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1巻

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  2.色々な移動方法、そして僕のさけび声


 アリスターの提案で、とりあえずフィルがちゃんと走れるか確認することにしました。まずは僕たちが送られた、あの開けている場所で走ってみます。その次はアリスターの指示に従って、ちょっと遠くまで走ってみたり、木の間を走り抜けてみたりしました。
 他にも色々やりました。例えば木に登るとか。最初何回かすべり落ちたフィル。でも途中から木に上手く爪を立てて、サササッと登れるようになりました。そのあとは木の枝に座ったり、その上でジャンプしたりできるか確認をします。
 さらに、木から木にジャンプ。何回か落ちちゃって、その度に僕は目をつぶって、とっても心配しました。でもフィルは全然怪我けがすることもなく、かすり傷さえ負わず、それどころか落ちることすら楽しかったようです。落ちても笑ってるんだもん。本当、心配だから気をつけてよね。
 最初こそ木から落ちていたフィルだけど、すぐにジャンプも上手にできるようになりました。ただそうなったら、わざと落ちて遊ぶようになっちゃって……僕がもうダメって言ったら、里に行ったら落ちて遊ぼうって、二匹で約束していました。
 木から木へ飛ぶのは、地面を歩けないときのために練習した方がいいって言われたからです。例えば、池や川がありますし、それから沼もあります。そこを渡るために石や木が倒れていればいいけど、もしそういうのがなかったら? そのときは木から木を渡って移動するんだとか。
 アリスターは空を飛べるから問題ありません。でも、フィルはね。ただ練習を見た感じ、なんも問題なくできていました。これなら大丈夫って、アリスターも言っていました。
 さて、最後の問題だった僕もアリスターの『いいこと思いついた‼』で解決です。でもそれは、ちびっ子で、しかも今までそういう経験のなかった僕には、かなり刺激的な方法でした。
 その方法とは、僕をアリスターとフィルが順番に運ぶというものです。アリスターは僕をつかんで、フィルは僕を背中に乗せて。
 とはいえ、フィルはまだ一度も、誰かを背中に乗せて走ったことなんてないし、僕だって犬……じゃなかった、フェンリルに乗ったことがありません。
 乗れるかどうかを確認します。なんとか乗れはしたものの、僕が長い間しっかりとフィルにつかまっていられません。フィルもバランスを取るのがまだ難しそう。
 だから、平らな道のときはフィルに乗せてもらって、ごちゃごちゃしている場所はアリスターに運んでもらうことになりました。でも――


「むにょおぉぉぉ~‼」
『ふへへ、カナデのこえおもしろいなの‼』
『フィル! ちゃんと僕についてきてね。迷子になっても僕もすぐに見つけられるし、フィルもにおいで見つけられると思うけど、僕たちじゃかなわない魔獣とあっちゃうとたいへんだからね!』
『うん! しっかりついていくなの‼ それでとちゅうでこうたいなの‼』
「ぬにょおぉぉぉ~‼」

 今、僕はアリスターにつかまれた状態で空を飛びつつ、さけんでます。しかも変な声で。本当は「わぁぁぁ‼」とか、「ぎゃあぁぁぁ‼」とかさけんでるつもりなのにね。ちびっ子の体のせいもあるだろうし、僕の周りに吹く風が強すぎることもあると思います。ほっぺがブルブル、プルプル。
 二匹のスピードが、考えていたよりも、そして練習のときよりも全然速かったんです。僕は飛びはじめてからずっとさけんでいました。
 体は風で真横になり、まるで台風のときに外に干されている洗濯物みたいになっています。
 もう少しゆっくりって言ったんだけど、二匹は楽しくてしょうがないみたい。分かったって、少しはゆっくりになるものの、すぐに元に戻ってしまいます。

『あっ‼ フィル、止まって‼』

 ――と、急なアリスターの声に、フィルがちゃんと反応して止まります。僕はその勢いでアリスターの手の中でグルンと一回転しました。ふぃ~。もう! なんなの!

『フィル、あそこ飛んでる魔獣分かる?』
『あのあかいやつなの?』

 少し向こう、確かに赤い、アリスターよりも大きな鳥が飛んでいました。

『そうあいつ。あいつは力は弱くても、目がいい。こっちに向かってきてるってことは、かなり前から僕たちのことに気づいてたんだよ。避けてもいいんだけど、それだとずっとついてきちゃうから、さっきみたいに倒そうと思うんだ。フィルも一緒にやってくれる?』
『いいなの! またければいいなの?』
『うん。あそこの大きな木まで移動するから、そこから飛んであいつに攻撃して。僕も一緒に蹴りを入れるからね』
『わかったなのぉ‼』

 待って待って。ずっと追われるのは困るけど、その間の僕は? 下で待ってればいいの?

『カナデは僕がつかんだまま攻撃するからね』

 え? アリスターがつかんだまま? え、え?

『大丈夫、カナデくらい軽ければ、攻撃のときでも落とさないで、しっかりつかんでいられるよ。ささ、向こうの木のところに移動しよう』
「ありしゅたー、まっちぇ!」
『カナデ、どうしたの? あいつすぐに来ちゃうから、お話はあとでね』

 違うよアリスター、今お話し中なんだよ。木の上にまるなら、せめて僕をその木のところに置いておいて。落ちないようになんとか枝に座ってるから。
 ……なんて僕は話をすることもできずに、フィルとアリスターはさっさと木の上に移動してしまいます。フィルなんて、もう完璧って感じです。

『いい? 僕はおしりのあたりを蹴るから、フィルはお腹を蹴ってね』
『うん‼ わかったなの‼』
「だかりゃ、ちょまちゅ」
『う~ん、こう蹴るなら、カナデは手でつかんだ方がいいかな。よし、じゃあいくよ。また僕がせえのって言うから、一緒に蹴ってね』
『うんなの‼』
「だかりゃ、ぼくにょはなち……」

 そして、ガシッとアリスターの手につかまれたままの僕。鳥は目の前に迫っていました。

『行くよ、せえの‼』
『たぁ‼ なのぉ‼』
「まっちぇぇぇ‼」
『とぉ‼』
「ひょおぉぉぉ⁉」

 僕の制止もむなしく、アリスターとフィルは飛び出します。
 一瞬でした。アリスターが速く動きすぎて、周りのことがよく見えません。でも何かにぶつかった感覚はありました。島の魔獣かな? その感覚の後に、僕の体はアリスターにつかまれたお腹を中心にぐるんぐるんと何回転かして、その後はブラブラれられていました。プロペラみたいに回ったんじゃないかな……?
 それから、二匹はさっきとは別の木の上に着地します。ここで一旦、アリスターから解放されました。ぼけっとする僕に聞こえてきたのは、はしゃぐフィルたちの声です。

『わあ‼ さっきよりもとんだなの‼』
『本当だね! すごく飛んだね! うんうん成功。フィル! やったぁ‼ しよう』
『うんなの!』

 二匹は肩を組んでから手を上げて、『やったぁ‼』のポーズをした後、二匹で考えた鼻歌を歌いはじめました。僕はそれをながめます。
 いいねえ二匹とも。とっても気があってるようです。僕はまだちょっと目が回っています。頭もちょっとだけフラフラしてるし。
 それで、鳥はどこに飛んでいったの? 喜ぶ二匹をなんとか止めて、鳥がどこに飛んでいったか聞いたら、さっきのイノシシのようにかなり遠くに飛んでいったみたいです。もしかしたら、この森の出口くらいまでは飛んでいったかもって。
 え? そんなに? この森がどれだけ大きな森か知らないけど、でもドラゴンたちが住んでいて、しかもドラゴンの里が三つもあるんだよね? かなり大きな森のはず。
 それに、さっき飛んで連れていってもらっているときに、ちょっとだけ上から下を確認したら、ずっと同じ木ばっかりの光景でした。
 それだけ大きなドラゴンの森の出口まで飛んでいったの? いくら二匹の力が強いとはいえ、そんなに飛んでいくの? へああ、すごいねえ。なんか感心しちゃいました。
 それに比べて僕は……さけんだのと、プロペラみたいにグルグル回っただけ。誰か僕に魔法の使い方を教えてくれないかな。

『うんうん、これなら少し強い魔獣にあっても大丈夫そう。じゃ、ささっと行こう‼』
『うんなの‼』
「う、うん」

 またさけびながら行くことになるのか……そう思っていると、アリスターが今度は足で僕をつかみました。

「うにょおぉぉぉ‼」

 やっぱり声が出てしまいます。
 その後も大変でした……鳥みたいな魔獣に出くわすたびに同じことをやるし、おまけに、僕たちに気づいていない魔獣にまで攻撃を仕掛けていました。僕は毎回、プロペラみたいに回るはめに。でも、二匹は魔獣を倒すと、肩を組み手を上げて鼻歌。いいねえ本当に楽しそうで。
 そんなことがどれくらい続いたのか、急にアリスターが止まりました。そして、ほら向こうを見てって言われます。アリスターが指差した方を見たら、建物らしきものがいっぱいありました。それも、かなり大きなものがいっぱい。
 ログハウスみたいな建物や、日本の一軒家みたいな建物もありました。小説とかに出てくる、昔のヨーロッパの建物みたいなのも。そして一番奥には、さらに大きな大きなお屋敷が見えました。
 あそこが、アリスターが住んでるドラゴンの里なんだって。
 ふへえ、あんまり地球と変わらない? この世界の人間の街がどんなのか、分からないからなんとも言えないけど、あれならそんなに気にしなくても大丈夫そう。
 いやだって、ドラゴンだよ? そう、小説みたいに森や山に住んでるなら、洞窟どうくつで暮らしてるのかなって思ってたんだもん。そうしたら全然違くて、普通に建物が建ってたから、ちょっと安心しました。

『あそこまで後少し。ここからは、そんなにごちゃごちゃした面倒な道はないから、フィル、カナデを乗せて走ってみる?』
『ほんとう⁉ ボクね、はやくカナデのせてあげたかったなの! うれしいなあなの‼』

 フィルがニコニコ、前脚に顔をこすりつけながら、しっぽをブンブン振ります。

『あのねあのね、ボク、カナデをのせて、いろんなところにつれていってあげたいの。それでいっぱい、たのしいがあるとうれしいなの!』

 フィル……ありがとう、そんなこと考えてくれてたんだね。僕はフィルがいる場所ならどこだっていいんだよ、フィルが楽しいならね。でも二人一緒に楽しい方が、もっといいもんね。
 僕はフィルをでてから抱きしめました。
 そうだ。もし僕がこの小さい体でもちゃちゃっと動けるようになって、食料とかの問題や魔獣たちの相手の仕方とか、色々なことが解決したら、二人で冒険に出るなんてどうかな? この世界は僕たちの知らないことばかりだから、きっとすごく楽しいと思うんだ。今度フィルに話してみよう。
 でもまずはその前に、僕たちがアリスターのドラゴンの里に行って、彼らにどんな反応をされるのかが気になります。はあ、里の建物を見て安心したのに、ドキドキしてきちゃったよ。

『じゃあまずは、カナデを乗せて、ちょっと歩いてみよう。それで大丈夫なら少し速く走ってみて。それでまたまた大丈夫なら、今までくらい速く走ってみよう!』
『うんなのぉ‼』

 ん? 今までみたいに? いやいやいや。今までみたいには無理だと思うよ。だって、今まではアリスターが僕をつかんでいたからいいけど、今度は僕が自分でフィルにくっついてないとダメなんだから。

「あ、あにょね……」
『ささ、カナデ乗って』
『カナデ、のるなの!』

 いやだから僕の話を……ぐいぐいアリスターに押される僕。そして僕を乗せるのに、準備万端なフィル。結局何もいえないまま、僕はフィルに乗ることになりました。


         *


「ふぃりゅ、ゆっくりにぇ」
『うん、わかったなの。さっきはごめんなの』
『まだ乗って走るのはダメだったね。もう少し行ったら、また僕と交代しよう。それでちゃちゃっと家まで行こうね』

 フィルはゆっくりとしたテンポで歩いています。アリスターは僕がフィルから落ちないように、隣に並んで歩きながら、僕を支えてくれています。
 乗って歩く前に、もう一回僕がちゃんと乗れるか確認したところ、乗るのは大丈夫でした。最初開けた場所で乗れたみたいにね。それから、ゆっくり歩くのも平気でした。
 ただ、早歩きになると、フィルの首につかまってるのが大変になってしまいます。でも、そのことをフィルたちに伝えようとしたら、僕を乗せて喜んだフィルが思いっきり走り出そうとして……
 うん、やったよね。一瞬で手が離れちゃって、僕はドサッと地面に落ちてしまいました。頭はぶつけないですんだけど、おしりと肩を思いっきりぶつけて、もう痛いったらないよ。
 中学生のままなら、まだ我慢がまんできたかもしれません。けれど、体がちびっ子になってるからなのか、涙がこぼれて止まらなくなりました。
 その後、時間はかかったもののなんとか涙は止まりました。でもおしりの痛さと肩の痛さは全然治らないまま。どうしようかと思っていたら……
 どうも、怪我けがを治してくれるドラゴンがいるみたいです。えと怪我けがや病気を治す魔法があって、その魔法を使えるドラゴンが、アリスターのドラゴンの里にはいるんだとか。
 どうせ今からアリスターの住んでいる里に行くんだから、そのドラゴンに治してもらおうと思います。
 怪我けがが余計ひどくならないように、今は我慢がまんして、そっとフィルに乗ります。
 なかなか怪我けがや病気を治せる魔法――治癒ちゆ魔法を使えるドラゴンはいないんだって。人でもそんなにいないみたい。エルフとかはけっこう使えるようだけど。
 そう、新しい情報。この世界には色々な種族がいました。ドラゴンだったり魔獣だったり、人間に獣人にエルフに。他にもいるそうです。

『カナデ、いたい? ごめんなしゃいなの』
「いちゃいけど、なおちてもらうかりゃ、だいじょぶ! でもゆっくりにぇ、いきにゃりはやくだめ」
『うんなの‼』

 フィルは、完全にしっぽが下がっちゃってます。確かにはしゃぎすぎたフィルたちのせいなんだけど、新しいこと、楽しいことばっかりで、テンション上がっちゃうのはしょうがないよね。今度から気をつけてくれればいいんだから元気出して。
 そうだ、もしゆっくり歩けるなら、後でいっぱいでてあげようかな。僕がでると、フィルはとっても嬉しそうな顔するから。

『僕もごめんなさい。ちゃんと支えるからね』
「ありがちょ」

 フィルの背中に乗っての移動は、なんとも言えない初めてになってしまいました。でも、フィルの乗り心地は最高だよ! 高級な絨毯じゅうたんに乗ってるみたい。ただ、触っただけで気持ちいいのはわかってたし、開けた場所でちょっと乗っただけでも、その気持ちよさはわかっていました。
 長い間乗ってみて、さらにそれを実感します。しかもフィルが気をつけて歩いてくれてるおかげでれが少なく、このれも気持ちいいんです。このまま寝ちゃいそうなくらいに。
 そうだ! そのことも考えなくちゃ。寝るのに必要な物を用意しないとね。寝る場所は……最悪何か、屋根になるようなものがあるところがいいな。あと、できれば地面に寝ないですむと体が痛くならないからいいよね。
 後でフィルに聞いてみて、もしフィルがいいよって言ってくれたら、フィルに寄りかかって寝かせてもらおうかな? それか、その辺の木の葉を集めてその上で寝るとか。
 あ~あ、次から次に問題が。まったく、これも全部神様のせいだからね。本当は神様、僕たちをどこに送るつもりだったんだろう? 人間が住んでいるところかな? それとも他のところ? 体もね、中学生のままだったら、もう少し動けたのに。
 なんて考えているときでした。またまたアリスターが急に止まりました。アリスターがこうするのは、魔獣が近づいてきたときか、里のことか、そろそろ自分とフィルが交代って言ってくるときです。
 今度は何? 魔獣だったら、僕を振り回さないでって話さないと。僕はアリスターに声をかけようとします。でも、その前にアリスターが声を出しました。僕の考えていたことは、全部が違いました。いや、あってるのはあってるんだけど、ちょっと違うっていうか。

『あっ! とう様が来たよ‼ 僕の帰りが遅かったから迎えにきたみたい。とう様が迎えにきてくれたなら、里まで一瞬だよ』

 え? アリスターのお父さん? どこどこ? いきなりの大人ドラゴンの存在に、僕はあわててしまいます。ま、待って、心の準備が‼
 いきなり、それまで僕たちを照らしていた太陽の光が消えて、周りは天候が悪くなったみたいに暗くなりました。
 僕たちが上を見ると、そこにはアリスターを何十倍にも大きくした、ドラゴンの大きなお腹がありました。

『とう様‼ ただいまあ‼ ここだよぉ‼』

 大きなお腹が右にズレたと思ったら、今度は大きな翼が見えました。

『向こうに降りる‼』

 知らない声が聞こえて、大きなドラゴンが僕たちから離れました。

『今のはとう様の声だよ。ここだと降りられないから、向こうにある開けた場所に降りるんだと思う。ささ、行こう。フィル、急ぐから僕がカナデを運ぶね』
『うんなの‼』

 アリスターがささっと僕をつかんで飛びます。それに続いてフィルが走ってきました。
 わわわ‼ 大人ドラゴンだよ、本物のドラゴンだよ。いや、すでにアリスターに会ってるんだけど、本当の大きなドラゴンにこれから会うんだよ。どうしよう、どうしよう。
 アリスターが飛びはじめてすぐでした。大きな木の間を抜けると、そこはかなり開けた場所で、そしてその真ん中に、大きな大きなドラゴンが座っていました。

『とう様‼ ただいまあ‼』

 アリスターが僕を放して、大きなドラゴンの方へ飛んでいきます。それから大きな足の爪に抱きつきました。そう、アリスターはね、大きなドラゴンの爪くらいの大きさしかなかったんです。
 この大きなドラゴンが、ドラゴンの里で、ううん、このドラゴンの森で一番強くて、一番大きなアリスターのお父さんドラゴン? 僕も、あれだけはしゃいでいたフィルも、あまりにも大きなドラゴンを、口を開けてながめちゃいました。
 まさかこんなに大きいなんて。アリスターよりも小さい僕は、爪でちょいって触られただけで飛んでいっちゃいそうだよ。
 それか、羽をちょっと動かされただけで、吹き飛ばされちゃうか、コロコロとどこまでも転がっちゃうんじゃないかな。

『まったく、どこをほっつき飛んでいたんだ。帰りが遅いから心配したんだぞ。さあ、かあ様も心配している、早く帰ろう』

 大きなドラゴンがアリスターを爪に乗せたまま、飛び立とうとします。そのとき、大きな羽を動かしたもんだから、強めの風が起こりました。そう、強めの風ね。うん、思っていた通り、僕もフィルもコロコロ地面を転がりました。

「ふにょおぉぉぉ⁉」
『わあぁぁぁなのぉぉぉ⁉』

 あわてるアリスターの声が聞こえてきます。

『とう様待って‼ 僕ね、お友達連れてきたんだよ。僕だけじゃなくて、ちゃんと他も見て。かあ様にいつも、ちゃんと周りも見てって言われてるでしょう?』
『友達だと?』

 羽のバタバタというものすごい風がやみました。僕たちは今、大きな木の幹に引っかかってます。フィルが幹になんとかつかまって、僕がフィルのしっぽをつかんで。そして風がやんだら、だらっとその場に寝転びました。ふう、助かったよ。

『あれは⁉』
『人間の子供だよ。それからフェンリルの赤ちゃんだって。えっとね、人間はカナデって言って、フェンリルの赤ちゃんはフィルって言うの!』

 アリスター、紹介してくれてありがとう。何しろ今は、飛ばされなかったことにホッとして、起きられないんだ。後の説明もしてくれない? 僕たちがどうしてここに来ることになったとか。お願い、怒らせて僕たちが消されないようにしてね。
 なんて寝転がりながら思っていた僕。隣で、『あ~、びっくりした』って復活しつつあるフィル。でも、聞こえてきた言葉は意外なものでした。


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