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最終話 俺を見つけて
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どういうことだ、これはなんだ。
珀次はスクリーンを見つめてる。
俺の手を握る珀次の手が震えてることに気づく。
スクリーンに映し出されたのは大学時代の俺だった。
見覚えがある。
珀次はよく写真や動画を撮る。
俺はそういうのが苦手で珀次がスマホを向けるたびに
「やめろ!」
と逃げていた。
スクリーンの俺もまさに同じことを言っている。
スマホのこちら側で珀次の声がする。
「いいじゃん、撮らせてよ」
「やだよ」
「爺さんになった時に一緒に見ようぜ」
「なんでそんな歳までお前といないといけないんだよ」
「俺が一緒にいたいから」
「恥ずかしいこと言うな」
「照れんなよ、碧斗」
「うぜえ!消せ!」
いつこんなところ撮ったんだ?という俺の知らない映像もいくつもあった。
どんな場面に切り替わっても映ってるのは俺だけだった。
珀次はいつもスマホのこちら側で俺を見ていた。
10分ほどに編集した映像が終わる。
再び場内がぼんやりと明るくなる。
「…俺さ、こんなに碧斗のことずっとそばで見ていたのになにもわかってなかった」
珀次?
「そばにいて体を重ねて、碧斗のなにもかもをわかった気になってた」
「……」
「本当の碧斗は気が小さくて弱虫で素直じゃなくて我儘で意地っ張りで頑固で自分勝手」
「…おい、悪口言いにわざわざこんな遠くまで連れて来たのか?」
「ずっと碧斗は助けてって叫んでたのに、見つけてくれって泣いてたのに俺は気づかなかった」
え……
「碧斗が言えないなら、手を伸ばせないなら、俺が見つけてその手を掴んでやらなきゃいけなかったんだ。
あの時みたいに。
碧斗、ごめんな。
碧斗を壊しちゃった。
俺のために忙しいのにあんなに調べてくれてたのに、俺はなにも考えずに踏みにじった。
一度壊れたものは完全に元に戻らないかもしれないけど、俺に直させてくれないか?
どうしても直せないかけらは俺と新しい思い出を作って新しいパーツにして欲しい」
まだ珀次の手は震えている。
「もう他に好きな人がいるのかもしれない、もう手遅れかもしれない。
それでも碧斗を諦められないし失いたくないんだ。
だから碧斗を見つけたい、助けたい」
珀次の声が涙声になる。
珀次の手を握り返す。
泣きながら俺の顔を驚いて見つめる。
俺はなにも映ってないスクリーンを見つめたまま言う。
「俺は我儘なんだ。
珀次が俺のことを誰よりも愛してないと嫌だし、構ってくれてないと拗ねるし、会いに来てくれないと不貞腐れるし、
寂しくて眠れない。
放っておかれるのも我慢できない。
でも一人にもなりたい」
ふっ
「我儘だな」
珀次が笑う。
「ああ、そうだよ、我儘だよ。
お前のこと好きだなんて言わないし、
愛してるなんて死んでも言わない」
ふ…
「俺、かわいそう」
「珀次のフレンチトーストが食いたい」
「うん…」
「最低でも週一」
「うん…作って持って行くよ」
「ダメ」
「え?」
「焼き立てじゃないと嫌だ」
「……」
「俺が起きた時に焼き立てがないと嫌だ」
「……」
「毎朝作ってくれないのか?」
珀次が泣き出す。
「一人で寝るの寂しいから嫌だ。
俺が寝るまで構ってくれないと嫌だ。
会いに来てくれないと嫌だ。
珀次がいないと嫌だ。
だから一緒に住んで、そばにいてくれないと困る。こんな我儘、珀次にしか言えない」
「碧斗…」
珀次が泣きじゃくる。
「俺、すげえ我儘だぞ」
「知ってる…」
「それでもいいか?」
「碧斗みたいな奴、俺じゃないと無理だろ?」
「そうだよ、無理だよ」
「初めて会った時のこと碧斗覚えてる?」
「サークルの勧誘にうんざりしたお前が『義務かよ』って言ったのは忘れもしない。よくあんなこと言えたな」
あの時のことを思い出すと今でも笑ってしまう。
「違うよ」
「え?」
「やっぱり思い違いしてる」
「なんだよ、それ」
「『義務かよ』って言ったの碧斗だよ」
え……
「俺も勧誘しつこくてうんざりしてたのは本当。隣で碧斗が『義務かよ』って言ったのが、俺には『助けてくれ』って聞こえた。だから腕掴んで逃げたんだ」
そんなの知らない…俺じゃない…
言ったのは珀次、お前だろ?
あの時のことを話しては笑っていたのに今まで珀次はそれが俺だとは言わなかった。
言わないことで俺を守ってくれてたのか?
「だったら離れないでよ」
「うん」
「俺を助けて、俺を見つけてよ」
「うん」
「俺は弱くて脆いからちゃんと珀次が支えて」
「うん」
ハンカチで珀次の顔を拭く。
「今すぐ俺を助けて…」
「碧斗、おいで」
珀次が両手を広げる。
俺は珀次の胸で声を上げて泣いた。
由岐兄ちゃん、俺、声が聞こえたよ。
助けて、見つけてって声がちゃんと聞こえた。
弱虫で頑固で我儘な大好きで大切な人の声が聞こえたんだ。
隠れてた本当の碧斗を見つけたよ。
珀次はスクリーンを見つめてる。
俺の手を握る珀次の手が震えてることに気づく。
スクリーンに映し出されたのは大学時代の俺だった。
見覚えがある。
珀次はよく写真や動画を撮る。
俺はそういうのが苦手で珀次がスマホを向けるたびに
「やめろ!」
と逃げていた。
スクリーンの俺もまさに同じことを言っている。
スマホのこちら側で珀次の声がする。
「いいじゃん、撮らせてよ」
「やだよ」
「爺さんになった時に一緒に見ようぜ」
「なんでそんな歳までお前といないといけないんだよ」
「俺が一緒にいたいから」
「恥ずかしいこと言うな」
「照れんなよ、碧斗」
「うぜえ!消せ!」
いつこんなところ撮ったんだ?という俺の知らない映像もいくつもあった。
どんな場面に切り替わっても映ってるのは俺だけだった。
珀次はいつもスマホのこちら側で俺を見ていた。
10分ほどに編集した映像が終わる。
再び場内がぼんやりと明るくなる。
「…俺さ、こんなに碧斗のことずっとそばで見ていたのになにもわかってなかった」
珀次?
「そばにいて体を重ねて、碧斗のなにもかもをわかった気になってた」
「……」
「本当の碧斗は気が小さくて弱虫で素直じゃなくて我儘で意地っ張りで頑固で自分勝手」
「…おい、悪口言いにわざわざこんな遠くまで連れて来たのか?」
「ずっと碧斗は助けてって叫んでたのに、見つけてくれって泣いてたのに俺は気づかなかった」
え……
「碧斗が言えないなら、手を伸ばせないなら、俺が見つけてその手を掴んでやらなきゃいけなかったんだ。
あの時みたいに。
碧斗、ごめんな。
碧斗を壊しちゃった。
俺のために忙しいのにあんなに調べてくれてたのに、俺はなにも考えずに踏みにじった。
一度壊れたものは完全に元に戻らないかもしれないけど、俺に直させてくれないか?
どうしても直せないかけらは俺と新しい思い出を作って新しいパーツにして欲しい」
まだ珀次の手は震えている。
「もう他に好きな人がいるのかもしれない、もう手遅れかもしれない。
それでも碧斗を諦められないし失いたくないんだ。
だから碧斗を見つけたい、助けたい」
珀次の声が涙声になる。
珀次の手を握り返す。
泣きながら俺の顔を驚いて見つめる。
俺はなにも映ってないスクリーンを見つめたまま言う。
「俺は我儘なんだ。
珀次が俺のことを誰よりも愛してないと嫌だし、構ってくれてないと拗ねるし、会いに来てくれないと不貞腐れるし、
寂しくて眠れない。
放っておかれるのも我慢できない。
でも一人にもなりたい」
ふっ
「我儘だな」
珀次が笑う。
「ああ、そうだよ、我儘だよ。
お前のこと好きだなんて言わないし、
愛してるなんて死んでも言わない」
ふ…
「俺、かわいそう」
「珀次のフレンチトーストが食いたい」
「うん…」
「最低でも週一」
「うん…作って持って行くよ」
「ダメ」
「え?」
「焼き立てじゃないと嫌だ」
「……」
「俺が起きた時に焼き立てがないと嫌だ」
「……」
「毎朝作ってくれないのか?」
珀次が泣き出す。
「一人で寝るの寂しいから嫌だ。
俺が寝るまで構ってくれないと嫌だ。
会いに来てくれないと嫌だ。
珀次がいないと嫌だ。
だから一緒に住んで、そばにいてくれないと困る。こんな我儘、珀次にしか言えない」
「碧斗…」
珀次が泣きじゃくる。
「俺、すげえ我儘だぞ」
「知ってる…」
「それでもいいか?」
「碧斗みたいな奴、俺じゃないと無理だろ?」
「そうだよ、無理だよ」
「初めて会った時のこと碧斗覚えてる?」
「サークルの勧誘にうんざりしたお前が『義務かよ』って言ったのは忘れもしない。よくあんなこと言えたな」
あの時のことを思い出すと今でも笑ってしまう。
「違うよ」
「え?」
「やっぱり思い違いしてる」
「なんだよ、それ」
「『義務かよ』って言ったの碧斗だよ」
え……
「俺も勧誘しつこくてうんざりしてたのは本当。隣で碧斗が『義務かよ』って言ったのが、俺には『助けてくれ』って聞こえた。だから腕掴んで逃げたんだ」
そんなの知らない…俺じゃない…
言ったのは珀次、お前だろ?
あの時のことを話しては笑っていたのに今まで珀次はそれが俺だとは言わなかった。
言わないことで俺を守ってくれてたのか?
「だったら離れないでよ」
「うん」
「俺を助けて、俺を見つけてよ」
「うん」
「俺は弱くて脆いからちゃんと珀次が支えて」
「うん」
ハンカチで珀次の顔を拭く。
「今すぐ俺を助けて…」
「碧斗、おいで」
珀次が両手を広げる。
俺は珀次の胸で声を上げて泣いた。
由岐兄ちゃん、俺、声が聞こえたよ。
助けて、見つけてって声がちゃんと聞こえた。
弱虫で頑固で我儘な大好きで大切な人の声が聞こえたんだ。
隠れてた本当の碧斗を見つけたよ。
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