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1巻
1-2
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「ね、にゃまえ、にゃにがい?」
『なまえなの?』
「うん! ぼくはぼくだけど、こいにゅはぼくのこちょ、かにゃでいうでちょ。かにゃでがにゃまえ。こいにゅもにゃまえかんがえりゅ。にゃまえたいしぇちゅ。じゅっといちょ、にゃまえいりゅ」
『ずっといっしょ‼ うれしいなの‼ なまえかんがえるなの‼』
子犬がジャンプしながら、僕の周りをぐるぐる飛び回ります。それから何か好きな名前とか、つけてほしい名前はないか聞いてみても、名前のことなんて今まで考えたことなかったらしくて、僕につけてほしいって言いました。
いいのって確認しても、僕がいいって、ワクワクした表情で僕の前にお座りしました。
元々、何もなかったら僕が考えようと思っていたとはいえ、なんか責任重大だな。しっかり考えなくちゃ。どんな名前がいいかな? もふもふだから『もふ』? それとも、もこもこだから『もこ』? 他には……
あっ、僕って言ってるけど、子犬は男の子なのかな? それに、他にも色々と分かればなあ。ステータスボードを見れば分かるのかな? 僕はすぐにステータスボードを確認してみます。
そうしたら、子犬のことが書いてあったすぐ下のところに、対象物に向かってステータスオープンって言うと、その対象物のステータスを見ることができるって書いてありました。
なるほど、対象物の情報が見たいときもステータスオープンでいいんだね。これはいいかも。どんな人、生き物か知りたいときに便利です。まあ、勝手に見るつもりはありません。だって、誰だって自分のことを勝手に見られるのは嫌だろうからね。必要なときにだけ使うようにしよう、うん。
とりあえず、子犬に向かってステータスオープンと言います。僕のときみたいに、子犬の前にステータスボードが現れました。
『わあ、ボクのまえにも、カナデとおなじのでたなの!』
「しぇいこ‼」
早速確認してみます。僕と同じく、名前と種族が書いてあって、名前のところにはただの棒線が引いてあります。まだ名前がないからでしょう。そして種族のところには、フェンリルの赤ちゃんって書いてありました。それから男の子だって。
フェンリルの赤ちゃん? フェンリルって、やっぱり小説やアニメに出てくる? どうなのかな? でも、可愛い子犬には変わりないから、子犬の種族がなんであろうと、別に問題はありません。
それからも、子犬のステータスボードを見ます。でも、僕のと同じで知らない文字や記号ばかりで、他は分かりませんでした。
ちょっと神様、ステータスボードくらいしっかり見せてよ。これから、僕たちは新しい世界で生活するんだよ。これじゃ、何をしたらいいか分かんないじゃん。それに、こんな何もない場所に僕たちを連れてきて。
子犬の名前を決めたら、これからどうするかしっかりと考えなくちゃ。だって、ご飯とか飲み水とか、問題だらけだもん。
う~ん、フェンリルの赤ちゃんかあ。フェン? フェル? リル? なんか違うなあ、しっくりこない。僕はしっかりと子犬を見ます。
あっ! そういえば、小さいとき、まだ両親がいて幸せだった頃、少しの間だけ老犬を飼っていたっけ。その子の名前がフィルだったな。
この子犬、どこかフィルに似てる気が……こう雰囲気っていうか、はっきりとは言えないんだけど……
「にぇ、にゃまえ、これど? ふぃりゅ」
『フィル、それがボクのなまえなの?』
「どお?」
『う~ん……』
考える子犬、ドキドキして待つ僕。そして――
『うん、ボクのなまえはフィルなの‼ カナデがかんがえてくれた、たいせつななまえなの‼ ありがちょなの‼ あっ、しっぱい。ありがとなの‼』
子犬のフィルは喜んで僕の周りを飛び跳ねます。これからよろしくね。少しして、跳ね回るのをやめたフィルを僕は抱きしめます。うん、やっぱりもふもふ、もこもこ、とっても気持ちがいい。
名前が決まり、改めてフィルのステータスボードを確認してみたら、名前のところに『フィル』って書かれていました。良かった、しっかり反応してるね。
と、ホッとしたときでした。いきなり木々の向こうの草むらからガサゴソ音が聞こえてきました。フィルが僕の前に立って、草むらに向かって唸りはじめます。
「ふぃりゅ?」
『あぶないのくるなの! ボクがカナデまもるなの‼』
フィルがそう言った瞬間、草むらから、イノシシみたいな生き物が飛び出してきて、僕たちの方へ突進してきました。
「ふぃりゅ! あぶにゃい‼」
『ダメ! カナデまもるの‼』
そしてイノシシみたいな生き物が、フィルに体当たりしそうになったとき――
『僕が先に、そいつに気づいたんだよ‼』
その言葉とともに横から何かが現れて、イノシシを吹き飛ばしました。木にぶつかって倒れるイノシシ。でも、よろけながらも立ち上がろうとしていました。そして僕たちの前には、フィルと同じくらいの大きさのドラゴンが立っていました。
ビックリしすぎて、僕は呆然とドラゴンを見つめてしまいます。一方のフィルは、すごいすごいとはしゃいでいます。
待ってフィル! フィルがそのままドラゴンの方へ行こうとするから、慌てて止めました。だってさっきの言葉、たぶんこのドラゴンが言ったはずです。『僕が先に気づいたんだよ‼』って。確かにイノシシは吹き飛ばしてくれたけど、今度はドラゴンが僕たちを襲ってくるかもしれません。
そこへ、立ち直ったイノシシが頭をフルフルさせて、また僕たちの方に突進してきました。
『あれ? 僕のケリが効いてない? じゃあ、もう一回』
ドラゴンは、向かってきたイノシシを、今度は反対方向に吹き飛ばしました。
『これで大丈夫……あれえ、また立っちゃった。もしかして変異種だった? 僕、間違えちゃったみたい』
イノシシは再び飛ばされて木に激突しました。でも、かなりの衝撃があったはずなのに、また立ち上がります。それに、ドラゴンの言葉。間違えちゃった? 変異種? なんのこと?
『う~ん、変異種だと、まだ僕だけじゃ無理かなあ。ねえねえ、キミは魔法使える? 僕だけじゃ無理だから、一緒に戦ってほしいんだ』
魔法? 魔法って、あの魔法? 呪文を唱えると、火が出たり、水が出たり、ものを浮かせたりする? 僕はぶんぶん頭を横に振ります。
『そっかあ。でも、なんとか倒さないと、みんなとゆっくりお話できないし、う~ん』
『ハイハイ‼ ボク、まほうしらないなの! でもきっとたいあたりとか、けったりできるはずなの‼ さっきあのいきものとばしたとき、けったでしょなの。あれならできる、たぶんなの‼』
え? 蹴った? ドラゴンがイノシシを蹴ったのが見えたの? 僕には、イノシシがドラゴンにぶつかる前に、飛んでいったようにしか見えなかったよ。
『そっか‼ じゃあ次にこっちに突進してきたら、僕と一緒に蹴飛ばして。その後、ゆっくりお話ししようよ!』
『うん‼』
待って待って、なに二匹で話を進めてるの。というかフィル、戦ったことなんかないでしょう! それなのに、どうして『たぶん』でイノシシを倒そうとしてるの⁉
慌ててフィルを止めようとしたんだけど、その前にイノシシが再び戦闘態勢になってしまいました。二歳児の僕は二匹に下がっててって言われます。ああ、もう‼
今の僕じゃ何もできません。なんにもできないことがこんなに歯痒いなんて。せめて、ドラゴンが言ったように魔法が使えて、バリヤとか、フィルたちを強くさせられたらいいのに。
そのとき、僕の胸あたりが急に温かくなった気がしました。
『あれ? これ、なんだろう? 何か力が湧いてくる感じ』
『フィルも、フィルもなの! つよくなったきがするなの、がんばるなのぉ‼』
フィルがはしゃいでいます。そしてイノシシが、今度も勢いをつけて突進してきました。ドラゴンは、今度は自分から向かっていきます。フィルにもついてきてと言い、フィルはドラゴンのすぐ後を追います。
飛んでイノシシに向かうドラゴン、それに走って追いつくフィル。そして――
『せえので蹴ってね‼』
『わかったなの‼』
『せえの‼』
『たぁ~なのぉ‼』
シュパーンッ‼
二匹がイノシシにぶつかりそうになった瞬間、今まで通りイノシシが弾き飛ばされました。でも、今までと違うところもあります。
さっきまでは、飛ばされたイノシシはその辺の木にぶつかっていました。でも今度は、弧を描くように空を飛んで、最後にはその姿が完全に見えなくなりました。
そして、地面に着地したフィルとドラゴンは、二匹でポーズを取りました。ドラゴンは両手を上げてイエ~イって感じ。フィルはなぜか右前足と左後ろ足を器用に上げています。なんでそんなポーズとは思ったけど、可愛いからいいよね。
それからドラゴンはフィルに、『他にも近くに魔獣がいないか確認してくるから待ってて』と言いました。そして、フィルが僕のところに戻ったのを確認した後、フラフラとその辺を飛びはじめます。
『カナデ、ボクすごい? がんばったなの?』
「うん、ちょっちぇもしゅごい‼ ふぃるはちゅよいにぇ」
褒めながらいっぱい撫でてあげたら、フィルはしっぽをブンブン振って喜びました。本当に可愛いなあ。しかも、とっても強い。目には見えなかったけど、ドラゴンと一緒で、たぶんイノシシに蹴りを入れたんだよね。フィルがこんなに強いなんて。頑張ってくれてありがとうね。
それから、ドラゴンにもお礼を言わなくちゃ。お話ししようって言ってたし、僕たちを助けてくれたもんね。ただ、警戒はしておいた方がいいかな。まだはっきりと大丈夫って決まったわけじゃないもん。もし、いきなり襲われたら?
今度は僕がフィルを守るんだ! 何ができるか分かんないけど……それでも、頑張ってフィルを守ろう!
ようやくフィルの全身を撫で終わった頃、ドラゴンが僕たちのところに帰ってきました。フィルは僕よりも大きいから、全身を撫でるのは、けっこう大変でした。
『近くには何もいないみたい、もう大丈夫だよ。これでゆっくりお話できるね』
『あのねあのね、ぼくたちのことたすけてくれて、ありがとなの‼』
「うん! ありがちょ‼」
『どういたしまして‼ じゃあじゃあ、お話ししよう! 僕ね、人間とお話ししてみたかったんだ。だって、とう様はなかなか人間のいるところに連れていってくれないんだもん』
「としゃま? ちかくいりゅ?」
『うんとね、僕は近く。でも人間は遠いかも』
どういうこと?
『それでそれでね、まず人間の子供はどこから来たの! それから、そっちの魔獣はどこから? それと二匹とも家族なの? あっ! でも人間の小さい子だけで、ここにいるわけないよね。とう様やかあ様はどこにいるの? この辺には誰もいなかったけど』
ゆっくり話ができる、なんてことはなく、ドラゴンは一気に質問をしてきます。
待って待って、まずは自己紹介からしない? だってドラゴンとか、人間の子供とか、魔獣とか。フィルなんてせっかく名前が決まったんだから、ちゃんと名前で呼ぼうよ。
「ま、まっちぇ。えちょね、ぼくのにゃまえはかにゃで」
『ボクのなまえはフィルなの! カナデがかんがえてくれた、とってもカッコいいなまえなの‼』
『そっか! カナデとフィル、こんにちは‼ そうそうご挨拶忘れてたよ。とう様はご挨拶大事だって、いつも言ってるのに。えと、僕の名前はアリスターだよ』
『わあ、アリスターもカッコいいなまえなの! ボクたちにひきともカッコいいなの‼』
『うん、カッコいい‼』
肩を組んで体を揺らして喜ぶ二匹。しかもそれぞれバラバラに鼻歌を歌いはじめます。出会ったばかりなのに、もう仲良しって感じで、僕だけが取り残されてる気がしました。ちょっと僕も仲間に入れてよ。
「ふちゃりちょも、しゅわっちぇ。おはなちでちょ?」
『あ、そうだった。いけないいけない』
『えへへ、うれしくてふわふわなの』
ふわふわ? フィル、それはどういう気持ちなの? 気持ちがふわふわするほど嬉しいってこと?
僕の言葉で、二匹は静かになります。それからフィルは僕の隣に、アリスターは僕たちの前に座りました。僕はまず、さっきアリスターが聞いてきたことについて、答えることにします。
どこから来たのかについては、返事をする前に、ここまでの出来事を考えてみました。
イノシシみたいだけど、僕の知っているイノシシじゃないこと、ドラゴンのアリスターがいること。あと、空を見上げれば太陽が二つ浮かんでいることから、ここは絶対に地球じゃないって確信しました。うん、思わず太陽を二度見しちゃいます。
でも、ちょっとしか驚きませんでした。まあ、こんな世界もあるよねって思ったくらい。だって、先にドラゴンのアリスターに出会ってるんだもん。
だからね、地球って言っても分からないだろうから、とってもとっても遠くから来たって言いました。地球の説明するのは大変だし、それに何より、今地球の話をしたら、またアリスターの質問が止まらなくなって、話が進まなくなりそうだし。
それから、フィルとの関係は、もちろん家族って答えました。家族になったばかりだけど、僕の大切な家族。他の家族はいないって言いました。本当のことだしね。
『ふぇ~、とっても遠くから、ここまで二匹で来たの? ここは、一番近い人間が住んでる街からでも、人間は二十日くらいかかるんだよって、とう様が言ってた。とう様や大人が飛んでいけば、三日くらいだって。そこよりも遠くからなんだあ~』
あ~、まあそうだよね。ドラゴンのアリスターのお父さんたちなら、もちろんドラゴンだよね。大人のドラゴンが、どのくらいの大きさかは分からないけど、空を飛んでいけば、ささっと目的地までついちゃうよなあ。
『あのねえ、フィルたち、ここまでおくってもらったのなの。でもたぶん、くるところここじゃなかったなの』
『送ってもらったの? でも、違うところに行くはずだったの?』
『えっとねえ……』
「まっちぇふぃる、ぼくかんがえりゅ」
どこまで話していいのかな? 神様のこと話しても大丈夫? 変に思われないかなあ。だいたい、この世界に神様って存在しているのかな?
なんて色々考えているうちに、アリスターは早く話してってせっつくせいか、待ってって言ってるのにフィルが話を始めちゃって――
『あのねえ、かみさまっていうひとが、いろいろまちがえて、あたらしいばしょにおくるから、そこでくらしなさいっていったなの。でもここにおくってくれるとき、まちがったっていったなの。それでいっしょにいたおんなのひとが、バカがみっていって、そうしたらボクたちはここにいたなの』
『女の人? 神様? 僕の知ってる神様かな? けど、僕の知ってる神様はバカ神なんて言われてないし。その人がここに間違って送っちゃったんだ』
『えとねえ、ほかにもいろいろダメダメなバカがみさまなの』
と、これまでの神様の失敗を、アリスターに全部話したフィル。それを聞いてダメだねえとか、それも間違えたのとか、全部に反応を返してくれたアリスター。最後にはまた二匹で肩を組んで――
『神様はダメダメ』
『まちがいダメダメなの』
『『ダメダメ神様、なのぉ‼』』
と、即興で作った歌を大きな声で歌っていました。あ~あ神様、まあ色々と、間違える神様が悪いんだけど、フィルたちに完璧にダメ神様で覚えられちゃったね。
「ふたりちょも、しゅわっちぇ!」
『『あ!』』
二匹が苦笑いをして頭を掻きながら、僕の方へ戻ってきました。なかなか話が進まないよ。
『そっかあ、じゃあ、本当の場所に送ってもらってたら、二匹には会えなかったんだね。神様はダメダメ神様だけど、僕は二匹に会えて嬉しい!』
『ボクもなの‼』
「ぼくも‼」
さっきからアリスターは僕とフィルのことを呼ぶとき二匹って言うけど、ドラゴンは、人間も一匹二匹って数えるのかな?
『じゃあ、これから本当に行くはずだった場所に行くの?』
「うんちょね、ほんちょうにいくばちょ、しりゃにゃいにょ。どこにいっちゃいいか、わかりゃにゃい」
『だからボクたちこまってるなの。ねえねえアリスター、ここはどこなの?』
『ここは僕たちドラゴンが住んでる、ドラゴンの森だよ』
え? ドラゴンの森? 僕たちそんな危険そうな場所に送られていたの⁉
『ドラゴンのもり?』
『そうだよ。ここはとっても大きな森で、いっぱいドラゴンが住んでるから、ドラゴンの森って言うんだって、とう様が言ってた。えっとねえ、ドラゴンの里が三つあって、僕は一番大きな里に住んでるの』
『さと? さとってなになの?』
『僕が住んでる場所のことだよ』
『アリスターみたいなドラゴンがいっぱいなの?』
『僕は里で一番年下で、一番体が小さいんだよ。とう様はあっちにある大きな木よりも、もっと背が高くて、とっても大きいんだ。他にも大きなドラゴンがいっぱい』
「どりゃごん、いっぱ?」
『うん‼ それからねえ、三つある里の中で、僕の住んでる里が一番強いの。あとあと、その里の中でもとう様が一番強いんだよ。ドラゴンの森の中で一番なんだ。すごいでしょう‼』
『ドラゴンいっぱい、とってもつよいなの! それからアリスターのとうさま、いちばんつよいなの! しゅごいねえ。あ、またことばが……すごいねえなの!』
『えへへへ、僕の大好きなとう様なの』
僕の驚きをよそに、フィルとアリスターがどんどん話をしていきます。フィル、喜んで話してるけどドラゴンだよ。とっても強いドラゴンの里が三つに、いっぱいのドラゴンなんだよ。
それに、アリスターが言ってた、アリスターのお父さんの大きさ。さっきアリスターが指差した、あっちにある大きな木ね、平屋の建物よりも高い木なんだけど……その大きさで羽まで広げたら、どれだけ大きいの⁉
『すごいなあ、すごいなあなの。ボク、アリスターのとうさまたちに、あってみたいなあなの』
『あっ、じゃあお家に来る?』
『ほんとう? いっていいなの? やったぁ‼ カナデいっていいなの‼』
「え⁉」
僕は思わず驚きの声を出してしまいました。フィルは喜んでいます。待って、そんなに勝手に行っていいの? だってドラゴンの里だよ。知らない人間と知らないフィルがいきなり現れたら問題にならない?
アリスターが連れていってくれたとしても、不審者扱いされて、食べられちゃったりしたら……
せっかく神様に新しい世界に送ってもらったのに、すぐに死ぬなんて嫌だよ。それに、フィルとも家族になったんだから。まあ、神様のせいで、本来とは全然違う場所に送られてきたみたいだけど。そう、このドラゴンの森に。でも……
『とう様も他の大人ドラゴンも、少し前までは人間がいっぱい住んでる場所によく行ってたんだ。だからみんな久しぶりの人間に、カナデに会えたら、きっと喜ぶはずだよ。それに僕はフィルみたいな魔獣を見たことないから、もしかしたらとう様たちもフィルを見たら初めてだって喜ぶかも』
え? そうなの? 人間がいっぱいいる場所に行ってたの? 大きな体で? 街は壊れなかった? 家とかさ。僕、この世界の人間にまだ会ったことないけど、人間もドラゴンみたいに大きいとか?
『それにね、カナデもフィルも、ダメダメ神様のせいで、行く場所が分かんないんでしょう? あのね、今いる場所は危ないんだよ。さっきみたいな魔獣がよく出る場所なんだ。だから、僕の里に来た方が安全だよ』
『わわ⁉ たいへん‼ カナデ、アリスターのおうちにいったほうがいいなの‼』
僕は考えます。確かに何も分からない場所で、しかもこんな何もないところで、またあの生き物に襲われたら大変です。それに、お水やご飯のことだって問題だし。
さっきのアリスターの話が嘘じゃなかったら、ドラゴンたちは人間に慣れてるから、いきなり殺されたりはしないはず。
何もできないままさっきみたいに襲われて、すぐにこの世界とお別れするか、何も食べるものが見つけられなくて、そのままお別れすることになるか。そんなのどっちもお断りだよ。なら、今は生きる可能性が高い方にしなくちゃ。
それにね……僕もちょっとドラゴンの里を見てみたいんです。だってドラゴンだよ。地球にいたら絶対に見られないやつ。もしかしたら、アリスターみたいに仲良しになれるかも。
黙っちゃった僕に、フィルが心配して聞いてきます。
『カナデ、だめなの?』
「……ううん! しょんにゃことにゃい! ぼくも、ありしゅたのとうしゃまにあいちゃい‼」
『決まり‼ わあ、僕が人間のお友達を連れていったら、とう様もかあ様も喜んでくれるかなあ。新しい友達。ふへへへ』
『ふへへへへなのぉ』
決まったらすぐに行動開始です。まずは、どうやってアリスターのドラゴンの里まで行けばいいのかな? アリスターとフィルが同時に僕を見て、『飛べる? 走れる?』って聞いてきました。
うん、無理‼ さっき立ったときフラフラしちゃって、走るどころか歩くのも危ないようです。
ただでさえ、この世界にまだ体が馴染んでない感じなのに、体は二歳児。下手したら、歩行訓練から始めないと。
『そっか、そうだよね。人間でも飛べる人間と、飛べない人間がいるもんね。それに、カナデは魔法が使えない、まだとっても小さい人間』
『さっきたったらフラフラしてたなの。だからはしるのもダメなの』
う~ん。みんなでどうしようか考えます。アリスターの話だと、アリスターが飛んでいけば、さっさと着いちゃうみたい。それから、さっきの動きからすると、フィルが走ってもささっと着いちゃうみたい。
ただ人間の、しかもチビの僕は……平らな道ばっかりじゃないし、池や川を越えていかないといけないらしいです。
池も川も岩の上を飛んで進めるフィルたちは問題なしなんだけどね。いや、僕には絶対無理だよ。どうしようかな? 行けるところまでとりあえず歩いてみる? う~ん。
『あっ‼ いいこと思いついた‼』
黙って考えていたら、急にアリスターが大きな声を出しました。
『なまえなの?』
「うん! ぼくはぼくだけど、こいにゅはぼくのこちょ、かにゃでいうでちょ。かにゃでがにゃまえ。こいにゅもにゃまえかんがえりゅ。にゃまえたいしぇちゅ。じゅっといちょ、にゃまえいりゅ」
『ずっといっしょ‼ うれしいなの‼ なまえかんがえるなの‼』
子犬がジャンプしながら、僕の周りをぐるぐる飛び回ります。それから何か好きな名前とか、つけてほしい名前はないか聞いてみても、名前のことなんて今まで考えたことなかったらしくて、僕につけてほしいって言いました。
いいのって確認しても、僕がいいって、ワクワクした表情で僕の前にお座りしました。
元々、何もなかったら僕が考えようと思っていたとはいえ、なんか責任重大だな。しっかり考えなくちゃ。どんな名前がいいかな? もふもふだから『もふ』? それとも、もこもこだから『もこ』? 他には……
あっ、僕って言ってるけど、子犬は男の子なのかな? それに、他にも色々と分かればなあ。ステータスボードを見れば分かるのかな? 僕はすぐにステータスボードを確認してみます。
そうしたら、子犬のことが書いてあったすぐ下のところに、対象物に向かってステータスオープンって言うと、その対象物のステータスを見ることができるって書いてありました。
なるほど、対象物の情報が見たいときもステータスオープンでいいんだね。これはいいかも。どんな人、生き物か知りたいときに便利です。まあ、勝手に見るつもりはありません。だって、誰だって自分のことを勝手に見られるのは嫌だろうからね。必要なときにだけ使うようにしよう、うん。
とりあえず、子犬に向かってステータスオープンと言います。僕のときみたいに、子犬の前にステータスボードが現れました。
『わあ、ボクのまえにも、カナデとおなじのでたなの!』
「しぇいこ‼」
早速確認してみます。僕と同じく、名前と種族が書いてあって、名前のところにはただの棒線が引いてあります。まだ名前がないからでしょう。そして種族のところには、フェンリルの赤ちゃんって書いてありました。それから男の子だって。
フェンリルの赤ちゃん? フェンリルって、やっぱり小説やアニメに出てくる? どうなのかな? でも、可愛い子犬には変わりないから、子犬の種族がなんであろうと、別に問題はありません。
それからも、子犬のステータスボードを見ます。でも、僕のと同じで知らない文字や記号ばかりで、他は分かりませんでした。
ちょっと神様、ステータスボードくらいしっかり見せてよ。これから、僕たちは新しい世界で生活するんだよ。これじゃ、何をしたらいいか分かんないじゃん。それに、こんな何もない場所に僕たちを連れてきて。
子犬の名前を決めたら、これからどうするかしっかりと考えなくちゃ。だって、ご飯とか飲み水とか、問題だらけだもん。
う~ん、フェンリルの赤ちゃんかあ。フェン? フェル? リル? なんか違うなあ、しっくりこない。僕はしっかりと子犬を見ます。
あっ! そういえば、小さいとき、まだ両親がいて幸せだった頃、少しの間だけ老犬を飼っていたっけ。その子の名前がフィルだったな。
この子犬、どこかフィルに似てる気が……こう雰囲気っていうか、はっきりとは言えないんだけど……
「にぇ、にゃまえ、これど? ふぃりゅ」
『フィル、それがボクのなまえなの?』
「どお?」
『う~ん……』
考える子犬、ドキドキして待つ僕。そして――
『うん、ボクのなまえはフィルなの‼ カナデがかんがえてくれた、たいせつななまえなの‼ ありがちょなの‼ あっ、しっぱい。ありがとなの‼』
子犬のフィルは喜んで僕の周りを飛び跳ねます。これからよろしくね。少しして、跳ね回るのをやめたフィルを僕は抱きしめます。うん、やっぱりもふもふ、もこもこ、とっても気持ちがいい。
名前が決まり、改めてフィルのステータスボードを確認してみたら、名前のところに『フィル』って書かれていました。良かった、しっかり反応してるね。
と、ホッとしたときでした。いきなり木々の向こうの草むらからガサゴソ音が聞こえてきました。フィルが僕の前に立って、草むらに向かって唸りはじめます。
「ふぃりゅ?」
『あぶないのくるなの! ボクがカナデまもるなの‼』
フィルがそう言った瞬間、草むらから、イノシシみたいな生き物が飛び出してきて、僕たちの方へ突進してきました。
「ふぃりゅ! あぶにゃい‼」
『ダメ! カナデまもるの‼』
そしてイノシシみたいな生き物が、フィルに体当たりしそうになったとき――
『僕が先に、そいつに気づいたんだよ‼』
その言葉とともに横から何かが現れて、イノシシを吹き飛ばしました。木にぶつかって倒れるイノシシ。でも、よろけながらも立ち上がろうとしていました。そして僕たちの前には、フィルと同じくらいの大きさのドラゴンが立っていました。
ビックリしすぎて、僕は呆然とドラゴンを見つめてしまいます。一方のフィルは、すごいすごいとはしゃいでいます。
待ってフィル! フィルがそのままドラゴンの方へ行こうとするから、慌てて止めました。だってさっきの言葉、たぶんこのドラゴンが言ったはずです。『僕が先に気づいたんだよ‼』って。確かにイノシシは吹き飛ばしてくれたけど、今度はドラゴンが僕たちを襲ってくるかもしれません。
そこへ、立ち直ったイノシシが頭をフルフルさせて、また僕たちの方に突進してきました。
『あれ? 僕のケリが効いてない? じゃあ、もう一回』
ドラゴンは、向かってきたイノシシを、今度は反対方向に吹き飛ばしました。
『これで大丈夫……あれえ、また立っちゃった。もしかして変異種だった? 僕、間違えちゃったみたい』
イノシシは再び飛ばされて木に激突しました。でも、かなりの衝撃があったはずなのに、また立ち上がります。それに、ドラゴンの言葉。間違えちゃった? 変異種? なんのこと?
『う~ん、変異種だと、まだ僕だけじゃ無理かなあ。ねえねえ、キミは魔法使える? 僕だけじゃ無理だから、一緒に戦ってほしいんだ』
魔法? 魔法って、あの魔法? 呪文を唱えると、火が出たり、水が出たり、ものを浮かせたりする? 僕はぶんぶん頭を横に振ります。
『そっかあ。でも、なんとか倒さないと、みんなとゆっくりお話できないし、う~ん』
『ハイハイ‼ ボク、まほうしらないなの! でもきっとたいあたりとか、けったりできるはずなの‼ さっきあのいきものとばしたとき、けったでしょなの。あれならできる、たぶんなの‼』
え? 蹴った? ドラゴンがイノシシを蹴ったのが見えたの? 僕には、イノシシがドラゴンにぶつかる前に、飛んでいったようにしか見えなかったよ。
『そっか‼ じゃあ次にこっちに突進してきたら、僕と一緒に蹴飛ばして。その後、ゆっくりお話ししようよ!』
『うん‼』
待って待って、なに二匹で話を進めてるの。というかフィル、戦ったことなんかないでしょう! それなのに、どうして『たぶん』でイノシシを倒そうとしてるの⁉
慌ててフィルを止めようとしたんだけど、その前にイノシシが再び戦闘態勢になってしまいました。二歳児の僕は二匹に下がっててって言われます。ああ、もう‼
今の僕じゃ何もできません。なんにもできないことがこんなに歯痒いなんて。せめて、ドラゴンが言ったように魔法が使えて、バリヤとか、フィルたちを強くさせられたらいいのに。
そのとき、僕の胸あたりが急に温かくなった気がしました。
『あれ? これ、なんだろう? 何か力が湧いてくる感じ』
『フィルも、フィルもなの! つよくなったきがするなの、がんばるなのぉ‼』
フィルがはしゃいでいます。そしてイノシシが、今度も勢いをつけて突進してきました。ドラゴンは、今度は自分から向かっていきます。フィルにもついてきてと言い、フィルはドラゴンのすぐ後を追います。
飛んでイノシシに向かうドラゴン、それに走って追いつくフィル。そして――
『せえので蹴ってね‼』
『わかったなの‼』
『せえの‼』
『たぁ~なのぉ‼』
シュパーンッ‼
二匹がイノシシにぶつかりそうになった瞬間、今まで通りイノシシが弾き飛ばされました。でも、今までと違うところもあります。
さっきまでは、飛ばされたイノシシはその辺の木にぶつかっていました。でも今度は、弧を描くように空を飛んで、最後にはその姿が完全に見えなくなりました。
そして、地面に着地したフィルとドラゴンは、二匹でポーズを取りました。ドラゴンは両手を上げてイエ~イって感じ。フィルはなぜか右前足と左後ろ足を器用に上げています。なんでそんなポーズとは思ったけど、可愛いからいいよね。
それからドラゴンはフィルに、『他にも近くに魔獣がいないか確認してくるから待ってて』と言いました。そして、フィルが僕のところに戻ったのを確認した後、フラフラとその辺を飛びはじめます。
『カナデ、ボクすごい? がんばったなの?』
「うん、ちょっちぇもしゅごい‼ ふぃるはちゅよいにぇ」
褒めながらいっぱい撫でてあげたら、フィルはしっぽをブンブン振って喜びました。本当に可愛いなあ。しかも、とっても強い。目には見えなかったけど、ドラゴンと一緒で、たぶんイノシシに蹴りを入れたんだよね。フィルがこんなに強いなんて。頑張ってくれてありがとうね。
それから、ドラゴンにもお礼を言わなくちゃ。お話ししようって言ってたし、僕たちを助けてくれたもんね。ただ、警戒はしておいた方がいいかな。まだはっきりと大丈夫って決まったわけじゃないもん。もし、いきなり襲われたら?
今度は僕がフィルを守るんだ! 何ができるか分かんないけど……それでも、頑張ってフィルを守ろう!
ようやくフィルの全身を撫で終わった頃、ドラゴンが僕たちのところに帰ってきました。フィルは僕よりも大きいから、全身を撫でるのは、けっこう大変でした。
『近くには何もいないみたい、もう大丈夫だよ。これでゆっくりお話できるね』
『あのねあのね、ぼくたちのことたすけてくれて、ありがとなの‼』
「うん! ありがちょ‼」
『どういたしまして‼ じゃあじゃあ、お話ししよう! 僕ね、人間とお話ししてみたかったんだ。だって、とう様はなかなか人間のいるところに連れていってくれないんだもん』
「としゃま? ちかくいりゅ?」
『うんとね、僕は近く。でも人間は遠いかも』
どういうこと?
『それでそれでね、まず人間の子供はどこから来たの! それから、そっちの魔獣はどこから? それと二匹とも家族なの? あっ! でも人間の小さい子だけで、ここにいるわけないよね。とう様やかあ様はどこにいるの? この辺には誰もいなかったけど』
ゆっくり話ができる、なんてことはなく、ドラゴンは一気に質問をしてきます。
待って待って、まずは自己紹介からしない? だってドラゴンとか、人間の子供とか、魔獣とか。フィルなんてせっかく名前が決まったんだから、ちゃんと名前で呼ぼうよ。
「ま、まっちぇ。えちょね、ぼくのにゃまえはかにゃで」
『ボクのなまえはフィルなの! カナデがかんがえてくれた、とってもカッコいいなまえなの‼』
『そっか! カナデとフィル、こんにちは‼ そうそうご挨拶忘れてたよ。とう様はご挨拶大事だって、いつも言ってるのに。えと、僕の名前はアリスターだよ』
『わあ、アリスターもカッコいいなまえなの! ボクたちにひきともカッコいいなの‼』
『うん、カッコいい‼』
肩を組んで体を揺らして喜ぶ二匹。しかもそれぞれバラバラに鼻歌を歌いはじめます。出会ったばかりなのに、もう仲良しって感じで、僕だけが取り残されてる気がしました。ちょっと僕も仲間に入れてよ。
「ふちゃりちょも、しゅわっちぇ。おはなちでちょ?」
『あ、そうだった。いけないいけない』
『えへへ、うれしくてふわふわなの』
ふわふわ? フィル、それはどういう気持ちなの? 気持ちがふわふわするほど嬉しいってこと?
僕の言葉で、二匹は静かになります。それからフィルは僕の隣に、アリスターは僕たちの前に座りました。僕はまず、さっきアリスターが聞いてきたことについて、答えることにします。
どこから来たのかについては、返事をする前に、ここまでの出来事を考えてみました。
イノシシみたいだけど、僕の知っているイノシシじゃないこと、ドラゴンのアリスターがいること。あと、空を見上げれば太陽が二つ浮かんでいることから、ここは絶対に地球じゃないって確信しました。うん、思わず太陽を二度見しちゃいます。
でも、ちょっとしか驚きませんでした。まあ、こんな世界もあるよねって思ったくらい。だって、先にドラゴンのアリスターに出会ってるんだもん。
だからね、地球って言っても分からないだろうから、とってもとっても遠くから来たって言いました。地球の説明するのは大変だし、それに何より、今地球の話をしたら、またアリスターの質問が止まらなくなって、話が進まなくなりそうだし。
それから、フィルとの関係は、もちろん家族って答えました。家族になったばかりだけど、僕の大切な家族。他の家族はいないって言いました。本当のことだしね。
『ふぇ~、とっても遠くから、ここまで二匹で来たの? ここは、一番近い人間が住んでる街からでも、人間は二十日くらいかかるんだよって、とう様が言ってた。とう様や大人が飛んでいけば、三日くらいだって。そこよりも遠くからなんだあ~』
あ~、まあそうだよね。ドラゴンのアリスターのお父さんたちなら、もちろんドラゴンだよね。大人のドラゴンが、どのくらいの大きさかは分からないけど、空を飛んでいけば、ささっと目的地までついちゃうよなあ。
『あのねえ、フィルたち、ここまでおくってもらったのなの。でもたぶん、くるところここじゃなかったなの』
『送ってもらったの? でも、違うところに行くはずだったの?』
『えっとねえ……』
「まっちぇふぃる、ぼくかんがえりゅ」
どこまで話していいのかな? 神様のこと話しても大丈夫? 変に思われないかなあ。だいたい、この世界に神様って存在しているのかな?
なんて色々考えているうちに、アリスターは早く話してってせっつくせいか、待ってって言ってるのにフィルが話を始めちゃって――
『あのねえ、かみさまっていうひとが、いろいろまちがえて、あたらしいばしょにおくるから、そこでくらしなさいっていったなの。でもここにおくってくれるとき、まちがったっていったなの。それでいっしょにいたおんなのひとが、バカがみっていって、そうしたらボクたちはここにいたなの』
『女の人? 神様? 僕の知ってる神様かな? けど、僕の知ってる神様はバカ神なんて言われてないし。その人がここに間違って送っちゃったんだ』
『えとねえ、ほかにもいろいろダメダメなバカがみさまなの』
と、これまでの神様の失敗を、アリスターに全部話したフィル。それを聞いてダメだねえとか、それも間違えたのとか、全部に反応を返してくれたアリスター。最後にはまた二匹で肩を組んで――
『神様はダメダメ』
『まちがいダメダメなの』
『『ダメダメ神様、なのぉ‼』』
と、即興で作った歌を大きな声で歌っていました。あ~あ神様、まあ色々と、間違える神様が悪いんだけど、フィルたちに完璧にダメ神様で覚えられちゃったね。
「ふたりちょも、しゅわっちぇ!」
『『あ!』』
二匹が苦笑いをして頭を掻きながら、僕の方へ戻ってきました。なかなか話が進まないよ。
『そっかあ、じゃあ、本当の場所に送ってもらってたら、二匹には会えなかったんだね。神様はダメダメ神様だけど、僕は二匹に会えて嬉しい!』
『ボクもなの‼』
「ぼくも‼」
さっきからアリスターは僕とフィルのことを呼ぶとき二匹って言うけど、ドラゴンは、人間も一匹二匹って数えるのかな?
『じゃあ、これから本当に行くはずだった場所に行くの?』
「うんちょね、ほんちょうにいくばちょ、しりゃにゃいにょ。どこにいっちゃいいか、わかりゃにゃい」
『だからボクたちこまってるなの。ねえねえアリスター、ここはどこなの?』
『ここは僕たちドラゴンが住んでる、ドラゴンの森だよ』
え? ドラゴンの森? 僕たちそんな危険そうな場所に送られていたの⁉
『ドラゴンのもり?』
『そうだよ。ここはとっても大きな森で、いっぱいドラゴンが住んでるから、ドラゴンの森って言うんだって、とう様が言ってた。えっとねえ、ドラゴンの里が三つあって、僕は一番大きな里に住んでるの』
『さと? さとってなになの?』
『僕が住んでる場所のことだよ』
『アリスターみたいなドラゴンがいっぱいなの?』
『僕は里で一番年下で、一番体が小さいんだよ。とう様はあっちにある大きな木よりも、もっと背が高くて、とっても大きいんだ。他にも大きなドラゴンがいっぱい』
「どりゃごん、いっぱ?」
『うん‼ それからねえ、三つある里の中で、僕の住んでる里が一番強いの。あとあと、その里の中でもとう様が一番強いんだよ。ドラゴンの森の中で一番なんだ。すごいでしょう‼』
『ドラゴンいっぱい、とってもつよいなの! それからアリスターのとうさま、いちばんつよいなの! しゅごいねえ。あ、またことばが……すごいねえなの!』
『えへへへ、僕の大好きなとう様なの』
僕の驚きをよそに、フィルとアリスターがどんどん話をしていきます。フィル、喜んで話してるけどドラゴンだよ。とっても強いドラゴンの里が三つに、いっぱいのドラゴンなんだよ。
それに、アリスターが言ってた、アリスターのお父さんの大きさ。さっきアリスターが指差した、あっちにある大きな木ね、平屋の建物よりも高い木なんだけど……その大きさで羽まで広げたら、どれだけ大きいの⁉
『すごいなあ、すごいなあなの。ボク、アリスターのとうさまたちに、あってみたいなあなの』
『あっ、じゃあお家に来る?』
『ほんとう? いっていいなの? やったぁ‼ カナデいっていいなの‼』
「え⁉」
僕は思わず驚きの声を出してしまいました。フィルは喜んでいます。待って、そんなに勝手に行っていいの? だってドラゴンの里だよ。知らない人間と知らないフィルがいきなり現れたら問題にならない?
アリスターが連れていってくれたとしても、不審者扱いされて、食べられちゃったりしたら……
せっかく神様に新しい世界に送ってもらったのに、すぐに死ぬなんて嫌だよ。それに、フィルとも家族になったんだから。まあ、神様のせいで、本来とは全然違う場所に送られてきたみたいだけど。そう、このドラゴンの森に。でも……
『とう様も他の大人ドラゴンも、少し前までは人間がいっぱい住んでる場所によく行ってたんだ。だからみんな久しぶりの人間に、カナデに会えたら、きっと喜ぶはずだよ。それに僕はフィルみたいな魔獣を見たことないから、もしかしたらとう様たちもフィルを見たら初めてだって喜ぶかも』
え? そうなの? 人間がいっぱいいる場所に行ってたの? 大きな体で? 街は壊れなかった? 家とかさ。僕、この世界の人間にまだ会ったことないけど、人間もドラゴンみたいに大きいとか?
『それにね、カナデもフィルも、ダメダメ神様のせいで、行く場所が分かんないんでしょう? あのね、今いる場所は危ないんだよ。さっきみたいな魔獣がよく出る場所なんだ。だから、僕の里に来た方が安全だよ』
『わわ⁉ たいへん‼ カナデ、アリスターのおうちにいったほうがいいなの‼』
僕は考えます。確かに何も分からない場所で、しかもこんな何もないところで、またあの生き物に襲われたら大変です。それに、お水やご飯のことだって問題だし。
さっきのアリスターの話が嘘じゃなかったら、ドラゴンたちは人間に慣れてるから、いきなり殺されたりはしないはず。
何もできないままさっきみたいに襲われて、すぐにこの世界とお別れするか、何も食べるものが見つけられなくて、そのままお別れすることになるか。そんなのどっちもお断りだよ。なら、今は生きる可能性が高い方にしなくちゃ。
それにね……僕もちょっとドラゴンの里を見てみたいんです。だってドラゴンだよ。地球にいたら絶対に見られないやつ。もしかしたら、アリスターみたいに仲良しになれるかも。
黙っちゃった僕に、フィルが心配して聞いてきます。
『カナデ、だめなの?』
「……ううん! しょんにゃことにゃい! ぼくも、ありしゅたのとうしゃまにあいちゃい‼」
『決まり‼ わあ、僕が人間のお友達を連れていったら、とう様もかあ様も喜んでくれるかなあ。新しい友達。ふへへへ』
『ふへへへへなのぉ』
決まったらすぐに行動開始です。まずは、どうやってアリスターのドラゴンの里まで行けばいいのかな? アリスターとフィルが同時に僕を見て、『飛べる? 走れる?』って聞いてきました。
うん、無理‼ さっき立ったときフラフラしちゃって、走るどころか歩くのも危ないようです。
ただでさえ、この世界にまだ体が馴染んでない感じなのに、体は二歳児。下手したら、歩行訓練から始めないと。
『そっか、そうだよね。人間でも飛べる人間と、飛べない人間がいるもんね。それに、カナデは魔法が使えない、まだとっても小さい人間』
『さっきたったらフラフラしてたなの。だからはしるのもダメなの』
う~ん。みんなでどうしようか考えます。アリスターの話だと、アリスターが飛んでいけば、さっさと着いちゃうみたい。それから、さっきの動きからすると、フィルが走ってもささっと着いちゃうみたい。
ただ人間の、しかもチビの僕は……平らな道ばっかりじゃないし、池や川を越えていかないといけないらしいです。
池も川も岩の上を飛んで進めるフィルたちは問題なしなんだけどね。いや、僕には絶対無理だよ。どうしようかな? 行けるところまでとりあえず歩いてみる? う~ん。
『あっ‼ いいこと思いついた‼』
黙って考えていたら、急にアリスターが大きな声を出しました。
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