もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん

文字の大きさ
表紙へ
上 下
17 / 114
2巻

2-1

しおりを挟む



 1.クラウドさんとの生活とフィルの羽?


 中学生の僕――望月奏もちづきかなでは、子犬を助けようとして一緒に車にかれ命を落としました。でも、神様の力で異世界に生まれ変わることになります。その子犬――フィルと名付けました――はフェンリルに、僕は……なぜか二歳児になって新しい世界へ、挙句あげく、神様は僕たちを間違えた場所に転移させてしまいました。どうすればいいのか分からなくて困ったけれど、さびしくはありません。なぜなら、僕とフィルは家族になったからです。
 そんな僕たちの前に、ドラゴンの子供のアリスターが現れます。彼と友達になった僕たちは、彼の住むドラゴンの里でお世話になることになりました。
 それから、僕が『かみいと』であることが判明したり、ホフティーバードのクルクルがお友達になったりと、楽しく毎日を過ごしています――


 ドラゴンのクラウドが僕たちの護衛をしてくれることになってから二日。初めて会った日は、僕たちと遊んで少しは緊張がほぐれたと思ったのに、遊ぶのが終わったら、またピシッとした態度になっていました。
 もう少し力を抜かないと疲れちゃうよ?
 ずっと僕たちの警護ということは、ずっと仕事ってことで。それだとピシッが続いちゃうから……う~ん、何かいい方法はないかな? 後で考えなくちゃ。
 ちなみに、クラウドと呼び捨てにしているのは、クラウド自身に言われたからです。しかも、ちょうどタイミングがいいからと、筆頭執事ひっとうしつじのセバスチャンさん、メイド長のマーゴさん、執事しつじのストライドさんにメイドのアリアナさんからも、〝さん〟はいらないと言われました。
 気は進まなかったんだけど、さんづけだと示しがつかないから、とアリスターのお父さんで、この里を治めるエセルバードさんに言われました。そこは、身分とかその人の職業とか、色々と関係するみたいで……
 そして今日は、朝から魔法の練習です。この前の羽魔法の確認をします。

『羽! カナデが出せなくても、僕がお手伝いするからね!』

 アリスターが言ってくれました。

「ありがちょ!」
『フィルも魔力めるの頑張がんばって!!』
『うんなの!! がんばるなの! フィルも、はねでないかななの』

 僕は、すぐに魔力をめることができました。最初はめる魔力の量が少なくなったり多くなったりしたけど、それも二、三回やれば一定にできるようになります。これに関しては、お医者さんでエセルバードさんの友人のグッドフォローさんが、もう少しでずっと一定にできるようになるだろうって言ってくれました。
 めた魔力が一定になったら、次は羽です。羽もすぐに出すことができました。ただ、羽を見たクラウドは、いつも無表情なのに、一瞬だけ驚いた顔になりました。
 なお、ドラゴンは人の姿にもなれますが、今のクラウドはドラゴンの姿です。初めて会ったときは黒いドラゴンだと思ったけれど、それは首からお腹にかけてだけで、全体を見ると素敵なシルバードラゴンでした。

『グッドフォロー様、カナデ様のこの魔法は?』
『ああ、君は見るのは初めてだったね。この羽魔法は今のところ、カナデだけが使える魔法なんだよ。僕も初めて見たときは驚いた』
『カナデ様だけが……』
『ああ、それでね……』
『できたなの!!』

 声を上げたフィルを見たら、僕よりも小さい土の羽が、背中についていました。おお!! やったフィル!!

『あ~、この世界で二人だけができる魔法になったね。エセルバードに伝えないと』
『は?』
『ああ~、きえちゃったなの』

 フィルの羽がスッと消えました。羽の魔法は初めてだからかな? でも、すぐにまた魔法を始めます。フィルが頑張がんばってるんだから、僕も頑張がんばらなくちゃ!
 僕も羽を出すところまではできました。さあ、次は羽をパタパタ動かして、今度こそつめの先よりも高く飛ぼう!
 羽をパタパタ、羽をパタパタ。少ししてクルクルが、羽がパタパタしたって教えてくれました。鏡で確認したら、前回みたいにちゃんと羽が動いています。よし、あとは!
 すぐに足元を見ます。そして、アリスターとクルクルが確認をしてくれました。

『う~ん、カナデ、僕の爪先つまさきだよ』
『ボクの足は余裕で入るよ』

 それは、クルクルの足が小さいからだよ。もう少しだけでいいから上に!! さらに飛ぶことを考えますが、そのあと何回やっても、つめの先よりも上に飛べませんでした。

『カナデ、そんなにあせらなくていいんだよ。カナデたちは魔法の練習を始めたばかりなんだから。魔力をめられるだけだってすごいんだ。まあ、羽が出せること自体おかしいんだけどね』

 グッドフォローさんがニヤニヤしながら、僕の羽を見てきます。なんかね、グッドフォローさん、僕の羽を研究したいらしくて、さっきからすごい勢いでノートに何か書いてるんだ。その目と仕草が……下手したら不審者だよ。

「どちて、とばにゃいにょかにゃ?」
『やっぱり羽が小さいからかな?』

 僕の疑問に、アリスターが言います。

『ボクは小さいけど飛べる』

 それはクルクルが鳥だし、体が小さいからだよ。やっぱり、すぐにはできないのかな? そうだよね、こういうのはたくさん練習が必要なはずだもんね。

『前みたいに、ボクがおしりを持ちあげる?』

 う~ん、変な格好かっこうになっちゃうけど、クルクルが手伝ってくれたら、僕だけよりも飛べるよね。やっぱりお願いしようかな? それで飛べたら、今度は前に進む練習をする、できるのかな? 右左は?

『ほらカナデ、また色々考えてるんじゃない? いいかい、一つずつ、一つずつだよ』

 グッドフォローさんが、注意してくれます。そうだよね、一つずつだよね。うん、とりあえず一人でやってみて、それでダメならクルクルに手伝ってもらおう。まずは高く飛ぶ練習から。進むのはまたその後。と、練習を再開しようとしたとき――

『あらあ、またきえちゃったなの』

 フィルの声がして、それに続いてアリスターが『あっ!!』とさけびました。

『カナデとクルクルが一緒に飛んでる格好かっこう、カナデがフィルに乗ってるときのに似てるよ!!』

 ん? なんのこと?

『カナデ、ちょっとフィルに乗ってみて』

 アリスターにそう言われて、僕がフィルによじ登ろうとしたら、クラウドが手伝ってくれました。大丈夫だよ、僕、フィルには、ススッと乗れるようになったから。

『カナデ、僕たちは見慣れているけど、クラウドにはまだ、君がずり落ちそうに見えるんだよ』

 そうなの、アリスター? でも、本当に乗るの上手くなったんだよ。まあ、かっこいい乗り方じゃないけど。それでも、手伝ってくれてありがとう!
 クラウドにお礼を言って、いつも通りの姿勢をとります。そうしたら、鏡を見てみてって、アリスターに言われました。
 僕は相変わらずハイハイの姿勢で、フィルの背中にピタッとくっついていました。それから、ギュッとフィルの毛を握ります。フィル大丈夫? 痛くない?

「いちゅもどり、ふぃりゅ、いちゃにゃい?」
『だいじょぶなの!』
『ほら、やっぱり同じだよ。その格好かっこう、クルクルが手伝ってくれたときとそっくり。ねえ、体が浮くならさ、それを利用すれば、楽にフィルに乗れるんじゃないかな?』

 そうか! それなら、僕が毛をギュッと握って、フィルが痛い思いをすることもなくなるかも。あと、自由に飛べるようになれば、もっとかっこいい姿勢でフィルに乗れるようになるかも。
 うんうん、やってみよう!! 僕はすぐに羽を出します。それから爪先つまさき分だけ浮きました。クルクルがそれを確認して、僕のおしりを持ち上げて飛んでくれます。


 準備が終わったら、次はフィルが僕の下に入ってきます。僕はまだ前に進めないからね。そして、フィルはそのまま立ち上がります。僕たちの浮いてる高さは、フィルの背中の高さにピッタリでした。
 僕もしっかり乗った感覚がありつつも、力を入れないで乗れています。そのおかげで、手にも力が入らず、そっとフィルの首に添える感じになりました。

「のれちゃ!! ぴっちゃり!」
『ちゃんと乗れてる? ボクの浮いてる高さ、これで大丈夫?』
『わあ、なんか、のそのそ、しゅん、ピタッてかんじなの!!』

 のそのそ、しゅん? ピタッ? それはどういう感じなの? フィルの動作を表してるの? と、それよりも。

「ふぃりゅ、いちゃにゃい?」
『うんなの! さっきもいたくなかったなの、でもいまは、もっといたくないなの!』

 ……やっぱり痛かったんじゃん。もう、ちゃんと言ってよね。僕はフィルに痛い思いさせたくないんだから。でも……

「カナデ、これなら少しの間だけだけど、フィルに乗れるね。階段を上れるかも!」

 そうだよ階段!! 早速やってみよう! と思って階段まで行こうとしたんだけど、僕の羽が消えて前のめりになってしまいました。クルクルがおしりを上げてくれてたからね。
 そのせいで変に体重がかかっちゃって、フィルがおととととって、フラフラ歩いちゃって、最後はぺちゃって、前足と後ろ足を伸ばした伏せの姿勢になりました。

「ふぃりゅ、ごめにぇ」
『ボクだけだとおしりしか上がらない』
『ははは、階段はもう少し後でかな。まずは長く羽を出す練習と、長く今の状態でフィルに乗っていられるかを確認しないとね』

 グッドフォローさんが言いました。そして、クラウドが黙ってじっと僕を見ていることに気づいたようです。

『どうしたんだい、クラウド?』
『飛べるものなのですか? 格好かっこうはその、あれですが、「神の愛し子」様だからですか?』
『まあ、それも関係はしてると思うけど、何度か調べさせてもらったが、今のカナデは普通の人の子だよ。まあ、強い魔力に、かなりの魔力量、そして全属性を持っているけれどね』
『その話を聞く限り、やはり今の状況は……』
『ただね、今のカナデは自分のことが全く分かっていないし、ここに来るまでは、魔法のことも、他のことも、何も知らない、まだ何も習っていないその辺にいる人間の子供と、変わりがなかった。いや、もっと知らないかもね。それと、体も体力も他の子と変わりない』
『それは確かに』
『成長すれば、僕たちなんて手も足も出なくなるだろうけど、今は本当に小さな子供だよ。だからね、僕は考えたんだ。あの独特の魔法は、カナデ特有の魔法なんじゃないかって。「神の愛し子」とか関係なく、カナデだからできた魔法だってね』
『それはどういう……』
『まあ、まだ僕も色々考えてる最中だからね。今はただ飛べるって思っておけばいいよ』
『はあ?』
『いやあ、調べがいがあるよね』

 グッドフォローさんが笑っています。
 よし、今日は羽を長く出す練習をしよう。フィルも一緒にね。羽を出すことができたフィルは大喜びでした。
 ちなみに、最初に出たフィルの羽が土だったのは、フィルが最初に使った魔法が土の魔法をちょっと変えた、泥魔法だったからかもって。
 グッドフォローさんたちが、僕のときみたいにフィルの羽を確認したところ、僕と一緒で、今できる全部の属性の羽ができました。

『う~ん、はねだから、つちよりべつのがいいなの』

 だから、好きな羽を思い浮かべて練習してみるそうです。そうか、僕もやってみようかな。色々な羽が出せた方が楽しそう。でも今日は、しっかり羽を長い時間出す練習だよ。
 これでなんとか、フィルに乗る問題と、移動問題は解決できそうです。


         *


「そっちはどうだ?」
「大丈夫だ。誰にも気づかれてはいない」
「よし、じゃあそろそろ戻るぞ。時間がかかりすぎてしまった。もしかすると、移動用の魔法陣が消えてしまっているかもしれない。そうなれば……さらに報告が遅れれば、俺たちがどうなるか」
「俺だって分かってるさ。だが死体はどうする? 下手に残しておけばやつらが」
「そんな時間はない。俺たちだという証拠を残さなければいいだけだ。あの力は使っていないだろうな?」
「ああ、もちろん」
「ならば、そのままにしておくのが一番だ。それに、ここには最近まで盗賊とうぞくたちがいたからな。そいつらの生き残りがやったとでも思わせておけ」
「ドラゴンたちに見つからずに、隠れてこれをやったと? ちょっと無理がある気がするが」
「まあ、すぐに気づくだろうが、俺たちのことがバレなければどうでもいいさ。さあ、行くぞ」



 2.不穏な空気


『――まさか、フィルまで羽が出せるようになるとは。しかも、違う羽も出せるように練習を始めたなんて』
『まだできてないけどね』
『当たり前だ、そう簡単にできてたまるか!』
『羽はすぐ出せたじゃないか』

 僕――カナデたちは夜のご飯が終わって、リラックスルームでごろごろしたり、遊んだりしていました。すると、そんなエセルバードさんとグッドフォローさんの会話が廊下ろうかから聞こえて、通りすぎていきます。アビアンナさんに『聞こえるわよ』と、エセルバードさんが怒られました。
 うん、バッチリ聞こえたよ。別に、コソコソ話さなくてもいいのに。だって、もしも僕がエセルバードさんだったら、やっぱり同じことを言ってると思うし。
 それはともかく、今は明日の予定を立てています。午前中はお店通りで遊んで、その後あの大きな公園に行きます。
 お小遣こづかいももらったから、お店通りと公園で半分ずつ使おうって決めました。何が食べたいとか、あれが欲しいとか、みんなやっと外に出られるからワクワクです。遠足前の気分と同じかな。
 クルクルは楽しみすぎて、ずっとリラックスルームにつけてもらった止まり木で、グルグル回転しています。ご飯を食べたばっかりだから、あんまり回ると気持ち悪くなっていちゃうよ?

「あちた、たにょちみ!」
『ボクもなの! いっぱいあそぶなの!』
『ボクも! クルクルはクルクルでいっぱい遊ぶんだよ! クルクル~!』
『あの大きなウォータースライダーもやろうね』

 そうやって色々予定を考えていたら、もう寝る時間になりました。みんなで寝る準備を始めます。そして、アリスターにおやすみをして、自分の部屋へ入ろうとしたとき、僕は足を止めました。

『カナデ様、どうされましたか?』

 アリアナさんに聞かれたんだけど……ちょっと待ってね。今ちょっと……

『どうした?』
『カナデ様が止まられてしまって』
『どうされましたか、カナデ様』

 クラウドがしゃがんで、僕と目を合わせます。先に部屋に入ったフィルとクルクルも、心配して戻ってきてくれました。

『カナデ様、何かあったなら、どんなことでもいいのでおっしゃってください』
『そうですよ、カナデ様。私はカナデ様のメイドなんですから! なんでもおっしゃってください! 小腹がきましたか? 果物でも持ってきましょうか? 歯はまたみがけばいいのです!』

 ふふ、アリアナありがとう。うん。心配かけるなら言った方がいいよね。気のせいだとは思うんだけど……

「えちょ、むこにょほ、にゃんかだめ」

 僕は廊下ろうかの奧を指さします。

廊下ろうかの奥ですか?』
「ううん、もっちょむこ、えちょね、しゃとのしょと、もっちょむこ」
『里の外で合っていますか?』
「うん」
『それは今も感じますか?』
「ううん、いまはちにゃい。しゃき、ちょちにぇ。いまはもにゃい」
『そうですか……』
「ちょまっちぇ、ごめんしゃい、も、にぇりゅ」
『待ってくださいカナデ様! すぐに戻りますから!』

 アリアナはどこかに行き、その間に僕たちは部屋の中へ入りました。そしてアリアナが戻ってきたら、今度はクラウドが出ていきます。アリアナはさっき話していた通り、果物を持ってきてくれました。嫌な感じがしたまま、寝るのはダメって言います。
 ありがとう、アリアナ。彼女が持ってきてくれた果物は、ブドウに似たものと、みかんに似たものでした。でも味は、ブドウがさくらんぼで、みかんが桃でした。
 最初食べたときは味とのギャップに、ちょっとビックリしました。でも食べている間に慣れて、美味おいしく完食できました。
 それから、食べている間にアビアンナさんが来て、心配だから僕たちが寝るまで部屋にいてくれることになりました。心配かけてごめんなさい。でも、本当に少しだけ、嫌な感じがしたんです。
 なんて言えばいいのかな? こう体が受けつけないっていうか、ドロドロしてるっていうか。それから嫌な感じがした場所は、嫌な空気がまとうっていうのかな。本当に嫌な感じでした。でも、ほんの十秒くらいで、何もなかったみたいに消えたんです。だから、思わずその場で立ち止まってしまいました。

『さあ、クリーン魔法をかけるわね。このまま寝たら、虫歯になっちゃうわ。クルクルはクチバシを綺麗きれいにしましょうね』

 歯ブラシはなし。今日は遊び用の家で寝ることにして、アビアンナさんに絵本を読んでもらってたら、いつの間にか眠っていました。
 朝起きて一応、昨日変な感じがした方を確認してみたんだけど、まったく問題なし。最初は気にしてたものの、今日遊びに行く話をしているうちに忘れていました。


         *


「ひょおぉぉぉ~!!」
『わお~んなのぉ!!』
『ぴゅろろろろ~!!』
『クルクル、これでいい!?』

 予定通りお店通りで遊んだ後、僕たちは午後から公園遊園地に行きました。そして今、あのウォータースライダーで遊んでいます。もちろん、人型用の方のね。
 今日一緒にすべってくれたのはクラウドです。人型のクラウド、とってもカッコいいんです。アイドルみたい。それに、護衛の前はドラゴン騎士だったせいか、今も仕事の時間以外はトレーニングをしているらしくて、体ががっしり、筋肉がいい具合についています。
 人型のクラウドを見た瞬間、僕もフィルもクルクルもカッコいいを連発してしまいました。アリスターは知ってたから、カッコいいの連発はなかったけど、『そうでしょう、そうでしょう』って、なぜか胸を張っていました。
 アリスターじゃなくて、クラウドがカッコいいんだからね? 今アリスターが変身できても、人型だと五歳くらいなんでしょう? きっとカッコいいよりも可愛かわいいだよ。うん、可愛かわいい。フィルたちと一緒。

可愛かわいいのはカナデ様も一緒なんですけどね』

 ん? アリアナ、今何か言った?
 それで、そんなカッコいいクラウドと一緒にすべったウォータースライダーは、この前と同じく、とっても楽しかったです。二回目だからか、周りを見る余裕もあったしね。
 フィルは新しいすべかたをあみ出していました。シャチホコみたいな格好かっこうすべったり、でんぐり返しで転がりながらすべって……というか、転がっていったり。
 クルクルは、一回目はアリスターのひざに乗せてもらって、二匹で回転しながらすべっていきました。あとはフィルみたいに、自分から転がっていったよ。まさか下りた勢いのまま、水面を転がるとは思わなかったけど。見ていたドラゴンたちが拍手はくしゅしていました。
 人型用のウォータースライダーの後は、もちろんドラゴン用のウォータースライダーに行って、波の出るプールで遊びます。一回クルクルが波に飲まれちゃって大変でした。
 すぐにクラウドが助けてくれたけど、助けてもらった後、クルクルは彼の頭の上で、波に向かって蹴りを入れてました。小さい足の蹴りだったので、とっても可愛かわいかったです。
 それからちょっと休憩きゅうけいしてから、クルクルが乗りたがっていた、メリーゴーランドに乗りました。クルクルはずっと目がキラキラ、顔はニコニコで、嬉しいなあ、楽しいなあって言っていました。そして、順番にみんなの頭を移動、最後は僕の頭の上で、可愛かわいい声で歌をうたっていました。
 クルクルは途中でちょっとだけ泣いていました。今までずっと一匹だったからね。友達ができて、みんなと遊べて嬉しいって。僕はひざの上に降りてきたクルクルをそっとでてあげます。そうだよね、一匹はさびしいよね。ボクもフィルと家族になれて、とっても嬉しかったし。
 家族……あっ!! そうか、そうだよ。もう少しクルクルとの生活に慣れたら、クルクルに聞いてみよう!
 メリーゴーランドが終わったら、やっぱりクルクルが乗りたがっていたコーヒーカップに移動します。

「うにょおぉぉぉ~」
『おもしろいなのぉ!!』
『クルクルいっぱい!!』
『もっと回すよ!! それぇ!!』

 ま、周りが見えない!? 体が飛ぶ!? 今日はアリスターが、コーヒーカップを回転させるためのハンドルを持ちました。
 すると、アリスターは思いっきりハンドルを回したんです。なんとか体が飛ばされないように、一生懸命クラウドにしがみつきます。
 でもコーヒーカップから降りたら、完全に目が回っていました。
 ベンチに移動して、僕が落ち着くのを待っていると、アリアナがアイスを買ってきてくれます。これで少しは頭がスッキリするかも。

『アリスター様、フィル様もクルクル様も、あまり無理をしてはダメですよ。カナデ様と乗るときは、もう少し優しくです!』
『回しすぎてごめんね、次は気をつけるね』
『うんなの。カナデ、ごめんなさいなの』
『ごめんなさい』

 うん、わざとじゃないのは分かってるよ、だから大丈夫。でも、やりすぎは気をつけてね。
 アイスはバニラ味でした。他にも色々な味があるけど、バニラ味が基本なんだって。アイスがあるってことは、ソフトクリームもあるのかな? かき氷は? 今度聞いてみよう。
 美味おいしいアイスを食べて、頭もスッキリ、ふらつきもなくなりました。帰るまでもう少しだけ時間があったから、最後になんで遊ぶか相談します。そのときでした。
 カンカンカンッ!!
 背後から大きなかねの音が聞こえて、思わず振り向くと、里の門の方に赤い花火みたいなものが浮かびました。
 そして、クラウドが僕とフィルを抱き上げて、アリアナさんがアリスターと手をつなぎます。クルクルはクラウドに言われて、僕が抱っこしました。

『何かあったのかな?』
『アリスター様、かねの音だけなので、すぐそこまで迫った危険ではないでしょう。ですが、カナデ様、フィル様、クルクル様、今日はこのまま屋敷へ帰ります』
『ボク、これ知ってる。ちょっと注意してって音だよね』
「クルクル、ちょ? ちゅ?」
『カナデ様、屋敷に戻ってからお話を。アリアナ、行くぞ』
『はい!』

 公園遊園地から帰るのは、僕たちだけじゃありませんでした。他のドラゴンたちもすぐに遊ぶのをやめて、みんなが帰りはじめます。帰らないドラゴンたちもいたけど、それは公園を管理しているドラゴンです。

『パパ、帰るの? まだ遊べるよ』
かねが鳴ったからな。これからパパはちょっと用事ができちゃったんだ。少し早いが今日はもう帰ろう。また今度遊びに連れてきてやるからな。そうだ、帰りにあめを買ってやろう。今日はそれで我慢がまんしてくれ』
『うん!!』

 そんな会話が聞こえてきます。みんな帰っているけど、だからといって、そこまであわてている感じもありません。
 こうして僕たちはお屋敷に帰ることになりました。一体何が起きたんだろう?


         *


 お屋敷に帰ってきたら、いつもより周りがざわついている気がします。ドラゴンや人型ドラゴンたちがいつもより多いしね。ただ門番さんはいつも通り、ニッコリ笑って『お帰りなさい』と言ってくれました。
 玄関ホールに着くと、階段の上からエセルバードさんの声がします。相変わらずの高さの階段で、その上からなのに、すぐそばで呼ばれたくらい、大きな声でした。

「こえ、おきにぇ」
『とう様の声は、本気を出すともっと大きいんだよ。お家から里の門くらいまで聞こえるの。でも、それをするとのどが痛くなるからやらないって』

 え? そんなに? すごいね。僕なんてこの前、部屋のはしっこでアリアナを呼んだら、ぜんぜん気づいてもらえなかったのに。まあ、大きな大きな部屋だけどさ。それでかなり近くまで――部屋の半分くらいかな――そこまで移動して呼んでも気づいてもらえませんでした。でも、たまたまそのときくしゃみをしたら――

『カナデ様、部屋が寒いですか?』

 僕の声よりもくしゃみの方が聞こえるって……
 それはともかく、クラウドがエセルバードさんに呼ばれ、交代で別の人型ドラゴン騎士さんが来てくれて、僕たちはリラックスルームへ行きました。


しおりを挟む
表紙へ
感想 1,422

あなたにおすすめの小説

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ありぽん
ファンタジー
いつも『もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!』をご愛読いただき、ありがとうございます。 10月21日、『もふもち』コミカライズの配信がスタートしました!! 江戸はち先生に可愛いジョーディ達を描いていただきました。 先生、ありがとうございます。 今後とも小説のジョーディ達、そしてコミカライズのジョーディ達を、よろしくお願いいたします。       ********* 小学3年生の如月啓太は、病気により小学校に通えないまま、病院で息を引き取った。 次に気が付いたとき、啓太の前に女神さま現れて、啓太自身の話を聞くことに。 そして啓太は別の世界の、マカリスター侯爵家次男、ジョーディ・マカリスターとして転生することが決まる。 すくすくそだった啓太改めジョーディは1歳に。 そしてジョーディには友達がいっぱい。でも友達は友達でも、人間の友達ではありません。 ダークウルフの子供にホワイトキャットの子供に。何故か魔獣の友達だらけ。 そんなジョーディの毎日は、父(ラディス)母(ルリエット)長男(マイケル)、そしてお友達魔獣達と一緒に、騒がしくも楽しく過ぎていきます。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。