Colour

秋臣

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名前のない関係

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「…ごめん、みっともない話しちゃった」
「…いえ、無理に話させてしまったみたいですみません…」

「ねえ、碧くん。碧くんも吐き出したら?
「え?」
「ずっとなにか抱えてるよね?」
なんでわかるんだ…
「なにに悩んでるのかはわからないんだけど、碧くん、笑ってるけど泣いてるの、怒ってるの」
え……
「碧くんをそんなふうにさせてるのはなんなんだろうってずっと気になってた」
「……」
橙花さんは静かに微笑む。

「…橙花さんの話の後でするような話ではないです」
強がってしまった。
「そうなの?それならいいけど」
あっさり引く。 
聞いてくれないんだ…
「その顔!なんで聞いてくれないの?って顔してる」
意地悪な顔して橙花さんは笑ってる。
「意地悪いですね」
「だから振られるのよね」
ふっ
「こら、笑うな」
気が楽になる。

「俺、付き合ってる人がいました。
一緒にいると楽で落ち着けて楽しくて…
俺の部屋に飲み屋で知り合った見知らぬ人たちを連れ込んだり、ルーズなところもあったけどそれでも好きだったんです。
仕事が立て込んでる時に映画を観に行く約束をしてました。
でも忙しくてなかなか時間が取れなくて、それでもなんとか早く連れて行ってやりたくて、やっと時間が取れると連絡したら、もう観に行ったと言われました。
一緒に観ようと約束していた映画を先に観た、それだけのことが、そんな些細なことが、俺、どうしても許せなくて…
そんな小さいことを許せない自分も嫌で…
でもどうしても嫌だった、俺じゃなくてもよかったんだ、蔑ろにされたのがどうしても嫌で…
ごめんなさい、自分の小ささに呆れてます」

「些細なことじゃない」
「え?」
「全然些細なことじゃない」
「……」
「だって碧くんに取っては大事なことだったんでしょ?どうしても許せないことだったんでしょ?些細なことなんかじゃないよ」
「……」

「許せないことは人によって違うでしょ?
全世界が許しても、碧くん一人だけでも許せないなら許さなくていい」
「……」

「私ね、明嗣と理佐が結婚して子ども産まれて幸せに暮らしてもずっと許せないと思う。
もしも二人が離婚して不幸になっても、それすら許せない。
人から去って、奪って、それで離れるなんて許さない。
私を選ばなかった明嗣、そんな彼を選んだ理佐を私はきっと許すことはないと思う。
心が狭いと言われても仕方ない、
寂しいのを誤魔化すなんて出来ない、
だってそれが私なんだもの」


恥ずかしくて誰にも話せなかった。
小さい自分に、許せない自分に腹が立って嫌だった。寂しかったんだと言えなかった。

「お互い飽きるまで怒って泣いて寂しがればいいよ。いつかきっと怒ることにも泣くことにも寂しがることにも飽きる日が来るよ」
「……」
「私は許さないけどね」
ふっ
笑ってしまう。

橙花さんに寄りかかる。
「すみません、気が緩みました」
ふふっ
「それじゃあ私も気が緩んだから寄りかかろうかな」
と橙花さんも俺に寄りかかる。

ふっ
ふふっ

触れた部分が熱を持つ。
その熱に導かれるように唇が重なる。

「…セフレじゃないです」
「…うん、セフレになんて絶対ならない」
「恋人でもない」
「恋人じゃない」

「曖昧でもいいですか?」
「その距離感でいいと思う」
「…大人ですよね?」
「…私たちは大人よ」

ベッドで見つめ合う。
唇を重ねる。
何度も重ねる。
なにも纏わず抱き合う。
互いが互いを求めてる。
人肌が恋しい、その体温が寂しさを溶かして隙間を埋めてくれる。

女性を抱けるか少し不安だった。
ずっと珀次に抱かれる側だったから。
本能というのは眠っていてもちゃんと起きてくれるのだな。
自然と橙花さんを悦ばせたいと体がシフトしてくれた。
何度も抱いた。
何度も求めてくれた。

慰め合ってるだけ、隙間を埋めてるだけ、それでもいい。
橙花さんの隙間を埋められるなら利用されても、誰かの代わりでも構わない。
俺だって救われたんだ。
今の俺たちに必要なのは自分だけを求めてくれる温もりだった。

だからこの関係をセフレなんてちっぽけな言葉で片付けたくはない。
他人がどう思っても俺たちはそうじゃない、そう思ってる。
関係に名前はいらない。
だって俺たちは大人だから。


翌日、駅前のカフェで朝食を取り、橙花さんと別れる。
後ろめたさなどない、後悔もない。
橙花さんとだからできたことだ。
きっとこれからColourで会っても前と変わらずに接することができる。
なんの根拠もないが、そう思うんだ。
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