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かくれんぼ
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ここどこ?
ベッド?
見慣れた部屋、碧斗の部屋だ。
碧斗…碧斗!起きあがろうとしたらベッドの下で寝ている碧斗がいた。
不意に涙が込み上げる。
帰ってこない碧斗が心配でアパートのドアの前で座り込んで待ってしまった。
なにかあったのかと心配だった。
こんなこと今までなかったから…
帰ってきた碧斗に起こされて、ふっと力が抜けた。姿を見て安心した。
抱きしめて碧斗の存在を確かめたかった。
その時、ボディソープとシャンプーの向こう側にあるはずの碧斗の匂いがなかった。
他の匂いがいた。
女だと直感した。
碧斗が女を抱いた。
それを悟った瞬間、碧斗を失う恐怖が現実となって襲って来た。
怖い
嫌だ
恐怖に支配された俺は壊れた。
助けて欲しいのに、手を伸ばしても、
どんなに叫んでも碧斗は見ているだけ。
それどころか俺を放って後ろを向いて歩き出してしまった。
助けて…
俺を見つけて…
怖い…
助けて…
急に昔のことがシンクロした。
子どもの頃みんなでかくれんぼをした。
俺は隠れるのが得意だった。
その日も神社の大きな木のうろに隠れた。
うろは危ないからダメだと大人に言われていたけど、体が小さかった俺が隠れるには最適だった。
ここなら見つからないとほくそ笑んだ。
その笑みは次第に消えた。
いつまで経っても見つけに来てくれない。
「珀ちゃーん、どこー?」というみんなの探す声もだんだん聞こえなくなっていた。
木々が騒めく。
怖くなって来た。
ここから出よう、そう思っても体が動かなかった。
恐怖で体が動かない。
どうして見つけてくれないの?
どうして助けてくれないの?
うろに隠れたから?
言うこと聞かないから罰が当たったの?
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…
動けなかったが泣くことはできた。
泣くしかできなかった。
それでも俺の声は誰にも届かなかった。
その時、
「その声、珀次か?」
と、うろを覗く顔があった。
不意に名前を呼ばれて涙が止まる。
「由岐兄ちゃん?」
「お前、こんなところでなにしてんだ?
ほら、出てこい」
由岐兄ちゃんが手を差し伸べてくれる。
俺はその手を掴んだ。
「ごめん、この子近所の子なんだ。送って行くから今日はごめん」
「ううん、気にしないで、またね由岐くん」
と女の人が手を振って帰って行った。
由岐兄ちゃんは6歳年上の中学生。
家が近所でよく構ってくれる優しい兄ちゃん。
「珀次、お前なにしてんだ?」
涙でぐちゃぐちゃの俺の顔をハンカチでゴシゴシ拭く。
「かくれんぼしてたのに見つけてくれない…」
ふっ
「お前、隠れるの上手いからなあ」
「うん」
「うん、じゃねえよwうろには隠れるなって言われてるだろ?崩れることもあるだぞ」
「ごめんなさい…」
「送ってってやる、一緒に帰ろ」
「うん」
「珀次」
「ん?」
「怖かったか?」
「うん…」
「そうだよな、見つけてもらえないのって怖いんだよな。一人ぼっちでもう誰にも見つけてもらえないんじゃないかって」
「うん…」
「そういう時は『助けて』『ここにいる!』って言え」
「でもかくれんぼだよ?」
「見つけてもらえないのと、かくれんぼの鬼になるのとどっちが怖い?」
「…見つけてもらえないの」
「だろ?だったら『助けて』って言え。
『ここにいるよ!』って出てこい。今度は珀次がみんなを見つけてやれ」
「うん」
「うろはダメだからな」
「…お父さんに言う?」
「泣いてたことだけ言う」
と由岐兄ちゃんが笑う。
「言わないで!」
あはははは!
「由岐兄ちゃん」
「なに?」
「さっきの女の人誰?」
「ん?」
「一緒にいた女の人」
「んー…」
「なんであんなところに二人でいたの?」
「んんー……なあ、珀次」
「なに?」
「うろにいたことも、泣いてたことも
内緒にしてやる」
「え?」
「だから珀次も黙ってろ」
「由岐兄ちゃんが女の人とあそこにいたこと?」
「そう」
「わかった」
「約束な」
「うん」
本当は見たんだ。
由岐兄ちゃんがあの女の人とチューしてた。
由岐兄ちゃんの知らない部分を見て、それが怖くて余計泣いたんだ。
約束したから誰にも言わない。
約束だから。
ベッド?
見慣れた部屋、碧斗の部屋だ。
碧斗…碧斗!起きあがろうとしたらベッドの下で寝ている碧斗がいた。
不意に涙が込み上げる。
帰ってこない碧斗が心配でアパートのドアの前で座り込んで待ってしまった。
なにかあったのかと心配だった。
こんなこと今までなかったから…
帰ってきた碧斗に起こされて、ふっと力が抜けた。姿を見て安心した。
抱きしめて碧斗の存在を確かめたかった。
その時、ボディソープとシャンプーの向こう側にあるはずの碧斗の匂いがなかった。
他の匂いがいた。
女だと直感した。
碧斗が女を抱いた。
それを悟った瞬間、碧斗を失う恐怖が現実となって襲って来た。
怖い
嫌だ
恐怖に支配された俺は壊れた。
助けて欲しいのに、手を伸ばしても、
どんなに叫んでも碧斗は見ているだけ。
それどころか俺を放って後ろを向いて歩き出してしまった。
助けて…
俺を見つけて…
怖い…
助けて…
急に昔のことがシンクロした。
子どもの頃みんなでかくれんぼをした。
俺は隠れるのが得意だった。
その日も神社の大きな木のうろに隠れた。
うろは危ないからダメだと大人に言われていたけど、体が小さかった俺が隠れるには最適だった。
ここなら見つからないとほくそ笑んだ。
その笑みは次第に消えた。
いつまで経っても見つけに来てくれない。
「珀ちゃーん、どこー?」というみんなの探す声もだんだん聞こえなくなっていた。
木々が騒めく。
怖くなって来た。
ここから出よう、そう思っても体が動かなかった。
恐怖で体が動かない。
どうして見つけてくれないの?
どうして助けてくれないの?
うろに隠れたから?
言うこと聞かないから罰が当たったの?
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…
動けなかったが泣くことはできた。
泣くしかできなかった。
それでも俺の声は誰にも届かなかった。
その時、
「その声、珀次か?」
と、うろを覗く顔があった。
不意に名前を呼ばれて涙が止まる。
「由岐兄ちゃん?」
「お前、こんなところでなにしてんだ?
ほら、出てこい」
由岐兄ちゃんが手を差し伸べてくれる。
俺はその手を掴んだ。
「ごめん、この子近所の子なんだ。送って行くから今日はごめん」
「ううん、気にしないで、またね由岐くん」
と女の人が手を振って帰って行った。
由岐兄ちゃんは6歳年上の中学生。
家が近所でよく構ってくれる優しい兄ちゃん。
「珀次、お前なにしてんだ?」
涙でぐちゃぐちゃの俺の顔をハンカチでゴシゴシ拭く。
「かくれんぼしてたのに見つけてくれない…」
ふっ
「お前、隠れるの上手いからなあ」
「うん」
「うん、じゃねえよwうろには隠れるなって言われてるだろ?崩れることもあるだぞ」
「ごめんなさい…」
「送ってってやる、一緒に帰ろ」
「うん」
「珀次」
「ん?」
「怖かったか?」
「うん…」
「そうだよな、見つけてもらえないのって怖いんだよな。一人ぼっちでもう誰にも見つけてもらえないんじゃないかって」
「うん…」
「そういう時は『助けて』『ここにいる!』って言え」
「でもかくれんぼだよ?」
「見つけてもらえないのと、かくれんぼの鬼になるのとどっちが怖い?」
「…見つけてもらえないの」
「だろ?だったら『助けて』って言え。
『ここにいるよ!』って出てこい。今度は珀次がみんなを見つけてやれ」
「うん」
「うろはダメだからな」
「…お父さんに言う?」
「泣いてたことだけ言う」
と由岐兄ちゃんが笑う。
「言わないで!」
あはははは!
「由岐兄ちゃん」
「なに?」
「さっきの女の人誰?」
「ん?」
「一緒にいた女の人」
「んー…」
「なんであんなところに二人でいたの?」
「んんー……なあ、珀次」
「なに?」
「うろにいたことも、泣いてたことも
内緒にしてやる」
「え?」
「だから珀次も黙ってろ」
「由岐兄ちゃんが女の人とあそこにいたこと?」
「そう」
「わかった」
「約束な」
「うん」
本当は見たんだ。
由岐兄ちゃんがあの女の人とチューしてた。
由岐兄ちゃんの知らない部分を見て、それが怖くて余計泣いたんだ。
約束したから誰にも言わない。
約束だから。
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