19 / 113
2巻
2-3
しおりを挟む
*
次の日、予定通りに僕たちは、洞窟へとやって来ました。しっかり、自分たちでバケツに道具を入れて持ってきています。ストライドやクラウドが荷物を持ってくれるって言ったんだけど、自分でできることは自分でしないといけません。
でも、途中でどうしても持っていられなくなったら持って、とお願いしました。さすがに、それで洞窟探索が遅れたら困ります。
あと、お屋敷を出発する前に、アビアンナさんから特別なプレゼントをもらいました。僕とフィル、それからクルクルに、カバンです。
僕は肩からかけるタイプで、フィルのイラストが描いてあるカバンでした。
フィルとクルクルは、サイズピッタリのリュックで、ちゃんとそれぞれの絵が描いてあるから、誰のカバンか一発で分かります。二匹とも、つけた状態でしっかりと動けるか、動作確認もしました。もちろん、二匹ともいつも通りに走ったりジャンプしたり、飛んだり、まったく問題ありませんでした。
そのカバンにハンカチと、地球のティッシュに似ているもの、後は途中で食べるおやつを入れたら完璧です。僕もフィルたちもニコニコ。アビアンナさんにきちんとお礼を言いました。
アリスターのカバンは、アリスターの体と同じ色の、僕と同じ首からかけるタイプのカバンです。そこには、僕たちのカバンに入れたものの他に、ノートとペンが入っています。
見つけた素材について書くんだって。遊びに来たんだけど、初めてのことは書くのが勉強だと、エセルバードさんたちに言われてるみたいです。
今日洞窟に行くのは、僕たちとアリスター、クラウドにストライド、それからアリアナです。洞窟に着くまでにも、色々見たことがないお店がありました。気になったけど今日は洞窟探索。今度また連れてきてもらおうって、みんなで話しながら進みます。
そして洞窟の前に着きました。本当に大きな洞窟が里の中にありました。入口には、ドラゴンたちによる洞窟に入るための列ができています。僕たちも列に並びました。前から聞こえてきた声は――
『今日は何人で?』
『夕方までですね』
『ルールを守って楽しんでください』
洞窟の門番さんが、色々と聞いていました。ちゃんと人数と帰る時間を確認して、しっかり書き留めています。いくら子供が入れるといっても、洞窟は洞窟です。記録しておけば、何かあってもすぐに分かります。
そして待つこと数分。やっと僕たちの番です。
『ストライド、話は聞いております。人数と時間もすでに』
『そうか、人数に変更はない。それに時間も予定通りだ』
『了解いたしました。ではみなさん、こちらをつけてください』
門番のドラゴンから渡されたのは、オレンジの石がついたペンダントでした。これはさっきの危機対策と同じく、洞窟から帰ってこない人たちを見つけられるようにするためです。
石に魔力を流すと、同じ材質の石が反応するので、それを辿って見つけるんだとか。
『では、洞窟探索、楽しんでくださいね』
「うん!」
『はやくいくなの!』
『キラキラ、ピカピカ、宝物!』
『今日は何が見つかるかなあ』
みんなでぞろぞろ洞窟の中へ入ります。入った瞬間、空気がヒヤ~としました。さすが洞窟、外よりも涼しいです。
ちなみに、今この世界は、始まりの季節なんだそうです。他にも順番に緑の季節、次へ向かう季節、白の季節があります。話を聞いた感じ、日本で言うところの、春夏秋冬に似ています。
今は春にあたる始まりの季節で、暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい時期です。
『ここから暗くなりますので、足元に気をつけて。私たちが明るくしますから大丈夫だとは思いますが』
すぐにストライドとクラウドが、周りを明るくしてくれました。といっても、暗くないと見つからないものもあるらしくて、足元がうっすら見える程度の明るさです。
『ねえねえ、カナデ。なにみつかるかななの!』
『みんなで宝物見つける、一緒の宝物。それで、みんなでしっかり宝物入れにしまう』
クルクル、それいいかもね。みんなお揃い、絶対いいよ。
どんどん中へ入っていきます。少し行くと、先に入っていたドラゴンの家族が何かをしていました。子供ドラゴンが虫籠みたいなものに、何かを入れています。よく見たらクルクルみたいな、モコモコボールでした。僕の指の先っぽくらいの大きさです。
『あれは、チョウという虫です』
クラウドが教えてくれました。チョウって蝶?
『どこにでもいる虫で、可愛いと子供に人気です』
あっ、虫籠の中で飛んだ! 本当だ、飛んだら蝶だって分かりました。クルクルみたいに、飛んでいないときは羽を丸くしているようです。うん、可愛い! 僕も見つけたら捕まえたいな。飛ぶところが見たいんです。その後はちゃんと自然に戻します。
ちなみに、この蝶の寿命は、五十年以上でした。地球の蝶と全然違います。ビックリしてしまいました。ただ、この世界の生き物は、もともとそれくらい長生きするそうです。これは、ストライドが言ってました。
虫取りドラゴン家族を追い抜いて、さらに洞窟を進んでいきます。
『あっ! あそこ、何か光った! 行こう!!』
クルクルが僕の手に降りてきて、斜め前の方向を羽でさしました。
僕たちはそこに向かって走り出します……が、石につまずいて『べしゃー!!』と転びました。
ちゃんと前に手を出したんだけど、勢いがついていて、顔も手もお腹も膝も、全部が擦れるわ、ぶつけるわで、痛いのなんの。
「い、いちゃ、いちゃあぁぁぁ!!」
子供の体になっていて、痛みを我慢できない僕は、ギャン泣きです。
『カナデ、だいじょぶなの!!』
『カナデ!! 大変!』
『ストライド! 早く薬! 持ってきたでしょう!?』
『カナデ様!!』
『クラウド、これを!!』
ストライドがクラウドに小瓶を渡して、クラウドはギャン泣きの僕に、その中身を飲むように言いました。グッドフォローさん特製の怪我を治す薬で、飲めばすぐに効くそうです。
僕は泣きながら、なんとかそれを飲み干すと……飲んで数秒後、痛みが引きはじめたと思ったら、擦り傷も消えはじめて、一分もしないで怪我が完璧に治りました。うん、やっぱりグッドフォローさんは凄い。
『カナデ、だいじょぶなの?』
『もう痛くない?』
フィルとクルクルが心配して尋ねてきます。
「うん、いちゃにゃい」
『カナデ様、皆様も、暗い場所で急に走ってはいけません。いくら明るくしていても、最低限の明るさなのです。今みたいに怪我をして、薬がなかったらどうしますか? 洞窟探索はできなくなってしまいますよ。怪我が酷ければ動けずに、洞窟から出られなくなる可能性もあるのです』
僕たちはストライドに、ごめんなさいをしました。
『いいですか、今度から何かを見つけても、決して走ってはいけませんよ。せっかくの楽しい洞窟探索が、悪い思い出になってしまいます。この後は約束を守って、楽しく探索をしましょうね』
みんなでしっかり『はい!!』と返事をします。そうしたら厳しい顔をしていたストライドが、ニコッと一瞬だけ笑って、その後はいつも通り仕事中のスンって顔になりました。
僕は立ち上がると、気合を入れ直して、今度はみんなで歩いて、クルクルが何かを見つけた場所に行きます。
『ストライドさん、申し訳ありません。急なことに反応できませんでした』
『クラウド、子供は私たちが思っている以上に、急な動きをします。まあ、それが子供なのですが、あなたにもいい教訓になったでしょう。次からは気をつけてください。今回は危険がない洞窟でしたが、いつも何もない場所であるとは限りませんので』
『はっ!』
走らずに気をつけて。うん、今みたいにしっかり歩けば大丈夫。よし、クルクルが見つけたものは……
「クルクルど?」
『なにもないなの』
『あれえ? さっきはあったのに』
『別のところだった?』
クルクルが何かを見た場所と、その周辺を見たんだけど……これといって何もありません。壁にキラキラしているものが見えたそうです。う~ん、でも何もないよ。
『アリスター様、洞窟では色々試しなさいと、旦那様に教えられませんでしたか?』
ストライドが言います。試す? 何を? アリスターは何か気がついたみたいで、『あっ!』と言ったあと、ストライドにもう少し明かりを暗くするよう頼みました。ストライドが頷いて、光魔法を弱めます。そうしたら……
『キラキラ出た!!』
『いきなりキラキラになったなの!!』
「にゃんで!?」
クルクル、フィル、僕は一斉に叫びました。壁の一ヶ所に、キラキラが現れています。よく見ると、壁にとっても小さいキラキラ光る石が挟まっていたんです。本当に小さくて、僕の指先くらい。でもキラキラが強くて、だから、遠くからでもクルクルは見つけられたようです。
『正解です』
洞窟には、周りの明るさによって、見え方が変わるものもあるんだとか。今回は、明るいと見えない石です。明るいとただの石で、暗くすると、今みたいにキラキラ光ります。
夜、この石を部屋に撒いて明かりを消すと、星空の中にいるみたいにとっても綺麗に見えるとのことです。
プラネタリウムの床バージョン? それやってみたいかも。この石はお店で売っているから、ストライドが『買って帰りますか』と言います。でも僕はみんなと相談して、洞窟で集めて持って帰ることにしました。
だって、せっかくの洞窟探索だから、みんなで探して持って帰った方がいいに決まってます。
ということで、これからは他のものも探しつつ、時々周りを暗くして、この石を探すことにしました。
最初の一個目は、見つけたクルクルが取ります。上手く足を使って、ひょいっと壁から外した後、石が下に落ちる前に、空中でキャッチです。僕たちは拍手します。
クルクルは、なくさないように、持ってきていた小さな布袋に石をしまいました。袋は、小さいものを入れる用、ちょっと大きめなもの用を用意していて、もっと大きなものはバケツに入れます。
これも、洞窟に行くときには大事なことです。小さなものをバケツに入れて、気づかないうちになくしてたら嫌ですから。
こうして、僕たちは最初の戦利品を手に入れました。もちろん、みんなで嬉しいときの『やったぁ!』のポーズをします。洞窟探索はまだまだこれからです。
「ちゅぎは、あち!!」
『こんどはなにかなあなの!!』
『なんかピカッ、ピカッて点滅してる』
『あれ、僕も見たことないよ』
本当? 何回か洞窟に入ったことのあるアリスターが見たことないなんて。もしかしたら、大発見かもよ。
「はちりゃにゃい、みにゃ、ゆっくり!」
『いくなの!!』
僕たちは、新しく発見した何かに向かって前進。でも約束した通り、走りません。また転んだら大変です。まだ薬はあるみたいだけど、最後まで怪我をしないことが大切です。
*
『嫌だわ、ストライド、何あれ。早歩き? それとも横走り? いいえ、走ってはいないから横歩きかしら』
カナデたちの様子を見にやって来たアビアンナが言った。
『アビアンナ様、カナデ様方は、最初以外は私どもの言うことを聞いてくださり、どこへ行くにもちゃんと歩いて向かわれるのですが……』
『なぜかあのような歩き方に』
ストライドとクラウドが答えた。
『なるほどね、クラウド。早歩きの方は、細かく足を出して、なるべく走らないようにしているのが分かるわね。ただ、普通に歩いた方が前に進むでしょうに。横歩きの方は……どうして横に歩くのかしら? 子供って、時々謎の動きをするわよね』
『先ほど、普通に歩いていいのですよ、とお伝えしたのですが、カナデ様方は分かっていないご様子で』
『まあ、約束を守るのはいいことね。私も面白い動きが見られてよかったわ。早く仕事を切り上げてきた甲斐があったわよ』
*
「とちゃく!」
僕――カナデたちの前には今、岩にくっついている何かがあります。石みたいなのに、もこもこした柔らかそうなものがついているような、よく分からないものです。ただ、ピカッ、ピカッて点滅して面白いんです。
途中で合流したアビアンナさんたちがすぐに追いついてきました。
アビアンナさんは、僕たちの初めての洞窟を心配して、様子を見にきてくれたそうです。エセルバードさんも来ようとしたんだけど……
来る前に、ストライドがリラックスルームで、エセルバードさんに書類の山を渡していました。僕の背丈の大きさの書類の山が、全部で五つ。今日のノルマだそうです。
それが全然終わらないんだとか。アビアンナさんが来るときに見たら、まだ一つ目の書類の山の途中だったみたいです。
そんなにたくさんのお仕事大変だねって、お話をしていたら……どうも、僕たちがドラゴンの里に来る前からのサボり分が溜まりに溜まっているだけで、今更後悔しても遅い、とストライドが言っていました。
それはともかく、アビアンナさんによると――
『これがここにあるのは珍しいわね。普通はもっと大きな洞窟か、危険な洞窟に生えることが多いの。これは光苔の仲間よ』
光苔にはたくさん種類があります。まず、光るときの色が白だったり、青だったりと、色んな色が。それから、苔の葉の形も様々で、あと単体で生えているか、群生しているか……他にも色々と違うことが。今までに発見されている苔の種類は千を超えているとのことです。
地球でも集めている人たちがいるように、この世界でもそういった人たちがいて、珍しい苔は高値で売り買いされるんだとか。品評会とかもあるらしいです。
そして、今僕たちの前に生えている苔は、とっても珍しい種類でした。本来は、僕たちが行けない、しかも年齢制限がかけられている洞窟で、時々見つかるんだそうです。
『ストライド、確かこの苔は、光り方が珍しいけど、育てるのは思ったよりも楽だったわよね』
『はい、環境さえ合えば、すぐに生長するかと』
『この量を育てれば増えるわよね。そうすれば、暗い部屋で綺麗な苔を見ることができるから、持って帰りましょうか』
『ピカピカきれい、もってかえるなの!』
『ピカピカが増えた!』
『しっかり持って帰ろうね。僕、帰ったら、ノートにしっかり絵を描こう!』
苔を取るのはちょっと難しいから、ストライドがいくつか取ってくれました。それを、そのまま箱に入れます。今は少しの苔でも、上手くいけば増えてたくさんの苔が見られます。楽しみだなあ。
今、持ってきたバケツ三つのうち、一個と半分に、色々な素材が入っています。それとは別に、袋二つにも。
エセルバードさんは、素材が少ないから今の時期は空いてるって言ってたけど、嘘でした。洞窟の中は素材だらけ。まだまだ持って帰りたいのがいっぱいです。
今までに見つけたものは……最初の暗くすると光る石。それから踏むと『キュッキュッ!』と音が鳴る石。簡単に手でもちぎれるのに、水をかけてから切ろうとすると、まったく切れなくなる、とっても丈夫なツル。洞窟にしか咲かない、とっても可愛い花。あとはねえ、面白い形の石に、透明な石。これは僕が蹴るまで、そこに石があるって分かりませんでした。それからそれから……うん、いっぱい!!
ただ、とっても楽しいのはいいんだけど、やっぱり今日中に洞窟を全部見て回るのはダメそうで、半分まで行ったら帰ることになってます。次回は別の入口から入って、もう半分で遊べばいいからって。
もちろん半分まで行っても、そのまま帰るわけがありません。戻るときだって、しっかり探索しながらです!
『じゃあ、ストライド、今日はそろそろ戻りましょうか?』
『そうですね、アビアンナ様。ちょうどいいくらいかと』
僕たちは帰りながらも、どんどん素材を集めていきます。部屋に撒くつもりでいる石もしっかり集めないと。だって、あれだけ大きな部屋なんだから、いっぱいいります。
あっ、それから、この石は踏んでも大丈夫です。壁から取るまでは、普通の石と同じく硬いんだけど、壁からとって少し経つと柔らかくなるんです。ワタを丸く固めた感じ。だから踏んでも大丈夫です。
もちろん遊んだり、プラネタリウムみたいにしたりした後は、みんなでお片付けをします。風の魔法で集めてもらった石を、バケツに片付ける予定です。
『あっちにも、なにかあるなの!』
『発見!』
『あっ、これも持って帰ろう。まだまだ知らないものがいっぱいだよ』
洞窟の奥まで分かれ道はなく、ただまっすぐ進んだはずなのに、見落としていたものがいっぱいありました。ちなみに、洞窟の奥まで行くと、分かれ道になっていました。
右に行くと岩とか石とかがいっぱい、左に行くと苔とか花がいっぱいなんだとか。同じ洞窟なのに、あるものが違うって面白いです。
と、出口まで戻る途中、僕もキョロキョロ周りを見回していたら『ポワッ!!』と何かが輝いている感じがして、そっちを見ました。
でもそんな光っているものはなく、そこはただの壁でした。う~ん……なんか感じるんだよね。僕は壁に近づいて、しっかり調べてみます。もちろんストライドに灯りを暗くしてもらったり、さっと壁を撫でてみたり。でも、やっぱり何もありません。
う~ん、やっぱり僕の気のせい? 最初通ったときは、こんな感覚にならなかったのに。もう少し別のところも見てみようかな? 立ったまま見える範囲を調べていたので、しゃがんで地面や、壁の下の方を確かめてみました。
すると、地面と壁のちょうど境い目に違和感を覚えました。とはいえ、見る分にはただの地面と壁です。よし!! 僕は思い切って、その部分を触ってみることにしました。
「ちゃあ!!」
気合を入れて『ペシッ!』と思いきり叩きます。僕の手では、力の抜けた音しかしません。でも叩いてすぐでした。
ピシッ! パシッ!! ピシシッ!! パラパラ、バラバラバラッ!!
突然のことにビックリしていると、隣にいたクラウドが慌てて僕の前に立ちます。そして、僕が叩いた部分から壁が崩れて、僕が入るのにちょうどいいくらいの穴が開きました。
その壁の崩れた音に気づいたフィルたち、アビアンナさんたちも、急いでこちらに集まってきます。
「あにゃ、あいちゃ」
『え、ええ、穴ね』
「ぱちって、やっちゃの。あにゃ、ごめんしゃい」
いくらわざとじゃなくても、穴を開けてしまいました。しかも他の人たちも来る洞窟。この穴、誰か塞げないかな?
エセルバードさんたちの先生だったメイリースさんが魔法で木を生やすみたいに、もしくは僕が頑張って土魔法を練習して穴を塞ぐとか、一生懸命アビアンナさんに伝えます。
『大丈夫よカナデ、そんなに心配しなくても。洞窟なんてその日その日で変わるものなの。昨日はなかった穴が次の日には存在して、新しい道が見つかるなんてことはよくあるのよ。だから、心配しないで』
そうなの? はあ、よかった。ビックリしました。みんなで一緒に穴の中を覗き込みます。あっ! 光ってる! ポワッて!! 綺麗に光ってるものがあるよ。
『なにかあるなの!』
『ちょっと奥にあるね』
『綺麗な光だね。かあ様、取ってもいい?』
『そうね、嫌な感じはしないし、大丈夫だと思うけれど。ストライド、クラウド、アリアナ、あなたたちはどう?』
『私も何も感じません。どちらかといえば、いい気配を感じます』
『私も同様に』
『わ、私もです!』
『なら、いいわね』
『やった! カナデが見つけたからカナデが取ってくる?』
うん、アリスター! 僕が見つけたんだもん、僕が行くよ。それに、穴の大きさも僕にピッタリだし。僕はハイハイで穴に入っていきます。クルクルもついていくって、僕のお尻に掴まりました。
穴は数メートル奥まで続いています。幅は入口は僕が一人、ハイハイで通れるくらいで、中は僕がハイハイのまま、スレスレでUターンできるくらいでした。
魔法で明るくしているとはいえ、そこまでよく見えるわけでもないので、ちゃんとクルクルがお尻にくっついているか確認しながら進みます。
そして奥まで行くと……そこには青色の涙の形をした宝石みたいな石が、キラキラ、ポワッと光っていました。
「きりぇにぇ」
『うん、とっても綺麗!! カナデが、とっても凄い宝物見つけた! 凄い!!』
「もっちぇかえりょ!」
『うん!』
そっと石を触ります。触っても光は消えません。持ってハイハイは大変だから、僕は石を服の中にしまって、そのままUターンしました。
穴から出た途端、フィルとアリスターがずずいっと僕の前に来ました。
『カナデ、なんだったなの!?』
『石? 苔? 花?』
待って待って、今見せるから。僕はみんなに石を見せました。
『わぁ! すごくきれいなの!!』
『こんなの初めて見た!! 凄い凄い!!』
『これは一体……』
『私も初めて見たわ。こんなものが、こんなところにあるなんて』
『ここはこの里ができた当時からある洞窟。何百年も誰にも気づかれず、ずっとここに?』
喜ぶ僕たちの一方で、クラウド、アビアンナさん、ストライドが考え込んでいます。一応持って帰っていいか聞いたら、洞窟で見つけたものは、見つけた人のものだから大丈夫だって。ただ、目立つといけないから、クラウドが隠して持って帰ってくれることになりました。とっても綺麗だもんね。
こうして僕たちは、その後も色々素材を集めて、初めての洞窟探索を終えました。
次の日、予定通りに僕たちは、洞窟へとやって来ました。しっかり、自分たちでバケツに道具を入れて持ってきています。ストライドやクラウドが荷物を持ってくれるって言ったんだけど、自分でできることは自分でしないといけません。
でも、途中でどうしても持っていられなくなったら持って、とお願いしました。さすがに、それで洞窟探索が遅れたら困ります。
あと、お屋敷を出発する前に、アビアンナさんから特別なプレゼントをもらいました。僕とフィル、それからクルクルに、カバンです。
僕は肩からかけるタイプで、フィルのイラストが描いてあるカバンでした。
フィルとクルクルは、サイズピッタリのリュックで、ちゃんとそれぞれの絵が描いてあるから、誰のカバンか一発で分かります。二匹とも、つけた状態でしっかりと動けるか、動作確認もしました。もちろん、二匹ともいつも通りに走ったりジャンプしたり、飛んだり、まったく問題ありませんでした。
そのカバンにハンカチと、地球のティッシュに似ているもの、後は途中で食べるおやつを入れたら完璧です。僕もフィルたちもニコニコ。アビアンナさんにきちんとお礼を言いました。
アリスターのカバンは、アリスターの体と同じ色の、僕と同じ首からかけるタイプのカバンです。そこには、僕たちのカバンに入れたものの他に、ノートとペンが入っています。
見つけた素材について書くんだって。遊びに来たんだけど、初めてのことは書くのが勉強だと、エセルバードさんたちに言われてるみたいです。
今日洞窟に行くのは、僕たちとアリスター、クラウドにストライド、それからアリアナです。洞窟に着くまでにも、色々見たことがないお店がありました。気になったけど今日は洞窟探索。今度また連れてきてもらおうって、みんなで話しながら進みます。
そして洞窟の前に着きました。本当に大きな洞窟が里の中にありました。入口には、ドラゴンたちによる洞窟に入るための列ができています。僕たちも列に並びました。前から聞こえてきた声は――
『今日は何人で?』
『夕方までですね』
『ルールを守って楽しんでください』
洞窟の門番さんが、色々と聞いていました。ちゃんと人数と帰る時間を確認して、しっかり書き留めています。いくら子供が入れるといっても、洞窟は洞窟です。記録しておけば、何かあってもすぐに分かります。
そして待つこと数分。やっと僕たちの番です。
『ストライド、話は聞いております。人数と時間もすでに』
『そうか、人数に変更はない。それに時間も予定通りだ』
『了解いたしました。ではみなさん、こちらをつけてください』
門番のドラゴンから渡されたのは、オレンジの石がついたペンダントでした。これはさっきの危機対策と同じく、洞窟から帰ってこない人たちを見つけられるようにするためです。
石に魔力を流すと、同じ材質の石が反応するので、それを辿って見つけるんだとか。
『では、洞窟探索、楽しんでくださいね』
「うん!」
『はやくいくなの!』
『キラキラ、ピカピカ、宝物!』
『今日は何が見つかるかなあ』
みんなでぞろぞろ洞窟の中へ入ります。入った瞬間、空気がヒヤ~としました。さすが洞窟、外よりも涼しいです。
ちなみに、今この世界は、始まりの季節なんだそうです。他にも順番に緑の季節、次へ向かう季節、白の季節があります。話を聞いた感じ、日本で言うところの、春夏秋冬に似ています。
今は春にあたる始まりの季節で、暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい時期です。
『ここから暗くなりますので、足元に気をつけて。私たちが明るくしますから大丈夫だとは思いますが』
すぐにストライドとクラウドが、周りを明るくしてくれました。といっても、暗くないと見つからないものもあるらしくて、足元がうっすら見える程度の明るさです。
『ねえねえ、カナデ。なにみつかるかななの!』
『みんなで宝物見つける、一緒の宝物。それで、みんなでしっかり宝物入れにしまう』
クルクル、それいいかもね。みんなお揃い、絶対いいよ。
どんどん中へ入っていきます。少し行くと、先に入っていたドラゴンの家族が何かをしていました。子供ドラゴンが虫籠みたいなものに、何かを入れています。よく見たらクルクルみたいな、モコモコボールでした。僕の指の先っぽくらいの大きさです。
『あれは、チョウという虫です』
クラウドが教えてくれました。チョウって蝶?
『どこにでもいる虫で、可愛いと子供に人気です』
あっ、虫籠の中で飛んだ! 本当だ、飛んだら蝶だって分かりました。クルクルみたいに、飛んでいないときは羽を丸くしているようです。うん、可愛い! 僕も見つけたら捕まえたいな。飛ぶところが見たいんです。その後はちゃんと自然に戻します。
ちなみに、この蝶の寿命は、五十年以上でした。地球の蝶と全然違います。ビックリしてしまいました。ただ、この世界の生き物は、もともとそれくらい長生きするそうです。これは、ストライドが言ってました。
虫取りドラゴン家族を追い抜いて、さらに洞窟を進んでいきます。
『あっ! あそこ、何か光った! 行こう!!』
クルクルが僕の手に降りてきて、斜め前の方向を羽でさしました。
僕たちはそこに向かって走り出します……が、石につまずいて『べしゃー!!』と転びました。
ちゃんと前に手を出したんだけど、勢いがついていて、顔も手もお腹も膝も、全部が擦れるわ、ぶつけるわで、痛いのなんの。
「い、いちゃ、いちゃあぁぁぁ!!」
子供の体になっていて、痛みを我慢できない僕は、ギャン泣きです。
『カナデ、だいじょぶなの!!』
『カナデ!! 大変!』
『ストライド! 早く薬! 持ってきたでしょう!?』
『カナデ様!!』
『クラウド、これを!!』
ストライドがクラウドに小瓶を渡して、クラウドはギャン泣きの僕に、その中身を飲むように言いました。グッドフォローさん特製の怪我を治す薬で、飲めばすぐに効くそうです。
僕は泣きながら、なんとかそれを飲み干すと……飲んで数秒後、痛みが引きはじめたと思ったら、擦り傷も消えはじめて、一分もしないで怪我が完璧に治りました。うん、やっぱりグッドフォローさんは凄い。
『カナデ、だいじょぶなの?』
『もう痛くない?』
フィルとクルクルが心配して尋ねてきます。
「うん、いちゃにゃい」
『カナデ様、皆様も、暗い場所で急に走ってはいけません。いくら明るくしていても、最低限の明るさなのです。今みたいに怪我をして、薬がなかったらどうしますか? 洞窟探索はできなくなってしまいますよ。怪我が酷ければ動けずに、洞窟から出られなくなる可能性もあるのです』
僕たちはストライドに、ごめんなさいをしました。
『いいですか、今度から何かを見つけても、決して走ってはいけませんよ。せっかくの楽しい洞窟探索が、悪い思い出になってしまいます。この後は約束を守って、楽しく探索をしましょうね』
みんなでしっかり『はい!!』と返事をします。そうしたら厳しい顔をしていたストライドが、ニコッと一瞬だけ笑って、その後はいつも通り仕事中のスンって顔になりました。
僕は立ち上がると、気合を入れ直して、今度はみんなで歩いて、クルクルが何かを見つけた場所に行きます。
『ストライドさん、申し訳ありません。急なことに反応できませんでした』
『クラウド、子供は私たちが思っている以上に、急な動きをします。まあ、それが子供なのですが、あなたにもいい教訓になったでしょう。次からは気をつけてください。今回は危険がない洞窟でしたが、いつも何もない場所であるとは限りませんので』
『はっ!』
走らずに気をつけて。うん、今みたいにしっかり歩けば大丈夫。よし、クルクルが見つけたものは……
「クルクルど?」
『なにもないなの』
『あれえ? さっきはあったのに』
『別のところだった?』
クルクルが何かを見た場所と、その周辺を見たんだけど……これといって何もありません。壁にキラキラしているものが見えたそうです。う~ん、でも何もないよ。
『アリスター様、洞窟では色々試しなさいと、旦那様に教えられませんでしたか?』
ストライドが言います。試す? 何を? アリスターは何か気がついたみたいで、『あっ!』と言ったあと、ストライドにもう少し明かりを暗くするよう頼みました。ストライドが頷いて、光魔法を弱めます。そうしたら……
『キラキラ出た!!』
『いきなりキラキラになったなの!!』
「にゃんで!?」
クルクル、フィル、僕は一斉に叫びました。壁の一ヶ所に、キラキラが現れています。よく見ると、壁にとっても小さいキラキラ光る石が挟まっていたんです。本当に小さくて、僕の指先くらい。でもキラキラが強くて、だから、遠くからでもクルクルは見つけられたようです。
『正解です』
洞窟には、周りの明るさによって、見え方が変わるものもあるんだとか。今回は、明るいと見えない石です。明るいとただの石で、暗くすると、今みたいにキラキラ光ります。
夜、この石を部屋に撒いて明かりを消すと、星空の中にいるみたいにとっても綺麗に見えるとのことです。
プラネタリウムの床バージョン? それやってみたいかも。この石はお店で売っているから、ストライドが『買って帰りますか』と言います。でも僕はみんなと相談して、洞窟で集めて持って帰ることにしました。
だって、せっかくの洞窟探索だから、みんなで探して持って帰った方がいいに決まってます。
ということで、これからは他のものも探しつつ、時々周りを暗くして、この石を探すことにしました。
最初の一個目は、見つけたクルクルが取ります。上手く足を使って、ひょいっと壁から外した後、石が下に落ちる前に、空中でキャッチです。僕たちは拍手します。
クルクルは、なくさないように、持ってきていた小さな布袋に石をしまいました。袋は、小さいものを入れる用、ちょっと大きめなもの用を用意していて、もっと大きなものはバケツに入れます。
これも、洞窟に行くときには大事なことです。小さなものをバケツに入れて、気づかないうちになくしてたら嫌ですから。
こうして、僕たちは最初の戦利品を手に入れました。もちろん、みんなで嬉しいときの『やったぁ!』のポーズをします。洞窟探索はまだまだこれからです。
「ちゅぎは、あち!!」
『こんどはなにかなあなの!!』
『なんかピカッ、ピカッて点滅してる』
『あれ、僕も見たことないよ』
本当? 何回か洞窟に入ったことのあるアリスターが見たことないなんて。もしかしたら、大発見かもよ。
「はちりゃにゃい、みにゃ、ゆっくり!」
『いくなの!!』
僕たちは、新しく発見した何かに向かって前進。でも約束した通り、走りません。また転んだら大変です。まだ薬はあるみたいだけど、最後まで怪我をしないことが大切です。
*
『嫌だわ、ストライド、何あれ。早歩き? それとも横走り? いいえ、走ってはいないから横歩きかしら』
カナデたちの様子を見にやって来たアビアンナが言った。
『アビアンナ様、カナデ様方は、最初以外は私どもの言うことを聞いてくださり、どこへ行くにもちゃんと歩いて向かわれるのですが……』
『なぜかあのような歩き方に』
ストライドとクラウドが答えた。
『なるほどね、クラウド。早歩きの方は、細かく足を出して、なるべく走らないようにしているのが分かるわね。ただ、普通に歩いた方が前に進むでしょうに。横歩きの方は……どうして横に歩くのかしら? 子供って、時々謎の動きをするわよね』
『先ほど、普通に歩いていいのですよ、とお伝えしたのですが、カナデ様方は分かっていないご様子で』
『まあ、約束を守るのはいいことね。私も面白い動きが見られてよかったわ。早く仕事を切り上げてきた甲斐があったわよ』
*
「とちゃく!」
僕――カナデたちの前には今、岩にくっついている何かがあります。石みたいなのに、もこもこした柔らかそうなものがついているような、よく分からないものです。ただ、ピカッ、ピカッて点滅して面白いんです。
途中で合流したアビアンナさんたちがすぐに追いついてきました。
アビアンナさんは、僕たちの初めての洞窟を心配して、様子を見にきてくれたそうです。エセルバードさんも来ようとしたんだけど……
来る前に、ストライドがリラックスルームで、エセルバードさんに書類の山を渡していました。僕の背丈の大きさの書類の山が、全部で五つ。今日のノルマだそうです。
それが全然終わらないんだとか。アビアンナさんが来るときに見たら、まだ一つ目の書類の山の途中だったみたいです。
そんなにたくさんのお仕事大変だねって、お話をしていたら……どうも、僕たちがドラゴンの里に来る前からのサボり分が溜まりに溜まっているだけで、今更後悔しても遅い、とストライドが言っていました。
それはともかく、アビアンナさんによると――
『これがここにあるのは珍しいわね。普通はもっと大きな洞窟か、危険な洞窟に生えることが多いの。これは光苔の仲間よ』
光苔にはたくさん種類があります。まず、光るときの色が白だったり、青だったりと、色んな色が。それから、苔の葉の形も様々で、あと単体で生えているか、群生しているか……他にも色々と違うことが。今までに発見されている苔の種類は千を超えているとのことです。
地球でも集めている人たちがいるように、この世界でもそういった人たちがいて、珍しい苔は高値で売り買いされるんだとか。品評会とかもあるらしいです。
そして、今僕たちの前に生えている苔は、とっても珍しい種類でした。本来は、僕たちが行けない、しかも年齢制限がかけられている洞窟で、時々見つかるんだそうです。
『ストライド、確かこの苔は、光り方が珍しいけど、育てるのは思ったよりも楽だったわよね』
『はい、環境さえ合えば、すぐに生長するかと』
『この量を育てれば増えるわよね。そうすれば、暗い部屋で綺麗な苔を見ることができるから、持って帰りましょうか』
『ピカピカきれい、もってかえるなの!』
『ピカピカが増えた!』
『しっかり持って帰ろうね。僕、帰ったら、ノートにしっかり絵を描こう!』
苔を取るのはちょっと難しいから、ストライドがいくつか取ってくれました。それを、そのまま箱に入れます。今は少しの苔でも、上手くいけば増えてたくさんの苔が見られます。楽しみだなあ。
今、持ってきたバケツ三つのうち、一個と半分に、色々な素材が入っています。それとは別に、袋二つにも。
エセルバードさんは、素材が少ないから今の時期は空いてるって言ってたけど、嘘でした。洞窟の中は素材だらけ。まだまだ持って帰りたいのがいっぱいです。
今までに見つけたものは……最初の暗くすると光る石。それから踏むと『キュッキュッ!』と音が鳴る石。簡単に手でもちぎれるのに、水をかけてから切ろうとすると、まったく切れなくなる、とっても丈夫なツル。洞窟にしか咲かない、とっても可愛い花。あとはねえ、面白い形の石に、透明な石。これは僕が蹴るまで、そこに石があるって分かりませんでした。それからそれから……うん、いっぱい!!
ただ、とっても楽しいのはいいんだけど、やっぱり今日中に洞窟を全部見て回るのはダメそうで、半分まで行ったら帰ることになってます。次回は別の入口から入って、もう半分で遊べばいいからって。
もちろん半分まで行っても、そのまま帰るわけがありません。戻るときだって、しっかり探索しながらです!
『じゃあ、ストライド、今日はそろそろ戻りましょうか?』
『そうですね、アビアンナ様。ちょうどいいくらいかと』
僕たちは帰りながらも、どんどん素材を集めていきます。部屋に撒くつもりでいる石もしっかり集めないと。だって、あれだけ大きな部屋なんだから、いっぱいいります。
あっ、それから、この石は踏んでも大丈夫です。壁から取るまでは、普通の石と同じく硬いんだけど、壁からとって少し経つと柔らかくなるんです。ワタを丸く固めた感じ。だから踏んでも大丈夫です。
もちろん遊んだり、プラネタリウムみたいにしたりした後は、みんなでお片付けをします。風の魔法で集めてもらった石を、バケツに片付ける予定です。
『あっちにも、なにかあるなの!』
『発見!』
『あっ、これも持って帰ろう。まだまだ知らないものがいっぱいだよ』
洞窟の奥まで分かれ道はなく、ただまっすぐ進んだはずなのに、見落としていたものがいっぱいありました。ちなみに、洞窟の奥まで行くと、分かれ道になっていました。
右に行くと岩とか石とかがいっぱい、左に行くと苔とか花がいっぱいなんだとか。同じ洞窟なのに、あるものが違うって面白いです。
と、出口まで戻る途中、僕もキョロキョロ周りを見回していたら『ポワッ!!』と何かが輝いている感じがして、そっちを見ました。
でもそんな光っているものはなく、そこはただの壁でした。う~ん……なんか感じるんだよね。僕は壁に近づいて、しっかり調べてみます。もちろんストライドに灯りを暗くしてもらったり、さっと壁を撫でてみたり。でも、やっぱり何もありません。
う~ん、やっぱり僕の気のせい? 最初通ったときは、こんな感覚にならなかったのに。もう少し別のところも見てみようかな? 立ったまま見える範囲を調べていたので、しゃがんで地面や、壁の下の方を確かめてみました。
すると、地面と壁のちょうど境い目に違和感を覚えました。とはいえ、見る分にはただの地面と壁です。よし!! 僕は思い切って、その部分を触ってみることにしました。
「ちゃあ!!」
気合を入れて『ペシッ!』と思いきり叩きます。僕の手では、力の抜けた音しかしません。でも叩いてすぐでした。
ピシッ! パシッ!! ピシシッ!! パラパラ、バラバラバラッ!!
突然のことにビックリしていると、隣にいたクラウドが慌てて僕の前に立ちます。そして、僕が叩いた部分から壁が崩れて、僕が入るのにちょうどいいくらいの穴が開きました。
その壁の崩れた音に気づいたフィルたち、アビアンナさんたちも、急いでこちらに集まってきます。
「あにゃ、あいちゃ」
『え、ええ、穴ね』
「ぱちって、やっちゃの。あにゃ、ごめんしゃい」
いくらわざとじゃなくても、穴を開けてしまいました。しかも他の人たちも来る洞窟。この穴、誰か塞げないかな?
エセルバードさんたちの先生だったメイリースさんが魔法で木を生やすみたいに、もしくは僕が頑張って土魔法を練習して穴を塞ぐとか、一生懸命アビアンナさんに伝えます。
『大丈夫よカナデ、そんなに心配しなくても。洞窟なんてその日その日で変わるものなの。昨日はなかった穴が次の日には存在して、新しい道が見つかるなんてことはよくあるのよ。だから、心配しないで』
そうなの? はあ、よかった。ビックリしました。みんなで一緒に穴の中を覗き込みます。あっ! 光ってる! ポワッて!! 綺麗に光ってるものがあるよ。
『なにかあるなの!』
『ちょっと奥にあるね』
『綺麗な光だね。かあ様、取ってもいい?』
『そうね、嫌な感じはしないし、大丈夫だと思うけれど。ストライド、クラウド、アリアナ、あなたたちはどう?』
『私も何も感じません。どちらかといえば、いい気配を感じます』
『私も同様に』
『わ、私もです!』
『なら、いいわね』
『やった! カナデが見つけたからカナデが取ってくる?』
うん、アリスター! 僕が見つけたんだもん、僕が行くよ。それに、穴の大きさも僕にピッタリだし。僕はハイハイで穴に入っていきます。クルクルもついていくって、僕のお尻に掴まりました。
穴は数メートル奥まで続いています。幅は入口は僕が一人、ハイハイで通れるくらいで、中は僕がハイハイのまま、スレスレでUターンできるくらいでした。
魔法で明るくしているとはいえ、そこまでよく見えるわけでもないので、ちゃんとクルクルがお尻にくっついているか確認しながら進みます。
そして奥まで行くと……そこには青色の涙の形をした宝石みたいな石が、キラキラ、ポワッと光っていました。
「きりぇにぇ」
『うん、とっても綺麗!! カナデが、とっても凄い宝物見つけた! 凄い!!』
「もっちぇかえりょ!」
『うん!』
そっと石を触ります。触っても光は消えません。持ってハイハイは大変だから、僕は石を服の中にしまって、そのままUターンしました。
穴から出た途端、フィルとアリスターがずずいっと僕の前に来ました。
『カナデ、なんだったなの!?』
『石? 苔? 花?』
待って待って、今見せるから。僕はみんなに石を見せました。
『わぁ! すごくきれいなの!!』
『こんなの初めて見た!! 凄い凄い!!』
『これは一体……』
『私も初めて見たわ。こんなものが、こんなところにあるなんて』
『ここはこの里ができた当時からある洞窟。何百年も誰にも気づかれず、ずっとここに?』
喜ぶ僕たちの一方で、クラウド、アビアンナさん、ストライドが考え込んでいます。一応持って帰っていいか聞いたら、洞窟で見つけたものは、見つけた人のものだから大丈夫だって。ただ、目立つといけないから、クラウドが隠して持って帰ってくれることになりました。とっても綺麗だもんね。
こうして僕たちは、その後も色々素材を集めて、初めての洞窟探索を終えました。
52
お気に入りに追加
4,246
あなたにおすすめの小説
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!
ありぽん
ファンタジー
いつも『もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!』をご愛読いただき、ありがとうございます。
10月21日、『もふもち』コミカライズの配信がスタートしました!!
江戸はち先生に可愛いジョーディ達を描いていただきました。
先生、ありがとうございます。
今後とも小説のジョーディ達、そしてコミカライズのジョーディ達を、よろしくお願いいたします。
*********
小学3年生の如月啓太は、病気により小学校に通えないまま、病院で息を引き取った。
次に気が付いたとき、啓太の前に女神さま現れて、啓太自身の話を聞くことに。
そして啓太は別の世界の、マカリスター侯爵家次男、ジョーディ・マカリスターとして転生することが決まる。
すくすくそだった啓太改めジョーディは1歳に。
そしてジョーディには友達がいっぱい。でも友達は友達でも、人間の友達ではありません。
ダークウルフの子供にホワイトキャットの子供に。何故か魔獣の友達だらけ。
そんなジョーディの毎日は、父(ラディス)母(ルリエット)長男(マイケル)、そしてお友達魔獣達と一緒に、騒がしくも楽しく過ぎていきます。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。