つたない俺らのつたない恋

秋臣

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思い上がり

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ぐいぐい押されていたのに急に引かれると追いたくなる心理ってこれか。なんて無様だ。
セオリー通り追いたくなってる自分に驚く。
京士さんへの思いは簡単には断ち切れないと思っていたのに、意外にもすんなり消えていってくれた。

京士さんとプレゼントを買いに行ってからしばらくしてバイト先のカフェに週に1、2回窓際の席に座って本を読んだり、何かの課題をしている女性を見かけるようになった。
そう、京士さんはネックレスをしてこなかった。
その代わりあの小さな一粒ダイヤのネックレスの新しい持ち主が今日も窓際の席に座っている。

千花さんと紹介された彼女は京士さんが言っていた通り、おっとりと優しい雰囲気を持つかわいらしい女性だ。
彼女をちーと呼ぶ京士さんは千花さんがくるとソワソワ落ち着かないし、気もそぞろでミス連発。俺の尊敬する先輩像がガラガラと音を立てて崩れて落ちる寸前だ。

千花さんは時折俺を呼んで、
「私が居ると京士くん仕事にならないから、今日は先に帰るって伝えてもらえる?あとで連絡するからって」
「はい笑分かりました。伝えますね」
「ふふ、ありがとう、またね」
悪戯っぽく笑う千花さんの首元のネックレスがキラリと光って店の外へ消えた。
その後の京士さんのガッカリ具合といったらなくて、
「ちー帰っちゃった……」とこれまた仕事にならない。
「早く片付け終わらせて帰りましょうよ」
「うん……」

でも知ってるんだ。
千花さん、閉店間際に店の近くに戻ってきて待っててくれてることを。
いいなって思う、本当に心から。
あんなぐずぐずになってしまう京士さんに
「もう、しっかりして!」とお尻を叩く千花さん、あれをお似合いと言わずになんと言うんだ。悔しいとか嫉妬とかは強がりじゃなくないんだ、本当に。
好きな気持ちは確かにあったと思う。でもそれは大好きな兄貴を取られたくないブラコンみたい感情だったのかもしれない。
本当の兄弟でもないのにそこまで思わせてくれてた京士さんのことが大好きなんだ。
人間として尊敬してる、そういう好きなんだ。

人を好きになる気持ちを知った今なら暁人のこと受け入れられるかもしれない、なんて都合良くいくわけなかった。

なんでいつまでも暁人が俺のこと好きでいると思ってたんだ?
思い上がりも甚だしいよな。散々酷い言葉で振っておいて、自分の恋(恋といえるかどうかも怪しいけど)がダメになったから、都合よく転がってた暁人の気持ちに乗っかって甘やかしてもらおうなんて虫がよすぎる。
そんなの自分がかわいいだけだ、結局暁人を傷つけることに変わりないじゃないか。自分の気持ちだけ守って、全て暁人に委ねようとしてる。そんなこと考えてる自分の狡さに心底嫌気がさす。
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