『武器も同じなのよ。というか、自分で使うもの全てかしら。完璧に壊れてしまったらしょうがないけれど、でも大事に大事に使って、ずっと使い続ければ、それだけ武器も防具も、自分にとって最高のものになるわ』
「みんにゃ、しょ?」
『アビママも、マリーママも、おなじぶき、ぼうぐなの?』
『子供の頃からずっと?』
僕、フィル、クルクルが聞きます。
『……そうよ』
「……もちろん」
ん? なんか今、一瞬言葉に詰まったような?
『私たちはそうでもないけど、エセルバードたちはねえ』
「そうね。何度武器も防具も壊したことか」
『私たちドラゴン用の武器は、他の種族のものよりも丈夫にできているはずなのに』
「ウィバリーだってそうよ。どれだけ丈夫に作ってもらっても、すぐに壊してしまうんだもの」
そういえば、エセルバードさんが持っている剣は、僕たちがここへ来たばかりの頃と、違う気がする……
「ありしゅたぱぱ、はじめてみちゃけん、あお。でもいまはくりょ」
『ああ、それはね。カナデたちが来て五日くらいして、練習中に折っちゃったのよ。だから今のは新しい剣よ。いつ折ってもいいように、何本も用意してあるのよ』
そんなに? だって、ずっと使えば、自分にピッタリになるんでしょう? もったいなくない? 僕は貰った盾も、今はまだ使えないナイフも、大切に使うよ。
僕の盾をどうやって持つかは、また後で考えることにして、次はフィルたちが攻撃の練習をしました。それから洞窟に行ったとき用に、昨日の残りの岩を使って、岩を砕く練習です。
それでね、その練習のときに、アリスターが内緒で教えてくれたんだけど……
『あのね、かあ様はとう様よりも、武器を壊すんだよ。盾も剣もなんでも。力を入れすぎちゃうんだって。この前、カナデたちが来る少し前ね――』
その日フィルたちは、森の中に遊びに来ていました。それで、おやつに果物を食べようと思ったんだけどナイフがなかったので、アリスターたちはそのまま食べようとしました。でも、アビアンナさんははしたないって、剣で果物を切ろうとしたそうです。
そうしたら、勢いと力の入れすぎで、果物を載せるために使っていた岩を、一緒に切っちゃったんだ。そうしたら、その勢いで剣も折れちゃったとか。
アビアンナさんも、エセルバードさんたちのこと言えないよね……
そんな毎日を過ごすうちに、僕たちがどこで生活するのか、気持ちをウィバリーさんたちに伝える日が、ついに明日になりました。だから今日は魔法の練習も、武器、防具の練習もなし。午前中とお昼寝、おやつまではアリスターと遊び、その後で自分たちの話し合いをすることにしました。
これが最後の話し合いです。明日は午前中にウィバリーさんたちとお話をして、これからの僕たちのことを決めます。スモールハウスに集まって、アリスターが『後でねえ』って出ていきました。それから、話し合いをするならって、メイドのアリアナはお茶を用意してから部屋を出ていきます。
クラウドだけはスモールハウスの外にいます。僕たちの護衛だからね。でも、僕たちの声が聞こえないところにいてくれるそうです。
ただ、クラウドは言いました。
『話し合いの前に私からよろしいでしょうか』
「にゃに?」
『どうしたなの?』
『大切なこと?』
『私はすでに、エセルバード様方、そしてウィバリー様方に、了承……簡単に言えばお願いをしておりました。そして、そのお願いを叶えていただいております。私はカナデ様方がどちらで暮らそうとも、必ずついていきます。もちろん、それは人間の街でも、です』
そういえば、そんな話をエセルバードさんたちがしていたよね。あのときは一応みたいな感じだったけど、完全に決まったってことなのかな? でも、もし本当に僕たちがウィバリーさんたちの街に行っても、ついてくるの? ドラゴンの里じゃなくていいの?
うん、話し合いの前に、クラウドの話もしっかりしておかないとね。だって、大切なことだから。僕たちと一緒にいてくれるのは嬉しいけど、でもやっぱり違う場所で暮らすのって、大変だと思うんだ。
「くりゃうど、だじょぶ? ちゃいへんじゃにゃ?」
『たいへんダメなの』
『ボクたちは家族だから、どこへ行ってもみんなで頑張る。クラウドもそう?』
『私の主は確かにエセルバード様です。また何度か街へ行ったことがありますが、確かに暮らすとなると、今までと違うことがあるでしょう。ですが今の私は、エセルバード様同様、カナデ様方も、とても大切なのです。ですからどんな状況になろうとも、カナデ様方から離れることはありません』
そんなに? そんなに僕たちのことを大切に思ってくれているの? 僕はクラウドの話を聞いてニコニコです。
『たいせつなの? みんなたいせつなの? ボクもたいせついっぱいなの?』
あっ、フィル、よく分かってない。うん、大切はあってるんだけど、たぶんフィルの大切は、おもちゃや宝物のことを言ってる気がする。
『フィル、クラウドの大切、ボクたちのことが大好きってこと。だからいつも一緒にいるって』
『たいせつ、だいすきといっしょなの? クラウド、ボクだいすきなの? わあ! だいすき、ずっといっしょにいるなの!』
『うん、そう』
うんうん、クルクル説明ありがとう。クラウドの周りを大好き、ずっと一緒って言いながら、グルグル跳ね回るフィル。そして最後に――
『だいすき、ずっといっしょ、かぞくなの!!』
そう言いました。そうか、大好きでずっと一緒って、今の僕たちと一緒だもんね。確かに家族だよ。クルクルもフィルの言葉に、一瞬きょとんとして、家族、大好き、ずっと一緒って、ぶつぶつ言いながら考えています。クラウドは……いつものすました表情でした。
うん、ちょっとクラウドのことは後で考えよう。クルクルにそう言ったら、それでいいって。フィルはもう家族って感じで嬉しそうにしているけど、これも大切なことです。クラウドだって、急にそんなこと言われたら困るはず。でもとりあえず今は……
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